壁一枚の攻防
私たちが射撃を休んでいると、不思議なことに帝国軍も矢を射てくることを休んだ。
「来るかな?」
ナンブ・リュウゾウは腰の差し料に手をかける。
なるほど、遠間での戦いに勝ち目はないと見て、一挙大量の白兵戦を挑んでくるということか。
私はワイマール第三軍、ならびに諸国連合にその旨を伝えた。
やる気満々な同盟国、というか私たちワイマール第三軍にばかり活躍されて、出番はまだかと剣を撫して待っていたのだろう。
反応が早い、すみやかに隊列を組んだ。
睨むは城の真正面、吊り橋式の城門だ。
あの城トビラの向こうから、おびただしい殺気があふれてくるのを感じる。
「この一撃、帝国軍も本気だね」
馬上、アーサー王子もその殺気を感じ取っているようだった。
どの軍も先頭は鉄砲隊、その後ろには弓兵を従え、最後に白兵戦部隊を並べている。
つまり必殺の陣形で帝国軍を待ち構えていたのだ。
そして遂に、城門は吊り橋のように降り始めた。
「第三軍投石隊、放てーーっ!」
ナンブ・リュウゾウの声だ。
白兵戦部隊の投石が降り始めた城扉の隙間に落ちてゆく。
この投石にどれだけの威力があるものか?
何人の敵兵を倒せるものか?
それははなはだ心もとない成果に終わるだろう。
しかし私はこの攻撃を是とする。
少しでも隙を見せれば教皇派は、貪欲なまでに殺しを仕掛けてくる。
そんな印象を植え付けるからだ。
白兵戦部隊の投石には、そんな意味合いがこもっている。
そして投石は、第二波第三波と続けられた。
しつこいといえばしつこい。
執拗と言えば執拗だ。
城扉の隙間に入り込む礫などごく少数。
その中で効果を挙げる礫などひとつかふたつに過ぎないだろう。
だが飢えたオオカミの群れ、教皇派という印象はつけられる。
兵隊への威圧には充分だろう。
ギシギシ……ギシギシ……扉は降りてくる。
投石隊はここぞとばかりにスリングを奮った。
城扉が降りれば降りるほど、その効果は断末魔として私たちに届いてきた。
極々少数の被害だろうが、出鼻を挫いたのは確かだ。
これは良い傾向と言える。
そして目に見えて城扉が降りてきたとき、今度は弓兵たちが矢を放った。
これも極少数の被害を敵に与えている。
そして投石隊と弓兵が後方に退き、城扉が水平に近づいて敵の白兵戦部隊が見えると、キララ式鉄砲隊の射撃が始まった。
突撃の号令を待っていた帝国軍兵士たちは、なにも出来ないうちにバタバタと斃される。
まだ城扉は降りていない。
突撃兵たちは一歩たりとも前にはでられないのだ。
それを良いことに、ワイマール第三軍は必殺の銃弾を浴びせまくった。
無惨というならば無惨な光景である。
槍こそ構えてはいるものの、無抵抗なまま死を迎えているのだ。
まるで銃殺刑の場面である。
そしてようやく、城扉は降りた。
突撃の号令がようやく出たのであろう。
敵は突撃の一歩を踏み出した。
そして斃される。
私たちの銃火が敵に一歩しか許さなかったのだ。
それでも後ろから押されるように、帝国軍兵士たちが雪崩出て来る。
すると吊り橋上の敵兵に対し、諸国連合の旧式鉄砲隊も銃弾を浴びせる。
さらには弓兵、投石隊も活躍した。
まったくの愚策である。
私たちが弓矢と鉄砲を構えているところに、飛び道具無しで突撃せよと言うのだ。
死んでこいというのと同じである。
それなのに死の突撃は終わらない。
次々と兵士が進んできては、銃弾を浴びる。
結局吊り橋を渡り切った敵兵は一人もおらず、撤退命令が下されたようだ。
兵士は退き、吊り橋状の扉は上げられる。
こちらの火力を見誤った、帝国軍の失策といえた。
しかし、戦争というものは得てしてこういうものである。
数で押されるのは私としてもありがたくはなかったのだが、それは大挙して押し寄せられた場合である。
こんな一箇所の出口に密集されて、「ここから出ていきますよ」などと言われたら、キララ式鉄砲隊にとっては良いカモでしかない。
まあ、彼らは丘での戦い同様旧式な密集隊形突撃という概念を捨てられなかったと言えよう。
もう、時代は変わったのだ。
今でこそキララ式鉄砲隊は親衛隊を中心に編成されているが、銃の性能が上がり量産体制がさらなれば、民衆が手にすることになろう。
いつまでも騎士だ貴族だなどとふんぞり返っているような時代ではなくなるのだ。
しかし今度は私たちに打つ手が無くなった。
城扉は固く閉ざされ、城壁にも弓兵がいない状態である。
これは、私たちに壁を登って来い、ということか。
まずは堀の水を泳ぎ、槍兵士たちが鉤爪のついたロープでもって城壁を登る。
ポジションを確保したところで、今度は鉄砲隊を登らせた。
ここからは例によって、見てきたかのように語らせていただくが、あくまでも私は城の外にいる。
ここでひとつ、困ったことが。
壁上の兵が剥き出しの階段で降りようとすれば、矢を射掛けられる。
ならばと壁内通路を使って外に出ようとしても、これもダメ。
地上に降りようとすれば敵の矢を浴びる羽目になるという、私たちの立場が逆転したのだ。
しかしそこは冷静なシロガネ・カグヤ。
壁上から正確な射撃で敵の弓兵を撃ち抜いて見せた。
城壁の上から外に向かっては遮蔽物がある。
しかし城の内側に向かっては、身を隠す場所は無い。
またまた弓兵から楯を借りることになった。
白昼の戦闘ということが幸いである。
敵の弓兵は丸見えだ。
ワイマール第三軍の銃弾は次々とこれを討ち取り、白兵戦部隊は安全に地上へと出ることに成功した。




