無題……タイトルが思いつかなかったでゴザル
まあ、いかにナンブ・リュウゾウ風雲児といえど、今はまだ取らぬ狸の皮算用というやつで、人数も金もまだまだ先の話。
やはり私たちはまず春の大戦さで勝利をおさめることを真っ先に考えるべきであり、それより先に己の恋女房を楽しませるべきなのだ。
物事には順番というものがある。
何事も一足飛びという訳にはいかない。
アヤコの髪を撫で、頬に触れて、改めてそう思う。
街はにぎわいをみせている。
除雪の済んだ街中はおおくの人出である。
そしてみな、年越しの支度に追われ、好景気にわいていた。
誰も彼もが幸せそうである。
このささやかな幸せを守るためにも、私たちは戦わなければならない。
無法とも言える侵略者、帝国派の国々を殲滅するのだ。
みなで食事をとり、楽しいひとときを過ごして本邸に戻る。
暖かな暖炉が私たちを出迎えてくれて、熱く沸かされた湯につからせてもらう。
貴族の本邸ということを除けば、本当にささやかな幸せと言えた。
面白半分に想像してみる。
ナンブ・リュウゾウが家督を継いだ暁には、親衛隊とその家族一同を本邸に招き、一年の労をねぎらう宴でもてなそうか、などと。
幸せな妄想というのも悪くないのだが、どうしても軍師のクセなのだろう。
金や人手が足りぬ場合のことを考えてしまう。
そこで一計。
「殿、クサナギ先生の伝えるナンブ無双流という剣術、一般人が学ぶことはできましょうか?」
「ん? 無双流か?
まあ無理だな。ナンブ無双流はクサナギ先生ただ一人が相伝、そしてクサナギ先生は才の無い者にはおしえない。ナンブ家が御身を抱え込んでいると心得てくれ。ナンブ家としても家伝の秘技としている」
「ではカグヤ隊長のおさめる天神一流は?」
「天神はナンブ領のそこかしこに指南所がある。月謝さえ支払えば誰でも稽古をつけてもらえる」
「では殿の見立てで、ナンブ、イズモ系武術でコレ! というものは他には……?」
「うむ、イズミたちの深山神伝……は無双流同様、他に見せられぬ流儀。しかしヤハラどのの意趣を汲むならば、技の北軍流、力の維新流、位の本陰流といったところか。いずれも街中に指南所を開いている」
「さすれば殿、みちのく屋、たぬき商会の護衛団にそれらの武術を仕込み、なおかつ旧ドルボンドならびにゼブラ領地でそれらを広めてみては?」
「ふむ?」
「それらの土地で剣術を広めるのみならず、文化的に支配をするのです!」
「文化的に?」
まだピンと来ていないようだ。
「剣術と同時にナンブさまは偉い! ナンブさまのために命を捨てるべきであると教育するのです! さすれば……」
熱弁を奮っていると、イズモ・キョウカがホホホと笑いながら現れた。
「申し訳ございません、ヤハラさま。女御が殿方のお話に口を挟むものではございませんが、その策ではそれぞれの剣術師範の方々をリュウゾウさまに心酔させるのが先ですわね」
むう、子狸めが。
痛いところを……。
「キョウカどの、それならば俺が各指南所に一手の指南をいただく形でだな……」
「リュウゾウさま、恨みを買ってどうなさいます?」
「キョウカどのには何か良策でも?」
「掴ませるべきモノを掴ませるだけですわ」
おう、ナンブ・リュウゾウ。
なんで股間を押さえるのよ?
お前ぇアレか? 年下の娘っ子に掴まれてるのか?
無理も無ぇよな、お前そのたぬきにゾッコンだからよぉ。
「で、ヤハラさま。いかばかり用立てれば?」
おい、いきなり出てきていきなり振るのかよ?
だがここで即答できなくて、なんの軍師か。
「とりあえず一人頭一千万ほど……」
もちろん読者諸兄の経済換算だ。
それだけあればウハウハだろう。
しかし貴族の金持ち娘はシレッと言いやがる。
「その程度でよろしいんですの? それくらいでは感謝こそすれ心酔はいたしませんわ」
だってお前、金を出したら俺の負債にするじゃん。
「ここは奮発して桁をひとつ上げなくては。一人頭一億」
そーかそーか、コラたぬき。
お前俺を借金まみれにしてぇのかよ?
「それだけの価値がございますわよね?」




