ナンブ遊撃隊
そして怒龍の行く手を阻む者どもが、それでもいた。
ワイマール王国のビッグⅤとでも言おうか。
五公爵たちであった。
実際の戦場では第三軍まかせでロクに戦闘経験も無く、装備も未だに騎士中心という古めかしい軍隊でしかないのだが、それでも数と城である。
攻め込むには大型投石機のようなものが必要になるし、そんなものを運搬するだけの暇はこちらには無い。
ではどうするか?
甲羅の中に引っ込んだカメの首を伸ばしてもらおうではないか。
ご存知火炎瓶である。
これを城壁の窓、弓兵が顔を出す窓口へと堀越しにドンドン放り込むのだ。
もちろん敵も馬鹿ではない。
それを許すまいと矢を射掛けてくる。
しかし姿を現した弓兵には、自慢の鉄砲隊が文字通り火を吹いた。
一人の鉄砲兵に銃眼ひとつを担当させて、そこの弓兵が尽きたなら別の銃眼を狙わせる。
窓口がひとつ潰れれば、それだけ別の銃眼に集まる銃弾が増えてゆく。
弓兵が倒れれば倒れるほど、敵の戦力が削がれる速度が加速度的に速まるのだ。
やがて城壁から煙が上がる。
火炎瓶の炎が可燃物に引火したのだろう。
それを機に城門が開かれる。
ゆっくりと、軋みを立てて、太い鎖で繋がれた扉が堀を渡すように降りてきた。
扉が降りるより早く、鉄砲隊はその隙間に狙いをつけていた。
火炎瓶もまた扉越しに次々と投擲される。
みんな気が早い。
というか、これが勝つ軍の勢いというものなのだろう。
城門が開かれるより早く、決起軍は攻撃を仕掛けていた。
私たち決起軍を出迎えてくれたのは、八重九重に揃えてくれた旧式鉄砲隊であった。
みな楯の影に隠れている。
その一列目が銃火を放ってくれた。
しかし残念なことに、私たちは十分な距離をとっていた。
敵の銃弾は地面で土埃を上げるだけ。
いわゆるモグラ撃ちになってしまっていた。
「もっと引きつけよ! まだまだ! 我慢我慢!」
と敵の鉄砲隊長は怒鳴っているが、我々はまったく前進の必要が無い。
例え楯に隠れていようとも、山なりの弾道を想定して撃てばいいだけの話。
それもピンポイントで当たるのだ。
まずは三十名ほどの新式鉄砲隊で一斉射撃。
敵の鉄砲隊はバタバタと倒れた。
そこへスリングショットの要領で火炎瓶が投げ込まれる。
負傷して倒れただけの敵兵に燃え移り、不気味な悲鳴を挙げていた。
その光景を見て、敵兵が震え上がる。
そこに一斉射撃第ニ射だ。
またもや屍の山が築かれる。
そして城壁の弓兵を撃ち斃した鉄砲隊が合流した。
銃弾の雨は密度を増す。
当然のことだが敵の鉄砲隊は瓦解した。
しかしそれでも騎士たちがいる。
これを頼みと鉄砲隊は道を空けた。
しかし騎士たちもまた、駒を並べる前に胸を撃たれ落馬する。
主を失った馬たちも胸を撃たれ痛みに驚いて、味方を蹴散らしながら城内を暴走した。
次なるお相手は槍兵だったが、密集隊形でファランクス陣を張る彼らは、鉄砲隊の餌でしかなかった。
頃合いや良し!
「軍師くん、突撃命令を下す頃合いだな」
私はイズモ伯爵の若い軍師に囁いた。
「そ、そうですね。僕もそう思っていました。……抜刀隊整列! 手槍の組も集合! これより突撃を敢行する! 狙うはひとつ、公爵の首! ……突撃ーーっ!」
いささか上ずった声であったが、初陣であろうから甘い点数をつけてやろう。
大変によくできました。
しかし本当ならば、その号令は伯爵かアンジェリカさまが下す号令なのだぞ、軍師くん。
その点は次回の課題だ。
予習しておくように。
とはいえ、ワイマール第三軍を中心とした決起軍が城内へとなだれ込む。
まずは銃剣を着けた鉄砲隊が突入。
三人一組で要所を確保し、それに守られるように手槍の兵と抜刀隊が突入した。
鉄砲隊が確保したのは城壁の上。
そこから城の窓へと銃弾を送り込む。
もちろん白兵戦部隊が一階にいる時は二階を狙う。
二階へ味方が現れたら三階を狙うという手順だ。
そして屋内で活躍したのは手槍部隊だ。
長槍ではないので屋内でも都合が良い。
そして剣よりも長さがあるので攻めを先んじることができる。
その上、鉄砲隊が城内の敵を減らしていてくれたのだ。
槍をシゴき、突いては引き、引いては突いた。
ここでまた敵は、著しく数を減らした。
「ヤハラどの、我が軍は強いのぉ」
城内に張った陣幕の中、つい先日までお姫さまであったアンジェリカさまが、私ごときに話しかけてくれた。
「伯爵さまの鍛えた兵ゆえ……」
驚きに驚いていたが、どうにかしてそれだけ応える。
「謙遜じゃの」
アンジェリカさまは薄く笑った。
「此度の決起に際しての段取り、すべてそなたが請け負ったと聞き及んでおるぞ?」
「どちらから?」
私は状況を刻々と知らせてくる忍びたちの文を読んでいる振りをして、顔さえ上げなかった。
「キョウカお姉さまからじゃ」
その名を聞いて吹き出しそうになった。
かといって、「あのたぬきの言葉を鵜呑みにすべきではございませぬ!」とも言えぬ。
少なからずアンジェリカさまは、あのたぬき……キョウカ夫人を尊敬している節があるのだ。
そして今回の新兵器である火炎瓶は、驚くほどの効果を見せてくれる。
一階で引火した煙は二階三階の敵兵を動揺させ、二階で引火した煙もまた三階四階の敵兵を動揺させた。
階を登るごとに敵の集団的な抵抗が弱まっていったのだ。
そして城全体が炎と煙に包まれたとき、敵将の首が届けられたのであった。
ビッグⅤのうちのひとり、ワイマン公爵の首を落としたのだ。
ではこのまま王都へ向かい前進すべきか?
はたまたド軍中心の部隊を手助けにゆくか、ゼ軍中心の部隊を手助けにゆくか?
いま現在西と東からも公爵領地を攻めている状況だ。
判断をイズモの軍師くんにまかせてみよう。
「援軍に入るべきだと思います」
「その根拠は?」
すぐに私は質問する。
「まずは次の敵を考えました。筆頭公爵に次席公爵、それに王室軍です。いかにナンブ・イズモの連合軍が精強とはいえ、荷が重いかと。それならば現在戦闘中の公爵家を背後から叩いた方が味方の数も温存できます」
「根拠ある回答だ。ではどのようにする? 全体一致で西を攻めるか東を攻めるか? はたまた……」
「イズモとナンブに分けて両方とも討ち取ります! そのための背後からの強襲です!」
「よろしい、では早速そのように手配してください」
私はナンブ・リュウゾウに代わりナンブ軍の指揮をとる親衛隊長シロガネ・カグヤにその旨を伝えた。
「背後からの強襲ですか、迅速を何よりも大事にしたいですな」
さすが親衛隊長、すぐに肝を押さえてくれた。
そして隊を西と東に分けた。
ナンブ軍は東、つまりゼブラ中心の決起軍の支援に向かう。
人数と鉄砲隊、それに火炎瓶の数を確認してイズモ伯爵に一礼した。
ではナンブ軍、東を攻めます、と。
無理するんじゃねぇぞ、とイズモ・ダイスケ伯爵。ふと笑みがこぼれた。
この場にナンブ・リュウゾウがいたならば、戦さは無理してなんぼよ、とか答えるのではとおもったのだ。
ナンブ・リュウゾウはいま王都の空の下、戦雲来たれと我々を待ち望んでいる。
参勤交代に出ている者たちは、すべて女房子供という人質をクニに返していた。
もちろん王室の命令を無視してだ。
今はもう、それどころではない。
王室もふくめて王都全体、いや国中が上を下への大騒ぎになっているのだ。
というか、王室軍の脱走兵を抑えるだけでてんてこ舞いという奴である。
忍びたちの話によれば王都市民の間では根も葉もない噂話、というかデマが広がっているそうなのだ。
曰く、一揆の勢いに乗じた反乱軍はその数が百万にも及んでいるとか。
反乱軍は未知の新兵器を使用して、瞬時に一万もの兵の命を奪っているなどである。
もちろんそのような噂は大袈裟に過ぎるものであった。
しかし王室軍に動揺させる噂話なので大歓迎であり、誰がそのようなケッコーな噂を流してくれたものやら、感謝したくなるくらいである。
そして私たちは、そのような噂話にも滅気ず、必死に東の街道を守る公爵領地、というか城を背後から攻め落とすため出撃した。




