林檎蜜爆弾
庭に出た雄太はシードルから力の使い方を教わっている。
……はずだった。
「はいっ、そこでターン!くるりんぱっ♪」
「くるりんぱっ!」
「そうそう、ゆうくん良いよ~!
次、胸の前でハート作って!
交互に足上げてっ!みーぎっ、ひだりっ♪」
「みーぎっ、ひだりっ!?」
先ほどから「真似をしてねっ☆」と言われて、ずっと謎の踊りを踊っている。
教えてもらう側なので、とりあえずは素直に踊っているのだが、振り付けが女の子らしくラブリーな仕様のため、相当恥ずかしい。
「なぁっ!しいちゃん、これいつまで踊るんだ!?」
「うん?もうすぐ終わるからっ!
はいっ、息を吸って、両手をお空高く上げて~
息を吐きながら、お手手をきらきらして下ろして~!」
「すぅ~、ふぅ~!」
────きらきら〜☆
きらきら〜という動きを二回ほど繰り返した所で、シードルは気をつけの姿勢をとり、雄太ににっこりと微笑んだ。どうやら踊りは終わりのようだ。
「お疲れ様、ゆうくんっ!
これで、準備体操は終わりだよっ☆」
「えっ!?今の準備体操だったの?!!!」
雄太は己の目がこぼれ落ちそうなほどぱっちりと目を見開いて驚く。
シードルはまさかそんなに驚かれるとは思わなかったのか意外そうな顔をして言った。
「えっ?!逆になんだと思ってたの?
体操しないと危ないよぉ?☆
しいちゃん体操まるいちっていうんだっ。毎日やってねっ♪」
────嫌だよっ!
なんて言葉は屈託ないシードルの笑顔の前に言えるはずもなく、雄太はなんとも言えない苦笑いを浮かべるしかなかった。
「さて、ここからが本番だよ~☆
まずは.......林檎蜜爆弾を出してみようか♪」
「アップルハニーボム……?」
また、可愛らしい技名を耳にした雄太は、嫌な予感に身を強張らさせる。
「慣れるまでは呪文の詠唱でイメージを補ったほうが良いからねっ!
教えてあげるから、私に続いて言ってみよぉ〜♪」
そう言ってシードルは空に拳を突き上げる。
「お〜……」
シードルの真似をして雄太が遠慮がちに拳を上げると、元気がないからとシードルにやり直しを求められた。
雄太は半分ヤケになって「おー!」と元気よく拳を突き上げるのだった。
雄太の元気な返事が聞けて満足そうなシードルはにっこり笑って、件の呪文を唱え始めた。
「乙女の頬が染まるとき、恋か怒りか見間違うことなかれ、我が思いこの手に集え!鬼酒生成、林檎蜜爆弾!」
シードルがそう高らかに唱えた瞬間、シードルの手の中に光が集まり、コロンとした少し金属質な赤いりんごが現れる。
「じゃーんっ!!☆
これが林檎蜜爆弾だよっ♪
使い方はねっ、葉っぱの所に指をかけれるようになってて.......
ヘタの部分が爆発を抑えるピンの代わりになってるから、このピンを外して…….......投げつけるっ!」
シードルはそう言うと、ピンを抜いたリンゴ型の手榴弾を数十メートル先の的にむかって投げつける。爆弾は凄まじい爆煙を上げて人型の的を木っ端微塵にした。
彼女を怒らせた人間の末路はきっとあの的と同じなのだろう。
ふとそんな気がして、雄太は恐怖からゾクッと身震いをした。
「それじゃあ、ゆうくんっ!張り切っていってみようかぁ☆」
シードルは屈託ない笑顔で両手で雄太をどうぞと示す。
問題は呪文よりもそう……
「……その、しいちゃん。
振り付けも再現しなきゃダメか……?」
「もちろんっ!」
恐る恐る聞いてみたのだが、即肯定されてしまった。
────あのキュートな踊りを自分が再現しなければならないとは……。なんの罰ゲームだろうか。
「.......ぉとめのほぉが....そまるとき.............」
雄太は消え入りそうな小さな声で呪文を唱えながら、羞恥心で凝り固まった身体をぎこちない動きで無理やり動かす。
先ほどから、無理やり笑顔を貼り付けているため、ほっぺの筋肉が引きつってしょうがない。
────成人男子にこれは無理があるってっ!!
雄太の心の叫びも虚しく、ほっぺをぷくっと膨らませたシードルに案の定、ダメ出しをされた。
「もうっ、ゆうくんってば、違うでしょ?
こうっ!!乙女の頬が染まる時っ!」
シードルはスカートを翻しながらくるりと一回転をすると、照れていますというように両頬に手を当てるポーズをする。
────両方の奥歯が虫歯なのだろうか。
日常生活では、一生やることのないであろう乙女なポーズに対し、遠い目でそんなことを雄太が考えていると、
「ちゃんと、腰もいれないとダメなんだからねっ!!」
と言いながら、シードルが可愛らしくお尻をふりふりしてみせてきた。
しかも、「ほら、頑張ってっ!」と無邪気に笑いながら、雄太にもう一度やるようにと追い打ちをかけてくるのだった。
.......これは、断れない笑顔だ。
その瞬間、根っからのお人好しな雄太の中で、何かが壊れ崩れていくような気がした。
────ええいっ!もう、どうとでもなれっ!
意を決した雄太は、呪文の詠唱を振り付きで忠実に再現し始めた。
────要は振りを大きく.......
「乙女の頬が染まるとき……」
くるりと一回転し、己の頬を両手で覆ってぶりっ子のポーズをする。ここで腰を入れるのを忘れてはならない。
────大きな声で.......!!
「恋か怒りか見間違うことなかれ!」
両手でハートを作り恋を表現した後、両手の人差し指を立てて頭の上に置いてプンプンと頬を膨らませながら怒りを表現。
その後、両目を手のひらで覆い否定を表すよう上下に振る。
────呪文を唱えるっ.......!!
「我が思いこの手に集え」
両手で大きなハートを描いたら、水をすくう様両手を合わせて.......
────頑張れ、春日雄太っ!!
「鬼酒生成、林檎蜜爆弾……!」
雄太がそう唱えた瞬間、シードルの時と同様、眩い光が雄太の手の内に集まり形を成していく。
程なくして、先ほど見せてもらった物と寸分違わない手榴弾が完成した。
「……で、できたっ!」
「わぁ!ゆうくん、すごいすごいっ☆完璧だよぉ!」
シードルがそう言いながら嬉しそうにパチパチと拍手をしている。
────技が使えた、自分にも。
つい先日までその他大勢のただの人だっただけに、なんだか不思議な気持ちだ。
────それよりも……どっと疲れた。
雄太はすり減らされた精神力を補うように、ガックリとうなだれた。
「じゃ、忘れないうちに、もう一回っ!!☆」
「えぇっ!!?」
────か、勘弁してくれ.......
シードルは無邪気な笑顔で雄太に鬼のようなことを言う。
いや、鬼なんだが。
その後、シードルが満足するまで、手榴弾の召喚の練習は続いたのである。




