浸食する決起軍
死体運びがあらかた終わると、敵兵が再び城内から飛び出してきた。
これを城壁の上に陣取った鉄砲隊が撃ち倒す。
あまりにも単調にこの展開が繰り返されるので、敵将は無能な愚者ではないかと疑ったくらいだ。
しかし、こちらはキララ式新型鉄砲、敵の所持する火縄銃とは違うのだ。
つまり敵将の頭には火縄銃のイメージしかなく、突撃を繰り返していれば弾幕に綻びが生じると考えているのかもしれない。
そして言っちゃ悪いが旧弊な頭には、鉄砲兵イコール根性無しの図式が出来上がっていたりする。
勇敢な剣豪がひとりでも鉄砲隊陣地に到着すれば、たちまち決起軍は瓦解するであろう。
という目算を立てているかもしれない。
だとすれば残念至極、第三軍の鉄砲隊は武勇に鳴らした者の集団なのだ。
キララ式鉄砲はいわゆる秘密兵器。
絶対に奪われてはならないものである。
だから銃剣まで着けて戦場へ送り出しているのだ。
そして遂に突撃兵が出て来なくなった。
守りに徹するつもりだろうか?
通用口に弓兵と鉄砲隊を集める。
ドカンと扉を開いて、まずは鉄砲隊の一斉射撃。
素早く弓兵と入れ代わり、大量の矢を射掛ける。
……反応が無い。まるで無人のようだ。
鉄砲隊と弓兵を先立てて、城内に押し込む。
部屋をひとつひとつ開けて、一階を制圧した。
なるほど、ほぼ無人であった。
地下の宝物庫にも人を送る。
金銀財宝に美術品、ありとあらゆる物を運び出した。
そうしなければ国の財産、国の宝が消失してしまうからだ。
運び出した宝物の類はすべて陣幕を通して記録をさせる。
そして管理者を明確にして戦後まで絶対に手をつけさせないようにする。
管理者は上級貴族、あるいは第三軍の中でも外様に分類される者を当てた。
その理由は一に手を出させるため。
記録と宝物の数が合わなくなれば、それを理由に合法的な領地没収と爵位剥奪ができる。
そして次に、新政権に反目する者を今からあぶり出すため。
新政権、イズモ王朝となろうが、これを甘く見ている者、指示に逆らう者は今から目をつけておきたい。
そして早期のうちに排除しておきたいからだ。
本音を言うならば誰かイズモに逆らってくれ、というところなのだが残念なことに戦後も宝物の数はピタリと合ったことを先に述べさせていただく。
そして突入部隊、イズモとナンブが中心になっている部隊である。
流石に城の二階では激しい抵抗に会っていた。
旧弊な火縄銃とはいえ、数を揃えて廊下一杯に並んでいる。
距離も近い。
命中精度は格段に上がった状態だ。
それを三段撃ちの要領で次々と弾を放ってくる。
正直、今回の戦さでは最大の山場と言えた。
連射速度で同等、命中精度で同等となればこちらの優位性は無いのと同じである。
しかしここは抜刀隊の投石、スリングショットがモノを言った。
階段を登りきった壁に身を隠し、火炎瓶を次々と放ったのだ。
壁が燃える、床が燃える。
そして高速で放られた火炎瓶は、敵の鉄砲隊に命中して割れて、人間を燃やしたのだ。
敵の鉄砲隊はひるんだ。
そこへ我が軍の鉄砲隊が鉛玉を浴びせかける。
弓兵たちも勇を鼓して廊下に飛び出して矢を浴びせかけた。
もちろん矢を放ち鉛玉を放ったらばすぐさま、壁に身を隠す。
そして敵の鉄砲隊が整列を終えると、またもや投石と火炎瓶が投じられる。
今度は先ほどよりも滑らかに、効率よく安全に矢と弾が放たれた。
もちろん火炎瓶の命中率も上がっている。
戦闘というものは、いかに効率の良い手段を先に見つけ出し、それを継続するか? である。
我が軍はそれを先んじて発見し、しつこいくらいに何度もくりかえした。
当然のように屍の山が築かれれば、敵の鉄砲隊はジリジリと後退する。
しかし敵の命中精度が下がるほどには後退してくれない。
ならばこちらも廊下へ出る。
もちろん弓兵たちの盾を押し立ててだ。
盾の陰から射撃する。
共にいる弓兵たちも矢を放つ。
その分だけ決起軍鉄砲隊は回転が速かった。
そして火炎瓶もまだまだ効力を発揮している。
つまりニック軍の鉄砲隊は、その空白部分を補うことが困難となっていった。
いわゆるジリ貧。
しかし状況を覆すだけの火力は無い。
ニック軍鉄砲隊はイタズラに死人の数を増やし、結果全滅した。
フロア2も制圧が完了した。
各部屋の有人無人を確認して、最小限の人数を残し三階へと向かう。
山場は越した感はあるものの、まだ油断はできない。
その警戒心は的中した。
廊下一杯に広がった弓兵たちが決起軍を出迎えたのである。
弓対鉄砲、もちろん分があるのは鉄砲の方だ。
しかしそれは条件付きである。
距離が十分に空いていること、そして互いが少人数であること。
そして鉄砲はキララ式であること、である。
もしも我が軍が火縄銃しか用意できずにこの場面を迎えたならば、撤退を余儀なくされただろう。
何故ならば弓矢というのは二の矢を放つのが早いからである。
ともすれば、キララ式鉄砲よりも二の矢は早いかもしれない。
そんな連中が通路一杯みっしりと埋め尽くすように並んでいるのだ。
そして間断無く日本人の好きな三段撃ちで、矢を放ってくる。
距離も近いので命中精度も高いというオマケつき。
ここでもやはり、火炎瓶がモノを言った。
大量に投擲される火炎瓶、小規模ではあるがにわかに起きる火災。
弓兵たちの動揺。
その機に乗じて盾を押し出し、鉄砲隊は通路を占拠する。
弓兵たちが盾を支え、その隙間から鉄砲隊が射撃する。
壁の陰からも鉛玉を浴びせかけた。
そして壁に跳ねた弾頭の潰れた鉛玉は、弓矢たちの肉体に食い込み、悲惨な傷口を作り出す。
優位であったはずの王室弓兵団は、徐々に崩れ始めた。
拳闘でいうところの「激しい撃ち合い」になる。
まるで「どちらが本物の男なのか?」を決める闘いであるかのように、両軍死力を尽くしての撃ち合いだった。
そして遂に、王室弓兵団は膝を着いた。
二の矢三の矢をつがえる兵の補充が効かなくなったのだ。
鉄砲隊もその銃口から長く伸びた黒色火薬の硝煙で、通路が真っ白になるほど弾を撃っていた。
手空きの者が窓ガラスを破り、空気を入れ替えなければならないほどだ。
案外に手強かった弓兵たちを滅ぼし、三階の制圧も完了した。
そして階段を登っていた決起軍を踊り場で待ち受けていたのは、みんな大好きファランクス陣の槍兵たちである。。
これがもう階段の幅一杯にみっしりと密集隊形をとっていたりするものだから、健気というか涙ぐましいというか、しかも形勢逆転を信じて疑っていないのである。
ナンブ鉄砲隊とイズモ鉄砲隊の混成で、こtらも階段幅一杯に密集する。
そして読者諸兄には大変に申し訳ないのだが、兄たちの好きな「信長鉄砲隊の三段撃ち」ではなく五段撃ちを採用したのだ。
ナンブもイズモも鉄砲隊は余るほどいる。
ハッキリ言ってしまうのだが、負傷者や脱落者がいないのだ。
それを三段撃ちの要領で階段下踊り場に並べ、順繰りの射撃、しかしピッチは早い。
ピッチが早いとなると次のたま込めが間に合わない。
その隙間を埋めるために、第四第五の射手が手すりのかげから射撃するのだ。
窓ガラスという窓ガラスをすべて叩き割る。
あるいは鉄砲で撃ち砕いた。
そうして換気をしないと屋内の戦場は煙だらけになってしまい、前も見えなくなってしまうからだ。
泣きのファランクス陣、伊達男の集団は勇を鼓するかのように雄叫びをあげた。
しかしそれは銃声にかき消され、無残な悲鳴へと変わる。
槍で鉄砲に勝てると思っていたのだろうか、本当に?
しかし槍兵の隊長は必死に「突撃」を命令する。
しかしファランクス陣がひと足を踏み出すより早く、弾丸が槍兵たちの命を奪うのだ。
槍兵たちはバタバタと倒れ、もはや足の踏み場もない。
それでも突撃を命令していた隊長だが、これも銃弾に倒れる。
命を奪われた者、負傷してうずくまった者、階段に密集していた槍兵たちで、血を流していない者はひとりもいなかった。




