王室の事情
ここで王子たちの人となりを紹介しておこう。
まず全体像として、ワイマール第三軍を指揮していたアーサー王子。
これはすでに我々とも交流があったので、御存知の方がほとんどであろう。
第四王子という位置からか、王位継承権というものはほぼ無いに等しい。
そのためか学園在席の頃から取り巻き連中はいたものの、現在お側にあるのはナンブ家お預りのバキ少年のみ。
かつての御学友というのは、もうお側には無い。
あの当時関係の薄かった私やナンブ・リュウゾウ、イズモ・ダイスケくらいしか友人らしい友人も無く、非常に孤独な方とも言える。
当然のように玉座を獲得するための下拵えすらなく、将来はナンブ家かイズモ家で抱え込むしかない状態。
民に対しても威圧的なところはひとつも無く、戦闘実績により英雄とも言える存在だ。
民を愛し、民から愛される王族というやつだ。
そしてワイマール第一軍、そして第二軍。
この辺りを率いたのは第一王子と第二王子。
さらには戦死した第三王子である。
第一王子に関しては玉座が約束されているようなものであるからして、いささか抜けている。
というか、周囲の意見に流されていると言った方がいいか。
いわゆる傀儡政権の良い神輿であった。
その点第二王子は抜け目が無いというか、自分たちで褒美の品や金銭をかっさらう戦場荒らしのようなものなので、当然のように意地汚い。
欲張りの見本のような人物で、大変に尊大な人物と聞き及んでいる。
とりあえず、次期王権を手にして欲しくない王子の筆頭と言える。
もちろんこれまでの戦さや戦場での所業を見るに、第一王子も第二王子も、噂は本当なのだろうな、という判断はできた。
故人である第三王子は割愛させていただく。
もしも私から一言、というのであれば「ネズミのように姑息な男」と言うに留めておこう。
そしてこのようなことになったのは、第一王子から第三王子まで、国王主導で教育が施されたからだそうだ。
さすがに王子たちがバカの見本のように育ってしまったため、お妃さまが第四王子アーサーの教育を見ることにしたそうである。
ただ、惜しむらくはこのお妃さま、すでに他界されてらっしゃる。
なんの陰謀か? はたまた運命のイタズラなのか?
存命なのは馬鹿製造機の国王と二人のバカ王子さま、そしてアーサー王子である。
とはいえアーサー王子とて、バキ少年との許されざる恋にあるのだから問題が無い人物とは言い難い。
そしてボンクラがそろそろ王位継承の支度をする頃合い、という時期に欲丸出しのゲス王子が兄王子に先んじて婚約してしまうというのだ。
故人第三王子の戦死から、年も改まっている。
慶事を発表するのに何の不都合も無い。
では第二王子の婚約者とはいかなる人物か?
まつりごととは関係の無い商家の娘である。
然して、それは本当であろうか?
もちろんそのようなことは無い。
忍び情報によるとかつて政権を追われた者どもの後援者、すなわち金づるなのだ。
しかもその関係は未だに続き、最近では第二王子までそこに名を連ねているのである。
はて? そのような者どもと交流があれば、すぐに不審と疑われるのでは?
私もそのように疑ったのだが、いわゆる司法組織には十分な鼻薬が効かされているようだ。
となれば、第二王子の魔の手というのはかなり広く深く伸びているということにはなるまいか?
かなり広く深く魔の手が伸びているとはいえ、うかつに手を出せないのが王室というものであり犯罪というものだ。
読者諸兄も御理解いただけよう。
腹の立つこと、思い切り殴ってやりたい相手、ときには腕力にモノをいわせて滅茶苦茶にしてしまいたい時もあろう。
それをできないからと言って「男じゃない」とか「根性が無い」という価値観はまったく間違っている。
読者諸兄が腕力にまかせて無茶苦茶しないのは、「人間」だからである。
最後の一線、法という垣根、あるいは良心良識という人間の人間たるべきもの有ればこそ、読者諸兄には腕力まかせな愚行ができないのだ。
例え自分が逮捕されない、法の裁きを受けることが無いという身分になっても、この良識良心というものは簡単には越えられないのだ。
ならばこの第二王子が一線を越えるとき、というのはいつか?
私の考えでしかないことをお断りさせていただく。
おそらくは第一王子が玉座に座ることを意識し始める頃。具体的に言うならば、ヨメ探しを始める頃合いではないかと考える。
「ということでアヤコ」
妻であり、忍びであるアヤコを執務室へ呼ぶ。
アヤコは襟元をくつろげ、帯を緩めてシナを作り「はいヤハラさま、カモン」と流し目になる。
とりあえず私はスリッパでアヤコの頭をしたたか打ち据えた。
「いったーー! なにするんですか、ヤハラさま!」
「昼間っから発情するでない。それにここは仕事の場、執務室であるぞ」
「昼下りの執務室に美男美女、しかも二人は夫婦とくれば、盛りがつくのが当然でしょうに!」
「美男は解るが美女とははて? いずこにあるものか?」
「訂正します、美少女の誤りでした」
この厚かましい女が、私の生涯の伴侶である。
ちなみに私の基準では、初潮前髪が幼女童女。初潮後が少女とか娘。経験者が女としてある。
つまりこのドングリ眼に大福のような頬のアヤコは、分類上は「女」になる。
どこの物好きが手を付けたものやら、晴れ着はなんと振り袖ではなく留め袖になるのだ。
ナンブにそのような習慣は無いのだが、よその文化ならば眉を剃りお歯黒をつけるのである。
そして阿呆な脱線を軌道修正しなければならない。
「時にアヤコ、先日第二王子が婚約したと聞き及んでいるが、気になることがひとつあってな」
「それはアヤコの肌よりも気になることでしょうか? 実に口惜しいことです」
相手にするな、男ヤハラ。
相手にすればこの女のペースにはまってゆくぞ。
「第一王子のことである。何故か第一王子には婚約話が持ち上がらぬ。女においては第二王子に先を越されているようだが、これはいかなることか?」
本題を切り出すと、アヤコは「あ〜〜その話ですかぁ〜〜」と嫌な顔をした。
「なんだアヤコ、あまりヨロシクない話なのか?」
「いえ、第一王子があまりにも不憫な話でして……」
「申してみよ」
「聞くも涙、語るも波の実話ですので、ハンカチの御用意などを」
「うむ、いつもきれいに洗濯してくれているので助かる」
「いえ、いつもリュウゾウさまの洗濯かごに入れていますので、私がほめられる筋ではありません」
本当に、生涯の伴侶がこのような始末で、私はしあわせと言えるのだろうか?
そしてアヤコは背筋を伸ばして語り始めた。
第一王子の性の目覚めは十をすぎた頃で、一般的な少年より少々早い時期であったそうだ。
まだ毛も生えていない時分より、女御の尻やら父親に興味津々。
城務めの女中たちの身体に触れては喜んでいたそうだ。
父王はそんな姿を見て、「我が王家は子宝に恵まれそうだな」と目を細めていたというのだから、この国の行く末が思いやられる。
しかしマセガキであっても第一王子は第一王子。
玉の輿に乗りたいものはわんさかいた。
いや、玉の輿など面倒くさい。
いっそキズモノにされて慰謝料と手切れ金をせしめ、とっとと城務めから放たれたいと願う者がいたそうだ。
そんな女中がついに行動に出た。
第一王子と二人きり、剣の稽古をフケての逢瀬であった。
あれこれの前戯で時間一杯、女も十分な態勢。
もはや待ったナシという場面、王子が下着をズリ下ろしたところ、布地にコスれた刺激ひとつで、王子の愚息は呆気なく昇天。
しかも王子の愚息は皮という鎧の完全防備。
さらに言うならば、夕食に並べられるポークビッツよりお粗末なサイズだったそうで。
いや、それは仕方の無いことだ。
マセガキとはいえガキはガキ。
隆々とそびえ立つ黒鉄の城である訳がない。
しかし女中は大笑い。
マセガキなのだからどれだけ立派なものかと思いきや、この有り様なのである。
以来第一王子は機能不全。
早い話が性的不能となってしまい、今では女の匂いすら近づけぬという。
ただ一人部屋にこもって、立ち上がることのない御子息をイジイジとイジって満足する日々が続いているそうだ。
なんと悲しい話であろう。
同じ得物を所持する者として、波無しには聞くことができない。
いつの間にか私の頬には、熱い涙がこぼれるのを止められなかった。
「ということで第一王子は女性に興味を示さなくなったそうです」
「ふむ、それでは第二王子が即位するというのか?」
「いえ、事情を知った国王陛下が、やれスッポンだほれマカだと、第一王子の機能回復に尽力しているそうです」
「なんとも涙ぐましい話だな」
「もしもヤハラさまがそのような事態におちいっても、アヤコにお任せください。忍びの秘術で元気百倍にして御覧にいれます」
「菊座がムズムズするような話は遠慮願いたい」
とにかく、そんな不能王子であっても国王陛下は玉座に座らせたいようである。




