いらないことをする奴
敵兵消えるの報告が入った。
帝国軍が撤退したという報告だ。
鉄砲隊を打ち取り、弓兵を打ち取り、遂には騎士団を打ち取ったのだ。
なるほど、帝国軍は必勝の兵をことごとく失っている。
撤退もやむなし、というところであろう。
しかし私、ヤハラは戦場を見た。
こちらは上り坂、撤退する帝国軍は下り坂。進行速度がまるで違う。
さらには鬱蒼と生い茂る森林、そして藪である。
勢いにまかせて追撃して、伏兵をおかれていては敵わない。
せっかく状況を有利に進めておきながら、いたずらに兵を損耗してしまう。
なにしろこちらはキララ銃という宝を所持しているのだ。
この秘密兵器は帝国軍はおろか教皇派諸国にさえ内緒にしておきたい兵器なのだ。
勢いに乗ろうとする諸国武官を必死に抑え、なんとか猪武者のような追撃を止めさせようとする。
そんな私の考えを後押しするように、素晴らしいタイミングで嫌われ者が現れた。
ワイマール一軍を率いる第一王子、そして二軍を率いる第二王子と第三王子であった。
彼らはまず、遅刻を詫びることもなくワイマール第三軍の誉を我が事のように自慢した。
そしてワイマール王国の戦力をカサに、全軍の指揮を摂るなどと言い出したのだ。
当然場は紛糾する。
その隙に私は、みちのく屋へ一筆。
消耗した弾薬の補充を依頼したのだ。
これにはいかなみちのく屋といえど、丸一日はかかるはずだ。
そのような理由で、ワイマール第一軍のポンコツねじ込み理論は大歓迎であった。
もちろん血気にはやった追撃論を黙らせるのにも役立ってくれている。
そして、第一王子の信頼が目減りすることにも貢献してくれている。
この王子、断固として玉座にすわらせることなかれ。
そんな機運が第三軍内に広がってくれれば幸いである。
会議において第一王子は不遜にふるまった。
それは教皇さま並びにそれを冠する教皇国をも蔑ろにするような態度であった。
諸国代表もはじめは憤っていたが、第一王子の人物の薄っぺらさとお坊っちゃん気質を見抜くや、怒りなどよりも嘲りや憐れみを浮かべるようになる始末。
諸国の将軍などは、王子の耳に届くように「ヘッ」などと笑うまでにワイマール王国の威厳は失墜した。
勝手に大将気取ってれやボケナス、といったところであろう。
ということで、諸国軍師のはからいによりワイマール第一と第二軍は、ほとんど外様に配置されてしまった。
これで今回の戦さ、第一王子第二第三王子、さらにはワイマール公侯爵、伯爵にいたるまで、ほとんどタダ働きの無駄足確定となる。
代わりにといってはなんだが、諸国にまでアーサー王子の名は高らかに鳴り響いた。
私でさえ望んでいなかったのに、諸国連合がアーサー王子を推したのだ。
もちろん第一王子としては、面白かろうはずもない。
しかし一軍二軍の誰も気づいていない、新式鉄砲の威力が無言の威圧をかけている。
末弟アーサーが、なにゆえ諸国連合から推されるほどに武勲を立てられたか? そのことがまったく理解できていない。
故に、アーサーを恐れ、面白くなくとも何もできなかった。
まあ、アーサー王子以外の王は諸国が認めぬ。
そういった空気が場を支配した。
これは我ながら、思わぬ収穫であった。
そして明日の昼までには弾薬が届くだろう。
それまでに帝国軍の動向を探ればいい。
私は妻であるアヤコに敵の動きを探らせた。




