眠たいけどガンバる寿!
ナンブ・リュウゾウと席を同じくして、出された料理に舌鼓を打ち、大いに食らって大いに飲んだ。
そして第二王子の取り巻きたちをこっそりと盗み見る。
いわゆる野党連中ばかりで、いま現在王室の執務を担当する者たちは蚊帳の外であった。
そして下級貴族たちの様子も観察する。
なるほど、第二王子の取り巻きたちを凝視していた。
これでわかったであろう。
いまこの国に立ち込める暗雲が。
やがて訪れるであろう暗黒の時代を。
それに先んじて手を打っているのが、ナンブでありイズモなのだ。
そして我々は言うのだ。
まだ間に合うぞと。
乗り遅れではないのだぞと。
第二王子の挙式と披露宴は三日三晩に渡っておこなわれる。
第三軍が結束する三日三晩となるだろう。
国を動かす三日三晩だ。
第二王子よ、浮かれるが良い。
我が世の春を謳歌すればいい。
やがて我らが剣が郭清の血におどり、維を新たにするのだから。
「しかしヤハラどの、このような華やかな場に、キョウカどのがおらんのも寂しいものだな」
また自分の妻に「どの」をつけている。
「奥方さまにおかれては、「秘すれば花」と申されておりましたので、あまり表立っては動かぬものと」
「逢いたいのぉ、逢いたいのぉ」
「夜宴のおりまするにこっそり抜け出すのも良いでしょう」
私なども他人のことは言えないのだが、若い二人なのである。
逢瀬を楽しみたいのはやまやまであろう。
仕方の無いことだ。
「しかしヤハラどの、俺にクサナギ先生をつけるというならば、ヤハラどのの護衛は誰がする?」
「忍びたちがおりまする。それにアヤコも」
言った途端、テーブルの下からニョッキリと腕が伸びてきた。
まるで目をでもついているかのように、正確に鴨の丸焼きの皿へ伸びてゆく。
その手はぷにぷにと肉づきがよく、持ち主の大福ほっぺたを連想させる手であった。
とりあえず、鴨の丸焼きへ伸びてゆく手を妨害する。
愛しき夫の手が妨害していることに気付いてもらいたいという欲があった。
しかしアヤコの手は私の手を払い除けて、なおも鴨の皿へと伸びてゆく。
ペシッと手の甲を叩く。
ピンと伸ばした指先を痙攣させて、アヤコの手はテーブルに伏した。
なかなかの役者ぶりである。
「アヤコ、出て来なさい」
「失礼しました、ヤハラさま。このアヤコ、鴨肉の香りに釣られフラフラと……」
アヤコである。
珍しくドレス姿だ。
「フラフラという割には、一直線に鴨肉を目指しておったなぁ、ヤハラどの?」
「お恥ずかしい限りです、殿」
「いや、恥じることは無い。アヤコの素質を伸ばすためにそのように育てたのは俺なのだからな」
「そしてそのアドバイスをしたのが、俺」
と、クサナギ先生。
「自由奔放天衣無縫、本能の赴くがままに生きている方が、アヤコは伸びるのさ」
「そんなアヤコにはイズミも手を焼いておりましたなぁ、クサナギ先生」
するともう一本、女の腕がテーブルの下から伸びてきた。
アヤコがその腕を鴨肉に届かせまいと阻止する。
しかしイズミの腕は見えてもいないのに、アヤコと格闘を始めたのだ。
しかも、強い。
状況が見えているアヤコが押されていた。
「イズミさん、鴨肉を食べたければ一緒に食おう」
頃合いを見計らって、クサナギ先生が言った。
「良いのですか? いやぁ、悪いなぁ」
忍びのイズミも現れた。
もちろんドレス姿であるが、表情が凛々し過ぎる。
貴族の御令嬢方の人気を集めてしまいそうだ。
「まあ、このように私には護衛がついておりますので、殿はクサナギ先生の監視のもとキョウカさまとの逢瀬をお楽しみください」
「リュウゾウ、女も修行のうちだぞ?」
「心得ておりまする」
頭を下げるナンブ・リュウゾウだが、明らかに舌打ちしそうな顔であった。
そりゃあそうだ。自分が頭の上がらぬ人間を護衛につけて、女と逢い引きするのである。
それが剣鬼クサナギ・シロウならばなおのこと。
「で、リュウの字。イズモのお嬢ちゃんと待ちあわせの段取りは出来てるんだろうな?」
「はっ! 学生寮のキョウカどのの部屋で」
「よし、それじゃあ行くか!」
クサナギ先生が立ち上がると同時に、司会者から別室に移動するよう声がかかった。
隣の広間で舞踏会が催されるというのだ。
アヤコは鴨の丸焼きに齧りついた。
イズミはテーブルに残った酒をラッパ飲みしている。
なんとも頼もしい護衛たちである。
クサナギ先生などは、「満腹ではいざという時に動けぬ」と言って、食事は少量に制限していたというのに……。
へっ……また三時起きだよ……チキショウ、会社め……。




