第76話: 翡翠の後始末
完璧だった部屋ほど、空っぽになると残酷だ。
私は翡翠殿の大広間の入口で、しばらく動けずにいた。
昔、ここには花があった。床の間に、季節を半月だけ先取りした枝物を一本。客が「もう咲くのか」と驚くその一拍を、私たちは売っていた。香も焚いた。沈香を弱く、客が気づかない手前で。灯りは客の顔に影が落ちないよう、左の柱の陰に一灯だけ低く置いた。それが翡翠殿の作法だった。客に「整っている」と思わせず、ただ心地よくさせる。気づかせないことが最上だと。
今、その部屋に灰色の埃が積もっている。
窓掛けは降ろされ、差し込む光が斜めに一本だけ伸びていた。その光の帯の中を、細かな塵がゆっくりと舞っている。床に敷いていた緋の毛氈は巻かれもせず、半分だけめくれて波打っていた。めくれた縁が乾いて反り返っている。
私はそこに、かつての自分の足跡が見える気がした。
膝をつき、客の三歩先を読んで音もなく動いた、あの頃の私の足跡が。
翡翠殿は、王都グランシュタットから馬車で半日。碧泉宮に併設された、丘陵地の高級旅館だった。
谷からは、遠い。
銀泉楼を朝に発ち、馬車を乗り継いで二度宿を取った。三日かかった。揺れる馬車の窓から、葡萄畑の若葉が日に日に濃くなっていくのを見た。谷を出たときは芽吹いたばかりだった蔓が、王都に近づく頃にはもう手のひらほどの葉を広げていた。それだけの時が、私を昔の場所へ運んでいた。
門は、鎖で閉ざされていた。
錆びた鎖を解く鍵を、私は預かっていた。法廷で支配人を引き込んだあと、後始末を託されたのが私だった。翡翠殿の内側を誰よりも知っているから。皮肉なものだ。かつて私を縛った場所の鍵を、今は私が握っている。
鎖が、じゃらりと地に落ちた。
その音が、無人の庭に長く響いて、それから——しんと、沈んだ。
沈黙が、敷石の上に降りていた。手入れする者のいなくなった前庭の、伸び放題の下草の上に。
大広間を抜けて、奥の客間を一つずつ見て回った。
どの部屋も、同じだった。完璧だった分だけ、無残だった。
——あれは、五年も前のこと。
ある侯爵夫人が泊まった夜のことを、私は今でも覚えている。夫人は気難しいことで知られていた。前の宿で三度も部屋を替えさせ、料理人を泣かせたという。私は朝のうちに夫人の荷から香水の瓶を盗み見て、その香りを調べた。薔薇ではなく菫だった。だから部屋の花を白菫に替え、香も菫に寄せた。夫人は部屋に入るなり、ふと足を止めて——「あら」と、小さく笑った。
「ここは、わたくしのことをわかっているのね」
あのときの私は、誇らしかった。心の底から。客の心を客より早く読む。それが私の技術であり、私の全部だった。
——その白菫を活けた花器が、今、客間の隅に転がっている。
倒れて割れて、乾いた茎が一本だけ底に貼りついていた。私はそれを拾い上げて、しばらく手のひらに乗せていた。
あの夜、夫人が「わかっている」と漏らした言葉を、私は支配人に報告していた。夫人が誰と縁談を進めているか。どの派閥に金を流しているか。客が気を許して漏らす言葉のひとつ残らずを。私は知らなかった。花を活けるたび香を焚くたびに客の心を開かせては、その隙間から何かを抜き取っていたことを。
——わかっていたのは、客のほうではなかった。私が客を、わからせていなかったのだ。
割れた花器の破片を、私は一つずつ拾い集めた。
もう誰のためでもない。ただ、散らかったままにしておけなかった。
帳場に着いたのは、日が中天を過ぎた頃だった。
窓のない部屋だ。支配人がここに籠もって、客の情報を選り分けていた部屋。私はここに何度も呼ばれた。客の話をひとつ残らず吐き出させられた部屋。
燭台に火を入れた。
帳面の束が、棚にびっしりと残されていた。閉鎖のとき、誰も持ち出さなかったのだろう。あるいは——持ち出せなかったのか。私は一束を引き出して、机の上で開いた。
宿帳だった。客の名と、泊まった日と、部屋。表向きはどこの旅館にもある帳面だ。
だが、私には読めた。
名の脇に、小さな符牒が振ってある。客が漏らした情報の種類を示す支配人の暗号だ。「縁」は縁談。「金」は資金の流れ。「派」は派閥。十年勤めた私には、暗号でも何でもない。ただの覚え書きにしか見えない。
胸の奥が、冷たくなった。
この帳面の一行一行が、私の活けた花の数だけ、ある。
帳面を片づけていた手が、ある一束で、止まった。
他のものと、紙が違う。
厚く、上等な紙だった。宿帳に使う紙ではない。指の腹で触れただけで、私にはわかった。客に出す上質の便箋——いや、それよりまだ硬い。役所が、公の文書に使う紙だ。
束ねた紐を解いて、一枚目をめくった。
名簿だった。
だが、客の名簿ではなかった。
並んでいるのは、土地の名だ。地名と、その脇に数字。私は最初、客の領地の一覧かと思った。けれど、よく見ると数字の桁が客の宿代にしては合わない。多すぎる。そして、地名の頭に小さな印が振ってある。上向きの矢印と、下向きの矢印。
燭台を引き寄せて、目を凝らした。
——下向きの矢印の土地。フェルデ。ロウム。セルヴァ。聞き覚えのない、辺境の地名ばかり。
——上向きの矢印の土地。碧泉宮。そして、その下に、まだいくつか。
私の指が、紙の上で止まった。
碧泉宮の名の下に、別の名が三つ、並んでいた。
どれも、王都近郊の保養地の名だった。貴族が湯治に通う、名の知れた施設。私は接客でその名を何度も聞いていた。客がよく「あちらの湯は近頃よくなった」と話していた、あの施設だ。
近頃、よくなった。
「……よくなったんじゃない」
声が、勝手に口から漏れた。窓のない帳場に、私の呟きが、ぽつりと落ちた。
「引いてたんだ。どこかの土地から」
手のひらが汗ばんだ。
この紙は、客の名簿ではない。
湯を奪われる土地と、奪う土地の——差配の表だ。
私は、谷で聞いた話を思い出していた。
ノアさんが、源泉回廊で言っていた。三本の地脈に術師がアンカーを打ち、その魔力を碧泉宮へ引いていたと。谷の湯が二十年かけて細ったのは、自然ではなく人の手だったと。
あれは、ミストヴァレーだけの話だと思っていた。ヴィクトール卿一人の強欲な悪事だと。卿を法廷で討って碧泉宮が閉じて、それで終わったのだと。
だが、この紙はそう言っていない。
下向きの矢印が、いくつもある。碧泉宮以外にも上向きの矢印がある。
ひとつの泉から、ひとつの宮へ。そんな単純な話ではなかった。
王国のあちこちで湯が細り、あちこちで湯が栄えている。それを、誰かが一枚の表の上で差配している。どの土地を涸らし、どの土地を潤すかを。机の上で。
燭台の火が、窓のない帳場の空気の中で揺れた。
「……これ」と、私はまた、声に出していた。「碧泉宮以外にも、宛先がある」
私は、その紙を二度、読み返した。読み返すほど背筋が冷えた。私は接客の女だ。地脈のことも術式のことも、わからない。けれど、これが「客の名簿」を装っていることだけは、わかる。私が十年、客の心を符牒で隠していたように、誰かが王国の湯の差配を、宿帳に紛れさせて隠していた。
隠し方が、同じだった。
私は、この種の隠し事の手触りを、知りすぎている。
紙を、外套の内に深くしまった。
燭台を吹き消そうとして、私は手を止めた。火を、もう少しだけ、灯しておきたかった。窓のないこの部屋に、長く籠もっていた誰かの——いや、かつての私自身の影を、暗闇に置き去りにしたくなかったのかもしれない。
帳場を出ると、外はもう、午後の柔らかい光に変わっていた。
その光の中に、二つの人影が立っていた。
女が、二人。
使用人棟のほうから、こちらを窺うように立っていた。
一人は、私と同じ年頃。もう一人は、まだ若い。十八か、二十か。二人とも、すり切れた地味な着物を着ていたが、立ち方で、すぐにわかった。背筋の伸び方。手の重ね方。指先の置き場所。——翡翠殿の仲居だ。間違いない。
年上のほうが、先に口を開いた。
「……マリカ、さん?」
声が、固かった。
「テレーズ」と、私は言った。名は、すぐに出た。「テレーズ・ハイデ。掃き出しの間の、担当だった」
「……覚えてて、くださったんですね」
「忘れるわけ、ないでしょう。あなたの畳む夜具は、いつも角が綺麗だった」
テレーズが、息を呑んだ。
「そんなことまで」
「見てたわよ。仲居の仕事は、見るのが半分だもの」
テレーズの後ろに半分隠れた若いほうが、私を睨むように見ていた。見覚えはない。私が逃げたあとに入った子だろう。
「閉まった宿に、何しに来たんです」と、テレーズが言った。固いままの声で。「あなた、いちばん早く、逃げた人なのに」
その言葉が、まっすぐ胸に刺さった。
逃げた。そう、私は逃げた。誰よりも早く。後ろを振り返りもせず。
「……後始末を、頼まれて来たの」
「後始末」
「ええ。鍵を預かってる。あとは——あなたたちを、探しに」
テレーズの眉が、寄った。
「あなたたちが、ここにいると思った」と、私は言った。「行く宛てが、ないでしょう」
「……」
「翡翠殿の仲居は、よその宿が雇いたがらない。あそこは情報を抜く宿だったって、もう王都中の噂だもの」
テレーズの肩が、わずかに落ちた。図星だったのだ。
「どこも、雇ってくれませんでした」と、若いほうが初めて口を開いた。
「ニナ」
「だって、あたしたち、何も知らなかった。客の話を聞いて、書きつけてただけなのに。それが——」
「やめなさい」と、テレーズが遮った。
「だって!」
「私たちは、加担してたのよ。知ってたか、知らなかったかは、関係ない」
その言葉に、私は——一歩、近づいた。
「関係、あるわ」
二人が、私を見た。
「知らずにやらされていたことと、知っててやったことは違う。それを私が、いちばんよく知ってる」
私は、自分の声が少し震えるのを感じた。
「私は知らなかった。十年も客の心を読んで喜ばせてきて、それが誰かを傷つける道具にされていたなんて。知った日に逃げた。あなたたちより、ずっと罪深い逃げ方をした」
「マリカさん……」
「だから、わかるの。あなたたちが、何も悪くないことが」
テレーズは、しばらく黙っていた。
その沈黙が、二人の間に積もった。若いニナが、テレーズの袖を握っている。
「……それで」と、やがてテレーズが言った。「あなたは、私たちに何をしろと」
「私のいる宿に、来てほしい」
二人が、顔を見合わせた。
「宿?」
「東の辺境。ミストヴァレーって谷の、銀泉楼っていう宿。私は今、そこで仲居をしてる」
「辺境の、宿」と、テレーズが繰り返した。声に、隠しきれない警戒があった。「翡翠殿みたいな?」
「いいえ」
私は、はっきりと言った。
「翡翠殿とは、正反対の宿」
言いながら、自分でも驚くほど、言葉が次から次へと出てきた。接客のことを語ると饒舌になる。昔からの、私の悪い癖だ。けれど今は、その癖を、止めたくなかった。
「あそこには、符牒がないの。客の話を書きつける帳面もない」
「帳面が、ない?」テレーズが、眉を寄せた。
「ええ。女将が——セラさんっていうんだけど、その人が、おかしな人でね。客を喜ばせることに、裏の目的なんて何もない。本気で、ただ喜ばせたいだけ」
「そんな宿、ありますか」
「私も、そう思った。嘘だって。そんな宿、あるわけないって」
「でも」
「あったの」
私は、笑った。たぶん、自然に。
「あの谷の湯は、本物よ。引いてきた湯じゃない。地の底から、ちゃんと湧いてる」
「本物の、湯」
「客が湯に浸かって『ああ』って息を吐くとき、その息の理由を、誰も帳面に書いたりしない。ただ、よかったねって思うだけ」
ニナが、ぽつりと言った。
「……そんな宿、あるんだ」
「あるの。私、そこでもう一度、接客ができたの」
ニナが、おずおずと言った。
「あたしたちみたいなのが……行っても、いいんですか。翡翠殿にいたって、知られたら」
「セラさんは、私の過去を知ってる」
二人の肩が、ぴたりと止まった。
「全部、知ってる。私が翡翠殿で何をしてたか、知った上で、それでも『あなたの接客はお客様を幸せにしていた。それは嘘じゃない』って、言ってくれた人なの」
言葉にすると、あのときの胸の熱が、また戻ってきた。
「だから、あなたたちのことも、受け入れる。私が保証する」
テレーズは、まだ迷っていた。その迷いは、よくわかった。一度裏切られた者は、次の手を簡単には取れない。私もそうだった。セラさんが手を差し伸べたとき、私は「私にはもう、接客をする資格がない」と、断ったのだから。
「すぐに、決めなくていい」と、私は言った。
「えっ」
「すぐに信じろなんて、言わない。私だって、信じるのに半年かかった」
「半年も」
「ええ。セラさんが手を差し伸べたとき、私、断ったの。『私にはもう、接客をする資格がない』って」
テレーズが、目を見開いた。
「あなたが?」
「私が。だから、あなたたちが迷うのも、わかる。——だから、まず見に来て。谷を。湯に浸かって、飯を食べて、それから決めればいい」
「でも、辺境まで……旅の費用が」
「それは、私が」
私は、言いかけて——ふと、自分の言葉に気づいた。世話を焼いている。気を許した相手につい面倒を見てしまう、私の癖だ。けれど、悪くなかった。
「私が、出すわ。これでも、宿の帳場を任されてるの。それくらいの算段は、つく」
テレーズが、ふっと、肩の力を抜いた。
「……あなた、変わりましたね、マリカさん」
「そう?」
「翡翠殿のあなたは、もっと——冷たかった。誰のことも、見てない目をしてた」
「ええ」と、私は頷いた。「見てるふりが、上手かっただけ。本当は、誰も見てなかった。客のことも、あなたたちのことも」
「今は?」
「今は」
私は、二人の顔を、まっすぐ見た。テレーズの疲れた目を、ニナの怯えた目を。
「ちゃんと、見えてる」
日が、西の丘に傾き始めていた。
帰り支度をしながら、私はもう一度、大広間に戻った。割れた花器を拾い、めくれた毛氈を直し、降ろされた窓掛けを、少しだけ巻き上げた。誰かが住むわけでもない、もう閉じる宿だ。そんなことをしても、意味はない。
それでも、私は、片づけた。
ここで過ごした十年が、ただ汚れたまま終わるのは——なんだか、嫌だった。
昔の私がこの部屋で客を喜ばせていたのは、嘘ではなかった。技術が人を操る道具に使われていたのは、本当だ。でも、客の「あら」という、あの一拍の笑み。あれは、本物だった。私が活けた花を見て、心から漏れた笑みだった。
道具にされていたのは、私の技術だ。けれど、技術そのものは——汚れていなかった。
そのことに、私は今ようやく気づいた。
恥じて逃げた場所に、誇りを持って戻ってきて初めて。
外に出ると、テレーズとニナが、門のところで待っていた。
「決めました」と、テレーズが言った。
私は、足を止めた。
「決めた?」
「ええ。すぐには信じられない。でも——あなたが片づけてた、あの大広間を、見ました。窓の隙間から」
テレーズの目が、少しだけ、潤んでいた。
「もう閉じる宿の部屋を、あんなに丁寧に直す人が、嘘をつくとは思えない。だから、行きます。谷に。あなたの言う、本物の湯ってやつを、この目で見に」
ニナが、その隣で、こくりと頷いた。
「……あたしも、行きます」
私は、何か言おうとした。けれど、言葉より先に——口元が、ほどけた。
頬が、勝手に動いていた。作った笑みではない。接客のための、客に向けた完璧な微笑みでもない。
ただ、嬉しくて、零れた笑み。
「……ありがとう」と、私は言った。「来てくれて、ありがとう」
テレーズが、目を丸くした。
「マリカさんが、笑った」
「笑うわよ。私だって」
「翡翠殿のあなた、十年見てて、一度も笑わなかったのに」
「あれは、笑ってるふりよ。客に向けた、作りもの」
「今のは?」
「今のは……本物」
言ってしまってから、私は少し、頬が熱くなった。
「だから、変わったって言ったでしょう」
接客は、人を喜ばせる技術。
二度と道具にはさせない。今度こそ、この手で、人を喜ばせる。
その言葉を、私は心の中だけで呟いた。口に出すには、まだ少し、照れくさかったから。
門に、また鎖をかけた。
じゃらり、と、朝に解いたのと同じ音が鳴った。けれど、朝とは違って聞こえた。あの沈んだ音ではなく——区切りの音だった。ひとつの場所が、静かに閉じる音。
私は、外套の内に手をやった。あの紙の、硬い感触が、指に触れた。湯の差配の、表。
これは、私の手には余る。谷へ持ち帰って、セラさんとノアさんに渡さなければ。地脈のことはノアさんがいちばんわかる。碧泉宮以外にも宛先があるなら、それが何を意味するのか、あの人なら読み解ける。
テレーズとニナを、馬車の手配のために宿場へ案内した。二人は私の半歩後ろを、ぎこちなくついてきた。いつか、この二人も谷の湯に浸かって「ああ」と息を吐く日が来る。そのとき私は、その息の理由を帳面には書かない。ただ、よかったねと思うだけだ。
丘を下る道で、私は一度だけ、振り返った。
夕日を背に、翡翠殿の屋根が黒く沈んでいた。かつて私が客の三歩先を読んで音もなく動いた場所。恥じて逃げた場所。今、もう恨みも恥もなかった。ただ、静かな区切りだけが胸にあった。
外套の内で、あの硬い紙が、私の鼓動に合わせて、かすかに鳴った気がした。
涸れた湯の、宛先が記された一枚。
碧泉宮以外にも——まだ、いくつも。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
番外編「銀泉桜の頃」、第四回はマリカです。本編で「翡翠殿の過去を恥じて逃げてきた女」だった彼女を、いつか自分の足で王都へ戻らせてやりたいと、ずっと思っていました。恨みでも恥でもなく、ただ区切りをつけに。
マリカの接客は「人を操る道具」にされていました。けれど、彼女が活けた花を見て客が漏らした「あら」という笑みは、本物だった。道具にされたのは技術であって、技術そのものは汚れていなかった——彼女が王都へ戻って初めて、それに気づく。そう書きたかったんです。逃げた場所に誇りを持って戻ると、見えるものが変わる。
テレーズとニナは、この話のための新顔です。マリカが「保証する」と言って引き取る側に回る。かつて自分が断られなかったように、今度は彼女が手を差し伸べる番でした。
そして、帳場で見つけた「湯の差配」の表。EP74でディートリヒが見た古い通達、EP73でヘルマンが拾った涸れた湯の噂——別々の場所で別々の人が拾った断片が、少しずつ、一本の線に近づいています。碧泉宮以外の宛先が、何を意味するのか。それは、もう少し先で。
次は、賑わいすぎた谷に最初の軋みが生まれる、トビアスとイルゼの話を。
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