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消化試合

王都へ続く東の街道を守るのは、ヘッセン公爵である。

当然王室を守るビッグⅤの一人であり、その武力は旧式たれども強大にして絶対なものであった。

しかし今はゼブラ国の一揆集団と子爵男爵の集団、そして反旗を翻した上級貴族の群れに攻め立てられていた。


まずは忍びを使者に立てて、味方に援軍到着を知らせた。

その上で背後から強襲することを告げる。

もちろん快諾の返事がきた。


ということで、まずは少数を選抜。

親衛隊三〇と弓兵をこれまた三〇ほど。

親衛隊の鉄砲は他の鉄砲隊にあずけておく。


その人数で森の中を進み裏門へ接近。

まずは門番を射る。

すわ敵襲か、と騒ごうとするところへ矢を射るための窓から親衛隊が突入、そのフロアを制圧した。


そこからは弓兵たちが先に立つ。

現れる者はすべて敵兵である。

射て射て射抜いた。


裏門全体を制圧したならば即座に開門である。

ナンブ家を中心とした軍団が一斉に城へなだれ込む。

城内中庭には、武器や予備の兵たちが集められていて、まずはこれらが鉄砲隊の餌食となった。


そして私たちは正門を後ろから攻める。

これには手槍の組が当たった。

狭い屋内でありながら剣よりもリーチのある手槍は、散々に敵を懲らしめた。


つまりあっという間に城の正門を占領したのである。

私は一度兵士らを整列させた。同士討ちを防ぐためだ。

その上で正門を開けさせた。


ゼ軍の一揆集団を中心に、第三軍の仲間たち、そしてこちらへ寝返った伯爵侯爵の軍が本丸へと突入してゆく。

もう、これで十分である。

私たちは高見の見物をさせていただくことにした。


本丸から火の手が上がった。

次々と黒煙が立ち上る。

そしてヘッセン公爵の城も落ちた。


城から火の手が上がったのを見て、さしもの精強部隊も士気が落ちたのだろう。

そこへ忍びたちの伝令がはいった。


「騎士隊長自刃!」


「抜刀隊長自裁されました!」


「弓兵部隊長、喉笛をカッ切りました!」


精強をもって知られたワイマールの猛者どもが、次々と自ら命を断ったというのだ。

たかが本丸を落とされたくらいでだ。

これから再就職すればいいのに、主無しとて生きようはあれこれあろうにだ。


私からすれば「おーおー、さぞさぞ潔うございましたな」というところではあるが、そんな私とてナンブ・リュウゾウ亡きあとには生きていたいとは思わない。

これは忠義云々とかいう美学なんぞではなく、他の主君に仕えたところで「面白きこともなき世を面白く」のし歩いてはくれなさそうだからだ。

御行儀よく貴族らしく、なんぞというのはクソ食らえだ。


一度貴族の子息に生まれたならば、冷や飯食らいであろうが下級貴族の家柄だろうが、野望に燃えなければ面白くない。

命を燃やす生き方でなくて、なんの今生であろうか?

そしてその結果が、いま現在のコレである。


我が国の巨頭の二人までも、私たちが葬ったのである。

それも名もなき民衆の力をもってして。

やれば成るのである!


男というものはそういうものなのだ。

だから私はナンブ・リュウゾウという馬に賭けたのだ。

そして悲願は成就しつつある。


東から西へ。

私たちは西の公爵を討ったイズモ伯爵とその一軍と合流する。

いざ全軍が揃うと、大軍団であることが分かった。


これだけの人数が立ち上がったのだ。

若い軍師くんに接触をはかった。


「凄まじい人数だな」


「えぇ、これだけ揃えば王室も倒せますよ」


無邪気に瞳を輝かせる。


「いや、そうではなくてだね。世が平らいだらこれだけの人数が納得できるような政策をとらなくてはならない、ってことさ」


私がもうすでに、王室に勝利した気でいると笑うがしかし、笑ってもいられないのだ。

民衆は革命の味を覚えてしまった。

王室とて民が立ち上がれば打倒できるという幻想を抱いてしまったのだ。


これを納めなければならないのだ。

どうする、軍師くん?

私ならば儲け話を持ちかけて、それを理由に税を搾り取る。


例えば市場の開催を許すことによって商業が発展することを持ちかけて税をいただく。

そうなると諸侯は市場から税を取らなければならなくなる。

つまり思ったほど商業は発展せず、諸侯は不必要な力を持てなくなる。


その上で自分たちは搾取をする側なので、市場には非課税つまり税を取らないようにする。

そうすれば商業は簡単に発展する。

自分たちだけで甘い汁を吸うことができるのだ。


支配者と従者とは、そういう関係なのである。

おなじことをしても絶対に負けない勝てない、そうしたルールを敷くのが支配者なのだ。

その上で厚かましく恩着せがましいことをホザく。


支配者たる者はそうでなくてはならないのだ。

もいろん親藩たる第三軍諸侯には手厚いサポートを入れて、ガッチリと脇を固めることも重要だ。

ここから吸い上げる税は、あって無きが如しというものでなくてはならない。

果たして、これだけのことができるであろうか?

いや、やってもらわなくては困る。


世が平らいだならばアンジェリカさまかダイスケ伯爵のどちらかが玉座に座ることとなろう。

それはどちらでもかまわない。

しかしウチの大将と娘ダヌキには、もうイチ姫ニ太郎の子づくりを構想しているのだ。

すなわち最初に女の子をもうけてもらい、イズモの次期当主と婚姻の契りを交わしていただく。


政略結婚である。

そしてイズモとナンブの両家安泰の前提でお世継ぎの嫡男を拵えていただくのだ。

ナンブとイズモが結託すれば、まあ怖いモノは無かろう。


王国全土に睨みが効くはずだ。

まずは体制の万全。

しかるのちにあれこれの政策である。


もしも正妻キョウカさまに子ができなくとも、お妾シロガネ・カグヤが我らにはある。

というか軍師くん。

アンジェリカさまのその小さなお尻で元気なお世継ぎを拵えられようか?


さっさと後宮もしくは大奥の構想を練って、お世継ぎ問題を解決するがよろしい。

すでに次なる戦いは始まっているのだから。

そう、対王室。対公爵家との戦いなど、私にとってはすでに消化試合でしかないのだ。


なにしろ王都、すなわち王室の喉元にはナンブ・リュウゾウがいる。

これが獅子身中の虫となって、ニック王の首を落とす時を、いまや遅しと待ちかねているのだ。

そしてそのことを、王室の連中は気づいていない。


本来ならば真っ先に始末しておかなくてはならない連中を先送り先延ばしにして、未だに手元に置いているのだ。

さて、今回の叛乱は下級貴族たちによる謀叛になり、その最重要人物はナンブ・リュウゾウになるのだが、それが処分されていないのは何故だろうか?

アヤコが面白い話を持って来てくれた。


「王室と上級貴族たちは、大規模な百姓一揆程度にしか考えていないみたいですよ?」


念のため筆頭公爵と次席公爵とが王都を防衛する形をとっているようだが、所詮は百姓一揆。

穀物蔵を破り明日の食料を手にすれば怒りはおさまる、くらいにしか考えていないということだ。

現地を見ない情報を得ようとしない体制が、ここに来て露見した形だ。


というか、その一揆に貴族たちが加担しているとは夢にも思っていないのだろう。

せいぜいが誰の領地で発生した一揆で、どれだけの領地と財産を没収できるか?

その算段で忙しいのかもしれない。

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