存在感を増すたぬき
アーサー王子を推す面々は、前大臣たちばかりでなく、一部現役司令官あるいは将校たちまで顔を揃えていた。
新体制に移って以降、やはり軍も一枚岩ではなかったのだ。
新国王ニックを推す統制派と、新体制に反発する王道派に別れていたのである。
統制派の方針は軍備拡張と他国への侵略。
主に豊かな土地を求める方針。
しかし王道派は内政の充実と国庫の増幅を目標に掲げていた。
要するに貧乏人をこれ以上増やすな、という訴えらしい。
だが私ヤハラからすればどっちもどっち。
内政の充実だけでは限界はすぐに来るし、軍備拡張の方針も結局は貧乏人を増やすだけ。
所詮封建社会では貧乏人は生まれるし、軍国主義でも入る金が大きい分出る金も大きい。
どちらもいずれは破綻しなくてはならない世界でしかないのだ。
しかし、だからといって新しい世界体制を展示できる者もなく、革命的発想は未だこの世界には生まれてきていないのである。
私たちナンブとイズモが画策する新体制も、単純に国王の頭をすげ替えるだけのものでしかないのだ。
ツマランと言うなら言うがいい。
世界はまだ若く、成熟した老練というにはほど遠い。
後は野となれ山となれとばかり、無責任に全力疾走するしかないのである。
とにかく、王道派という存在である。
ニック国王とすれば面白い存在ではない。
それがニックにとってさらに面白くない存在、アーサー王子についているのである。
ニック国王は庶民の人気が無い。
先の連戦においても、弟アーサーが手柄を立てるばかりで、自分はひとつの武功も立てられなかった。
そのアーサーが国民から英雄扱いである。
面白くないどころではない。
ニック国王はアーサー王子を憎んでさえいた。
それが王道派軍人を背景に、自分に意見をしてきたのである。
これを好機と捉えると、私は睨んだ。
そのまま一気にアーサー王子を亡き者にするのではないか? と。
しかしそこまで国王というのも単純ではなかったようだ。
いや、ニック国王の側近にもずる賢い者はいたようである。
そうなると狙いはひとつ。
「どんな狙いでぇ?」
藩邸でナンブ・リュウゾウが額を寄せてきた。
「アーサー王子を国賊に仕立て上げるつもりでしょう」
「そうか、アーサーの名を貶めた上で、討たれて当然とするのだな?」
「左様。しかしいかなる搦め手を使ってくるかはわかりませぬ」
「お兄さまにも背中を押してくださる兵隊がたくさんいるのですね、ナンブさま?」
夫婦揃って藩邸に遊びに来ていたイズモ・アンジェリカ夫人である。
もともとキョウカ夫人がたぬき商会会長として懇意にしていたので、女同士でも仲が良い。
「これアンジェリカ、男が仕事の話をしているのだぞ?」
イズモ伯爵はたしなめたが、元々のタレ目がさらに目尻を下げている。
まさに恋女房というやつだ。
「あらあら、アンジェリカさまったら。国王陛下もお兄さまではございませんこと?」
キョウカ夫人も入って来た。
「ですがキョウカお姉さま、ニックお兄さまは意地悪な顔をしていて、私のことなんかちっとも構ってくれなかったのよ?」
「アンジェリカさまはアーサーさまのことがお好きですのね?」
「えぇ、お優しくて賢くて、アンジェリカはアーサーお兄さまが大好き♪」
これだけ仲の良い兄妹が泣き別れとなる前提の策を講じているのだから、このたぬきも恐ろしいものだ。
「ときにリュウゾウさま、国王陛下の狙うところはこのキョウカ、心当たりがございまして……」
「ほう、なにか掴んだか?」
「はい、わたくしが国王陛下ならば税の取り立てを厳しくいたしましょうか?」
「それでは国王自身が悪者にはなるまいか?」
「はい、悪者として君臨し、王道派の正義感を煽り立てますわ」
「決起をさせるというのですか?」
思わず口を挟んだ。
「大規模な反乱を起こさせて王道派を合法的に一網打尽にしますでしょうか?」
「……ヤハラどの、キョウカが俺の妻でよかった。敵に回したらとんでもないことになるぞ」
いま気がついたのかよ?
だが私も知恵を回して返答する。
「お世継ぎの誕生までは浮気を控えた方がよろしいですな」
「あらあら、ヤハラさまは女など子を産むだけの道具とお考えかしら? アヤコも不憫ですわね」
「おっと、これは失言。お気になさらぬよう」
「リュウゾウさま、浮気も男子の甲斐性ではございますが、側室を設けるのでしたらそれだけ稼いでくださいまし」
「ヤハラどの、対岸の火事が大火災になりつつあるぞ」
「火消しの手が足りませぬ。ここは逃げるが一番、もしくは平謝りの一手に御座る」
「俺は浮気なんぞしようとも思っとらんのに、大損害だぞ」
「殿、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ精神です」
「リュウゾウさま、側室にお迎えするのでしたら親衛隊長のカグヤさんと申しましたか。あの方がよろしいかと、わたくしは思いますわよ?」
「バレとるぞ、ヤハラどの。なんか知らんが色々とバレとるぞ!」
「殿! こうした時こそ『動かざること山の如し』に御座る。泰然とした姿勢こそが肝心ですぞ!」
「キョウカ、俺にやましいところはひとつも無いぞ!」
「リュウゾウさま……カグヤさんの乳房は大層豊かで、少しく硬い手触りですわね?」
「うむ、じゃなくて! 何故にキョウカが知っておるのだ!?」
「オホホ……ごちそうさまでした♪」
そうだ、この子ダヌキは学園に同性の恋人がいるのだ。
つまり親衛隊長もごっつぁんされてもおかしくないのである。
「ダイスケさま、アンジェリカにはよく分からないお話なのですが?」
「それでいいんだよ、マイ・ダーリン。いつまでもそのままの君でいておくれ」
ロリコン伯爵はすでに逃亡に成功。
完全に話題の外側に位置している。
それにしても、なんとも爛れた男爵家の事情である。
そういえば忍びのイズミも、このこのダヌキを食いたいとかなんとか言っていたような気がする。
自由過ぎる恋愛事情に、文字通りバンザイ! お手上げの状態であった。
「戯れはさておきまして、リュウゾウさま。国王陛下の悪政に一番最初に暴発しそうな場所はどこになりましょう?」
「植民地政策のとられている旧ドルボンド、あるいは旧ゼブラであろうか?」
「基本的にはその辺りでしょうが、意外な場所から火の手があがるかもしれませんわよ?」
なるほど、王道派に目をかけている貴族たちの領地から、決起のこえが上がるかもしれぬ。
そうなれば王国は本当に真っ二つだ。
諸外国もなにかとチョッカイを出したくなるかもしれない。
「伯爵さま、諸外国への対応はおまかせいたします」
「そうだな、どうせ統制派が勝つに決まっているからな」
アーサー王子を担ぎ上げる兵隊は、キララ四季鉄砲を持ってはいない。
力尽くのクーデターに優秀な兵器が備わっていないのは致命的である。




