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奉納演武

教会の鐘が鳴り、真っ白な鳩が青空へと舞い上がる。

結婚式だ。

無論ワイマール王国の末姫と、イズモ伯爵の一子ダイスケどののである。


挙式は学園の教会でおこなわれているのだが、総本部教会でも王都のすべてあまねく鳴り響くように、二人の門出を知らせる鐘を打ち鳴らした。

協会内にはアンジェリカ姫と学び舎を同じくする学園生徒がすべて集まり、厳かなる儀式を眺めている。

私は警備隊本部を設営し、教会ならびにその周辺の図面とにらめっこをしていた。


忍びたちが次々と現れては、各持ち場の異常の有無を知らせてくれる。

その報告によると、学園周辺には白無垢のお暇さまをひと目見ようと、群衆が押しかけているそうだ。


「群衆はパレードのルートに沿わせて並べるように」


群衆の密度を薄くする。

一箇所に集中した人だかりを、極力拡散する。

そうすることで将棋倒しなどの事故を防ぐと同時に、不穏分子などの発見を速めるのである。


そうした面倒くさい仕事には、ナンブ領地の若い衆たちが当たってくれた。一生に一度体験できるかできないかという、お姫さまの結婚式。

それに参加できるということで、ナンブの若衆たちは目を輝かせて協力を申し出てくれた。

辻々には二本差しのナンブ兵が、四人一組で警備の任にあたっていた。


これで大抵のことには対処できるはずである。

式場に儀仗隊が入ってきた。

ナンブ・リュウゾウ親衛隊の三〇人である。


一〇人一列、三列の縦隊で入場してきた。

旧式の火縄銃で祝砲を撃つのが彼らの役割だ。

キララ式鉄砲はまだ王室貴族たちには見せてはやらない。

しかし、忍び装束にタスキ掛け、鉢巻姿というのは、いかがなものであろうか?


神父から祝福の言葉をいただき、神前での誓いを立て、指環の交換。

そして全校生徒が見守る中での誓いのキス。

盛大に鐘が打ち鳴らされた。


鳩が飛び、祝砲が鳴らされる。

この式場のどこかで、同じく式を挙げるであろうイズモ・キョウカも、この光景を見ているのだろうか?

そして娘たちにとって憧れの瞬間であるこの光景に、胸をときめかせているのだろうか?


「ではヤハラどの、俺とカグヤはちと席を外すぞ」


「行ってらっしゃいませ、殿」


ちょっとシケ込む、というのではない。

今日というハレの日、神前へ二人の門出を祝って奉納演武を行いにゆくのだ。

正しくは剣舞であり、ナンブ領に古くから伝わるもので流派の如何を問わず、ナンブ剣士はできるものなのだが、演者がナンブ・リュウゾウとシロガネ・カグヤの二人なのだ。


さてどうなることやら。

これは私からイズモさまに願い出たことである。

儀仗隊の火縄銃もだ。


つまり王室や上級貴族に対してナンブ兵というのは、馬にもロクに乗れず、鉄砲も旧式。

腰間の二本差しをたのみに突撃するしかできない連中とアピールしておきたいのだ。

それには剣に秀でたこの二人。


そして巨匠クサナギ先生のお手をわずらわせていただくことになったのだ。

退屈なお偉方のスピーチが続く中、ナンブ剣士の代表二人がこっそりと控える。

そして生徒たちがアクビを始めた頃、進行役がナンブ・リュウゾウとシロガネ・カグヤによる奉納演武を紹介した。


斬り結びという演武である。

互いに斬り合って、鍔迫り合いで結ぶ……組み合うという技で、過去を断ち切って新たに縁を結ぶことから、婚姻の席などで振る舞われるものだと説明が入る。

手にしていた大小を置いて、互いに蹲踞。


指先しか着かない礼を交わして、ナンブ・リュウゾウとシロガネ・カグヤは刀を腰に落とした。

ゾッとするような緊張感が、二人の間から生じていた。

なにしろ得物は真剣白刃である。


ひとつ間違えば大惨事となるのだ。

それを証明するために二人は抜き、かたわらの巻藁を無造作に斬って捨てた。

一度刀を鞘に納め、壮絶な奉納演武がはじまる。


かかとを着けぬ、身体のどこも揺らさぬ歩みで二人は間を詰める。

そしてここぞ! という間でナンブ・リュウゾウが抜いた。

ヨコ一文字、シロガネ・カグヤの目を狙う。

しかしシロガネ・カグヤは寸の間でこれを見切り、軽く半歩だけ後退。


こちらも間髪入れずに抜刀、ひと足踏み込みナンブ・リュウゾウの脳天を、真っ向から斬りおろす。

ところがナンブ・リュウゾウもあわや、という間でこれを半足さがって回避した。

刀のひと振りごとに、死を予感せよとばかりヒュン! ヒュン! と樋が鳴り響く。

樋の鳴りは一瞬、すなわちそれだけ刀の速度が早い。


まったく手心無しの斬撃と言えた。

しかもどちらも、相手の刃を刀で受けない。

足だけで必殺の一撃をかわしているのだ。


何合とも知れず斬撃を交わし合う。

そして遂に、刀同士がぶつかった。

鍔迫り合いだ。


互いに押し合い、ようやくシロガネ・カグヤが根を尽くす。

銀髪の剣士がひと足退いたところで、二人は離れ、刀を納めた。

壮絶な演武であった。


来場者たちは、その迫力に拍手すら忘れている。

一番最初に手を打って演者を讃えたのは、アーサー王子であった。

そこからこぼれるように拍手が広がり、ようやく万雷となる。

ナンブ・リュウゾウとシロガネ・カグヤは演武場を退いた。


「アヤコはおるか」


「は、これに」


「王族や高級貴族の反応はどうか?」


「イノシシ武者と笑っております」


「そうか」


思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。


「ヤハラさま?」


「なにかな?」


「すごく悪い笑顔してますよ?」


「む、そりゃいかんな。人から見てこちらの手の内を見せる馬鹿はいない」


「して、そのココロは?」


「ナンブ兵精強なれども、時代遅れの刀剣主義と侮ってもらいたいのさ。いくら王室、高級貴族たちでも、そろそろ銃器火力の時代と勘づいておろうからな」


「つまりヤハラさまは、敵は自国の内にあり、と?」


「外の敵は滅んでしまったからな。膨れ上がったワイマール王国を滅亡に導くのは、舵を取る者さ」


「そして国を救うのもまた、舵を取る者なり」


アヤコはもらした。

そして次なる演目が伝えられる。

玉割りと紹介された。


これもまた縁起物であると解説が入る。

演者クサナギ・シロウ。

そしてナンブ鉄砲隊。


クサナギ・シロウに対し、三人の鉄砲兵が向き合っている。

進行役は何度も手元の進行表を見直してから声を発した。


「こ、これよりお見せするのは、火縄銃の弾丸を斬り落とす演武であります!

なお、き、斬り落とされた弾丸は良縁にめぐまれる縁起物ですので、どうぞお手元にお納めください!」


信じられないのも無理は無いだろう。

声が上ずるのももっともだ。

クサナギ先生を知らなければ、私だって信じられない。


だがこの演武は、斬り結びよりも安心して見ていられるだろう。

何故なら、演者があの「クサナギ先生」なのだから。

鉄砲隊の一人が構える。


クサナギ先生は両手を垂らして、平の構え。

鉄砲兵が引き金を引く機は自在。

クサナギ先生はいつ来るか知れぬ弾丸に対しても平常。


しかし唐突に引き金が引かれ、受け皿の火薬に引火。

わずかなタイムラグのあとに轟音が銃口から放たれた。

クサナギ先生は逆手抜刀。


そのどこにも傷は無い。

そして一人の女子生徒が、「あった!」と喜びの声をあげる。

まっぷたつに斬られた弾丸を発見したものらしい。


射撃は三回。

その三回とも、クサナギ先生は見事に演武を成功させていた。

逆手抜刀から、片手の振り下ろし。

そして横薙のひと太刀という、三種類の手でだ。


もはや妖怪だな、このオヤジ。

それが私の率直な感想であった。


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