たまたま「ごっつぁん」状態になる
私、ヤハラとワイマール第三軍にとって、好ましからざる状況というのはどういったものなのか?
ずばりお答えするならば、数によるゴリ押しである。
可能な限り敵兵を近づけることなく、遠距離で始末してはいるのだが、それでも万の敵に一斉に襲いかかられたら鉄砲が間に合わなくなってしまう。
現在のところは敵もこちらを甘く見ているのか、鉄砲隊だの弓兵だのと小出しにしてくれている。
おかげで圧倒の各個撃破ができている。
しかし決死の突撃で万の槍兵たちが襲いかかってきたら?
それも正面だけでなく右から左からと攻め込まれたら、これは少々どころでなく、かなり困ったことになるだろう。
だが、ここは考え方だ。
敵が歩兵ならば、川に到着する前に撃ってしまえば良い。
なにもバカ正直にニ〇〇メートルまで待っている必要は無いのだ。
それでは命中精度が下がる?
なるほど、銃弾は飛距離によってドロップするだろう。
しかし胸や腹を狙ってさえいれば、脚には命中するだろう。
そうなればその兵士は使い物にはならない。
なにも鉄砲で撃っているからといって、必ずしも殺さなくてはならないという道理は無いのだ。
むしろ負傷者が転がって、突撃の邪魔になったり、負傷者搬出のために人数を割かれたりしてくれた方が、私としてはありがたい。
それが騎士であったらどうだろう?
馬を簡単には止めてはくれないだろうが、身分は歩兵なんぞとは比べ物にはならない。
折を見て必ず回収、搬出という努力をするに違いない。
むしろ騎士の負傷者、死体を搬出する暇が無い、という状況まで追い込みたいものだ。
しかしこのキララ銃の出番も、そろそろ終わりかもしれない。
いい加減敵もこちらの有利性に気づいて、丘一杯に兵を広げて突っ込んでくる頃合いだからだ。
まずはセーラー国を始めとした諸国連合の、旧式鉄砲隊を大きく前に出した。
川を渡らせた布陣だ。もちろんワイマール鉄砲隊もグイと前に出す。
弓兵は弓兵で、第三軍は諸国連合に組み込ませた。
そうでありながらワイマール投石隊はキララ鉄砲隊の後ろに備えている。
これまでは鉄砲隊が教皇派をまもっていたが、これからは教皇派全体でワイマール鉄砲隊を守るのだ。
「稜線に、騎士の影!」
見張りが叫んだ。
私はキララ鉄砲隊に稜線上の騎士を狙うように命じた。
まずは足の速い者を仕留めたい。
伝令が走る。
果たして間に合うだろうか?
私の意思が通じるであろうか?
教皇派の基本方針は、あくまで遠間の決戦である。
私は陣幕の内から伝令の背中を見送った。
すると鉄砲隊長がシロガネ・カグヤに代わっていた。
シロガネ・カグヤは命じる。
「狙うはーーっ! 稜線上の騎士! 第三軍鉄砲隊、正面の騎士を狙えーーっ! 一番より、撃てーーっ!」
黒色火薬特有の白煙を長く吐き出しながら、キララ銃が咆哮した。
確かに、騎士と鉄砲隊の距離は危険なくらいに近い。
しかし稜線上に現れた騎士というやつは格好の的でしかない。
騎上というのは、立っている人間よりも視線が高い。
故に斥候の任務もあるものだ。
だからこそ、稜線上に突っ立った騎士というものは鉄砲隊にとって「ごっつぁん」な獲物なのだ。
しかし敵は諸国連合だ。
騎士は次々と現れる。
旧式鉄砲隊が果敢にも丘を登って陣を張る。
無謀だとは思ったが、こうでもしなければ勝ちの目は出てこない。
つまりここは、博打だ。
軍師たる者博打に頼らなくてはならない状況ということを恥じなければならない。
だがしかし、実際の戦場には博打をうたなければならない状況が、確実に存在する。
そして旧式鉄砲隊は、私の期待に応えてくれた。
一射の弾数は少ないが、それでもキララ鉄砲隊の助手として貢献してくれたのである。
さらには弓兵も前に出た。
これもまた、それなりの成果を出している。
突撃準備に入った槍兵部隊に損害を与えていた。
遂に敵は撤退を始めた。
こちらの飛び道具に対する抵抗手段を失ったのだ。
しかし敵は下り坂、こちらは上り坂。
追撃でさらなる損害を与えたかったが、それは叶わなかった。
しかし帝国軍は、最寄りのフォクストロット城に籠もるであろう。




