意外に大きな敵
下級貴族諸国の軍師参謀連中が城下の宿に集まり、イズモ家の若い軍師くんを招いた。
少年と呼んでも差し支えなさそうなその見た目に、落胆のため息が聞こえてくる。
しかし若い軍師くんはその程度のことで怯んだりはしない。
「現状並びに将来の展望といたしましては、我が主イズモ・ダイスケ伯爵の書状にありましたとおり、ワイマール王国とこの国の民、あるいは貴族たちにとって大変に好ましからざる状況にございます」
「ではどうすれば良いのかね?」
「ワイマール第三軍として猛威を奮ったみなさま方の一致団結です」
「団結をしてどうする?」
「アーサー王子を玉座に座らせます」
「ということは、謀反を起こすと?」
諸侯軍師連中から失笑がもれた。
「お笑いになっても構いません。今この場においては、まったくの絵空事、夢物語にすぎませんので。ですが第二王子が即位した後は、徐々に笑うことができなくなりましょう」
失笑が消えた。
どうやら諸侯もこれからの国の行く末は憂いに満ちたものと理解しているようだ。
「順番は前後するでしょうが、増税と参勤交代。これにより下級貴族たちの力を奪いにくることは間違いありません。それは正直申し上げれば、各地で一揆が起きるほどのものと予想しております」
「しかし一揆が起きた貴族は爵位と領地をお取り上げだろ? そんなことをすれば国も民も立ち行かなくなる」
もしも第二王子が、領地を没収するためにこのお触れを出したなら? という前置きをする。
「そして貴族たちの領地をことごとく平らげて、一国すべてを自分が運営管理できると妄信していたら? ありえない話ではありますまい」
「証拠はあるのかね?」
「状況証拠でよろしければ。すでにみなさまへ提示しております。その辺りの吟味に関しては、すでにお国元で深々とされている御様子」
そうでなければ第二王子の挙式にかこつけて、各領地の重鎮どもが一堂に会する訳がない。
いま彼らに足りていないのは、「ルビコンの川を渡る」という決意。
あるいは勇気を振り絞るための後押しなのである。
だからナンブ領地の軍師である私、ヤハラが口火を切った。
「まずは脱税作戦、ナンブ領ではこれにとりかかります。されど参勤交代は誤魔化しが効きませんので不承不承ながら王室に従います。できればその折に入手した情報などは、イズモさまへ入れてゆこうかと」
「ありがとう御座います、ナンブさま」
ありがとうもなにもない。
もとの言い出しっぺはこの私、ヤハラなのだ。
それをイズモに代行してもらっているにすぎない。
「できましたら参勤交代の折には各地貴族さまに使者を送り、さまざまな情報交換をいたしたく思いますが、御協力いただけますか?」
「そういうことでしたら」
「是非もない」
いきなりおおきな戦果、一致団結を求めても相手が尻込みするばかりだ。
まずは簡単な協力体制から。
「しかしいざ増税となった折には慌ててしまうでしょうから、いまのうちにイズモさま軍師よりレクチャーを受けておいても損は無いものかと」
脱税も食いつきやすい大きさに刻んでおく。
もしも王室が難癖をつけるならば、このレクチャーを聞いただけで、脱税の意思あり、謀反の意思あり、と召し捕ることもできるだろう。
そう、すでに我々は同じ穴のムジナなのだ。
しかし我々が白昼堂々と、このような集会を開いているなどと、第二王子などは考えもしないのだろうか?
うむ、しないだろう。
私の見立てではあれは驕り高ぶった暴君である。
攻めるのは自分であって、他人ではないと考えているに違いない。
いざとなれば上級貴族からも領地をせしめて、我一人が偉いと考えるような男だ。
まして下級貴族からの反撃など予想だにしていないはずだ。
暴君でピンと来ないならば、独裁者と位置づけてみよう。
それも、ロクでもないことばかりする独裁者だ。
そら見ろ、その有り方が見えてきただろう。
我一人にて一国を切り盛りする才に長けていると考えるなど、頭がどうかしているのだ。
簡単に言おう。
読者諸兄の世界のごとく、発達した通信手段を独り占めできるならば、それも可能だろう。
いや、もう少しさかのぼって、電信電話程度の通信手段でかまわない。
それだけの通信手段があれば、私もナンブ・リュウゾウに天下を取らせてみせる。
しかしこの時代この世界で最速の通信手段というのは、忍びの脚でしかないのだ。
その忍びを、第二王子あるいは王室は持っていないのである。
つまり独裁政治など夢のまた夢。
せいぜいが貴族どもを脅してなだめて国を統治するのがせいぜいなのだ。
第二王子の夢物語など、上級貴族からも反感を買い長く無駄な内乱を引き起こすばかりである。
そうなると傾国は必至。
果たして第二王子というのはどこを着地点とし、なにを目指しているのか?
こうした訳の分からない分析に取り組むには、第二王子その人を直撃するよりも取り巻き連中を調べた方が早いかもしれない。
もちろん彼の者どもが野党と言って差し支えない反保守、あるいは格好良く革新派であるのは知っている。
しかし個々単独で第二王子に接近できたとは考えにくい。
「イズミさん、いますか?」
「あぁ、ここにな」
背後から声がした。
「第二王子の取り巻きたちとは、いかなる人物でしょう?」
「ようやくそこに行き着いたか、私たちはすでにキョウカ夫人から調査を依頼されていたぞ」
舌打ちしたくなるような、苦々しい気分であった。
「あいつらのもとはな、ほぼすべて異邦人だ。で、どっから来たかってぇとドルボンドあり、反教国勢力アンチ王国出身者が多い」
「アンチ王国といいますと、あの?」
そう、いま現在私たちは、教国を主体として大陸を平らげている。
しかしこのアンチ王国というのはなにかとその和を乱し、教国に反抗的な姿勢を見せたりするのだ。
その理由はアンチ王国の場所にある。
かつて勢力を持っていた帝国派の領土に、デコポンとばかり突出していたのだ。
いざ合戦というときにはアンチ王国を橋頭堡として兵を続々送り込むのに適した国もだったのだ。
幸いにして先の大戦さでは、そのような不幸は免れたのだが、それでも常に不満は抱いている。
貿易方向が教国方面にしか伸びていないので、結局貧乏だったのだ。
そして最前線のくにというのは、何においても争わなくてはならない。
国民性がそうならざるを得ないのだ。
そんな国家では経済も文化も育つことはない。
教国派諸国からすれば、二等三等の国でしかないのだ。
そんな国が、最前線のプライドばかり高くて金も誇れる文化も無い国家が、己のプライドを維持するにはどうすれば良いか?
実りのある国を占領するのである。
そしてその実りを自分たちの手柄だと喧伝して歩くしかないだろう。
そして実りを枯らすのだ。
なにもかも残らぬ。
ワイマール王国が、このくにの民たちが、アンチ王国のような不毛の世界を受け入れなければならなくなる。
ナンブ・リュウゾウならば言うだろう。
そのような連中、根絶やしにしてやる! と。
しかし待て待て。
あの国の移民たちは、世界各地に根を張っている。
下手に手出しすると国がそれこそ傾くこともある。
的確に駆除するのだ。
そのためにイズモは近隣諸国と貿易をして絆を深めているではないか。
敵がアンチ王国を背景としているならば、我々は民と近隣諸国を背景としているのだ。
これは本当に、第二王子とその取り巻きたちには、お亡くなりになっていただかなくてはならないようだ。
「イズミさん、そのことを殿に」
「ヤダね、おキョウから口止めされてんだよ。旦那さまにはあまり変な知識は入れない方がよろしいですわ、ってな」
今度は本当に舌打ちした。
しかし、たぬき夫人の言う通りだ。
ナンブ・リュウゾウはタミのため、純粋に己の正義のために戦うのがいいのである。
あの男に、不純物は必要ない。
私のような人間がフィルターになってやらなくてはならないのだ。
会議は私とイズミさんの思惑よりもはるかに足取り遅く、ようやく全員協力の脱税がまとまりかけていた。




