紅白戦
特訓に継ぐ特訓。
肉体をイジメにイジメ抜き、屈強の兵士たちは合同演習の日々を過ごした。
そして大演習最終日。
ついに迎えた紅白戦である。
雪原を東と西に分けて、両陣営五〇〇メートルの距離をとる。
紅組大将ナンブ・リュウゾウ、東方。
白組大将イズモ・ダイスケ、西方。
それぞれが鉄砲隊を先陣に弓兵、白兵戦部隊という順に陣を敷いている。
統括は第四王子のアーサー王子、控えに若き拳闘士バキ少年。
そして後見人はクサナギ先生。
ゴング代わりの太鼓を打つのが私、ヤハラの仕事である。
両陣営気合十分。
そう見た私はクサナギ先生に「始めます」と確認をとる。
うむ、とだけ返事。
私は太鼓に向き直り、力いっぱいバチを叩きつけた。
音を吸収すると言われる雪の中ではあったが、太鼓の音は力強く鳴り響いた。
「紅組、前進!」
ナンブ・リュウゾウの号令。
紅組は鉄砲隊を先頭に、隊列の乱れることなく前進を始めた。
「白組前進!」
イズモ・ダイスケもこれに応じる。
こちらもまた、陣形が乱れない。
これは特訓による成果のひとつである。
私はひとり悦に入っていた。
両陣営の距離がニ〇〇メートルドンピシャに入ったとき、両者鉄砲隊に射撃姿勢を命じた。
まずは木楯の脚を出して立てかける。
その楯に穿った穴、銃眼から鉄砲を突き出しての射撃である。
もちろんインチキ鉄砲と空砲を用いても撃ち合いだ。
死者は出ない。
この空砲の撃ち合いは、発砲から空薬莢の脱砲、そして再装填から次弾の発砲がどれだけスムーズにおこなわれるか? を方針としている。
両陣営とも、弾は一人二十発ずつ。
その弾をどちらもほぼ同時に消費し切った。
着剣の号令が、これもほぼ同時に発せられる。
銃剣部隊を先頭に、両陣営突撃が号令される。
そして弓兵たちが、それぞれの突撃を阻止するべく訓練用の矢を放つ。
その矢をくぐり抜けてきた敵には、投石に見立てた雪玉が浴びせられた。
突撃兵に甚大な被害は出たが、雪玉を投げ終えた白兵戦部隊が、さらに突撃の後押しをする。
雪原はもう、乱闘の舞台であった。
竹刀での殴り合い、銃剣でのド突き合い。
まったくもって泥臭い、洗練もなにもされていない原始的な闘争となっている。
くたびれ果てた兵士たちが腰をおろし、大の字になっているがしかし、ナンブ・リュウゾウとイズモ・ダイスケだけは立っていた。
全身から湯気を立てて、お互いを食い殺さんばかりの目で睨み合っている。
これはもう、紅白戦どころではない。
合戦だ。
そして一歩も動けぬほどくたびれ果てたなら、睨んで殺せという戦場作法を体現している。
クサナギ先生の指示で、私は演習終了の太鼓を鳴らした。
それでも二人は互いの間合いに入ろうと歩を進め、力尽きて倒れ込んだ。
両軍ともに死力を尽くし、よく鍛えよく戦った。
アーサー王子の評価である。
軍規則によると最高の評価というのは『抜群』とされている。
しかし王子は「抜群を越えて『天晴』である!」と評した。
クサナギ先生などは「褒め過ぎだぜ、王子」とこぼしたが、満更でもなさそうな顔つきである。
まあ、すべてを引っくるめれば、みなクサナギ先生の弟子のようなものだ。
悪い気はしないに違いない。
しかしそこは鬼のクサナギ。
全体を引き締めるように檄をとばす。
雪が溶ければ決戦だ! いま以上に鍛え上げられた諸君の姿に期待する!
そうだ、ここで立ち止まってはいられないのだ。
ここをスタート地点として、さらに強くならなければならない。
猛暑と極寒の中でこそ鍛えよ。
磨くのは春と秋で良い、とクサナギ先生は締めた。




