サブタイトルを決めてない
第二王子が戴冠の準備に余念が無い頃、私たちも脱税の準備に余念が無かった。
ワイマール第三軍諸侯にイズモ・ダイスケ伯爵から号令がかかったのである。
近隣の貴族同士で口裏を合わせ、水害冷害などで不作であると官吏に申告。
実際に視察に来たならばしっかりと賂を握らせ、帰り際には「来年は地震による被害がでます故、よしなに」と付け加えておくように。
という内容である。
この時代この世界において、官吏すなわち王室スタッフなどという者は選民意識が強いのである。
ゆえにその自尊心をくすぐり、現金を握らせ来年もよろしく、と言っておけばホイホイと不正に手を貸すものである。
それを憤るなかれ、読者諸兄よ。
例えば諸兄の愛する三国志など黄巾の乱は西暦184年の出来事と聞き及んでいる。
そしてその時代から2021年の現在に至るまで、じつに1837年の間に渡って官僚による不正は続いてきたのだ。
単純計算では、これから先1837年間の永きに渡って、不正は続くということになる。
これは誰のせいでもない、そういうものなのだと留め置いていただきたい。
良し悪しというのではなく、世の中はそうしないと回らない仕組みになっているのだと御理解いただければ幸いである。
ただし、アーサー王子が玉座に座った際にはこのような不正は込みということで他家貴族を脅すネタとさせていただく。
税金を払う側というのは、必ず不正を働いているものだ。
アーサー王子の新体制に不服を示す貴族からその証拠を集め、決して逆らえないように絞り上げる。
なに、その程度の証拠など忍びを使えば一発である。
「そういえば殿、忍びというのはどこから生まれてくるのですか?」
午後の茶湯の時間、男爵邸を譲り受けたナンブ・リュウゾウと執務室にて。
「忍びとて人の子だ。母の腹から生まれ出てくる」
「これは質問の仕方が悪ぅございました。ナンブ領の中に忍びの養成機関のようなものはあるのですか?」
「あると言えばある。無いと言えば無い。忍びというのはそのような存在だ」
「雲をつかむような話ですな」
「ヤハラどのであれば理解できよう。学ぶというのであれば蛍雪の灯りでも学べるものだ」
「その例えからするに、街中を酔っ払って歩いている者なども、もしや忍びの修行中?」
「そうかも知れぬし、ただの酔っ払いやも知れぬ」
「油断できませぬな、忍びというモノは」
「例えば褐色ポニテショタのライゾウ少年、あれなどは農期は単なる農民の小倅やもしれぬが、鉄砲を抱いて山に籠れば屈強の兵ともなる。立場や立ち位置をチョイと変えれば恐るべき存在となる。それが忍びという者だ」
「重ね重ね、恐れ入ります」
「しかしヤハラどの、察してくれ。彼のような者が存在するということは、ナンブもイズモもここまで来るのに順風満帆ではなかったのだ」
そうだ。
ナンブもイズモも異人種である。
そして独自の文化をこのワイマール王国の中で謳歌させている。
しかも両家とも貴族なのである。
ここまで至るに、どれほどの血を流したことか……。
苦い盃をあおったことか……。
「ヤハラどの、俺にヴィジョンを持てと言ったな?」
「記憶しております」
「肌の色や鼻の高さで爵位が決まるような世の中を、ひっくり返してやりたいんだ」
それほどまでに両家がこうむった屈辱は積年の恨みとなっている。
竹を割ったような気質のナンブ・リュウゾウとは思えぬほど、陰惨な臭いが漂ってくる。
しかしナンブ・リュウゾウはナンブ・リュウゾウである。
「もっともその屈辱は俺が浴びたものではないのだがな。先祖の恨みというのも晴らさねばならんだろうが、忘れるべきことは忘れなければならん。先祖には俺が三途の川、賽の河原で詫びを入れておく」
その上で、まずは今生の民の幸せである、と断言した。
これ無くしてナンブ家もイズモ家も存在しない、と言う。
民のためにある貴族。
そも貴族というのは民の不安や心配を一手に引き受けるからこそ、貴族として振る舞えるのだ! と主張する。
それが平穏無事の代を重ねることで基本を忘れてしまっている! 俺は原点回帰を訴えたい!
無茶言うなぁ、私の主は。
一度怠惰と安寧を味わった貴族が民のためにと奮起する訳が無いだろうに。
しかしそこが我が主のイカすところであった。
何がどのようにイカすのか?
私にとってこの世は現実だ。
夢も希望も現実的なものでしかない。
なれば見果てぬ夢を抱くという行為、希望を抱いて生きるという行為はとてもキラめいて見えるものだ。
実際、この男はどうだ。
貴族の三男坊ということは冷や飯食いもいいところだ。
しかも家督を相続したところで下級貴族の男爵。
それが見てみよ、今では我が国においてもっとも勇猛な将として名を轟かせているではないか。
これで終わる男ではない。
そんな期待が私に、ナンブ・リュウゾウ株を買わせるのだ。
若者は危険な株を買うと、誰かがいっていた。
その株が危険であればあるほど、若者にとってその株は魅力的に映るものであると。
本来ならば智者賢者の如く振る舞わなければならぬ私を、一介の若者に、ただの若者に引き戻して心躍らせてくれる。
それがナンブ・リュウゾウという男なのだ。
「親分、次はなにをする?」
そしてこの男は私に、こんな悪ガキじみたイタズラ心に満ちた台詞を吐かせてくれるのだ。
今回の大規模脱税計画もそのひとつである。
王室を弱らせるのだ。
ただでさえたぬき商会が高給貴族や王室に、装飾品などの贅沢な品を売りつけて弱らせている。
そして現実の庶民階級の生活においては、みちのく屋が物流と価格帯を押さえていた。
そこへ収入減という痛手。
王室は間違いなく諸侯に税を要求してくる。
それは庶民への負担となり、やがて大きな蜂起を生み出すこととなる。
私の心は踊ってしまう。
抑えても押さえきれなくなりそうだ。
しかしここは我慢である。
謀は密をもって良しとせよ。
パーティーの前のワクワク感に包まれるような気分であった。




