圧倒
私、ヤハラにとって、大変に好ましい状況であった。
樹木の生い茂る林道をたどって、フォクストロット軍の鉄砲隊がお行儀よく丘をくだってきたのである。
私たちの鉄砲隊は川からニ〇〇メートル離れて隊列を組んでいた。
そして敵は鉄砲を担いだまま国境線ともいえる川を越えて、教皇派領土に侵略を仕掛けてきたのだ。
そうしなければ一〇〇メートルの距離でも命中が見込めない火縄銃だ。
こちらの鉄砲もそういった火縄銃もどきという常識の前提で「この距離では届きっこない」と思い込んでくれている。
続々と冷たい川を渡ってきた。
私は鉄砲隊に射撃開始を命じる。
轟音とともに、フォクストロットの鉄砲隊はバタバタと斃れた。
射撃準備にすらはいっていない、鉄砲を担いだままである。
敵の鉄砲隊も慌てて膝をつき、射撃姿勢に入ろうとする。
そこへ第二射。
敵はまともに引き金を引くことさえできずに川面へ伏した。
敵の鉄砲隊はずいぶんと数が減った。
今までは放射線状に射撃していたが、確固に狙いをつけて確実にしとめるように命じた。
しかしその指示が届く前に、第三射第四射がおこなわれ、フォクストロット鉄砲隊は後退を始めた。
これは従来の放射線状射撃の方が効果的だ。
そばにいた伝令に、そう伝えるよう命じる。
しかし五射六射が敵兵を撃ち倒す。
なんだか自分ひとりでドタバタしたようで、大変にみっともないような思いにとらわれる。
しかし折よく、敵の鉄砲隊が林道に到着した頃に、放射線状射撃が始まった。
つまり林道入り口にたどり着いた者は、必ず銃弾に貫かれるというデスゾーンが完成したのである。
後退する者ほど必殺の銃弾を浴びた。
つまりフォクストロットの鉄砲兵は、全滅した。
酷ぇ死に様だな、と言ったのは本陣に詰めているイズモ伯爵だ。
「こりゃぁ虐殺だぜ、あとで騒ぐ連中が出てくるんじゃねぇのか?」
「伯爵さま、お言葉ではありますが、彼我の関係が逆転していたらいかがでしょう? フォクストロット兵は我らをめった打ちにするのではありませんか?」
「おっと、秀才くんと議論はしねぇぜ。そうさな、敵もその積りで鉄砲引っ張り出して来たんだからな。やぁやぁ我こそは……なんて正々堂々の一騎討ちなんざ考えてねぇってことよ」
それはワイマールの高級貴族を見ればわかる。
戦場泥棒まがいの汚い行為に血眼になって、下級貴族にまともな褒美すら出さない連中だ。
もしも奴らが一騎討ちに出るとすれば、その時は勝負が決まっていて敵将を味方が囲んでいるときだけだ。
正々堂々もへったくれもありゃしない状況でなければ、奴らは出て来ない。
さて、フォクストロット軍の鉄砲隊は全滅させたのだが、途中で逃亡した者もいたのだろう。
さらに鉄砲隊が林道を下ってくるのが見えた。
多国籍軍なのだろう、制服も装備もまちまちである。
だが、彼らが共通していることはひとつ。
横一列に並んで川まで行進してくることだ。
この辺りの展開になると、私も指揮を鉄砲隊長にまかせていた。
変に出しゃばると先程のような失態を演じるからだ。
ただ、今回は数が多い。
念の為弓兵や白兵戦部隊で鉄砲隊の左右両脇を固めておく。
多国籍軍の鉄砲隊は川に足を踏み入れた。
それを合図にワイマール鉄砲隊が火を吹く。
三段撃ちだ。
やはり敵兵ばかりが斃れる、一方的な展開だ。
鉄砲隊の後ろに控えている弓兵たち、こちらの方が賢い。
木の楯を立てかけて、その陰に隠れていた。
ただし、その距離では矢は届かない。
それに鉄砲の弾から身を防げても、降り注ぐ矢と投石は防げない。
そして、動くことすらままならない。
移動すらまともにできない弓兵は死に兵となり、鉄砲隊はさらに被害を出している。
横一列、広く展開していた多国籍軍鉄砲隊だが、欠員を埋めるために狭く短い陣形になりつつある。
これは間違いだな、と私は見た。
鉄砲隊は密集隊形で戦うものではない。広く展開して的を小さくするべきなのだ。
まあ、そんなことを言えるのは命中精度の高い新式鉄砲を揃えているからである。
精度に信頼性の無い火縄銃では、どれか一発が当たるという密集隊形でなければ、命中がままならないであろう。
揃えてよかったキララ式、である。
そして鉄砲隊長はジリジリと鉄砲隊を前進させる。
楯に隠れた敵の弓兵を掃討するためだ。
川までの距離が一〇〇メートルほど、そこまで迫ると敵の弓兵に損害が出始めた。
ここまで近づくと、直接狙いをつけることができるからだ。
わざわざ頭の上を狙ったり、小さな小さな頭を狙わずとも、胸なら胸、顔なら顔を狙うとズバリ的中する距離なのだ。
そして命中精度の高さとなれば、まさにキララ銃のお家芸である。
敵は飛び道具をいたずらに損耗していった。




