男と女は仲睦まじく
そして夜がくる。
屋敷の前で騒いでいた連中もグッと数が減り、お祭り気分も落ち着いていた。
邸内でも主立った者たちが顔を揃え、今年のバーボンを味わっていたが、そろそろ口数も減ってくる。
「さて、そろそろお暇しようかな?」
席を立つ鬼将軍。
「では部屋へ案内しましょう」
泰然として男爵さまが言う。
「もちろん、お連れの方も御一緒に」
お連れの方、それすなわち茶色のトヨムのことであるが、トヨムは手酌でバーボンを飲っていた。
「お? ダンナ、いよいよベッドインかい?」
「ふむ……それも楽しみだが、二人でもう少し飲みたいな。久しぶりにトヨムの唄も聞きたい。男爵さま、三味はありますかな?」
男爵さまは使用人に三味線をひと棹持ってこさせる。
それを受け取ったトヨムは、ペンペンと鳴らして調子を合わせている。
そしてうなる一節。
高嶺の花と 眺めるだけでは サルに摘まれる 蜜も飲む♪
いい喉だ。
しかし唄に品が無い。
要するに高嶺の花のイズモ・キョウカを、指を咥えて眺めているだけでは、ナンブ・リュウゾウがさらっていって、ベッドインしてしまうぞ、という唄なのだ。
その場にいた者たちは、静かに頬を緩めている。
するとイズモ・キョウカも乗ってきた。
花の数ほど娘はおれど 黒百合の蜜に勝てやせぬ♪
こちらは妙に艶めいた喉だ。
そしてトヨムとの甘い関係を唄にしていた。
♪高嶺のアケビはなに見て開く サルのマツタケ見て開く♪
なに言ってやがる、コゲ茶色。
危うく口のバーボンを吹き出すところであった。
男爵さまもナンブ・リュウゾウも、肩を震わせて笑っていた。
「マツタケなんて立派なモノじゃねーだろ?」
「男爵さま、イズモの風呂場で確認した限りでは、先っぽはウズラの卵でしたぞ?」
「ダイスケの、それじゃウズラが浮かばれん。シメジ程度にしておきなさい」
「ですが男爵さま? お味はシメジの方が上と伺っておりますわ」
イズモ・キョウカの一言で、とうとうみんな吹き出した。
トヨムと鬼将軍はすでに席を立っていた。
使用人の案内で部屋へ向かったのだ。
バーボンのボトルと、グラスふたつを手にして。
ではキョウカどの、とナンブ・リュウゾウも席を立つ。
「拙者が部屋へ案内しよう」
「嬉しゅうございますわ、リュウゾウさま」
「眺めは良くないが、何故か親父どのが地下の部屋を用意したそうじゃ」
「それは重畳、わたくしが希望しましたの」
むむむ! きょ、キョウカどのが?
ナンブ・リュウゾウの鼻息が、一瞬荒くなった。
「はい、リュウゾウさまは男子の挟持がございましょうから、声の漏れぬお部屋を、と」
「はは、キョウカどの。大きく出たな。俺も子作りはせぬと言ったが、手を出さぬとは申しておらぬぞ? 返り討ちにして成敗してくれるわ」
ナンブ・リュウゾウも大きく出る。
しかしものの十分ほどで、地下室からでさえナンブ・リュウゾウの悦ぶ声が漏れ聞こえてくることになったのは余談である。
まったく、だらしない話である。
「ちょっ……キョウカどの! くすぐりとは卑怯に御座る!」
「あらあら、剣豪ナンブ・リュウゾウさまも、耳は弱いのですわねぇ♪」
「み、耳より脇腹! その責めは厳しゅう御座る! ヒーーッ! 匕ーーッ!」
ンな声聞きたくもねぇや。
と思うのは私も読者諸兄も同じ気持ちであろう。
しかし子作り行為無しに男女が戯れる光景というのは、なんとも楽しいものである。
二階からは三味の音色。
地下からは仲睦まじい男女の声。
さて、私も妻を可愛がってやるとするか。
その夜はナンブ・リュウゾウの声でお開きとなった。
「なにとぞっ! なにとぞもう御勘弁をっっ……!」
「まだまだ夜は長いですわよ、リュウゾウさま♪ コチョコチョコチョ♪」
「うひょひょひょひょ♪」
お前はキンドーちゃんか!
もう少し読みたいとお思いでしょうが、現在雑記帳で『鬼将軍冒険譚』が公開中です。そちらもよろしくお願いします。




