おバカさんたちの群れ
子狸を学園に返せば私たちはすぐに戦さ支度に入る。
楽しかった平穏な日々は、これでおしまい。
仕事が私たちを待っている。
まずは親衛隊諸士にことの次第を説明してナンブ領内を走らせる。
ドルボンド、ゼブラに指南所を開かせるための人員を選抜するのだ。
「それならばあまりモダンな流派じゃない方がいい。古流も古流、ドロッドロに泥臭い田舎剣法が面白いぜ」
とアドバイスをくれるクサナギ先生。
そうした流派というのは、昔気質というか頭が固いというか、とにかく二言目には「男爵さまのために」とか「戦場で死ぬのが男の華」とか、そういう考え方を信仰のように持っているという。
「クサナギ先生もそのように考えておられるので?」
「まさか、俺は都会派のモダンボーイだし」
ウソつけ。
モダンボーイが腰間の差し料に命をかけて、戦場を駆け回ったりするもんか。
あんたが一番の泥臭さだろうが。
というか、泥イモは泥イモを知るということだろう。
コッテコテの古流人間だからこそ、田舎剣法の使い手の心情を知ることができるのだ。
ということで、田舎剣法を中心に指南所を当たらせ、出世の糸口をチラつかせるのだ。
というか、これまでの合戦に志願してきた者たちの中に、そうした手合が山ほどいたに違いない。
そうなるとナンブ領というのは、人材の宝庫となる。
剣一振りに命をかけるも良いが、そろそろ指導に回りたい者もいるはずだ。
いや、好き好んで戦場に出たいという者は、どこか頭がおかしいのだ。
本国に残りナンブの支援を受けて、生活を送る。
そちらの方がずっと良いに決まっている。
ということで、各指南所へと先に人数を走らせた。
「しかしヤハラどの。今回ばかりはキョウカどのの読みが外れるかもな」
ナンブ・リュウゾウは他人事のように言う。
「と言いますと?」
「ナンブが支援して指南所を開かせるとなれば、金など掴ませずともみな旅立つような気がしてな。クサナギ先生の読みの方が正しいように俺は思う」
「ロハで信仰を広めてくれるのでしたら、そりゃありがたい」
「ヤハラどのもキョウカどのも、剣は不得手だろ?」
「はい、てんで空っきしです」
「修行者にとって教えというのは信仰も同然、師匠というものは神も同然。絶対のものなのだ。その師がナンブさまに凝り固まっておれば、弟子もまたそうなる。もしかすると金などチラつかせなくても、剣の達者が続々と押しかけてくるやも知れぬぞ」
なにしろ志願兵がおかしいくらいに集まったのだ。
しかもキョウカさま祭りの直後というのもある。
ドンピシャというタイミングの良さだ。
やはりナンブ・リュウゾウ、「持っている男」であろう。
もしかしたら、という皮算用をしながらナンブ領を目指す。
しかし案外にも人が集まらなかったら?
そのときはナンブ・リュウゾウの財布から、いくばくかの見せ金を出さねばなるまい。
イズモ・キョウカに無心することもできる。
あまりそうなっては欲しくないのだが。
私たちがナンブ領の北区域に入ると、人だかりができていた。
親衛隊の者たちや町方の連中が出張って、並べ並べと声を枯らしている。
いずれも大丈夫。
立派な体格をした田舎者だった。
その浪人のような男どもを制していたモミジが、「あ、リュウゾウさま!」と呼んだからたまらない。
男どもは「おぉ! リュウゾウさまじゃ!」と騒ぎ出した。
「なんだモミジ、この人だかりは?」
「なんだじゃありませんよ、ヤハラさま。あちこちの兵法指南所に、異国での指南所開設の檄文を回したそうじゃないですか!」
ちょっと違うが、まあそういうことにしておく。
「おかげで志願者が集まって、この騒ぎですよ! なんとかしてください!」
私は騒ぎを眺めた。
できるだけナンブ・リュウゾウの顔は見ないようにした。
どうせ「な、俺の言った通りだろ?」という顔をしているに決まっている。
そうだ、やはりナンブ・リュウゾウ人気というものは健在なのだ。
それが兵法家の中であれば、なおさらである。
「では殿、お言葉をくだされ」
「あぁ、必要なようだな」
壇を用意して、ナンブ・リュウゾウに上がらせる。
それだけで男どもは沸き立った。
ナンブ・リュウゾウの第一声。
「ん〜〜……燃えているかーーっ!」
「オォーーッ!」
「ゼブラ領地へ、行きたいかーーっ!」
「オォーーッ!」
「異国なんざ怖くないぞーーっ!」
「オォーーッ!」
「ヤハラどの、帳面を用意してくれ。名前と流派を書き留める。それと、支度金じゃ」
結局、金子は出すことになるのだが、どうやら最小限の出費でおさまりそうである。
イズモ・キョウカなどが今の光景を目の当たりにしたらなんと言うだろう?
「殿方というのはおバカさんの集まりですのね」とでも言うのだろうか?




