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そのうち死ぬ人Ⅱ 兵は何も見えず、何も知らされず朽ちてゆくもの

旧ゼブラ領地を奪還するため、フォクストロット軍騎士隊長ヘンリー・アダムズは騎上で待機していた。

帝国軍の陣地構築はフォクストロット軍が担当することになっていたのだ。

すでに工兵が樹木の生い茂った丘陵地帯を越えて、川沿いへ荷物を運び込んでいる。


教皇派にとっては寝耳に水であろう。

なにしろ国境線に突然陣地が現れるのだ。

しかも、帝国側の総力が結集されてだ。


いかに神速の対応をみせようとも、一国一国が足並み揃わずに帝国陣営に挑んでくることになるはずだ。

そうなると単純な各個撃破である。

ほとんど一方的に帝国側の勝利となるに違いない。


ようやくこの戦争も終わる。

妻も愛娘も、なんの心配もなく平和に暮らすことができる。

いやいや、騎士隊長たる者、臣民の平和と安寧を一番に考えないでどうする。


ヘンリー・アダムズは馬上頭かぶりを振った。

しっかりしろ、自分。これは戦争なんだぞ! ほんの気まぐれで放たれた矢が私を貫くかもしれないし、なにかの間違いで討ち死にすることもあるんだぞ!


ヘンリー・アダムズは自分を戒める。

そうだ、まだ戦争は終わってはいない。いや、むしろこれから始まるのではないか。

楽勝気分で軽口をきいている部下たちに、私語を慎むようにと伝える。


そして「いざというときには栄えあるフォクストロット騎士団として、勇敢に戦うべし!」と訓示した。

部下たちは顔を引き締める。

そうだった。ヘンリー・アダムズは厳しい訓練において常に先頭を走り、誰よりも自分に厳しくあった。


その隊長が気を引き締めるように言えば、騎兵たちの顔からは笑顔が消え去る。

そしてアダムズ中隊は一丸となった。

猛訓練を積んできた血盟の同志たり得たのだ。


そのアダムズ騎士中隊に呼び出しがかかる。

騎士隊集合の号令だ。

馬の脇腹を蹴り、中隊は大隊長のもとへ馳せ参じた。


すでに連隊長が厳しい顔で待っている。

その表情が、事態の深刻さを物語っていた。

連隊長曰く、工兵部隊が敵の襲撃に遭ったという。


現在前衛部隊が陣地確保のため出撃しているが、展開によっては騎士隊も突撃の可能性があるそうだ。

その突撃は、敵にとどめを刺す決勝の突撃か? はたまた不利な形成を逆転するための、起死回生の一撃なのか?

もちろんとどめの一撃であって欲しい。

騎士たちは誰しもそう願っていた。


そして激しい銃声が、丘を越えて聞こえてくる。

本格的な戦闘の開幕である。

鉄砲対鉄砲、これでは騎士の出番は無い。


ヘンリー・アダムズは気を落ち着けた。

鉄砲隊ならばフォクストロット国も十分な数を揃えている。

決して手数では負けないはずだ。


しかし陣営が慌ただしくなる。

なにか予想外のことが起こっているのかもしれない。

伝令があちこちに駆けずり回っている。


しかし騎士団にはなんの指示も無い。

事態の推移を知ることもできず、ただ指をくわえているしかない。

しかし、連隊長からの伝令が大隊長にあった。


ヘンリーは中隊を預かる身として、大隊長に状況の説明を求めた。

他の中隊長たちも同様である。

大隊長は渋い顔で口を開く。


「思う通りにはなっていないようだ」


「ならば我々の任務は起死回生の一撃をおみまいすることですな」


ヘンリーは即座に返した。

他の中隊長たちも、一瞬たじろぐような様子をみせたが、ヘンリーの言葉に鼓舞されたようだ。


「状況がどのようにあろうとも、騎士の仕事はただひとつ!」


「おう! 敵陣深く食い破り、決勝の歩兵を送り込むことよ!」


「大隊長、突撃命令はまだですか!」


中隊長たちは鞭をかざし、馬上で意気を表した。

これには大隊長もニヤリと笑わざるを得なかった。

騎士のなんたるかを、部下たちがよく心得ていたからである。


しかし帝国派他国の鉄砲隊が、騎士団を押し退けるようにして続々と戦場へと向かったときには、みな顔が引き締まっていた。

これは、容易ならざる戦いになっている。

他国への鉄砲隊支援要請。


いったい今、戦場で何が起こっているのか?

銃声いまだ鳴り止まず。

樹木生い茂る丘の向こうは、一体どのような状況なのか?


兵というのは何も見えず、何も知らされず朽ちてゆくもの。

そんな不吉な言葉が、ヘンリーの頭をよぎった。


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