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とうとう死んでしまった人

ヘンリー・アダムズに招集がかかった。

打たれっ放しだった帝国軍が、ついに攻勢に出るようである。

鉄砲隊が討たれ、弓兵が討たれた現状を、ついに我々騎士団でひっくり返すのだ。


もちろん状況必ずしも有利ではない。

しかし過去の戦争において騎士というものは、いずれも戦況を覆してきたのだ。

今度も、そして歴史的快挙を達成する機会に応えるのだ。


「行くぞ!」


ヘンリーが声を挙げると、部下たちはさらに大きく応えた。

どの顔も活躍の好機に輝いていた。

駒を進ませる。


ご丁寧に林道を進んだ。

そして稜線付近に来ると、林道は尾根の上に伸びている。

木々の枝を透かして見るが、敵陣は見えない。


接近されたのか?

ヘンリーは部下に索敵を命じた。

部下は前進して眼下を探る。


その部下の身体から、カン! という硬い音がして落馬した。

銃声が聞こえたような気がした。が、何かに攻撃されたというのは確かである。

何事か? いや、何があったとしても、騎士の使命は突撃である。


すみやかに突撃隊形をとらせた。

すると次々に部下が撃たれる。

ことごとく落馬した。


「うろたえるな! これが戦場というものだ!」


残り少なくなった部下を鼓舞して回る。

終いには、逃げる者はこのヘンリーが斬るぞ! とまで言った。

そのヘンリーは、腹に火箸を突っ込まれるような感覚に陥った。


ものすごい衝撃であった。

急速に体力が奪われ、身体を支えられなくなる。

吐き気と目眩にも襲われた。


ヘンリーは落馬した。

その衝撃が傷に障り、うめき声をもらす。

もう一度、さらに吐き気をもよおして、ヘンリーは吐いた。


大量の血だった。

死を覚悟する。

情けないものだ、勇んで戦場へと赴いてきたというのに、敵の姿すら見ることなく落馬とは。


腹が痛むので触れてみる。

手の平は血液と、破れた腸からあふれた汚物に汚れた。

もう一度吐き気に襲われる。


大量の血を吹き出すのが見えた。

体温が失われ身体が震える。

頭痛にみまわれ意識が遠のいた。


こうしてヘンリー・アダムズは戦死した。

名誉や栄光とはまったく縁の無い、ただの標的として撃ち倒されて死んでいったのである。

そしてその部下たちも、ワイマール鉄砲隊の餌食となり、ただただ無駄に命を散らしてしまった。


騎士団は陣形や体制が整う前に、戦場を覗き込めば撃たれ、覗き込めば撃たれを繰り返した。

その数が千騎ニ千騎いようとも、顔を出せば撃たれるのだ。

まるでモグラたたきである。


しかも叩く側は向こう。

騎士を失えば槍兵も勢いがつかない。

モゾモゾとしているとこれには損害が出始める。


一方的な展開のうちに撤退命令が出た。

近隣のフォクストロット城に立て籠もり、体制を立て直すそうだ。

槍兵、剣士しか残っていない帝国軍はゾロゾロと撤退を始めた。


よもやこのようなことが……。

帝国側としては意外どころの騒ぎではなかった。

鉄砲隊に力を注いできたのは、フォクストロット国だけではなかったのだ。


どの国もこれからは飛び道具の時代、ということはわかっていた。

しかしその結果は圧倒的すぎた。

それでもまだまだ剣槍は通じる。

まだまだ騎士の時代は続く。


そんな思いがどこかにあった。しかしまったく通用しない。

数で押せばなんとかなる。

しかしどうだ?


結果としては敵を目にする暇さえなく、いたずらに決勝の兵力を損耗しただけではないか。

どっと肩を落としてしまう。

どうしてこうなった。

そして我々はこれからどうなる?


城に立て籠もったところでどうなる?

帝国軍になにができるというのか?

それは誰にもわからなかった。

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