表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/89

ヤハラくんの見る型武術

そして挙式のための打ち合わせが、具体的に始まった。

王都での挙式において、イズモ家としてはナンブ家に会場警備を頼む方針であった。

しかし末姫の結婚式、王室としても見栄としてそこに兵を置きたい。


両者折半というわけにはいかない。

これは部隊活動なのである。

部隊活動は連絡を密としなければ、部隊が機能しなくなる。


どうあっても一部隊独占という形を取らなくてはならないのだ。

この問題に対してイズモ伯爵は、王室に対し「経費が浮きますぞ」と囁いた。

ただでさえ金のかかる結婚式、王室はこの囁きにグラリと揺らいだ。


そしてナンブ家の提出してきた計画書を見せる。

かなりの大人数を予定している。

いかに王室といえど、これだけの人数を出すのは骨と言えた。


それでありながら王室側の使者は意地悪い質問をいくつかしてくる。

こうした場合にはいかがかな? このようなときは誰が指揮をとりまする?

伯爵はいちいちその質問に答える。

スラスラとだ。


これを可能にしたのは、かなり現代的な組織体系を組んでいたからである。

数人の人数の上に班長。

班長数人の上に分隊長、その上に小隊長という具合だ。


そしてそれぞれを緊密に連携させるよう、戦中から訓練は施されている。

みな同じように戦場は駆け回ってきた同士なのだ。

その点、王室サイドの押しは弱くなる。


略奪目的の襲撃ならば自信はあっても、警備活動となると心もとない。

ナンブ家のみならず、ワイマール第三軍は、治安維持活動を通じてその辺りは十分に心得ているのだ。

渋々といった体で、王室側は了承した。


その実、経費が浮くというのは、王室にとって何よりも魅力と言えた。

ということで、ナンブ兵たちが王都に現れた。

王都の民が見慣れぬ羽織袴に二本差し。


鉄を飲んだ鉢巻にタスキ掛け、そして白緒の高下駄である。

王都に慣れるため、そして不穏分子の事前排除が目的であった。

ごく少数で隊を組んでの市中見回りではあったが、街の治安は見る見る良くなった。


戦争の味を知っている者どもが、隊を組んで闊歩しているのだ。

下手なヤクザどもは、それだけで路地裏へ逃げ込んだ。

しかし密偵とも言える忍びたちがその隠れ家を突き止める。


もちろんナンブ兵が乗り込んで捕縛した。

とにかくナンブ兵は元気が良い。

手柄を競うようにして裏稼業の者に縄をかける。


その首領は男爵家の次期当主たるナンブ・リュウゾウ。

指揮官はシロガネ・カグヤ。

当然のように恨みを買った。


夜間、王都にアーサー王子が用意してくれた屯所から、滞在のための宿へ戻る途中である。

暗闇から声がかかった。


「ナンブ・リュウゾウだな?」


「おうおう、殺気立ってよ。オイラがナンブ・リュウゾウだったらどうするんでぇ」


言い終わる前に剣を抜いてきた。

居合のような芸は無い。

ただゴボウのように引っこ抜いただけである。


「……オイラに恨みがあるってなりゃあ、裏稼業の者だろう。なんの得があるかは知らんが、命あってのものだぜ」


言い終わる前に斬ってきた。

どうやら話を聞く気は無いようだ。

もちろんナンブ・リュウゾウは半歩さがっただけで剣をかわす。


袂に仕込んでいた砂を投げつけた。

目を狙ってだ。

斬ってきた男は「あっ」と言って顔を伏せる。


その鼻を狙って膝を突き上げた。

鼻血を盛大に吹き出して、男は仰向けに倒れる。

他に敵は二人。


すでに抜いている。

ナンブ・リュウゾウは他にも縄を仕込んでいた。

片端を結んで鞭のようにしてある。


当然のように目を狙う。

最初の男よりもたやすく、二人は顔を伏せる。

その首筋に手刀を叩き込んで、襲撃は終了だった。


私が手勢を率いて現場に駆けつけたときには、事はすべて済んでいた。

お恥ずかしい話であるが、アヤコからの知らせは早かった。

そして対応に立ち上がった当番のナンブ兵たちも迅速だった。

しかし私の足が遅かったのだ。


「殿、よくぞご無事で」


「うむ、俺は大事無いがカグヤはどうか?」


「ササミ町の宿へ戻るところかと」


私たちは大通りに出た。

ササミ町の方に目をやる。

すると通行人たちの頭の上を、ならず者が地面と水平に飛んでいって、建物の土壁に衝突した。


かなり荒っぽい。

しかしあそこでシロガネ・カグヤ隊長が襲われているのは間違いない。


「いやヤハラどの、どちらかというとならず者どもが遭難しとると言った方が正しいのではないか?」


野次馬となった人垣の頭上で、ならず者が大の字の姿勢のままコマのように回転している。

そのまま固い地面に叩きつけられることだろう。

遭難というならば、まさに遭難である。


当番の者たちが駆けつけて縄をかけた。

そしてそこには、息ひとつ乱していないシロガネ・カグヤがいた。


「この者ども、私に恨みがあるとか申していたが、どのような恨みがあろうとも軽々しく剣を抜いてはならん。引っ立てるべし」


とりあえず屯所に引っ立てて、厳しく攻め問いを行う。

簡単に言うと拷問だ。

そこからまたイモヅル式に悪党を捕らえるのである。


王都の悪党が一掃されるや、たちまちナンブ兵の評判が上がった。

そして同時にナンブ・リュウゾウの義兄弟であるイズモ・ダイスケ……すなわちお姫さまの花婿の評判も上がる。


ましてそれがワイマール第三軍の一員として戦さ働きを良くした、豪傑イズモ・ダイスケだというから、ますます評判が上がる。

その装束がミステリアスなナンブ兵たちと同じもので、なおかつ腕自慢というのだ。

物見遊山のごとく、ナンブ兵屯所には人垣ができた。


特に鍛錬場。

藍の稽古着に藍の袴。

そして握る木刀も、王都の民には物珍しかった。


しかも稽古の内容というのが、王都の民の言葉で言うところの模擬試合スパーリングではないのだ。

ただただ同じ動作、所作を繰り返す、型稽古というものである。

しかしその動作、所作の内容は耳元でボソボソと囁かれるものであり、王都の民は「何故このような稽古で最強集団を形成できるのか?」と首をひねるばかりであった。


このような疑問を、今の私はクスリと笑う。

模擬試合スパーリングというのはルールがある。

つまりスパーリングで強い者というのは、スパーリングのルールの中でしか強くない、というのがナンブ剣士たちの考え方なのだ。


では型稽古の中で強い者は、型稽古の中でしか強くないのでは?

その疑問そのものが無意味ナンセンスである。

そもそも型稽古は勝つ者が決まっている。


あくまで型稽古は稽古であって、試合でも勝負でもないのだ。

何千何万と繰り返す同じ動作。

その中から勝ちの法則を一滴一滴抽出する。


それが型稽古というものなのだ。

そして型稽古は同じ動作を繰り返すのではない。

必然あってその動きしかできないのだ。


例えば切っ先で相手を狙う。

相手が一歩後退する、という動作。

切っ先で狙う側は、相手を後退させるだけのものが無ければ、相手は後退してくれぬ。


それが型稽古だ。

相手を後退させるのは、気迫や殺気か?

はたまた秘めた一手なのか?


その違いによって、後退の仕方が変わってくる。

型稽古、型武術というものは生きているのだ。

だが生きているからといって好き勝手をして良いものではない。


それは師から授かるべき「勝ちを得るための法則」から外れかねない。

もしもそれをシロガネ・カグヤがしたとしよう。

そうなるとその剣術流派は天神一流ではなく、シロガネ・カグヤ流である。


そして勝ちを得る知恵は伝承されず、シロガネ・カグヤ流は滅びることになる。


まっこと、剣術流派というものはキビシイものである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ