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投稿遅れてすいません。
【ルイゼンハルト】
大規模に、そしてどれだけ長引かと思われた戦争は、彼らの予想を裏切って僅か15日間という期間でその幕を下ろした。
その要因としては、第三者の介入が挙げられるだろう。
大型モンスターが数体大暴れして場が混乱しているところに、把握出来ない程の数の多彩な魔法飛んでくる。
実際にそれを目にした騎士団団長のミハエルは、いつもの高慢な態度では無くなった様子で、こう語った。
「あれは、災害だ」、と。
いくら人間が魔法によって自然の力を生み出すことが出来るようになったからといって、大規模な自然災害に抗うことは敵わない。
その脅威から逃げるか、じっと過ぎ去るまで何かに隠れているかして。
決して真正面から挑もうとする気など起こらず、そんなことをすれば、ただの自殺行為にしかならない。
そんな『災害』という名で、ミハエルはあの時の光景を、そう例えた。
『災害』が狙いが彼らでは無く、フルデヒルドの兵達に巻き込まれる形で彼らの半数以上が命を失ったというのだから、彼の発言は言い得て妙かもしれない。
――これでもし、フルデヒルド陣営だけでなく、ルイゼンハルト陣営まで襲われていたら。
きっと今回のように、死傷者が全体の四分の一程度では済まず、街の中にも被害が起こり、最悪、フルデヒルド陣営の対応で手一杯になっているところで両者共全滅という未来も有り得たのだ。
そんな脅威の正体を、彼らはまだ知らないでいる。
といっても、突然大量のモンスターが戦場に訪れる前触れは無かったので、これは召喚魔導師の仕業だと予想はされていた。
だが、それは1人でやったことなのか、複数人でやったことなのか。
召喚魔導師であるのに、何故フルデヒルドに賛同しなかったのか。
何も、分かっていない。
相手の目的が判明しておらず、また何かの拍子に襲撃でもされたら、困るどころの騒ぎでは無い。
今は戦争直後ということで戦死者が出たため、戦力が低下して。
戦争にかかった経費で財政が傾いている状況で、その者達を弔う必要もあり。
国力としては弱っているのである。
いくら『災害』が脅威的で、ルイゼンハルトに危害を及ぼす可能性がある存在だとしても、相手にする余裕など無いのだ。
結果、ルイゼンハルトの首脳陣は戦争終結後、誰一人として『災害』対策など提案せず、不干渉という形を取ることを決定。
そもそも、『災害』の行方が分からず、ましてやその動向など探れないので、それが妥当だと判断したのである。
さて、『災害』はこの戦争に乱入という形で参加したのだが、フルデヒルド陣営に味方し、騎士の資格を剥奪された者達の話から、もう一つ勢力が存在していた、という話が浮上する。
『操緑の獣戦士』率いる、獣人集団だ。
奴隷という立場から脱却せんと、どんな手品を使ったのか隷属魔法の枷から逃れ、元騎士の彼らと同じく裏切りという形で、一部の戦場をかき乱したのだという。
実際に目にしていない者からすれば、妄言にしか思えない。
かつての忌まわしき歴史にあったように、一度隷属魔法に囚われてしまえば最後、その召喚魔導師が命を落とすか、隷属させた召喚魔導師が解放する意思が無い限り、解けることはない。
どれだけの人が、どんなに頭を悩ませようとも、それ以外に解決方法が生まれなかったのだから。
それでも、元騎士の彼らは、虚言ではない、と強い口調で言ったという。
とはいえ、あの獣人が隷属魔法を彼らの知らぬ方法で解いただけでなく、ある個体は"正体不明の緑の物体"を操っているというのだ。
突然変異で他の個体とは別の魔法が使えるイレギュラーというものは、確かに存在はする。
が、それでも、その魔法というのは本来の魔法と似通っていることが殆どなのだ。
獣人の保有する魔法は『加速』。
が、『操緑の獣戦士』はそれとは全く違う、それも新種の可能性が高い魔法を使っていたというのは、些か信じ難いだろう。
それに、そのことが真実だとしても、『災害』に比べれば、まだまだ低い。
目視が難しいとされる緑の物体も殺傷能力が低く、確かに戦争では撹乱に役立ったであろうが、そこまでの脅威でも無い。
よって、一部の魔法研究者達が興味を示したものの、一先ず放置という形が取られた。
それから、首脳陣の頭を悩ませたゴーレムについてだが。
その真相についても、結局分からず終いになってしまったという。
が、戦争終結から数日後、フルデヒルドに囚われていたとされるリュドミラ・ハーディアから、
「ダサ仮面がやったと思うよー」
と、よく分からない固有名詞を含みながら、大変緩やかな声で語ったのだとか。
所詮は小娘の戯言、と最初は信じなかった者達もいたのだが、ゴーレムの一体がこの戦争の主犯とされているソムルド・ゲルブッチャーの豪邸を囲む堀の中にある、という発言で、一変してしまった。
実際に、大人数で水に満たされた堀を調査してみれば、多少の傷は見られるものの、原型を留めるゴーレムが発見されたのである。
『災害』によって、ルイゼンハルトから無くなったとされる3体のゴーレムが破壊されていたところに、この話が舞い込んできて。
リュドミラはこの戦争の裏について、何か知っているのでは、という信憑性が高まったという。
彼女からは詳しくは語られなかったが、とりあえず彼女の語るダサ仮面なる人物の指名手配が出されたのだとか。
また、そのリュドミラはルイゼンハルトに帰還後、すぐに王位継承権を放棄することを宣言。それと同時に所属していた魔法学校からも除籍。
さらに、フルデヒルドの貴族の半数以上が今回の戦争の反逆者だと判明し、没収された土地の管理を彼女が引き受けると王であるアーノルドに直談判をしたという。
その理由としては、「アタシにはそれくらいでしか責任が取れないからー」、ということだという。
そもそもの話だが、リュドミラの王位継承権など下から数えた方が早く、全くもって意味がない。
結局、何がしたかったのか。
フルデヒルドでの拘束期間が長過ぎたせいで頭がおかしくなったのでは、というのが一番有力とされているが。
それよりも彼女の従者は、これまで以上に自由奔放にされるリュドミラに、せめて魔法学校に復学するように説得を続けているのだとか。
【クレヴ】
リュドミラの話を聞かされてから、しばらくして。
俺は獣人達の捜索を再開させることにした。
「……聞きたかったこととは違ったけど、俺は満足した」
「そうー」
「で、リュド様はこれからどうするんだ?」
「どう、ってー? 童っ貞ー?」
「……俺が聞いてんのは、取りあえずリュド様は自由の身になったけど、俺にエスコートされるかどうか、ってことだよ。
まぁ、あんな話をした後だから、一緒にいるのが気まずいってのは分かるんで、ここで待っててもらってもいいんだけどさ」
「ここで待つよー、お義兄ちゃんよりも素敵なお迎えをねー」
「それはお国から救援隊でも派遣されるのを、のんびり待ってるっていう解釈でいいのか?」
「まぁねー」
リュドミラのゆるゆるとした返答を聞きながら、俺は開けっ放しの扉の前で一旦立ち止まってから、
「この戦争を引き起こした責任を取るとか言って、自害するんじゃねぇぞ。それはただの自己満足でしかないんだからな。
償う気があるなら、別の方法にしとけよ」
そう釘を刺しておく。
といっても、償うっていうのも相手の要望にそぐわなきゃ、ただの自己満足に過ぎないけど。
ましてや死人に口無し、なんて言葉があるくらいだ。戦争のせいで死んでいった者達に償いをするなど、不可能な話である。
リュドミラが自害したところで、死んでいった者達が蘇るわけでもない。
後追いしたところで、何の意味も為さない。
ならば、死ぬ必要がない。死んで、欲しくない。
死ぬって辛いことだから。
例え自分のものではないとしても、後味が悪いし、あの無常感が嫌いで仕方がないから。
巻き込まれた俺にも償う気があるなら、死なないで欲しいものだ。
……とまぁ、つらつらとモノローグを語ってきたわけだが、これでもしリュドミラが死ぬ気がないどころか、償う意識さえ無かったならば。
相当に痛い台詞を言ってしまったなぁ、と今更になって後悔の念にかられてしまう。
羞恥で赤面した顔を悟られないように、リュドミラへと振り向くことはせず、この部屋を後にするのだった。
馬鹿と煙は高いところが好き、なんて諺が存在するが、ソムルドというのは、余程の典型的な馬鹿だったらしい。
リュドミラがいた部屋から5つ程扉を挟んだ先に、他の扉よりも数倍大きく作られた金属製の扉があった。
予想としては、ソムルドの私室。
トラップの気配がないか入念に確認した後、だだっ広い廊下に飾られた、無駄に高級感溢れる鎧の兜部分を拝借して、破壊活動に移る。
一度、二度、三度と、ドアの取っ手に、扉に接している壁にへと兜を振り下ろす。
「お邪魔しまーす……」
鍵の存在が全く役に立たなくなったところで、部屋の内部へと入る。
どうやらソムルドの身体が大きいからか、それとも金に飽かせたのか、リュドミラのいた部屋の倍近い広さがあった。
天井も高く、そこからぶら下げられる水晶で出来たシャンデリア。
視線を横にずらせば、高さも広さも無駄にある天蓋ベッドに。
全く使われた痕跡が見られない書斎用机に椅子。
壁際に寄り添い高くそびえる、ぎっしりと詰められた本棚。
見たこともない珍しい魚が悠々と泳ぐ、その本棚の大きさに匹敵するような水槽、などなど。
色々なものが置かれているにもかかわらず、普通に駆けまわれるほどのスペースが存在していたのだ。
部屋の中を見回してはみたが、人の気配は感じられないので、多分獣人達は別のところにいるのだろう。
が、俺はまだ部屋からは出ない。
というか、最初から獣人がいるとは思ってないし、彼らの救出のためにこの部屋に入ったわけではないのである。
目的はそう、ズバリ金。
奴隷として買われたのだ。その代金を要求するのは正当な権利であるだろう。
それが例え家探しするような手段であったとしても、相手も劣悪な労働条件で働かせている。
文句を言われる筋合いではないし、今の俺は彼らからすれば人間ではないのだ。
金を盗もうとも、法では裁けまい。それに、罪を犯そうともバレなきゃいいのだ。
ソムルドの私室らしき部屋に侵入してから10分後。
床下に隠し扉がないかと床を踏み鳴らし、シャンデリアの上に隠していないか跳躍して確認し、水槽の中を漂う魚に癒されてから。
本棚の奥に何やらスペースがあることを発見したのだ。
……レイオッド先生の時といい、隠し部屋を隠すのは本棚だというのは、セオリーなのだろうか?
そんなことを考えつつ、本棚を横にズラしてみれば。
「眩しっ!」
そこには、剥き出しにされたままの金貨が山になっていた。
その中には、なんと白金貨まで混じっているではないか。
白金貨なんざ、俺には無縁のものだと思っていたが、まさか御目にかかれる日が訪れようとは……!
銅貨1枚で1E。
銀貨1枚で100E。
金貨1枚で10000E、とされており、白金貨になれば1枚で1000000Eである。
とてもじゃないが、庶民が目に出来るような代物ではない。
後、硬貨には銅貨10枚分の価値がある銅板と、銀貨10枚分の価値がある銀板、金貨10枚分の価値がある金板なんてものもあるが、白金板なんてものはない、というのは蛇足だろうか。
……確か俺がオークションで競り落とされた金額は5000万、だったはずだ。
まぁ、迷惑料を入れて金貨の2、3枚くらい多くくすねても問題はあるまい。
貫頭衣を一つ脱ぎ捨て、広げたその中に金貨や金板を置いていく。
俺の身分で白金貨なんぞ使えば、まず贋物だと疑われそうなので、宝の持ち腐れになりそうだ。
なので、泣く泣く希少性の高い硬貨を触れるのを諦める。
後はリュドミラと獣人達の分ではあるが、持っていくのはやめておいた。
リュドミラは王族で金持ってそうだし、獣人達は硬貨が流通しているとは思えない。
仮に物々交換より発展したとしても、彼らを奴隷にした人間が使っているものなど、もう触れたくも無いだろう。
「――いたぞー!! あいつら地下に隠してやがった!!」
金貨を詰め終えたところで、下の階からお呼びが掛かってきた。
腹いせに、他にも何か物色してやろうかと思っていたが、仕方がない。
俺は金貨を包んだ貫頭衣を、風呂敷のようにして背中に背負って、地下に向かうことにした。
地下に向かう階段が見かけられなかったのだが、獣人は一体どうやって地下への入り口を発見したのか。
その答えは、例の上下に動く箱のところにあった。
そういえば、俺もここに初めて来てすぐに、豪邸の下に何かあるんじゃないか、という疑問を持っていたけれど、すっかり失念していたらしい。
さて、この動く箱のことだが、獣人達は箱を稼働させて地下に行ったわけではないらしい。
動く箱の内部が妙に気になっていた獣人が、箱の下に空洞があることを偶然発見し、箱の底を破壊して地下へと潜ったのだとか。
これでもし何もなかったら、とか考えなかったのかと思わず聞きたくなる豪快さである。
出来た穴の近くに転がっていた、金属製のひしゃげた飾り物に目にして、少々苦笑いを漏らした後。
どこから調達してきたのか、カーテンやら、ロープやら、見覚えのある鞭が穴に垂らされているのが見えた。
一応、念のためにそれらを強めに引っ張ってみるも、千切れたり、柱に巻き付けてあるのが解けることもない。
慎重にそれを伝って穴の中に降りていくと、存外明るい空間が待っていた。
どうやら例の発光灯という物が天井に設置されているらしい。
「…………ふぅぅぅぅ」
深く息を吐き出し、いつの間にか緊張で固くなっていた身体を解す。
大層な金を浪費して豪奢な装飾があった上の階に対して、地下はガラリとその雰囲気が変わっていた。
モノクロで、どこか埃っぽい。
全体が灰色一色に染まっていて、後は所々に継ぎ目やら割れ目の黒が散らばっているだけだ。
明かりが照らしているというのに、どうにも暗く感じてしまう。
ペースアップする心臓を押さえつけるように右手でシャツを握り締めながら、前へと進む。
嫌な雰囲気だ。
だが、先に獣人が向かっている。命の危険はあるまい。
箱のあった小部屋を抜けると、すぐに開けた空間が待っていた。
そこには……ひたすらに機械の近くで何やら蠢き続ける、やせ細った人間。
押したり、回ったり、引っ張ったり。
のろのろと、しかしその動きは止まることはない。
俺には詳しく理解出来ないけれど、多分ここはあの箱の動力部なんだろう。
足を止め、彼らの様子を窺うが、変化が見られない。
表情が固まったまま、此方に誰も目を向けようとしなかった。
それに、何だかおかしい。
彼らは奴隷のはずなのに、拘束具が見られない。
彼らを縛るものは無いというのに、何故逃げようと思わないのか。
異様な光景に生じる恐怖感を奥歯を噛み締め、彼らの元へと近付いていく。
「あのー、大丈夫ですかー?」
自分で聞いておいて何だが、全く大丈夫そうにない人達に向けて声をかける。
が、彼らから反応が返ってこない。
「もしもーし」
掌をブラブラと眼前に振ってみるものの、やはり反応は見られなかった。
気付いて、いないのか?
目は半眼ながら開いているけれど、もしかして見えないのだろうか?
次は耳元で手を鳴らしてみる。
が、それでも彼らの視線が此方には向かない。
ならば、恐る恐る彼らに触れると……体温はある。
生きてはいる。が、同時に死んでいたのだ。
何が?
心が。
俺は地上で、働いていた奴隷のことを人形みたいに思っていた。
が、その認識はまた甘かったのだ。
目の前にある、まるで死体が動いている景色にこそ、その言葉が相応しい。
「――――――」
喉からこみ上げてくる強烈な吐き気を、我慢することは出来なかった。
地面へと嘔吐物を、長く、長く、垂れ流していく。
理解、したくない。
目を閉じて、耳を塞いで。
この汚らしい現実を、認知したくなかった。
こんなもの、俺の弱っちい心では受け止めきれない。
死だ。
目の前に、死がある。
死ぬって、終わることのはずなのに。
続いている。停滞が、続いている。
「グゥッヘッボァ、ガハッ、ガハッ――」
思考を無理矢理断ち切って、止まってしまった呼吸を再開させるために、咳き込む。
喉を傷めつけるのも気にせずに、荒く息を吸い込み、そして吐き出す。
――俺は、何も見ていない。
見て見ぬ振りをして、無かったことにする。
それしか出来ない。
助ける? どうやって? それを直視することも出来ないのに。
もうする必要がないと言って、彼ら単純作業を止めりゃあ良かったのか?
でも、そうして。
止めてしまったせいで。
もう二度と彼らが動かなくなってしまったら――
俺は止まっていた足を、前へと踏み出す。
一歩、また一歩と。その歩幅を大きくして、地面を強く蹴る。
もう、ここには1秒たりとも、いたくなかった。
辛いことから、逃げ出したかった。
死が近くにあってほしくなかった。
自分以外の生を求めて、足を前へと運んだというのに。
その向かった先までもが、暗かった。
獣人達と合流した場所は、奥深いところに作られた牢屋だった。
彼らの元に近付いていくと、だんだん鼻につくような臭いが強まっていく。
その臭いは、どこか栗の花の匂いに似ていて――思わず顔をしかめてしまう。
これでは、嫌でも想像出来る。出来てしまう。
捕らわれていた彼女達が、人間達に犯されていたということが。
「……クレヴか」
イェーガーに声をかけられたものの、返事は返せそうにない。
彼の悔やむ顔を見た時に、不自然に腹が膨らんだ女性の獣人の姿を視界に入ってきてしまったから。
頭の中が、真っ白になってしまったのだ。
彼女は、人間を。どれほど恨めしく思っているのだろうか。どれほど憎らしく思っているだろうか。どれほど怒りを覚えているだろうか。どれほどまでに、悲痛で苦しんでいるのだろうか。
本来ならば、『死』とは逆の『生』は喜ばしいものであるはずなのに。
どうしてこんなにも、現実は厳しいんだろうか。
「…………イェーガー。取りあえず隷属魔法を解こうと思うんだけど、皆を集めてくれないか?」
でも、これで済ませてしまえば、もう終わりだ。
ようやく、家に帰れる。
「――――着いたのか」
懐かしい故郷。
ゴトゴトと振動に揺られながら、それが目に入った途端、微睡んでいた意識が一気に覚醒したように思える。
――あれから、獣人を連れて豪邸にあった馬車と馬を無断で拝借してから十数日。
12月に入り、本格的に冬の季節になっていた。
彼らの住んでいた集落を巡り、見送りをしていたら随分と日数が経過していたのだが。
どこかぼんやりとしていたせいか、そんなに長い時間が経っていたとは思えなかった。
そう、まるで一夜の夢のように。
その過程が曖昧で、過ぎ去った時間を感じ取れなかったのかもしれない。
「おっ、坊主。いいモン乗って帰ってきやがったな!」
「乗ってみるとそうでもなかったですけどね」
冬になれば農作業が休みになって。
この時期になると手が空く村人達は、仕事もせずにのんびりとした時間を過ごしていた。
……まぁ、それもいつまでもは続かない。
どうせ裏では暇を潰すために何か計画しているのだろう。
去年なんかは一部の人間がマスクを被り、雪玉オンリーでアスタールの剣士育成所に喧嘩売りにいったり。
過去の文献で『サンタクロース』なる者の存在を知って、わざわざ煙突から侵入するしきたりを守りつつ、一夜の間にアスタールの子供達に『クリスマスプレゼント』として、アフロの鬘を被せていたっけか。
『サンタクロース』の件はルシル一家と動けない者以外、全員参加だったからなぁ。凄く大変だった記憶がある。
そう記憶を掘り返しつつ、うねる道をカッポカッポと馬達を歩かせる。
異様な景色に馬達が驚きはしないか心配していたのだが、案外肝っ玉が強いようだ。 そうして、ようやく村の外れにある我が家へと到着。
その隣には、完成したらしい教会モドキがあるために、我が家を目の前にしたというのに、酷く落ち着かない。
建物の見た目だけは、まともに見えるのも俺の恐怖を駆り立てる。
あれは、大きなビックリ箱だ。
それも、村人達の趣味成分たっぷりの。
……触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。
もし、ある村の人が関わっているんだとすれば、最悪性格やら性癖が変えられてしまう。
同性愛とかペドフィリアとか、ある種の精神汚染を得意とした、自称心の医者がいるのだ。
基本は無害なのだが、こういった悪ノリに乗じた場合は、とことんやる。
「あっ、帰ってきてたんですね、御使い様」
そんな恐ろしき場所から、妙齢の女性が姿を現す。
まさにその建物の主に相応しい黒を基調とした修道服を身にまとう、リーシャだ。
おふざけ上等、という言葉を掲げるようなリアナを慕う妄信者。
ちょうど良いタイミングで会えたのだが……まだ躊躇いが残る。
「あぁ、ただいま。で、本当に良かったのか?」
始めの方の返事はリーシャに。そうして問いかけたのは――馬車にいるイェーガーに、だ。
「……この村に着く前にも答えは言ったはずだが?」
そうして馬車から降りてくる獣人達。
彼らは集落を焼かれ、住む場所を失った。
だから、これからどうするのかな、と思っていたら、
「恩返しがしたい」
などと、ほざいて付いてきやがったのだ。
明らかに他の獣人の集落に混ざればいいっていうのに、わざわざ断り。
それもまだ人間への恐怖が薄らいでいない獣人の彼女達までも、
「クレヴさんのような人がいるのでしたら」
と、何やら頬を赤くしながら賛同してきて。
あまりにも強情でウザかった。
最終確認もしてみたが、もういいや。
どうにでもなーれ。
「リーシャさん、この人達入信するそうっす」
「本当ですか?」
もう面倒になったので、ちょうど広い建物が出来たことだし、彼らの住む場所として有効活用することにしたのだ。
で、その住まわせる理由として、彼らをリアナ教に入信させるよう言えば、後はリーシャの強引さに任せるだけ。
「入信者が一度に沢山も! 流石は御使い様ですね。ささっ、入信者の方はこちらにどうぞ」
「おい、クレヴ。これは一体――」
イェーガーの言葉を無視して家へと足を向かわせる。
いい加減ベッドに倒れ込んで、ぐっすり眠りたい。
ここはサラナ村。
元人間の化け物だろうが、どんな奴でも受け入れてくれる、適応能力やら柔軟性の高い人間が住んでいる所だ。
そこに新しい住人として、獣人がやってきた。
……あぁ、願わくば獣人の彼らがサラナ村に染まらん事を。
でも、それでも現実は俺に優しくないから。
きっと数日もしない内に獣人の風習でも取り込んで、また何かをやらかすのだろう。
だが、そうだとしても。ようやく平和な日常に帰ってきたような、そんな感じがした。
締まらないラストですが、これでフルデヒルド編終了。
ゴーレムvsゴーレムがやりたかったんですけど、どうしてこうなったのやら。
ここまで来たら蛇足になりますが、最初はレイオッドではなくリュドミラにゴーレムの操縦をさせて戦場で暴れまくる予定だったのですけどね。
奴隷の要素を思った以上に盛り込んだら、リュドミラを動かすと不自然になってしまったので路線変更に。
胸糞悪いのも奴隷やらで多くなりましたが、次回から、またグダグダっぽい雰囲気に戻ります。




