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【クレヴ】
12月。一年で最後の月も半ばになっていた。
そう考えると一年って長かったような短かったような、複雑な気持ちである。
……といってもまぁ、懐かしんで振り返ることはしない。
何だか今年も辛かった思い出が多々とあって、途中で幸せって何だろうなぁ、という深い命題に思考の海の底へとズブズブ沈み込んでいきそうであったからだ。
「寒っ……」
肌を刺すような冷気を含んだ風が首筋を過ぎ去り、思わず手で覆う。
今までであったならば、直接風が当たらないであろう場所だった。
が、家に帰ってきて早々に、母から「鬱陶しいから切っちゃうね」と言われたのである。
いつもの如く、抵抗しようものなら『追い出す』という姑息な一手を使ってくるため、泣く泣く諦めたのだ。
にしても、今は冬。
わざわざ寒い時期に髪を切られるというのは、聊か酷い仕打ちじゃないだろうか。
といってもまぁ、そう嘆いたところで長い髪は戻ってこない。
そして俺の異常な丈夫さをしている髪を断髪するために、村一番の剣マニアであるヒュームさんの所持している、観賞用の未使用である名剣がわざわざ使われ、ダメージを負った持ち主の心の傷も、消えることはないのだ。
冬は辺りの大地から緑を奪っていくが、こうして俺達の大切な何かまでも奪っていく。 が、俺の目の前にはまだ緑が存在している。
気温が下がり、周りにいる生物の生命活動が低下する中、スライムは変わらない。
どういうわけなのかは分からないが、スライムの身体を構成している体液は凍ったりしないのである。
まぁ体液自体が凍らなくとも、その表面が凍ってしまうことはあるけれど。
とにかくこの寒さに少々震えている俺に比べて、スライム達はまだまだ元気そうだった。
さて、そんなスライム達に何をやらせているかというと、新しい動作訓練である。
といっても、大層なものではなく、単に身体を回転させて移動出来ないか、テストしているだけだ。
結果としては、跳ねて移動するよりも大分遅くなってしまうが、這うよりかは断然速い。
また身体の上部だけ固定し、下部だけを回転させることで物を安定して運ぶことも出来るようになったため、スライム達のパワーを鍛えるには、ちょうど良い訓練だったりもする。
まぁ、まだ始めたばかりなので大した成果は出ていないが、回転スピードがある一定までいったら、今度はスピンジャンプでも教えるのも、いいかもしれない。
「全く、よくもまぁ飽きずにそこまで曲芸を仕込むもんだね」
「愛が為せる業だよ……というかコレはお前さんを楽しませるための曲芸じゃねぇよ、リアナ」
回れ右、と身体を90度回転させてみれば、いつの間にか背後に忍び寄っていたリアナがいた。
いつものように軽薄そうな笑みを浮かべつつ、手に持った柑橘系の果物の皮を目に噴射させてくる。
地味に鬱陶しいがリアクションをしてしまうと、余計に面白がってくるので、それを耐え忍ぶ。
「君の母親がそろそろ夕飯の時間だから戻ってこいだとさ。家族一緒じゃなきゃ食事を始められないからね、早く行くぞ」
「もはや家の食卓に割り込んでくるのに躊躇の欠片すらないんだな」
「むしろ君の方が暫く振りで、私達に割り込んでくる感じがするんだけどね?」
頭に手を当てて、深く溜息を吐いた後、スライム達に訓練終了の合図を出しておく。
そしてリアナの、自分の家だと言わんばかりの足取りを目にすると、何だか我が家が侵略された気分になってしまう。
「あぁ、そういえば――」
そうして何かを思い出しかのように、リアナは振り向く。
「君はよくもまぁ、アレを引き連れてこれたね」
「……はぁ?」
いきなり何を言っているのか理解出来なかった。
そんな表情が顔に露わとなっていたのか、リアナは少々笑みを深めて、
「いや、気付いていないならそれでいいさ。単に気になったものでね」
とお茶を濁し、さっさと家の中へと入っていってしまう。
一体何のことだろうか、と頭を捻らせるも、全く心当たりなどは無く、取りあえず保留しておくことにした。
「そういえば、さ」
食後のゆったりとした時間に。
ちゃっかりとリアナに加えてリーシャまで夕食に参加している疑問を、母の『可愛い方が優先』という酷い判断基準で、これからも食事に参加する許可が彼女に下った後。
俺は母にずっと聞きたかったことを言ってみる。
「父さんって、いつ帰ってくるんだ?」
そう、今までずーっと黙っていたことだが、母の病気が治ったのだから、父は帰って来てもいいはずなのだ。
住み込みをしていたのは、そもそも母の病気の進行を遅らせるための金を稼ぐため。
母の病気が治ったのは4月のことだし、流石に帰ってくるのが遅過ぎるのではないだろうか、と常々疑問に思っていたのである。
「………………」
その俺の問いに対して、母は苦々しい表情を浮かべ、そっと目を逸らしてしまう。
「……え、何その反応? まさか――」
俺には言えない事情でもあったとでもいうのだろうか?
例えば、父が死んだ、とか。
……いやいや、それは無い。そんな図を想像することが難し過ぎる。
父が死ぬなんざ、父の滞在しているザビウスが崩壊したとしても、考えにくい。
相当切れ味の良い剣じゃなきゃ素肌ですらそれを弾けるし、瓦礫の下になろうがあの馬鹿みたいに付いた筋肉がどうにかしちゃうしなぁ。
ある程度の魔法なら剣で切り伏せる、なんていう常識破りの業をやってのけられるし。
病気だってあの凄まじい生命力を前にしては、無力と言ってもいいだろう。
父を殺し切る前に体内で抗体が生み出されちゃう、と村のマッドドクターも言ったからなぁ。
「……たまには静かに過ごしてもいいじゃない」
が、母の本音は全くもって父の不幸とは無関係であった。
まぁ、父は母の前では大変元気で騒がしいから、そこは同意出来る。
「まさかさ、病気から回復したって手紙も送ってないわけ?」
「ザビウスまでだと高いから、躊躇しちゃうのよ」
ザビウスは比較的に強いモンスターが生息していて、尚且つそこまで目を瞠るような産業がないため、商人もあまり行きたがらないのだ。
そのためにザビウスまで手紙を運んでもらうとなると、強い護衛なり何なりを付けるために、どうしても通常の手紙よりも高価になり易い。
「でもさ、父さんから送られてくる金があるなら、大丈夫じゃない?」
といっても、所詮は手紙。幅を取ったり重量があるわけではないから、運ぶのにそこまで手間がかからない。
父から送られてくるお給金ならば、十分に足りるはずだ。
「そのお金なら、いざこの牧場経営が傾いても良いように、貯金に回してるから無理ね」
これから歳を取ると身体も動かなくなるし、将来のことを考えてるのはいいんだけど。
あんな父でも母のことを心配しているのだ。
もう治ったって伝えて、父を安心させてやってもいいんじゃなかろうか。
「クレヴ。そんなにシルヴァさんに帰ってきて欲しいなら、迎えに行ったらどう?」
「……それこそ何を言ってるんだ、母さんや」
「ちょうど馬車も手に入ったんでしょ? なら直接出向いた方がお金もかからないから、良いんじゃないの?」
「といってもさ、ザビウスって他の街より危ないんだって。行きたくない。断固拒否する」
「ふーん、無職のくせにそんなこと言うんだ」
母が、痛いところを突いてくる。
「せっかく見習いとはいえ、騎士団を辞めさせられて。今は何にも仕事をしないで、養ってもらってるのを恥ずかしいとは思わないの?
それに、クレヴだってあの人の息子なら、そう簡単にくたばりはしないでしょ?」
「……確かに、そうだけどさ。それなら、リアナだって無職じゃないか!」
母の言及を何とか避けるため、苦し紛れにリアナもこの会話に巻き込もうとするも、
「ふっ、私とクレヴが同じ? そんなわけないじゃないか」
そう自信満々に言い放ってから、言葉を続ける。
「まず私はクレヴのように魔法学校を『辞めさせられた』のではなく『自発的に辞めた』だけだ。あちらに戻ろうと思えば、いつだって戻れる手筈だってある。
それに、あまり嬉しくない肩書きだけど私はリアナ教のトップだしね。その組織内では下っ端である君が私に指図出来ると思うかい?」
悔しいが、何も言い返せなかった。
屁理屈をこねようにも、論点をすり替えることぐらいしか出来ないだろう。それに相手はリアナならば、通用しまい。
どうする? 例の莫大な臨時収入に手をつけて、手紙を送ってしまうか?
……いや、そんなことをして俺が金を持っていることを母に勘付かれたら、マズいかもしれない。
村にいる近所を使って、トラップ爺さんに鍛えられた観察眼で隈なく探されたら、どう頑張ってもバレてしまうだろう。
それで、もし見つかったのなら、『金銭感覚が狂うから』という大義名分で全額没収という未来が簡単に予想出来る。
……仕方がない。ここは大人になって自分から折れてやるとしますか。
そうして、明くる朝。
馬車に15日分の食糧と着替え、そして水を入れた樽を馬車の中へと積み込みを終えて、出発の準備が整った。
「行ってらっしゃいませ、御使い様」
まだ太陽の光が弱い早朝だったからか、見送りに母とリアナの姿が見当たらない。
が、その代わりにリーシャと、何故か獣人達が見送りにやって来ていた。
「クレヴ様、ご武運を」
「様ァ!? どうしたんだイェーガー? 村のオバちゃん達にセクハラされて、とうとう頭がおかしくなったのか?」
というか、その言い方だとまるで俺が死地に向かうように聞こえて、縁起が悪いように思える。
「いえ、俺はリーシャ様の信仰心によって目覚めたんだ。どれだけリアナ様が、そしてクレヴ様が素晴らしいかということを!」
訝しげな顔をしているはずの俺に対して、気持ち悪いくらいに瞳を輝かせて見つめてくるイェーガー。
どうやら彼の心はたった数日の内に、リーシャの洗脳もとい教育によって変えられてしまったらしい。
周りを良く見てみれば、他の獣人の連中までもが、同じ目をしているではないか。
「リーシャ、ちょっとこっち来て」
「何でしょう、御使い様?」
「お前さんは獣人達に『誘惑』を使ってないだろうな?」
そう、これはリアナとの取り決めで、『誘惑』の魔法は使用を禁じられているのである。
ある意味宗教を作るとしたら、凄い力を発揮しそうな魔法だが、勿論危険なため、とてもじゃないが使わせるなんて出来ない。
世話になっている村の人に『誘惑』なんて使ってみたならばどうなるか。彼女の意志などガン無視して、欲望のタガが外れた彼らはきっと暴走するに違いない。
多分、リアナ教より危ない集団が誕生することだろう。
「えぇ、盟約通り、『誘惑』は一切使っておりませんよ。ただ、熱心に、寝る間も惜しんで、彼らに訴えかけただけです」
にっこりと、そう言ってのけたリーシャに、鳥肌が立ってしまう。
何だろう、話術だけでここまで洗脳出来るとは……もしかするとリアナ以上に舌戦に強いのかもしれない。
昨晩、ずっとニコニコと黙ったままのリーシャに助けてもらっていたら、俺はザビウスに行かなくて済んだのだろうか。
「クレヴ様」
声のかけられた方に首を動かすと、女性の獣人が何やらモジモジとしていた。
彼女の名は、確かアンリエッタだっただろうか。
イェーガーの妹で、集落の中で一番の美人さんだという話を、その兄から嫌という程、聞かされた覚えがある。
全体的に高身長である獣人だというのに、彼女は俺よりも背が低く、身体の線が細い。
20歳くらいで完全に成熟する人間よりも獣人の方が育ちは早いようで、まだ13だというのに豊満な胸と、その下に続くスラッとした腰のくびれが確認出来る。
「何?」
そう聞き返してみると、ピクッと藍色の毛に包まれた、柔らかそうな耳が動き、下へと向けていた、それと同色のドングリみたいな形をした大きな瞳を上げる。
「あの……差し出がましいかもしれませんが、もし宜しければ私も連れてってくれませんか?」
「……えーっと、何で?」
「クレヴ様一人では何かと大変でしょうから、道中でのお世話をさせて頂きたいんです」
彼女の言葉に、俺は思わず髪の短くなった後頭部を乱暴に掻く。
親切で、善意溢れる発言だ。
リアナからは決して聞けそうにない言葉である。
正直、嬉しいんだけど、俺はその願いを受け入れることを選ばない。
「アンリエッタさん、これから俺が行く場所は人間が沢山いる所なんだよ?」
そう諭すように伝えてみると、彼女はそっと顔を俯かせる。
彼女は、彼女達はまだ人間不信なのだ。
あれだけ酷いことをされたら当然だろうし、短時間で癒えやしない。
まぁ、サラナ村の人達の場合だと、彼らが拒絶反応を起こす前に、新しい住人の歓迎会として色々やらかしたせいで、彼らは手早く、強引に村人達に慣れされてしまったのだけど。
それでも、人間全般に苦手意識や恨みが薄れたわけではあるまい。
そんな苦痛を我慢させるなんて、したくないのだ。
それに、彼女は獣人である。
人間からすれば、異形の者。
差別対象どころか、一部の過激派なんかの認識だと、滅ぼすべき対象、だなんて言われることだってあるのだ。
彼女の場合だと耳と尻尾を隠せば、人間に見えなくはないだろうけど、万が一バレた場合のリスクを考えれば、連れていかない方がいいに決まっている。
仮に道中での護衛をするにしたって、アンリエッタさんの場合だと不向きなのだ。
戦うことを好まず、いかにも少女らしい彼女には、戦闘に参加させたくないし。
「それにさ、俺はこういったことには慣れてるんで、心配する必要はないからな。まぁ、気持ちはありがたいと思ってるけど」
彼女の耳にそっと手をやって、優しく撫でる。
寂しそうな表情を浮かべる彼女に、ついつい手が動いてしまう。
こうすると、喜んでくれるから。
その際に、悩ましげで、艶のある声が口から漏れ出すのが少し気になるが、スライムをマッサージするような感覚でやっているので、痛くはないと思うのだが。
「うぅっ、ぁ……」
手を離すと名残惜しいような声が彼女から聞こえたが、いつまでも、やっているわけにはいくまい。
それに、シスコン気味のイェーガーが此方を強く睨んでくるし。
別に彼を怒らせるような事はしていないと思うのだが、そんなに独占欲が強かったのだろうか?
撫でるだけでも、この反応だ。
この分だと、村に帰ってくる道中の際に、あまりにも俺に怯えているものだから、ちょっと強引に抱き締めて、怖くないから、とゆっくり言い続けたのを聞かれたら結構ヤバいかもしれない。
もしかしたら更にアンリエッタさんを追い込む結果にならないか、普通に気持ち悪いだけなんじゃないか、とやった後に後悔したものだ。
が、しかしだ。俺には村伝統の励まし方くらいしか知らなかったのだから、仕方ないと思いたい。
この励まし方をされた村の子供は皆、「やったお前が励ますんじゃねぇよ」、という状況でやられるために、滅茶苦茶苛立ちを覚えるのだが、笑って許してやらねばならないのだ。
そうしないと、茶番劇にならないから。
しかも、励ます側も全身全霊、溢れんばかりの情熱でやるので、余計に性質が悪い。
完全に悪ふざけでしかないのだが……こうやって村の人間は寛容性を高められていくのだな、と思い知らされた瞬間でもあった。
『感情の籠っていない薄っぺらい言葉だけで人間が立ち直ると思うなよ。相手がウザいと思うくらいの態度で示せ、態度で』
とは、一体誰の言葉だっただろうか。
……まぁ、とにかく、だ。これで何か不都合なことが起きたのだとしたら、そう教育した村が悪い。
断じて、決して、全く、俺は悪くないのである。
それに、目の前に立つアンリエッタさんも、今は俺に対しての恐怖心が大分薄れたのだし、結果オーライと言えよう。
そのせいで、何やら彼女に相当懐かれた気もするが、イェーガーの思っているような事ではないだろう。
会ってまだ一月も経っておらず、最初は怯えさせていた彼女が、俺に恋愛感情を抱くわけがない。
感謝の念やら尊敬の念が強過ぎて、彼にはそう見えるだけの話。
仮に"好き"という気持ちがアンリエッタさんに芽生えていようとも、どうせすぐに薄れるに決まっている。
それに、今はリーシャの洗脳効果だってあると思うし。
「んじゃ、そろそろ行ってくる」
馬車の御者台に腰かけ、四頭の馬に繋がっている手綱をしっかりと掴む。
「行ってらっしゃいませ、御使い様。御使い様のご活躍を期待してます」
「俺、父さんに会いに行くだけなんだけど……」
何やらリーシャの瞳から、新たな入信者を連れてくるようにと、無言のプレッシャーを押しつけられたような気もするが、見て見ぬ振りをすることにした。
リアナ教になんざ貢献したところで、俺が損する結果にしかならないに決まっている。
そもそも、俺リアナ教に入信した覚えがないし。
リーシャと獣人達が大きく手を振っているのを一瞥してから、俺は手綱を振るって馬車を前に進めるのだった。
ソムルドの処の馬は良く調教されているからか、4頭が4頭とも足並み揃えて地面を駆けていく。
村を出てから一旦アスタールへと向かい、そこからルイゼンハルトに続く街道を走る。
……ここまで、追手らしき姿は見えないな。
後ろを振り向き、積まれた荷物を確認してみても、誰かが乗り込んでいるということもない。
「ふぃー」
深く息を吐き出して、懐に隠していた十数枚の金貨を指で撫でて、その感触を確かめる。
どうやら、彼女達に金貨の存在がバレずに済んだようだ。
ということは、俺の意図もバレてはいまい。
そう、俺はザビウスまで行くつもりは無いのである。
一旦ルイゼンハルトまで向かってから、そこで父がいるザビウスに向けて手紙を送るのだ。
わざわざ危険であろうザビウスまで、直接行く気がしない。行きたくない。
ならば、どうするか。当初の予定通り、手紙を出せばいいだけの話である。
まぁ、あの時は母に反対され表立って手紙を送ることは出来なくなった。
俺の金を使って手紙を送れば、金貨の存在がバレてしまうからである。
が、それはあくまで村人の目がある場合だ。
アスタールは村に近いから村の内通者がいたりするため、手紙は送れない。
だったら、ルイゼンハルトならばどうだろう?
フードでも被っておけば俺が手紙を送ったなどという情報が村にまでリークされる可能性は低くなるはずだ。
また、いくら何でもサラナ村の連中に、そこまで監視の目が行き届いているとは思えない。
せいぜい主食と関係の深い、小麦の市場の動きとか、その程度のことだろう。
たった一個人のために徹底的な監視を付けるなど、数年前に島全土を使った『鬼ごっこ』なる逃走劇ぐらいでしか無かったはずだ。
今は色々会議で企画中だろうし、俺如きに割ける人員はいないだろう。
『鬼ごっこ』の時に素早く情報交換が出来るようにと、無駄に訓練を重ねた伝書鳩ならぬ伝書鷲の大多数は逃がしたし、その残り少数は爺様達の春画を配達くらいにしか、現在は使われていないし。
つまり、俺はルイゼンハルトに行って、そこで手紙を出せば母の指示はオールコンプリートなのだ。
手紙を出した後は、ルイゼンハルトで時間でも潰せばいい。
幸い、多少贅沢するくらいの金ならある。
俺だって、まだまだ遊びたい盛りの思春期なのだ。
都会でのんびり食べ歩きするくらいしても、罰は当たらないだろう。
「うっしゃ、テンション上がってきたっ!」
一年の最後に家族と過ごせないのは、少々物悲しい気もするけれど。
それでも、村の突発的なイベントに巻き込まれず、ゆっくり、しんみりと新しい年が迎えられそうだと考えると、久しぶりに笑顔を浮かべられた気がした。
注・アンリエッタは、ヒロインではありません。
後、フィなんとかさんとキャラが被ってなんかいません。
えぇ、決して。




