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鬼の宴 - ENN -  作者: 星夜 燈凛
16/19

清光との修行





 それから一週間。雄太は大学に通いながら、空いている時間は修行のため神社に通うという日々をおくっていた。だんだん日本酒の太刀筋にも慣れ、ずいぶんと反撃に打って出られるようになっていた。



「今日は、雄太が押しているな。」


 ほぅ。と感心するように酒呑童子が言った。


「ゆうくん、すっっっごいんだよ!!教えたことはどんどん身につけてくるの!そもそも人の技を自分のものにするのってとっても大変なはずなのに。」


 シードルがやや興奮気味に酒呑童子に訴える。


「まぁ、至極当然だにゃあ!僕のスタミナ飯を食って強くならなかった盃の戦士はいなかったにゃあ!」


 みりんが得意げにふんぞりかえって言った。


 一週間のうちに縁側のギャラリーが随分増えた。初めは同じく指南役のシードルが見学を始め、続いてみりん、酒呑童子と縁側で俺と日本酒の戦いがどうだこうだと論争を繰り広げるようになった。


 こんな平和な会話にも耳を傾けられるようになるなんて、随分と余力が出来たものだと雄太は思う。


 一週間前、雄太は日本酒に全く歯が立たなかった。力でもすぐに吹っ飛ばされるし、戦いながら頭も使っていないと簡単に窮地に誘い込まれた。


 これで、鬼の特殊な力を使っているわけではないというのだから驚きだ。



 そして、この一週間でもう一つ分かったことがある。酒鬼達は元々人間だったというのだ。


 稽古の合間にぽつぽつと語ってくれた話をつなぎ合わせると、日本酒は生前、城に仕えており、家臣の中でただ一人、真面目にもくもくと仕事をしているような人物だったそうだ。


 現代から見れば、これほどまでに優秀な部下はいないであろう。だがしかし、横領した金で私腹を肥やしていたほかの連中から見れば、日本酒は邪魔でしかなかったのだ。


 日本酒が横領の決定的な現場を見てしまったが最後、濡れ衣を着せられた日本酒は打ち首となった。

 刑を執行されるその日、身に覚えのない罪状を読み聞かせられながら、大きなものから小さなものまですべて擦り付けられたのだという事実に、もう笑うほかない。


 真面目に仕えていた主人にも冤罪(えんざい)を訴える日本酒の声は届かなかった。

 そんな絶望の中自分は散っていった……はずだった。


 日本酒が目を開けるとこの館にいて、目の前には調子はどうだと笑う酒呑童子がそこにいたのだ。

 説明を聞くに、確かに人間の自分は死んでいて、この姿は霊体の鬼であること。目の前の鬼の力の一部として存在し、この瞬間から仕えるべき存在となることを知らされた。


 「何を勝手にと、最初は反感を持ったものよ。だが、そんな考えは主様のたった一言で吹き飛んでしまったのだ。」


 睨み付ける日本酒に酒呑童子は一言。

「何故かって……努力家の人間が報われずに消えてしまうなんて、もったいないであろう。

 この先も君の道だ。好きに生きなさい。」


 元の主でさえも気づいていなかった、自分が努力していたという本当の姿を見ていて、わかってくれた人がいる。その事実に日本酒は救われ、いままで味わった負の感情すべてがどうでもよく思えた。


 それから、酒呑童子を敬愛し、仕えているのだと聞かせてくれた。




 ガッ!!

 木刀同士が激しくぶつかる。

「ほら、ぼーとするな。余裕ぶってまた負けても知らんからなっ!」

 少しでも気を抜くと日本酒の強打が叩き込まれる。

 しかし、それももうだいぶ対応できるようになってきた。

 

 ────上!下!突きからの払いっ!!次は足技っ!!ここがチャンス!


 大きな振りは相手も多少体制が崩れる。


 ────今日こそ!!おらぁぁぁぁぁあぁあ!!!!


 素早く振り下ろした雄太の剣は、日本酒が振り払うより早く、日本酒の首元に振り下ろされた。



「や、やったぁ!!ゆうくんすごいっ!!」

「おおおぉ!!!よくやったにゃあ!!」


 ただただ、剣を振り下ろすことに無我夢中だった雄太は、ギャラリーの大歓声のおかげで自分が勝ったという事実にやっと気が付く。


「勝った……。勝ったぞぉぉぉおぉ────!!!!」


 よっしゃあ。とガッツポーズをしながら雄太は雄たけびをあげる。



 日本酒はふう……とため息をつくと、雄太に向かっていった。


「雄太。今日までよく頑張った。さあ、盃を出せ。約束だからな。」


「清光っっ!!!」


 初めて日本酒に名前を呼ばれ、雄太が感動で目を潤ませていると、日本酒から気色悪いものでも見たかのような冷たい視線を向けられてしまった。


 呪文を唱え盃を召喚する。今回は思い通りのサイズに召喚できた。


 日本酒がシードルの時と同じく、盃を持った雄太の手を上から包み込んで呪文を唱える。

「……鬼酒生成!」

 日本酒が呪文を唱え終わるころには、盃は透き通った美しい液体に満たされていた。


 雄太は盃を傾けてもらった酒を口に含む。次の瞬間、口の中がまるで果実を頬張ったかのようなさわやかな香りと優しい甘みに包まれた。鼻を抜けるアルコールと焼け付く喉の感覚は嫌な感じは全くなく、むしろ心地良いとさえ思えた。


「美味い。」

 雄太がそうつぶやくと、日本酒が当然だとでも言いたそうに得意げな表情でふんっと鼻を鳴らして笑った。


「さあ、飲んだなら次は力を使う特訓だ。

 それが終わったら、封印を解きに出発するぞ。」


「はいはーいっ☆それは、私も協力するよぉ♪」


 シードルが待ってましたとばかりに躍り出てくる。



 夕暮れの館の庭は鬼たちのにぎやかな声に包まれるのだった。




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