出撃!
そして雪は溶けて降り、降っては溶ける季節。
間もなく両陣営が激突するだろう。
そこで私はさらに積極的に忍びを使った。
いつ、奴らが動き出すか?
どの峠から平原までくるのか?
どれほどの規模の軍が動くのか?
まず活発に活動していたのはフォクストロット国。
この国の軍が物資を大量に調達していた。
タンゴ国、チャーリー王国、そして本丸ともいえる帝国でも目立った動きは無い。
いや、それなりに物資の調達をしてはいたが、フォクストロットほどではない。
これはつまり、フォクストロットが先鋒をフォクストロットが務めるということだ。
調達物資の内容を吟味するに、フォクストロットは帝国陣営における築陣を先んじて行うようであった。
施設部隊などではなく、一国の軍団が築陣を行うという、史上類を見ない規模の戦争の匂いである。
私は速やかに意見具申。
教皇派も速やかに出撃し、これを徹底的に叩くべし! と。
しかし教皇派の軍としては、ほぼ寝耳に水。
即応戦とするには足並みが揃わぬ、というのが王室の見解。
ならばワイマール第三軍のみで出撃、これを徹底的に叩くべし!
幸いにしてこれは受け入れられた。
ワイマール第三軍、急遽招集である。
「ナンブ軍集合! すみやかにアーサーの招集に応じるぞ!」
ナンブ・リュウゾウは用意してあった戦さ支度を整えながら、すでに湯漬けを流し込んでいた。
「ヤハラどの、先に行っておるぞ!」
そう言い残して、やおら棹を握り締めると『誠』の旗を担いで駆け出してしまった。
単身王都まで駆けるというのか?
アホかお前!
そう言いたくなったが、私とて支度は充分にできていたのだ。
まずは親衛隊の面々に銃と弾薬を与えては走らせ、与えては走らせ。
ナンブ・リュウゾウの後を追わせた。
そして一般兵。
これにインチキ鉄砲を持たせて空砲を出す。
ナンブ領から兵が集まってきたときには、すでに半刻が過ぎていた。
これでもかなり早い招集なのだが、なにしろ相手がナンブ・リュウゾウである。
いくら急いでもかまわない。
とはいえ、兵装不備という訳にはいかない。
徹底的に装備を点検、改めてから駆けさせる。
そして臨時の兵まで改めを終えてから、私も荷馬車に乗り込んだ。
しかしナンブ・リュウゾウとその兵たちは、ほんの四キロほど先で駐屯していた。
近くの農家で調達したのであろう。
みな握り飯を頬張っていた。
「おう、ヤハラどの。早かったな、お前さんも握り飯食え!」
戸板ほどもあるケースに並んだ握り飯。
それが二枚も三枚も。
みなよく食い、よく飲んでいる。
……飲んでいる!?
ひょうたんや大徳利から注がれる液体は、無色透明。
というか甘い米の香りやら柿の匂いやらが、そちこちから漂っていた。
すでにナンブ兵たちはメートルが上がっていた。
まあ、戦さ前にオダが下がっているよりはずいぶん良いのだが、それにしてもこれは……。
「まあまあヤハラどの、兵はこれくらいでなくては」
握り飯を寄越すナンブ・リュウゾウは、茶を飲んでいる。
つまり酒は飲んでいない。
つまり兵と将の違いを、この男は心得ているということだ。
そのクセ私には酒を勧める。
これは私にもっと肩の力を抜け、というのか?
まずはお流れをいただく。
しかしその一杯だけだ。
そしてナンブ・リュウゾウをジロリと睨む。
「殿、わざとですかな?」
「ほ、何のこってぃ」
ナンブ・リュウゾウはとぼける。
「なんのこともなにもありますまい! 湯漬けだけで駆け出して、兵の神速を試されましたか?」
「逆さ、逆」
「逆?」
「ヤハラどのの普段からの準備を知っていたからこそよ。クサナギ先生などは、招集には一日かかると見立てていた」
「そんなにかかるのであれば、ヤハラは生きておれませぬ」
「ずいぶん大きく出たな」
「今回は前々からの支度をしておりましたので。それが実を結ばぬというのであれば、ヤハラは腹をきらねばなりませぬ」
「軍師ってのは大変なもんだな」
「なに、戦場を駆ける方々の苦労に比べますれば」
「とにかく、兵は揃ったな?」
「あと少々で」
「ではシンガリが一服つけたら、即座に王都へ参じるぞ!」
「かしこまりました!」




