危機一髪
「それじゃあ、ゆうくん。
召喚したりんごちゃんを向こうの的に向かって投げてみようかっ♪」
一通り爆弾の召喚練習を終え、ご機嫌なシードルが指差す先には、さっきシードルが破壊したのとは別の人型の的がある。
心のライフ値がゼロの雄太は、ふぅ〜と一息ついた後、爆弾のピンの代わりになっているヘタと葉っぱを抜いて、言われた方向へ力なく爆弾を投げる。
すると、的に向かうはずの爆弾は大きく軌道をそれて、大量の洗濯物を抱え、廊下の角を曲がってくるみりんの方に向かっていった。
みりんは前が見えていないのか、己の身に迫る危険に気がついていない。
「えっ!?やっばっ!!守護林檎……!!
お願い、間に合ってっ……!」
「みぎゃあっ!」
凄まじい爆発音を響かせ爆弾が爆ぜるのと、リンゴの形をつなぎ合わせたような透明な盾が生じるのは、ほぼ同時だった。
なんの罪もないみりんに当たってしまったのではと思い、ひやりとした汗が背中をつたう。
しかし、爆弾が爆発したのは、雄太が投げた方向ではなく、なぜか廊下から一番遠い場所だった。
不思議に思って爆煙が晴れた廊下を見ると、日本酒がみりんを庇う様に抱き抱え、抜刀した状態でそこにいた。
爆弾が爆発する瞬間、みりんを庇いながら峰打ちで爆弾の軌道をそらしてくれたようだ。
「きよちゃん……!よ、良かったぁ!」
「た、助かったにゃぁ!」
シードルは安堵から地面にへたり込み、みりんは冷や汗を拭いながら日本酒に礼を言っている。
何事もなくて良かったと雄太もほっと一息をつく。
みりんの無事を確認し、話を終えた日本酒が庭に降りてズカズカと大股でこちらに向かってきた。
俯いたままの日本酒の表情をチラリと伺い見ると、それはまさに鬼の形相だった。
「シードルっ!!貴様、訓練の際は前もってシールドを張っておけと、あれほど言っておいたでないかっ!!
あわや、みりんが吹き飛ぶところだったぞ。死にはしなくとも、怪我はするのだからなっ!!」
ガミガミという言葉がふさわしい口調で日本酒がシードルを責め立てる。
シードルは耳を両手で塞いで「ごめんなさい〜」と項垂れている。
そんなシードルの反省の態度を見ても、日本酒の怒りが収まることは無く、その矛先は雄太に向かった。
「人間っ!!」
「はいっ!!」
日本酒にどすの聞いた声で怒鳴られ、雄太は思わずシャキッと背筋が伸びる。
「貴様、黙ってみていれば、くねくねと珍妙な踊りばかり……」
────ですよねっ!!側から見たら珍妙だろうねっ!!
ってか、見てたんかいっ!!
「なによぉ!珍妙な踊りじゃなくて、可愛いんだもんっ!!!!
ねっ?ゆうくん、そうでしょう?」
日本酒に向かって真っ赤な顔で怒るシードルは、くるりと雄太の方を振り返ると、うるうると潤んだ瞳で上目遣いに雄太を見上げた。
しかし、雄太は「うん」とは頷けずに、そろぉ〜っとさりげなくシードルから視線を逸らす。
そこへ、日本酒の一喝が飛んできた。
「珍妙な事に変わりないっ!
シードル貴様は黙っていろっ!」
「なによっ!ひどいっ!
きよちゃんのバカッ!!」
目に涙を溜めてそう言い捨てると、シードルはスッとどこかに消えていってしまった。
日本酒は心外そうな表情をしながらも、コホンと咳払いをすると、雄太に向き直って言った。
「剣をとれ、人間。
その柔な性根、この清光が叩き直してくれるっ!」
日本酒の手には木刀が握られており、雄太に向かって差し出される。雄太は使い込まれた木刀を一本受け取った。
それを見届けた日本酒は、もう一本木刀を片手にくるりと背を向けると雄太から距離を取る。
なんなら切りかかってしまえそうな状況だが、その背はわずかな隙もなく、洗練された本物の剣士のようだと雄太は思った。
雄太も日本酒に倣い距離をとって木刀を構える。
先ほどの騒がしさから打って変わって、張り詰める緊張は呼吸を忘れてしまいそうなほどだ。
ジリジリと照りつける夏の日差しが、静かに睨み合う二人を焦がすのだった。




