戦後の構想
そして私たちは王都を包囲した。
西からの街道や東からの街道、南も北もすべて決起軍を配置。
それぞれの家紋を染めた旗を立てていた。
それだというのに、王室サイドはいまだに貴族たちの叛乱だということを把握していない様子であった。
別な言い方をするならば、王室の視線はビッグⅤにのみ注がれていて、それ以下の公侯爵子爵男爵なんぞにはまったく興味が無い。とでも言った方が良いだろうか?
とにかく、子爵男爵の家紋の旗がなびいていようとも、事態の深刻さが理解できていないかのようである。
参勤交代などの策をとり、下級貴族たちから力を削ぐという工作をしておきながら、なんというアンバランスな現実だろうか?
もしかしたらこれがニック国王とその取り巻きの限界だったのかもしれない。
作戦は現実的、しかし行動に移れば作戦が優秀すぎて夢想癖に陥ってしまう。
あながち無い話でもない。
私などもそうなのであるが、頭デッカチという連中はそういうものなのだ。
あまりにも最良な策を取るので、いざというときには最良な策が用を足さなくなるのである。
馬鹿の見本と言ってしまえばそれまでなのだが、これは反面教師として私の胸に留めておこう。
とにもかくにも、この最終戦を開幕する大義名分というものを王室に送り付けねばならない。
そn使者には我が伴侶であるアヤコに立ってもらった。
様々を考慮、配慮しての決定である。
では、開戦の勅宣をしたためる。
かねてより下級貴族たちの窮乏を顧みず、なお上級貴族にさえ己の欲望の牙を向ける政策をとる愚王ニック。されど天誅の時来たれり。汝が謀殺せしかつての第四王子アーサーは教国に多大な貢献をせし旨をもって、聖人と認められし者なり。これを殺害しその功を高らかに喧伝せしは教国並びにその配下諸国に対し刃を向けるが如き愚行なり。よって我ら義憤とともに立ち上がり、愚王を討ちて維を新らたにせんとするものなり。この一戦の勝利をもって神なる者の采配に従い、健全なる国家を建て運営してゆく姿勢なり。
総大将であるイズモ・ダイスケ伯爵に署名捺印をいただく。
その文をアヤコに持たせると、忍びたちは彼女の護衛とばかり複数が供に立った。
護衛が功を奏したか、アヤコは無事に帰ってきた。
そして呆れたように言う。
「聖人認定の証書が下ったこともよく理解していないみたいでしたよ? あんな王室、さっさと潰してしまいましょう、ヤハラさま」
これまでの流れは確かに、王室サイドに気取られぬよう配慮してきたつもりだ。
しかし愚鈍暗君、あまいにも情勢の推移というものに鈍すぎはしないだろうか?
これで貴族のあらかたを平らげ、独裁国家を作るつもりでいたとは、なんともはや片腹痛いわ。
絶対的な支配者として君臨するには悪くない王だったかもしれぬ。
しかし絶対的な支配者たる前に、事は起こってしまった。
ある意味決起軍はツイていたのかもしれない。
絶対王政が敷かれる前に行動に出ることができたのだ。
これが何かのタイミングの違い、歯車の噛み合わせ違いでアーサー王子が生きていたりしたら、このタイミングで決起はできずイタズラに王室に力を与えていたであろう。
何もかもが未熟であった。
独裁国家を形成するにしても未熟であった。
センスは悪くはなかったのだが、あまりにも他人を軽視し過ぎた。
その結果がこれである。
ニック国王は本当に、「自分には独裁者足り得る資質がある!」と信じていたのだろう。
しかし採点はすでに発表された。
あとはしがみつこうとする玉座から、いかにして引き剥がすか? その作業が残っているだけである。
私は忍びたちに確認した。
ナンブ・リュウゾウを始めとした、参勤交代に応じた下級貴族たちの配置をである。
彼らはこの一揆を納めるべく、治安維持部隊としてかり出されていたのだ。
そしてその配置は外様も外様、ほんの一〇〇人程度の人数で王都の裏の小さな門を守らされていたのである。
そこは狭い農道へと入る門とでもいおうか、野生動物から農作物を守るためだけに拵えられたような、粗末なものであった。
およそ主戦場たり得ないような場所にナンブ・リュウゾウたち第三軍の貴族は配置させられている。
そこへ鉄砲隊を一〇〇、抜刀隊と手槍の組を一〇〇ずつ。
合計三〇〇ほど送り込む。
ナンブ・リュウゾウたちと合わせて四〇〇ほどの部隊となる。
これが内部撹乱のゲリラ部隊となった。
これがいつものように南門を内部から襲撃。
一気に内側から門扉をこじ開ける。
私たち決起軍は鉄砲隊を先頭に突入。
続いて弓兵、投石火炎瓶部隊、そして白兵戦の抜刀隊である。
そして西も北も東も、すべての門扉を破壊して決起軍を招き入れた。
城の内部、あるいはあちこちで隊を組んでいた兵士たちが続々と城を守らんと現れる。
しかし城壁はすでに我らが手中にあった。
鉄砲隊が雨霰と銃弾を浴びせかける。
ひとつ通用口から飛び出してきた兵士たちは、無残なまでに銃弾の餌食となった。
通用口の近辺には屍の山が築かれ、敵は同胞の亡骸を乗り越えなければ城の外にすら出られない始末であった。
仕方がないので人数を割いて、亡骸運びにあてる。
これにはわざと公爵や伯爵といった上級貴族の兵士たちを選抜する。
この戦さにおいてお前たちは、主力として頼みにされてはいないのだと。
足軽雑兵ひと山いくらの「兵隊」でしかないのだと。
無言でしっかりと教え込まなくてはならないのだ。
もちろん苦情を述べる貴族もいた。
誉れ高き〇〇家の家臣に死体運びをさせるとは、なんたることか! と。
しかし私はニベも無く返す。
その誉れ高き〇〇家の家臣さまが、後ろに控えて役にも立っておりませぬ。されば死体のひとつも運んで役にたっていただかなくてはなりませんなぁ。
なにっ! と貴族さまさまは気色ばむが、なに私の傍らにはクサナギ先生が控えていらっしゃる。
剣の柄に手をかけた瞬間に「やめときな」と声がかかり、未練をなくした女の体よりもまだ重たい殺気をのし掛けてくださるのだ。
「ここは戦場だぜ? 〇〇卿戦死、なんてのはいくらでも拵えられるんだ。まして雑兵足軽の親分なんざ、誰も必要とはしちゃいねぇんだよ」
「こっ、こっ、こっ、この無礼者めがっ!」
「手前ぇの命と貴族の爵位惜しさに勝ち馬に乗っかろうとしてる卑怯者に、なんの無礼があるのかな?
お前の誇り高き家臣とやらは戦場で死体運びをして頑張ってるんだ。お前も敵兵のひとりでも運んで来いよ」
いつの間にかクサナギ先生は抜いていた。
その刀の切っ先を、昨日まで公爵さまで御座いとふんぞり返っていた男の喉元に突きつける。
そして冥府から聞こえてくるような声で訊いた。
「さあ、どうする?」
貴族さまさまはマントを翻すと、陣幕の中から去っていった。
「ありゃぁ死体運びなんざしねぇな」
クサナギ先生は言う。
「かまいませんよ、戦後は死体運びよりも過酷な下級貴族という地位が約束されてるんですから」
「そんなに酷かったのか? ナンブ家の待遇は?」
「そうでもありませんでした。だから下級貴族は力を持ち維新を断行するまでに成長したのです。ですが新政権ではそうはいきません。徹底的に搾り取って、絶対に逆らえないくらいに地位を落とします」
「怖いねぇ、貴族ってのは」
「絶対王政が恐ろしいと言ってください」
そう、私たちは悪くない。
悪いのは封建社会というものなのだ。
私の構想としては最下層貴族からそのひとつ上の貴族が吸い上げる。
吸い上げた側の貴族はその上の貴族に吸い取られる。
新王室が直接吸い上げるのではなく、誰もが搾取する側に立てるようにするのだ。
そうすれば新王室に対する直接の不満は回避できる。
しかしこれでは下々に目が行き届かなくなるので、王室直轄の監察団を定期的に派遣するようにする。
お上は常に汝らに心を砕いておるぞ、と恩着せがましくである。
賂、袖の下が飛び交うことになろう。
しかし私腹を肥やす程度の悪事ならば目をつぶろう。
国を揺るがすような力を持つのでなければ、一方的に搾取されるばかりの下級貴族とて、息抜きは必要だ。
遊ぶ金欲しさ故の悪事ならば良しとする。
しかしそれで一揆や叛乱が起きたところで、そこは地方自治。
それぞれの領主に任せる他無い。
一揆をおさめることができなければ、監督能力の不備を指摘して領地と爵位を没収するだけだ。
そして統治後の問題としては、爵位が格上げにならない貴族もいることだ。
いま現在上級貴族はごくひと握り、下級貴族はひと山いくらとか掃いて捨てるほどいる。
すべての下級貴族に格上げのお触れは出せない。
そこで私は現在戦場での成績表をつけている。
先の大戦以降、どの家がどれだけ働いているか? 早い話、対ドルボンド戦だけでもイズモとナンブはブッチギリの成績を納めている。
思い出していただきたい、この物語の序盤ではワイマール第三軍といえど、あまり士気は高くなかったのだ。
気を吐いていたのは、ナンブとイズモだけ。
第三軍諸侯といえど、結局はイズモとナンブの尻馬に乗っただけでしかないのだ。
爵位が上がらずとも文句は言わせない。




