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ペクトラ  作者: KEN
ユリシーズ・バックス 〜変局〜
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無法者

 ひとしきり笑い転げて落ち着くと男はリリィへ名乗った。


「俺はユリシーズ・バックス。そこにいるケインの仲間といえばわかるだろう? まあ、この状況なら普通、学者とフィニスを捕まえて立ち去ればいいんだろうけどな……」


 男はリリィへ歩み寄っていった。その右手にはナックルダスターの一種と思われる銀色の甲当てがはめられていた。


「おいユーリ! 子供相手に乱暴はよせ!」


 ケインは止めようとしたが、ユーリと呼ばれた男はケインへ振り返り凄みのある声で言い放った。


「おい、俺の喧嘩に割り込もうとはいい度胸してんじゃねえか……潰すぜ?」


 ユーリの放つ尋常でない殺気に一瞬怯んだが、ケインはそれでもユーリを止めようと説得を試みた。


「その子はお前が暴れてたのを止めただけだ。昼間から酒を飲んでたお前がわる……」


 言いながらケインは右手をユーリの左肩に置いた。その時だった。

 ユーリは振り返りざまにケインの鳩尾にナックルのボディーブローを決めた。ケインの身体が一瞬宙に浮いた。


「ぐふぉ……!!」


 堪らずケインはその場に膝をついた。胃液の逆流に耐えられず吐瀉し、そのままユーリの足元へ踞った。


「ごちゃごちゃうるせぇ、優等生が。這い蹲って黙って見てろや」


 地へ吐き捨てるように言うとユーリはリリィへと向き直った。


「さあて、その綺麗な顔、存分に潰してやるよ……」


 下賤な笑いを浮かべ、ユーリは右手のナックルをぎりりと握りしめた。


〈……完全にイカれてるわね、この男……!!〉


 リミットを告げる眩暈に苛まれながらも、リリィは臨戦態勢をとるしかなかった。


「に、逃げろ……」


 ケインは蹲った姿勢のままリリィへ視線を向けた。


「ユーリの拳をまともに喰らったら……死ぬぞ……」


 一方リリィは、冷や汗を額に滲ませながらもユーリを精一杯睨みつけていた。


〈『逃げろ』ってねえ……簡単に言ってくれるじゃないの……〉


 ファイティングポーズをとり、両眼をぎらつかせてじりじり間合いを詰めるユーリのオーラは獲物を狙う狼そのものだった。下手に動けばそれこそ殺されかねない。それに、万が一リリィが逃げられたとしても、残された二人――ケインを含めれば三人――の身が危なくなるだろう。逃げるなんて選択肢は最初から存在しないのだ。


 二人の間合いは確実に狭まっていた。リリィの焦りに追い打ちをかけるように眩暈も強くなっていた。


(もう限界だろ? 早く俺と替われ!)


 ウィルはリリィへ催促したが、リリィは首を横に振った。


〈ここで替わったらケインに感づかれる。私達の事を〉

(そんな事言ってる場合かバカ!)


 リリィが返答しようと顔を上げた瞬間。

 足を踏み切りこちらへ殴りかかろうとするユーリと眼が合った。


〈……おしゃべりは後にしてっ!〉


 ユーリの右ストレートをリリィは軽やかに右へ避けた。間髪入れずユーリは上半身を捻り肘鉄砲をリリィの顔面目掛けて繰り出し、リリィは後方へ飛びのいた。追い打ちをかけるようにユーリの右拳が突き出される。が、距離はさっきほど近くはなかった。避けられる――そうリリィは判断した。


 しかし。


 リリィは右拳のナックルの変形に気付くのが遅かった。迫る拳の前方に短い刃が数本伸びているのが見えた。肘鉄砲のとき仕込み刃を出したのだろうか。


〈……リーチが伸びてる!!〉


 瞬時に間合いを取り直そうと後退したが、ユーリの拳の速さが一瞬勝った。刹那、リリィの左頬に鋭い痛みが走った。

 リリィの左頬を刃が掠めた。ぱっくり開いた傷口から、血が一筋流れ落ちた。

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