方針
第一王子の急逝から、第二王子の戴冠までの準備は急速に行われた。
王室はまさにドタバタしているというところだ。
その様子は中央の学園に通うイズモ・キョウカ改め、キョウカ夫人からの文と、学園理事長にしてみちのく屋総裁鬼将軍によって情報がもたらされた。
そしてそのドタバタに乗じて、要職の首がすげかえられることもわかった。
圧政いままさに、ということだ。
それは増税という話ばかりではない。
忍びたちの情報では、下級貴族たちの力を弱めるための悪法が敷かれるらしい、ということだ。
下級貴族たちは交代で一年間中央へ参じて、市中警備の任務に当たるべきこと、というのだ。
しかもその間の旅費、滞在費、家臣への褒美は自腹にて工面すべきこと、という。
いわゆる参勤交代である。
さらには農民たちによる一揆が発生した場合、管理能力を問いただすということで爵位と領地の没収まで掲げているという。
ズバリ言おう。
下級貴族からすればバカバカしい話である。
王室はどれだけ欲をかいているのだ、という話だ。
しかし結束途上の下級貴族では、王室と上級貴族にはまだまだ敵わない。
ということで、ナンブ・リュウゾウから下級貴族諸侯へ文が飛ぶ。
檄文ではないが、しかし用心されよという内容である。
そして第二王子は植民地政策を行っている旧ドルボンド領地やゼブラ領地などに増税を課する、というのである。
これは植民地の甘い汁を吸う上級貴族も増税が課せられる、ということなのだが、思い出していただきたい。
一揆が発生したら爵位と領地を取り上げられるのだ。
それだというのに、上級貴族たちはこの情報をいまだ手にしていない。
はて? いざ一揆が発生したとなれば、上級貴族たちはどうするつもりであろうか?
ナンブ・リュウゾウなども、「このことに気づきもしないのか? 上級貴族どもは」と首を傾げている。
「それとも王室を支える上級貴族は、爵位や領地の剥奪などあり得ないと考えているのだろうか?」
「殿、いまだ令は発布されておりませんので、判断は時期尚早かと」
「耳が早いのも考えものだな」
ナンブ・リュウゾウは忍ぶように笑う。
「ではヤハラどの、いざ合戦となった折のために兵器の訓練をそれに準じたものにしようと思うのだが」
「かなり本格的な戦闘訓練となりそうですな」
私は近隣諸国も含んだ地図を広げた。
「ワイマール王国というのは我がナンブ領もそうなのですが、意外に川や水が豊富にございます。私ならば敵が城へと近づけぬよう、橋を落としますな」
「なるほどそれは困る。兵の増員、武器弾薬糧食の補充がままならぬ」
「そこで工兵の充実というのをいの一番に掲げたくございます」
「どこから引っ張ってくる?」
「大工たちですな。特に橋を架けるのに慣れた者を徴用いたします。彼らに短時間で即席の橋を架ける訓練を施そうかと」
「良きに」
「そして物資人員の運搬はみちのく屋の手、あるいはたぬき商会の手を借りたいと存じます」
「キョウカどの……あいや、キョウカには私から話をつけておこう」
「そして大量の兵員、あるいは物資を運搬するにおいて、健脚というものを念頭に入れていただきたい」
「ふむ、つまり駆け足かね?」
「左様、確かに物資の運搬には馬なども使いますが、馬とて水や飼葉無しに働いてはくれませぬ。余計な荷物が増えることを考えますれば、人力が最も有効な手段かと」
「水も飼葉も現地で調達はできぬか?」
「可能ならばそうしますが、敵が井戸水などに毒を投じていることも考えられますので」
「そんなところで馬を失うは得策ではない、か」
「早い話、馬などかなりの面倒や邪魔と考えます。まずは兵の力で拠点を占領。しかる後に馬を使うと考えてくだされ」
「あくまで行軍に馬は使わぬと」
「むしろ兵員を身軽に用いたく存じます。急変に即応、これが遠征のコツかと」
「ならば駆け足の稽古は重武装で行うのも良いな」
翌朝、鎖帷子に鉄砲を背負い、腰には二本差し。そして砂袋を背負ったナンブ・リュウゾウの姿が練兵場にあった。
もちろん親衛隊の精鋭たちも同じ姿である。
その出で立ちで道すら無い山へ突入し、まずは全員吐くまで駆け足。
ひと吐きしたところで今度は斜面を大荷物を引き上げながらの山登りである。
一般の兵たちは、「俺たちがアレやらなくてよかったな」と囁き合っていたが、心配するな。
あれは君たちの稽古を親衛隊が先んじて行っているだけだ。
ただ親衛隊の稽古がより厳しかったのは、息が上がった状態からの射撃訓練。
あるいは抜刀突撃、巻藁を斬りまくる稽古が付加されていることだった。
壮絶な訓練である。
重武装での山登りや荷上げだけでもシンドイのに、そこから青ざめた顔で射撃訓練、抜刀による試斬である。
なんだ簡単じゃん、というならばバイアスロンという競技は存在しない。
その過酷なバイアスロンに、突撃の駆け足で敵を屠るまで止まない斬撃を繰り出さなければならないのだ。
実際に私も経験してみた。
この装備で山を駆ける時点で脱落した。
とてもではないが、銃を構えたり刀を構えるなど出来はしないのだ。
しかし屈強な親衛隊士たちは、男爵となったナンブ・リュウゾウはやってのけるのだ。
強靭な足腰と腕の力で斜面を駆け上がり、よじ登りして息を整えるより早く銃を操作して射撃して、最後は巻藁に斬りかかり、一刀両断にしてしまうのだ。
強い! 改めてそう感じざるを得ない。
そして訓練はそれだけでは終わらない。
さらに斜面を駆け上がり、今度は柔術の組み討ちである。
単なる素肌柔術から、脇差短刀の所持を想定したもの。
そして装備の上から重い防具を装着して、木銃を使っての銃剣術である。
どこまで不死身なのか、この男どもは。
さらには防具を装着したまま、実銃を背負い腰に真剣の大小という状態で尾根を駆け足で渡るのである。
もういい、君たちはどこまで自分をイジメれば気が済むというのだ。
しかし柔術の取っ組み合いあたりからハイになったのか、親衛隊の猛威は加速し続ける。
訓練を終えてひとっ風呂浴びたところで、寄るの街へ繰り出すのである。
そこでまずは食う! そして飲む! 英気を養ったならば、次は女だ!
私などはアルコールで胃袋に喝をいれなければ食事も喉を通らないほどに疲弊しきっていたのだが、それでも部屋に戻りアヤコの相手をした。
不思議と疲労困憊の状態でも、男を奮い立たせることができた。
そういうものなのかもしれない。
疲れた疲れたと言っていても、肉体が活性化していると考えれば、人生とは上々なものなのだ。
ヘコむな悄気げるな、陽はまた昇るぞ!
明日は否が応でもやってくるのだ!
ならば上機嫌で朝日をむかえようじゃないか!
……ほんとうにできるだろうか?
アヤコと一発ヤッちまったもんなぁ……。




