鬼の軍隊 修羅の軍隊
これだけ鍛えなければ勝てないのか?
この訓練はまさに地獄と言えよう。
そんな訓練でも、終わりの時が来る。
日が傾き、雪原が朱に染まる頃、カラスたちがねぐらへと帰る時刻。
ようやく訓練終了の宣言が出た。
白兵戦部隊はみなヘトヘト、性も根も尽き果てたという具合に座り込んでいる。
ただ不思議なことに、一番絞られたはずのナンブ・リュウゾウだけが、二本の足で立っている。
寒気が漂う中、全身から湯気を立てていた。
それこそもう、ただの根性、ただの精神力で立っているだけなのかもしれない。
俺が倒れたら国が倒れる。
そんな信仰でもあるかのように、ナンブ・リュウゾウは立っていた。
しかし鉄砲隊や弓兵たちが楽をしていたかというと、そうでもない。
的紙の交換は全力疾走、一発でも的から外れていたならば、その場で筋力トレーニング。
いや、待機時間の最中は全員ずっと筋トレをしていたのだ。
そして弓兵。
こちらは動く標的を自分たちで引っ張っていたのだ。
こちらももちろん全力疾走。
そして矢の回収も全力疾走。
とにかく全員が肉体をイジメてイジメてイジメ抜いていた。
そうしなければ、ワイマール第三軍は負けてしまう。
国が滅んでしまう。
そんな危機感が軍全体に満ちあふれているのだ。
だから全員が必死になる。
無茶を絵に描いたような訓練に没頭できるのだ。
歩く死者のような足取りで、整列を完了。
武装を解除して荷物をソリに積み込む。
アーサー王子からお言葉をいただき、全員揃って街へと行進。
年若い兵たちは、ひと息ついたことで体力を回復しているようだ。
率先してソリを曳く。
その中にはナンブ・リュウゾウの姿もあった。
本当は歩くのも嫌なのかもしれない。
しかし彼は軍の中心的存在であり、その責任は重いのだ。
嫌であってもなんであっても、ここはみんなを励まさなければならない。
くたびれ切った身体に鞭打つように、若い兵士たちは声を出す。
「第三軍のために!」
「第三軍のために!!」
「第三軍のために!」
「第三軍のために!!」
やがて年かさの兵士の中から、ソリを押すものが現れた。
足取りのおぼつかない者に、肩を貸す兵も出る。
こうしてワイマール第三軍は、さらに結束を深めてゆく。
宿に着いた頃には、もう全員が回復していた。
なにしろ厨房から、美味そうな匂いが漂っているからだ。
キビシい訓練で胃腸も弱っていように。
しかし腹が減るのは屈強な肉体、ワイマール第三軍の一員であることの証である。
とはいえ私は、まず手配の白湯を配った。
一旦身体を落ち着けて、それから全員を湯殿へ招く。
熱くなっているクセに冷え切った身体を、まずは清潔にする。
それは明日への活力をよみがえらせる任務だ。
汗を洗い流し、身体を暖めて大広間へ。
もちろん膳には酒がついている。
これ無くして、第三軍の男は語れない。
みな大いに食らい、大いに飲んだ。
あれだけの訓練を重ね、それでも飲んで食ってすれば活力がよみがえるとは。
もしかするとワイマール第三軍、すでに鬼の軍隊、修羅の軍隊なのではないかと疑ってしまう。
少し短い更新ですが、現在雑記帳の『鬼将軍冒険譚』を作成中です。悪しからずご了承ください。




