植民地化政策
帝国軍の武装解除を果たし、一箇所に収容したことで戦闘能力ゼロ。
無力化の成功との判断が下された。
もちろんそこには見張りとして、私たちのような戦闘部隊が張り付いている。
では非戦闘員というのは誰か?
ホワイトカラーであるアーサー王子、その他の貴族連中などが挙げられるだろう。
とはいえ諸国会議において、どの国がどの領地を植民地とするか? という話し合いには各国の代表者がこれに当たった。
ワイマール王国の代表者、それすなわち欲たかりの第一王子である。
当然のように無茶な要求をした。
曰く、大戦果を挙げたのはワイマール王国であるからこれは色をつけるべきだと。
しかし諸国連合がこれに反発、手柄を挙げたのは第四王子であり貴君ではない。
第四王子が王位を継承するのであれば首を縦に振ろう。
しかし貴君らはいたずらに軍の統制を乱し、勝手に戦死者を出しただけであろうと。
しかし第一王子も頑張る。
アーサーはいずれの国の者か!? その手柄はワイマール王国が受けるものであろう!
それに口を挟む行為は内政干渉である!
すると諸国連合はさらに反発した。
これは内政干渉に非ず! 貴君が要求なりの働きをしていないと、そう申しておるのだ!
……当然と言えば当然の話だが、議論はモノ別れに終わった。
結局誰の利益にもならない話し合いに終始したのだ。
これは大変にマズい傾向である。
ワイマール王国はドルボンドの領地を手中に収めた時点で、周辺諸国よりも一頭抜きん出た軍事力を所有しているのである。
それがさらに領地をよこせなどと横車を押すというのは、諸国連合から「野心あり」と見なされても文句は言えない。
つまり第一王子は、大戦過ぎ去りし後の世情に、まったく無頓着であったということだ。
この辺りのことは、アーサー王子の方がよほど目が開かれている。
大戦過ぎ去りてまた大戦。
しかも今度は教皇派同士で討ち合うという笑えない状況なのだ。
そんな未来予想図も描けずに国政を摂ろうというのだから、お目出度い人間というのはどこまでもお目出度くできているのだろう。
幸いにして協議はまだ続くようだ。
ワイマール王国は教皇派から、まだ話し合いの対象と見てもらえている。
この間に、なんとか状況を改善できないものだろうか?
愚物を戒めるため、アーサー王子の部屋をたずねた。
ノックを三回。
返事は無い。
ドアノブをひねると抵抗無くドアは開いた。
部屋は無人であった。
そして書き置きが枕元に置かれている。
「ヤハラくん、兄上を説得に行ってくる」
書き置きにはそのように記されていた。
そしてお付きのバキ少年もいない。
どうやらアーサー王子、腕力にモノを言わせてでも、第一王子の暴走を止めるつもりらしい。
そして翌日に持ち越された議論は、ワイマール王国側が折れる形で、どうにか決着することができた。
その辺りのことに関しては、アーサー王子も「いやぁ、骨だったよ」と苦笑するばかりであった。
とにかく話し合いは決着し、帰還する者は帰還する。
そして私たちは例によって例のごとく、治安維持部隊として現地に滞在することが決定。
といっても、フォクストロット国に留まる訳ではない。
グッと移動してマイル王国という国の治安維持活動に入るのである。
まずは現地で帝国軍が敗戦したことを告げ、これに与したマイル王国も主君と重鎮たちをことごとく失い国家として機能していないことを知らせた。
よってこのマイル王国は戦勝国ワイマール王国の元に入り、管理されることになったことを教える。
もちろん頼みの隣国などもすべて教皇側に下ったため、捲土重来の機会はまったくない、ということも知らしめる。
まずは飢えないことを約束した。
これまでの秩序が崩壊したくにでは、人心が荒廃するものである。
人の心が荒めば、犯罪や暴動に繋がりやすい。
それを抑制するためにも、まずは物資があることを示さなければならない。
ただし、先にもアーサー王子が述べた通り、この国の民に力を持ってもらっては困る。
ということで、価格は釣り上げさせていただく。
この地で商いを仕切るみちのく屋としてはウハウハであろう。
そしてこの国の労働賃金を引き下げさせてもらう。
ここはソロバン屋である私の出番だ。
死なぬ程度に、生きぬ程度に、菜種油をじっくりと絞るがごとくである。
そして物資があっても勝手に購入できぬように、配給制度を敷いた。
配給券は生活必需品をメインとして、様々な分野に及んだが、どこの誰が何を購入したかまで管理しておく。
これによって不穏分子が武器弾薬などを簡単に手に入れることのないよう、厳重に管理するのだ。
そしてやはり、こういった世界には秘密警察というものが必要になってくる。
これこそが私たち、ワイマール第三軍の主だった仕事である。
市井に紛れ込み人々と接し、そこから情報を仕入れてくる。
不穏分子を発見すれば、ただちに粛清だ。
あと重要な点で言うならば、個人の資産はすべて没収した。
その上で「すべての民が平等に」という美名のもとに再分配する。
現金を支給するという意味ではない。
公共事業などにその金を当てて、微々たる賃金を支払うのである。
民から労働意欲を奪うのだ。
だらしない仕事ぶりでも生きていけるだけの金は入る。
あるいは、どれだけ良い仕事をしても賃金で報われることは無い、という社会体制を植え付けるのだ。
人より良い暮らしを目指すためには、統治側につくことだと教えこむ。
つまり、密告だ。
あるいは本当にやる気のある者はみちのく屋に引き込み、マイル王国から脱することができるよう手配する。
ワイマール第三軍、ナンブ家の家臣として取り立てるのだ。
ただし、密告者は金で雇うだけであり家臣としては取り立てない。
密告者とは裏切り者である。
裏切り者を家臣にする訳が無い。
ということでマイル王国というかつての国家の匂いはすべて消す。
あくまでもこの土地はワイマール王国植民地であって、国家ではない。
私たちの仕事はやがて訪れるであろう第一王子の腹心がこの土地を統べるに易くすることである。
ということで、悪い言い方をすれば引き継ぎさえ終わってしまえばケ・セラ・セラ。
私たちはこの土地に対してなんら責任は無くなるのである。
第一王子の腹心がさらに搾り取ろうが、民の反感を買おうが、私たちの責任ではない。
私たちは万全の植民地体制は構築したのだ。
それをより上手に運用するか屁をこくかは、腹心の技量次第なのである。
もちろんこうした汚れ仕事は私の役割である。
侠客ナンブ・リュウゾウに目は閉ざし、耳はふさいでおいた。
まったく関与させなかったのである。
まったく、我ながら面倒くさい主君を頂いたものである。
しかしこうした汚れ仕事をしているとき、私の心が踊るのは何故だろう?
これぞ我が仕事、我が役割! などと張り切ってしまうのはどうしたことか?
本来私のような猪口才などは、責任者を頭上に頂いてこそ力を発揮するというのに、今回ばかりはナンブ・リュウゾウ抜きの方が仕事をやりやすい。
大変に捗るのだ。
まあ、軍師というものはそういうものなのだろう。
そしてコッソリと気が付いているのは、今回の責任者がナンブ・リュウゾウではなく第一王子の腹心だからこそ、無責任に好き放題できるからだと思っている。
ナンブ・リュウゾウが頭であれば、どれほど頼りない綱渡りでも足を踏み外す訳にはいかない。
しかし第一王子の腹心が綱渡りするというのであれば、私は喜んでロープに飛んでやるだろう。
もしかしたら火の着いたロウソクをロープの側に立てるかもしれない。
そんな遊びに興じていたら、気の短いナンブ・リュウゾウなどは、さっさとロープをひと太刀で斬ってしまうかもしれないが……。
そんな理由で、ワイマール王国植民地は物凄い速度で民の独立と自由を奪い去っていった。




