ワイマール第三軍の胎動
ナンブ軍が先立っての到着であったが、伯爵さまへの挨拶が終わって宿へ戻ると続々と各領地から演習参加の軍が到着してきた。
私たちナンブ軍の仕切りで、人員の確認と装備の確認、そして宿の割り振りが始められる。
荷を解いて支度のできた軍から伯爵さまへご挨拶にうかがっていただく。
くだらないように思えるかも知れないが、投石用の石の数、大きさ重さまで確認した。
そのくらいの真剣味をもって演習に参加するように、という先触れをアーサー王子の名で出しておいたのだ。
当然どの軍も規格通りの石のサイズ、そして装弾を揃えていた。
この数日の演習で、訓練による年間消費量の大半の装弾を消費してもらう、という建前なのだ。
そのくらいに鉄砲隊の役割は大きく重い。
ワイマール第三軍が、全軍ではないものの三度集結した。
そしてアーサー王子も到着。
演習参加者全員で整列して出迎える。
御言葉をいただく私たちの間に緊張感が走った。
そして闘志もみなぎる。
まずは雪中行軍である。
歩く、全員で歩く。
いざ合戦の地へ、という意気をみなぎらせ、弛むことなき戦意をもって。
イズモ領もまた、除雪が済んでいるので歩きやすい。
しかし大量の鉄砲を一斉にブッ放すのだ。
人里近い場所で演習はできない。
よって郊外へ、郊外へと歩かなければならない。
先頭は誠の旗、ナンブ軍。
殿は愛の御旗のイズモ軍。
どちらも領主である男爵さま、伯爵さまが馬上。
実はこれが楽ではない。
寒風吹く中を馬に跨っているだけなのだ。
寒いことこの上ないに違いない。
そして山を越えると、だだっ広い雪原が広がった。
キツネとタヌキとシカの足跡しかない、ヴァージンスノーというやつだ。
雪原に降り立って、まずは距離の計測。
これは簡単にあらかじめニ〇〇メートルに切っておいた縄を、抜刀隊に引っ張って歩いてもらうのだ。
鉄砲隊には「これが実際のニ〇〇メートル先の人間である。よく覚えておくように」と告げる。
が、どこの鉄砲兵も「先刻訓練済みよ」とガッテン顔なのが頼もしい。
抜刀隊は等身大の人型の標的を立てる。
そして雪を掘って塹壕をこしらえた。
鉄砲隊も塹壕を掘る。
鉄砲隊は一〇〇人ずつ三列に分かれて、塹壕の中で弾込めを行い、立ち上がって射撃するのだ。
そして抜刀隊は塹壕に身を潜め、標的の交換と命中失中を判定するのだ。
「一列目、弾込め! 前面の標的、座撃ち! 距離ニ〇〇! 撃ち方はじめ!」
轟音が轟き、銃口から大量の白い煙が伸びる。
読者諸兄の世界ではもう見られないかもしれない、黒色火薬の燃焼した煙である。
雪の中で拝見しているので迫力はイマイチなのだが、春の枯野で見れば敵に恐怖を与えること間違いなしである。
一列目は脱包の号令で身をかがめ、銃を折って空薬莢を抜く。
その間に二列目が装填、射撃姿勢に入る。
その繰り返しである。
実銃実弾は例えば一列目の最右翼、ナンバー一番が使用していたとしよう。
すると二列目は二番の者が実銃を使用し、三列目は三番が使っている。
故に自分の標的には自分の弾しか入らない。
よって弾が当たったか外れたかがわかるのである。
そして実銃とインチキ鉄砲の交換もおこなわれる。
全員が全員、実弾を訓練するのだ。
そしてこの交換のときに、抜刀隊が標的紙を交換。
射手に届けてくれる。
これが射撃訓練の仕組みである。
ちなみに抜刀隊が塹壕を掘った折に出た雪で山を作り、壁としているので弾が標的を外れても抜刀隊は安全なのである。
これらはすべてマスターキララの発案であった。
そしてひと通りの射撃が終わったところで、抜刀隊と鉄砲隊三列目が交代。
抜刀隊とていつまでも鉄砲隊の稽古に付き合ってはいられないのだ。
と言っても、今度は弓兵の手伝いだ。
的を据えたソリを牽いて、雪原を駆けるのである。
走る方角は弓兵に向かって、つまり矢を放つタイミングに慣れる訓練だ。
矢を放つといっても一人や二人ではない。
弓兵全体で矢を射掛けるのである。
これは敵の歩兵の突撃、あるいは騎士の突撃を想定した対応を訓練することを方針としていた。
同時に白兵戦の主力である抜刀隊、槍兵の突撃能力、つまり駆け足の強化にもつながっている。
一石二鳥とはこのことだ。




