裏方の裏工作
そして私たちは体制の方向性も操作しておかなければならない。
どういうことかというと、第一王子であろうと第二王子であろうと、新体制に切り替わった途端に反目するようなメンバーを揃えておかなければならない。
確かに、新体制が興り圧政が敷かれたならば民は団結する。
旧ドルボンド領地など、圧政の犠牲となるであろう。
すでに種は撒いてある。
しかしあまりにも即席でしかない。
それに王家を打倒して後、政権の支えとなってくれる物つまり上級貴族を少しでも味方につけておきたい。
これにはイズモ・キョウカとみちのく屋総裁鬼将軍が奔走してくれた。
鬼将軍は直接貴族と面会はできないが、イズモ・キョウカは別である。
相手にゴキゲンな額を提示して商談をまとめ、帰り際にこっそりと耳打ちしてくるのである。
「新体制はかなり脆いですわ」と。
それは第二王子の野心に起因するものであった。
性的回復を果たした第一王子が玉座についたところで、第二王子に腹心あらば即座に王位を追われるはめになる。
ところがその第二王子も圧政を敷く気満々なのだから、次期国王の体制というものは極めて揺らぎやすい。
そこで国民的英雄のアーサー王子が玉座についたとしても、こちらは完全な準備不足。
まともな政権運営などとてもできないであろう。
「強力な新体制作りが急務ですわ」
などと強力な貴族たちに声をかけて回るのだ。
当然のように勘違いが生じる。
よもや自分が玉座に、と。
しかしそうした上級貴族の台所は、みちのく屋が押さえている。
本当のところを述べるならば、玉座云々どころか、上級貴族とて出雲とナンブに生殺与奪を握られているところに誰も気づいていないのである。
正しくはかれらのほとんどが、ナンブ・イズモに逆らうことはできない。
いつの間にか首に縄がかけられていて、気が付かぬうちに締め上げられているに過ぎないのだ。
そうなると王室打倒の後をいかにするか? という問題が出てくる。
以前ナンブ・リュウゾウに述べたヴィジョンというものだ。
国王をアーサー王子に任せるというのはヨロシイだろう。
しかしアーサー王子には側近重鎮という者がいない。
これはワイマール第三軍の下級貴族たちでまかなうしかない。
この時代この世界、というか中世封建社会のまつりごとなぞ、簡単に言えば腕力である。
軍事力で民を押さえつけ、言うことを聞かせるものである。
そして軍事力を手に入れるには、金がモノを言うのだ。
ついでに言うならば、「俺は偉いんだぞ!」と言い切ってしまうことも必要である。
そのように分析してゆくと、我らワイマール第三軍、なかなか順調にことを運んでいる。
現在各領地でシコシコと稼ぎを上げている。
そしてその金をキララ式鉄砲に注ぎ込んでいた。
そして「とっても偉い国民的英雄」のアーサー王子を神輿として担ぎ上げることができる。
案外何とかなるんじゃね? と勘違いしてしまいそうになる。
ただ、私たちには足りないものがある。
王室を倒すための大義名分である。
これが無ければ新国家もただの略奪者でしかない。
例えば第二王子が謀略を用いて第一王子を殺害し、玉座に座ったとしたら。
それは偽王、あるいは王として相応しくない振る舞いで玉座についたと断罪できる。
彼の者を王として戴くことはできぬ、と打倒することができるのだ。
そうすれば民は我々について来る。
国家として体を成すのである。
こればかりは腕力ではどうにもならない。
せっかく悪役王子がいるというのに、善玉の新王の価値が上がらないのだ。
しかし焦るまでもない。
いま第二王子は第一王子に消えてもらいたくてウズウズしているではないか。
大義名分が向こうから歩いてくるのだ。
ただ、私たちに足りないものとして時間や熟成が挙げられるかもしれない。
圧政いまだ敷かれぬ現在、民もその気にはなっていないのだ。
私たちが民を置き去りに先走り過ぎている、とも言えた。
「少し落ち着いてはどうかな、ヤハラどの。汝は知恵者故に先を見通しすぎる」
男爵となったナンブ・リュウゾウにも言われる。
「まだ何も始まってはいない、とは言わん。しかし始まっていることを知っているのはごく少数に過ぎぬ。先駆けは男子の誉れとはいえ、急いては事を仕損じるぞ」
民とともにあれと、ナンブ・リュウゾウは言う。
「もちろんですとも、殿。民は土、その土に根ざさぬ為政者など第二王子とどれほど変わるところがありましょう。世がどれほど移り変わろうとも、これは不変の真理にございます」
私が述べるとナンブ・リュウゾウは身構えた。
「いかがなされた、殿?」
「いや、また俺をブツ気かと思ってな」
「ブたれるような身に覚えでも?」
「いや、なんの話かな?」
もちろんではあるが、ナンブ・リュウゾウの目は泳いでいる。
まあどんな悪さをしようとも、せいぜいつまみ食いをしただのなんだのという程度であろう。
なぜなら忍びのイズミに人数を与えて、ナンブ・リュウゾウ監視部隊を編成しているのだ。
この男が男爵になったからと言って、羽目を外しすぎることの無いようにしているので、おいたをすればすべて私のみみに入る仕組みになっている。
そこからの報告が無いところを見れば、大した悪さはしていないということになる。
「ときに殿、殿は貴族と民の間柄をどのように考えておいででしょうか?」
「水と油だな。民の要望は多種多様だ。叶えられる要望があれば、叶えられない要望もある」
即答であった。
そこに私は付け加える。
「人の欲望に限りはありませぬ故」
「それさ、ヤハラどの。お前らは欲たかりだからいくらでも要望を出してくるだろう? と言われて何人の人間が我らの声を受け入れられるだろうか?」
「殿を始めとしたナンブの民は学識が高い故、相当数が受け入れるものかと」
「ホメ過ぎだろ。いかに学識高くとも、立ち位置によって視点は変わる。どサンピンはどサンピンの視点、指導者は指導者の視点。そして責任者は責任者の視点だ」
「その地力を上げるために、どサンピンなドルボンドの民に剣術を仕込んでいるのでしょう。せっかく花開き実を結ぶ才能です。取りこぼすことなく才能はすべて採用しましょう」
「その審査基準をヤハラどのが設定すると、理屈屋の軍団が結成されそうだな」
「本当にやって御覧にいれましょうか?」
「やめてくれ、俺がストレスで死ぬ」
「御謙遜を、ヤハラは己が師団軍団単位で挑もうとも、殿一人に叶いませぬ」
「腕力ではな」
「ほう? 殿は御自身の才能を御存知ではない?」
「俺に腕力以外でヤハラどのを打ちのめす手段があると?」
「もちろん教えませぬ。同居を果たした折にでも、キョウカさまにうかがえばよろしい」
「いいじゃねぇかよ、教えろよ」
「できませんな、教えれば殿の手綱を手放すことになります」
この時代、この世界。とはいえ法と理なくして社会が成立しないのは、読者諸兄の世界と同じこと。しかしナンブ・リュウゾウは社会の理を一歩踏み外すことのできる人間である。
ほぼ原始人というナンブ・リュウゾウに理屈は通用しない。
理の一歩だけ外側から一方的に私を打つのである。
私はナンブ・リュウゾウという男に、絶対敵わないという自信があった。
だからイズモ・キョウカなどというこまっしゃくれたガキなんぞに主を奪われることを嫉妬している。
私は私の天敵をこよなく愛している。
しかし同じ理屈屋にその恋を奪われてしまったのだ。
だが私は考える。
あのイズモ・キョウカでさえ、どれだけナンブ・リュウゾウを留め立てできようか?
イズモ・キョウカという結界が破られたとき、その時がナンブ家の崩壊ではなかろうか?
そんな不穏な考えが頭をよぎったが、見て見ぬ振りをした。




