密談は休憩タイムにおこなわれる
不穏な動きを見せる第二王子だが、私からすれば「どうせ悪い世の中にしかならないのだ。ならばさっさと圧政を敷いて私たちに討たれてくれ」というところである。
とにかくこの第二王子が悪事を働いてくれねば大義名分が立たず、民も結束せず団結もせず。
ただ日々を無為に過ごすだけなのだ。
しかし第三王子の無駄とも言える戦死が語るように、もしかするとこの王族は何かに呪われているのかもしれない。
王室においては悲劇、私からすればどうにでもなれというような事故が起きてしまったのだ。
第一王子、乗馬の稽古中に落馬。
頚椎骨折のため死去。
おいおい第一王子、お前には第二王子に討たれて私たちに大義名分を与えるという大切な仕事があるじゃないか。
それをお前、なに勝手に死んでんだよ?
これじゃあ労なくして第二王子が玉座に座っちまうじゃないか。
王族の死ということで、ナンブ・リュウゾウも葬儀に出席した。
私も供ということで一緒に参列する。
そして二人で第二王子を観察した。
一生懸命に厳しい顔をつくってはいたが、玉座が我が物という驕りは隠せない。
そして面白いのは、昨日まで第一王子にすり寄っていた重鎮連中が、早速第二王子にゴマをすって近づいていたことだ。
心配するな重鎮連中。
どうせ新体制になったあかつきには、お前たちは全員クビなのだ。
そして参列者の中には、失脚した反主流派の面々も列席していて、重鎮どもの態度を冷ややかな眼差しで眺めていた。
かつて自分たちを野に追いやった連中が、自分たちの主に媚びへつらっている姿をだ。
「ダメダメだな、ウチの王室というのは」
ナンブ・リュウゾウは、私にだけ聞こえるように言った。
「だから討つのですよ、殿」
私もナンブ・リュウゾウにだけ聞こえるように答える。
「しかしアーサーはまつりごとに興味は無いようだ。王室をひっくり返しても先が無いぞ?」
「殿も明確なヴィジョンをいうことを考えるようになりましたか」
などと話していると、礼装の伯爵イズモ・ダイスケが割って入ってきた。
理屈屋臭い若者を従えている。
「それならばアーサーなんぞよりも、アンジェリカの方がよほどコネクションを持っているぞ。どこぞの公爵令嬢だの公爵子息と交際している伯爵令嬢だの、女同士だとかなり気軽に交流を持てるようだな」
「御内儀はキョウカどのとも交流がおありかな、兄者?」
「呼び捨てにしてやれ、義弟よ。どうせ俺の妹の小さなヒップを、これでもかこれでもか! と存分に成敗しておるのだろう?」
「恥ずかしながら」
「お前いつか本当にブッ殺してやるからな」
イズモ・ダイスケ伯爵は笑って言ったが、目は笑っていなかった。
真正のロリコンシスコンの精髄を垣間見たような気にさせられる。
まあ、冗談はさておき。
「アンジェリカはキョウカとももちろん交流がある。下手をすれば、アンジェリカの交流に関しては、俺よりもキョウカの方が詳しいかもしれん」
なにしろその交流相手に商いをしているのだから、そうあっても不思議ではない。
「そしてその交流相手から、多額の現金を引き出しているのですな?」
「わかるか、リュウゾウ?」
「たぬき商会から挙がる税金のおかげで、ナンブ家は大層潤っております故」
「たぬき商会が出ていったイズモ家はすかんぴんだよ。リュウゾウ、ちょっと金貸してくれや」
「土地と民を担保にしてくださりますれば、いつでも無心いたしますぞ?」
冗談から駒。
ナンブ・リュウゾウははたと思いついたように言う。
「のう、ヤハラどの。この手法で上級貴族から民と土地を奪えぬか?」
すると理屈屋な伯爵の従者がナンブ・リュウゾウを止めた。
「下級貴族から借りた金を、上級貴族がまともに返すはずがありません。というか、下級貴族から金を借りるという発想がないでしょう。無心をしないという意味ではありません、借金を踏み倒すという意味です。失礼ながら男爵さま、実例を御存知ないと?」
ナンブ・リュウゾウにこのような口を効くとは、なかなか命知らずだ。
たまたま今回は、ナンブ・リュウゾウの興味が新たな知識に向いていた。
そして兄分の従者ということで遠慮もあることで、若造の首は胴体と泣き別れになることは無かった。
「そこまで酷いのかね? 上級貴族というヤツは?」
ナンブ・リュウゾウ、さすがは剣の達者。
相手が喋りやすいようにクイクイと誘いを入れる。
勝ちのためには男爵の位なんぞどこ吹く風、という恐ろしさ。
これが軍師ヤハラの恐れる、ナンブ・リュウゾウの凄味のひとつである。
そして若者は知識を披露するがごとく、ペラペラと喋った。
なにしろナンブ・リュウゾウがいちいち「ウウム」、とか「それはけしからんな」などと絶妙な合いの手を入れるものだから、喋っている方は気持ちよくて仕方ないのだ。
しかし最後の最後に、「ヤハラどの、しかと聞いたか?」とナンブ・リュウゾウが確認をもとめてきたところで、若者は初めて「しまった!」という顔をした。
私もできるだけイヤラシイ笑顔を横面に貼り付けて言う。
「はい、しかっと……」
イズモ大兄、あとで存分に若者を叱っておいてくだされ。
麦と若者は踏みつければ踏みつけるほどよく育ちます故。
同じ軍師という職にあるなら、私と同じくらいの仕事ができるようになってくれ。
それが私の望みである。
共に語らえる者のいることを望むは切実なのである。
「しかし上流貴族が下級貴族から無心をしておいて、返済なんぞどこ吹く風とは、どうだろうな」
ナンブ・リュウゾウはあくまでそこにこだわっている。
簡単なことだ。
上級貴族は金の無心の代わりに、より儲けの出る仕事を斡旋するのである。
だから借金を棒引きにできるのだ。
しかしそれをするには着工までにしばし時間が開く。その間に金貸し貧乏になった下級貴族は家を畳む可能性がある。
そうなれば儲けの出る仕事は上流貴族が請け負い、土地と民もゴッソリいただくということにもなるだろう。
もちろんそのような実例は無いが。
とにかく、これで第二王子が国王として君臨することは確実。
眼の前に暗い時代が控えることも確かとなった。
「問題はアーサー王子を玉座に座らせたとしても、盤石の体制ではないということです」
我らが意を汲んでくれる国王ではあろうが、統治者としては合格点が出せない。
どのような新体制を構築すべきか? である。
「それならばアンジェリカの知り合いやキョウカの交渉で、有為の人材をまかなうことができそうだな」
なるほど、さすが男爵さま。
「あとはナンブとイズモの軍事力。こいつを盤石にしておきたい」
そうすれば新体制に逆らう者はいなくなる、か。
だがそこで、もうひと押し欲しい。
「軍事力を盤石にするためには、人と土地だな」
ナンブ・リュウゾウが言った。
そこである、男爵家に足りないものは。
土地は金を意味する。
確かに経済力で言うならばナンブ家は国内でも規模が大きい。
しかし距離としてはナンブ領地は狭すぎる。
簡単に兵を送り込んで、簡単に制圧できてしまう広さなのだ。
これでは心もとない。
やはり簡単には制圧し切れない広さと、それを守り抜くだけの人数。
これを確保しておきたいところだ。
「誰か土地をくれんもんかなぁ」
ナンブ・リュウゾウはボヤくが、先に述べた通り土地は金を生む。
それに国王陛下から授かった領地である。
簡単に売買などはできないのだ。
そして先程からチラチラと私の顔を見ているナンブ・リュウゾウなのだが、あの顔は「どこぞの貴族にケンカ吹っかけて、領地を増やしたい」という顔だ。
アホたれ、それこそ内乱ではないか。
謀反人になりたいのか、貴様。
よし、今夜は説教だ、説教!
私は心に固く誓った。
「まあ、戦さを吹っかけて領地をブン取るなどという真似は、血沸き肉踊る発想ではあるが、実際には難しいだろうな?」
よく分かったな、サル。
御褒美に説教は無しにしてくれよう。
「だとすれば、上級貴族を失脚させて……そう、第一王子派の公爵辺りの醜聞や不正を暴けば、褒美に土地は貰えんかな? 軍師くん」
ナンブ・リュウゾウは伯爵の知恵袋に問いかけた。
知恵袋くんは即座に答える。
「あり得ませんね」
ニベも無い返答だ。
まるで「そんな知恵の回り方で、よく男爵をされてますな」というような具合だ。
「よろしいですかな、男爵さま。上級貴族が失脚したならばその土地は第二王子が天領としてさらってゆくでしょう。男爵さまはお褒めのお言葉を戴くだけで、実利は何も得られないでしょう」
「ヤハラどの、思った通りの答えが返ってきたな」
うん、私も想像した通りの答えだ。
そして若造は、またまた「しまった!」という顔をして小さくなってしまった。
彼はきっと学年主席とか、そういった形で学園を卒業してきたのだろう。
しかし学年トップなどという奴は、年に一人誰かが獲得する、つまらない称号に過ぎない。
問題は実社会に出て何をするか? 何ができたか? である。
逆に言うならば、ナンブ・リュウゾウの学園での成績などは、馬鹿ではないが剣術に没頭し過ぎというものであった。
それが今はどうだ。
ワイマール第三軍で、押しも押されぬ大侠客となっているではないか。
私としては若者の成長を、生温かい眼差しで見守るばかりである。
「そうなるとヤハラどの、領地を広げるよりも領地を要塞化して守りを固めるべきだろうか?」
「そちらが肝要でしょう。そして籠城戦となれば、潤沢な物資の備蓄が必要になります」
幸いにして、ワイマール王国国内においては兵器の優位性という面では、私たちに優位がある。
キララ式鉄砲だ。
しかし、王室を相手に戦うというのであれば、まだまだ数が足りない。
敵は火縄銃ばかりではない。
騎士もいれば歩兵もいる。
とにかく数が面倒くさいのだ。
「ところでよ、兄者。俺はその方面には疎くて仕方ないのだが、上級貴族と大臣連中というのは、どう違うんでぇ?」
アホの子ナンブ・リュウゾウは、基本的なことがまったく分かっていなかった。
どれだけ剣術に打ち込んでたのよ、お前。
こんなの基本中の基本だろ? っつーか学園でなに勉強してきたのよ?
そういやお前、ちょくちょく授業フケてたな!
「いやリュウゾウ、その辺りは俺もよく分からんのだ」
バカはもう一人いた!
ブルータス、お前もか!
っつーかお前ら、それでよく貴族張ってられんな!
「ヤハラさま、どうか我が主に御講釈を……」
渋面のワカゾーくんは、私に頭を下げる。
仕方ない、よろしいですかな? と講釈をたれることにする。
「貴族というのはそれぞれが領地を持っていて、王室と忠義で繋がっております。貴族は世襲制、つまり家を継ぐことで子が貴族となります。しかし大臣というのは民間人。王室に仕える民間人で、はばかりながらこのヤハラも学生時代にはその野心を抱いておりました。こちらは忠義で繋がるというよりも、実作業で王室に貢献します。というか王室の方針にあれこれ口を出すスタッフなのです。国王の望みを叶えるため大臣や官僚は存在し、国王の命令を左右する存在ですが、領地はありません。貴族ではありませんから。しかし民間人の作成した勅命に、貴族は従わなくてはなりません。おわかりですか?」
「つまりよ」
伯爵さまは気さくな口調だ。
「王室に献上する貴族の税金が値上がりしたら、官僚や大臣のせいだってことかい?」
「おおむねその通りです。しかしそれを渇望するのは国王ですから。結局は国王の責任です」
「その人材に、野に放たれた連中をあてがうってんだろ、ヤハラくん?」
「税金の値上げは必須でしょうな」
「どうする、リュウゾウ?」
「俺はこんな腐れ王室に、まともな税金を払う気は無いぞ」
「その潔さ、天晴だな!」
いいのかよ、貴族。
端から脱税する気満々じゃねぇかよ。




