予想外の儲け話
ナンブ・リュウゾウの嬌声に刺激された訳ではないが、私も妻のアヤコとその夜はハッスル。
柄にもなく熱くなってしまい、翌朝は少し腰がフラついてしまった。
朝食の食卓についても食欲は今ひとつ。
おそらくは散々なまでに懲らしめられているであろう、ナンブ・リュウゾウなどは干物のように干からびているのではないかと想像する。
しかし、あにはからんや。
ナンブ・リュウゾウとイズモ・キョウカは、顔色も血色よく、むしろツヤツヤして食卓に現れた。
「朝から体調が優れているようですな、殿」
親衛隊士の一人が言った。
「うむ、やはり抱きしめられる抱きしめるというのは健康に良いものだな。しかも実物のキョウカどのとそれが叶うのだ。気鬱も晴れたのであろう。が、しかし」
ナンブ・リュウゾウの視線が私を捕らえた。
「ヤハラどの?」
「なんでしょうか、殿?」
「床の極意は『接して漏らさず』と言う。子種を授ければ良いというものではないぞ?」
「そう仰る殿は?」
「うむ、昨夜は甘々イチャイチャとじゃれ合って、決して子種を放出するような行為には及ばなかったぞ」
ワイマールの種馬……いや、ワイマールの発情猿が、婚約者に手を出さなかったと?
「殿、今日は甲冑を身に着けて外出されよ」
「して、そのココロは?」
「今日は槍が降りまする」
「いいじゃねぇかよ、もう少しくれぇ『恋人』って時間を楽しんでもよぉ。貴族ってのは婚姻に至れば、夜の子作りまで仕事なんだぜ?」
なるほど、ナンブ・リュウゾウも少しくらいは仕事を離れたいのか。
まあ、これだけ戦場を駆け回り、人を斬りまくっていても、中身は二十代前半の若者なのだ。
『恋』というものを楽しんだところで罰は当たらない。
「して殿、本日の御予定は?」
「うむ、キョウカどのに街を案内して、外で昼食にしようかとな」
「カグヤさん、親衛隊をそのように采配してくだされ」
「あまり過剰な人数は必要ありませぬぞ」
みちのく屋総裁、鬼将軍とトヨムが入ってきた。
「リュウゾウさまには私たちも同行する。よってみちのく屋の手勢も護衛につくのでな。……もっとも、ワイマールの剣豪に護衛など必要なさそうではあるが」
みなが揃ったところで朝食となった。
我らが褐色ポニテ少年、ライゾウも昨夜はここに泊まったらしい。
一緒に朝食となる。
そして、ナンブ本邸では朝から鍋という、奇っ怪な光景に遭遇する。
私のような頭脳労働者にとっては、この朝食は重たすぎる。
イズモ・キョウカにとっても同様のようであった。
先ほどまでは血色の良かった顔色が、早速青ざめている。
しかし今朝の食卓には、健啖家がそろっていた。
山盛りの食材が次々鍋にブチ込まれ、見る見る胃袋へと消えてゆく。
ナンブ・リュウゾウ、鬼将軍、イズモ・ダイスケ、茶色のトヨムとその兄ライゾウ。
そして忍び軍団に親衛隊。
なるほど、これだけいれば羆が一頭食卓に横たわっていても、ペロリといけそうだ。
そして食後は一休み。
娘たちは二階へキャイキャイとにぎやかに上がり、男衆は一階で読書をしたり将棋をさしたりと、食休みをとっていた。
やがて娘たちがまたかしましく降りてくる。
どうやら冬物のファションをあれこれと楽しんでいたようだ。
コートや帽子、足元の革長靴や脚を彩るストッキングにいたるまで、よくもこれだけ意匠の違うものがあるものだと感心してしまう。
やはり娘というものは、服飾にいのちを賭けるものなんだろう。
アヤコは筒状の帽子も、革長靴やストッキングに至るまで黒一色。
黒は女を美しく見せるんですよ♪ と大福顔をほころばせている。
本当はよく似合っていると思うのだが、素直にほめてやれない。
桜色のコートと帽子を身に着けて、随所に白を織り交ぜているイズモ・キョウカを、ナンブ・リュウゾウなどはデレデレとほめているのに、だ。
こういうときに朴念人というのは困る。
しかしアヤコは「照れてるヤハラさまも可愛いですね♪」などと勝手なことをホザきながら、ポコポコとボディブローを入れてくれる。
ちなみに鬼将軍の恋人とも言える茶色のトヨムは、デニムのパンツに黒いニット。
ベージュ色のベルト付きコートを羽織り、ボルサリーノのハットをかぶっていた。
足元も紐無し、ベージュ色の革長靴である。
およそこの辺りでは見かけないファションではあるが、妙に似合っていた。
男衆はみな和服に二本差し。
いつもと代わり映えしない男衆であった。
非番の親衛隊には着飾った忍び娘たちがつき、ほぼ二人一組という形で、いざ出陣である。
街中は雪かきが済んでいて、大変に歩きやすい。
しかし雪道である。
女は男のうでにすがり、甘えるように身を寄せてあるいた。
見ればライゾウ少年には、着飾った忍びのイズミがついている。
女性と歩くのに慣れていないのか、ライゾウは緊張の面持ちであった。
そしてバキ少年である。
なかなかの美形ではあるが、アーサー王子に操を立てているのだろう。
こちらは一人歩きであった。
「さすがにナンブ領地は雪が多いですわね」
イズモ・キョウカの声だ。
「左様、この雪が春になれば、山奥から栄養豊かな土を運んでくれる。それ故にナンブ領は農作物がよく育つのだ」
「まあ、そんなに土が豊かですの?」
「ワイマールいちと思っている」
「でしたらリュウゾウさま、万病の妙薬、万虎子羅を栽培されてはいかがでしょう?」
「万虎子羅? 聞いたことだけはあるかな?」
「リュウゾウさまでしたら病の方から裸足で逃げ出してしまうでしょうから、あまり関心は無いでしょうね」
ホホホとイズモ・キョウカは笑う。
しかし私は知っている。
万虎子羅はいちど栽培すれば大地の養分を吸い尽くすので、むこう三年は作物が育たぬと言われるほど、滋養に富んだ薬草なのだ。
当然のように、高価である。
「その妙薬を栽培して輸出すれば、ナンブ領はさらに富みますわよ?」
「そのノウハウを、キョウカどのは御存知で?」
「学園で研究中ですわ」
「では公式の知識は御座るのかな?」
「学園の大学部に」
「あそこは高級貴族が独占しているのでは?」
「その知識はたぬき商会が王室に掛け合って、専売にさせていただきましたわ♪ いかに高級貴族と言えども、その知識を手に入れることはできませんの」
「そんなことができるのか?」
「万虎子羅は別名、災いの薬草とも呼ばれておりますの。高級貴族の領地がかの薬草に耐えられぬほど貧弱な土ならば、必ず良い土の領地を没収するでしょう、それはもう理不尽なくらいに。そうなると下級貴族は反発し、国の基盤が揺らぎますわ。結局国や歴史を支えるのは名も無き民ということですわね」
「してキョウカどの、その専売の権利、いかほどで?」
「さて、おいくらにしましょうか……」
流し目で、私を見てくる。
私は口を挟んだ。
「殿、たぬき商会の本部をナンブ領に移転させてはいかがでしょう?」
「なるほど、それで利益をナンブの収益にからめるのか」
「いえ、徹底的な減税と土地代の棒引き。それだけの価値はあります!」
「ふむ、たぬき商会に免税を措置しても薬草の利益は領地に入るというのか……」
正直に言えば、富はノドから手が出るほど欲しい。
とにかく富は力となるのだから。
仕事から帰ってきたら『暴れん坊将軍』で人参の話をしてました。ゆえに唐突なもうけです。
雑記帳では鬼将軍冒険譚を公開してますので、そちらもお楽しみください。




