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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
フルデヒルド
65/136

15

【ルイゼンハルト 西門/クレヴ】

 (ろく)に飯も与えられず、あまつさえ武器も与えられない。

 かといって、当日になっていきなり知らされた戦争に参加しなくていい、というわけでもない。

 本当に、世の中理不尽ばかりである。


 沸々と、今まで抑えていた大きな不満が心の底から吹き出してくる。

 俺が一体何をしたっていうんだ?

 俺が無知だったせいで、一応姫とされているシリアに召喚魔法を教えたせいで、訓練所を追い出されて。

 その際、偶々その妹のリュドミラと出会って。

 訳も分からないまま、ダサい仮面の連中に(さら)われて。

 本人の了承も得ずに、いつの間にか自身の身体を人身売買されて。

 碌な飯を貰えない退屈極まりない奴隷生活が始まったかと思いきや。

 強制的に戦争に参加だと?

 もう嫌だ、我慢出来ない。

 

 『家に帰りたい』

 ただ、切実にそう思った。

 






 空一面が朝焼けの色に染まりきった頃。

 俺と獣人達は西門を強襲する部隊の最前線に配置されていた。

 これはまさしく、俺達が捨て駒、もしくは肉壁だという風に解釈しても(あなが)ち間違いではないだろう。

 ……ふざけやがって。

 

 流石に戦うのに支障が出るのと事で、忌々しかったあの枷が外され、身体は羽のように軽い。

 俺達は、ついに解放された。

 もう、我慢の限界だ。

 例え無謀であろうとも、心の(おもむ)くままに動いてやらぁ!


「お前さん達さ、もう我慢するのはウンザリだよな?」


 あまり大きくはないが、獣人全体には聞こえる程度の声を出す。


「そう思ってんならさ、今から言う無茶振りに付き合ってくれないか?」


「今更何をしようっていうんだ?」


 首を傾げる獣人達の代表として、イェーガーが疑問の意を表す。


「あぁ、大逃走劇に一つ手を貸して欲しいんだよ。こっからバラバラになった仲間を回収しつつ、フルデヒルドを経由した際に女共を救出してトンズラする、っていう凄く疲れそうな行程だ」


「そんなこと、出来るのか?」


「分からん。が、このまま成り行きで戦争するより遥かにマシだろ?」

 

 俺の滅茶苦茶な提案に、黙る獣人達。

 確かにこれは現実味が全くない、酷いものだ。

 だが、ここで納得してもらう。

 散々巻き込まれたんだ。今度は、こっちが巻き込む側になってやる。


「それにいざ戦争が始まってしまえば、逃走に一番ネックになっていた魔導師もルイゼンハルトの方に躍起になって、俺達を気にかけているどころじゃなくなるしな」


 そう、今まで何度かチャンスがあっても逃げ出せなかった大きな理由は、魔導師の存在があったからだ。

 俺や獣人達では近接戦闘しか出来ないのに対して、相手は遠距離から攻撃出来る。

 逃げ出すところが見つかれば、反撃も許されずに一巻の終わりだろう。

 だが、戦争が始まれば、ルイゼンハルトの方からも魔導師が出張ってきて、彼らはその相手をするのに忙しくなるに違いない。

 だって、そこで相手をしなければ、味方の兵士に多大な被害が出ることが見え見えだからだ。


「だが、魔導師はいいとしても、開始直後に反旗を(ひるがえ)したとすれば、いきなり挟み撃ちの状態にならないか?」


 俺達が裏切れば、今後ろにいる奴隷達含めフルデヒルドの兵士達が敵となる。

 また、裏切ったからといって、正面から来るであろうルイゼンハルトの軍勢が味方となってくれるわけではない。

 裏切りを正面にいる人達にいきなり表明したとしても、普通ならまず疑うだろう。

 例え俺達がフルデヒルドに立ち向かったとしても、その疑念は晴れることはない。

 もしそれが油断を誘う演技だとすれば、と考えないはずがない。

 またそれを信じたとしても、敵の敵が、味方だとも限らないのだ。

 

「あぁ、だからまともに戦う気はないよ。ある程度まで正面にいる人達と接近したら、急ターンして『加速』で南門の方に向かえばいい」


「だが、それだと正面の敵が警戒して、矢がこちらに放ってくると思うが?」


「だから最初はそこまで速度を出さずに、正面にいる人達を引き付けておけばいい」


「……無謀過ぎるだろ」


「初めに無茶振りだって言っただろ?」


 力業(ちからわざ)の愚策。いや、もはや策とも言えない。

 ただの、俺の我儘(わがまま)だ。


「かといって、ここで逃走しないで正面からぶつかり合えば、後は団子状態で揉みくちゃになるだけだ。死ぬ気でいるなら、チャレンジ精神溢れる方で行こうや」


 命を懸ける、大博打。

 心臓が痛くなるほどに鼓動が速くなるし、心にかかる重圧が重過ぎて、嫌になる。

 普段だったら、とてもじゃないがやろうとは思わない選択。

 もう何も考えず、全部放り投げて楽になりたい。

――が、それ以上に死にたくなかった。

 とにかく、死ぬのが怖かった。

 

 俺の小さい頃は、主に父のせいで死に近付いたことは間々あった。

 死ぬということは、己の全てを喪失することだ。

――痛みやら心の重圧から解放されて楽になる? 

 そんなこと死ぬ間際に考えられっかよ。

 徐々に自分の意識が遠のいていって。

 身体の自由がきかなくなって。

 自分の何もかもが失われていく、そんな凄まじい恐怖を味わえば嫌でも分かるだろう。


――あんな死の恐怖を味わうくらいなら、苦しくとも生き続けた方がマシだ、と。


 ……それはまぁ、あくまで俺の個人的な感想ではあるが、とにかく死ぬのは嫌だ。

 危険だろうが、無謀だろうが、死ぬ可能性が低くなる方を俺は選びたい。


「……確かに。敵に(まみ)れて少しでも己の命を生き繋ぐために(むご)たらしく戦うより、仲間を助けるために戦う方が美しいかもしれないな」 


 イェーガーがそんな痛々しくてクサい台詞を吐いて、口元を釣り上げる。

 それに同調してか、獣人達が鋭く尖った犬歯を晒し、互いに目配せをする。

 どいつもこいつも、好戦的な笑みを浮かべて、だ。


 全く、本当に調子の良い奴らだ。

 もう、この単純さ加減はもうアホと言ってもいいだろう。

 ……でもまぁ、そんなアホだからこそ、俺に協力してくれるんだ。

 彼らがアホであったことに感謝しないと。


「……これだったら、他の人達と別れる前にも言っておけば良かったな」


 やはり、どのように決心したとしても後悔は出てくるものなんだなぁ、と思わされる。

 そんなことに今更気付く俺の頭の悪さに後悔してしまう。

 後、獣人達と行動するってことは、俺と同じく何も悪いことをしていないのに、強制的に参加させられている奴隷の人達を見捨てることにもなる。

 

 後悔しようと思えば、いくらでも出来そうだ。

 後悔をしない人生を生きたい、と切実に願っているんだけどなぁ。

 人生なかなかうまくいかないものだ。


――それもこれも、全部は俺が弱いせいだからだ。

 弱いから、戦争をどうこうすることが出来ない。

 何も悪くない奴隷の人達を、救うことが出来ない。

 弱い俺には、誰かを巻き込んで一緒に逃げるくらいしか、出来ない。


 そんな弱い俺が嫌で嫌で仕方ない、とアスタールにいた時も思っていたのに。

 それから全く変わらない自分に嫌気がさしてくる。

 

 そしてまた、俺が弱いばっかりに、スライム達を人間の都合に突き合わせるのだから。







「『命令(コマンド)、敵に向かって突っ込め』」


 後方にいる召喚魔導師から、突撃の合図が飛んでくる。

 逆らうことの出来ぬ指示に、奴隷達が一斉に前進を開始。


「「「「「ウォォォオオオオオオッッッ!!!」」」」」


 自身らを鼓舞するかのように雄叫びが上げられるが、先頭の俺達はあくまで小走り程度の速度しか出さない。

 ここで全速力で突っ込めば、人と獣人のスペックの差が出てしまい、後ろから誰も続かずに、少数で大群に突入するような自殺行為になってしまうからだ。


「おい、何やってやがるっ!?」


 普段から獣人の身体能力の高さを知っている兵から小言が聞こえてくるが、無視だ。


「……来たか」


 流石に雄叫びを上げたのは目立ったからであろう。

 ルイゼンハルトからも、こちらに応戦しようと隊列を組んで向かってくる。

 一糸乱れぬその練度の高さは、多分訓練を受けてきた騎士達であろう。

 全員が全身を重装備で固め、ランスとタワーシールドを構えて陣形を組んでおり、戦術面でいうならあちらの方が圧倒的に上か。

 ただし、数の方でいうなら奴隷も参加させられているせいか、フルデヒルドの方が多い。

 まともにぶつかれば、どれだけの被害が出るのだろうか。


「離脱開始っ!」


 両軍がぶつかるまで、残り10メートルを切ったところで、俺達は進路を変更する。

 それも『加速』を用いての急な動きだ。


「なっ!?」


 驚きの声が上がったのは、果たして前後どちらからだっただろう?

 俺には両方から聞こえたと思う。

 『加速』の出来ない俺はボンデッドさんの背中につかまり、そっと背後を(うかが)うのだが。

 彼らの足が速過ぎて、視界がブレまくりで良く見えない。


「っ、こいつら横から叩く気かっ!!? 後衛はすぐに奴らの迎撃をっ!!」


 ルイゼンハルトの指揮官がフリーズから回復したのか、すぐさま俺達に攻撃するように指示を出す。


「矢が来る! 刺さるの覚悟しとけよ!」


 ボンデッドさんの掴んでいない方の片腕で頭を抱え、矢に備えるのだが、それは杞憂だった。

 次々に放物線を描き飛んでくる矢は、俺達に届く前に失速し地面へと突き刺さっていく。


――どうやら、俺が思っていた以上に獣人の『加速』とやらは、相当なスピードであるらしい。

 ボンデッドさん達が足を止めた時には、両陣営の人間が豆粒みたいに小さくなっていたのだから。


「まさか、無傷で抜けられるとはな……」


「その代わりに、『加速』は、しばらく、使えない」


 片言で言うボンデッドさんは、少し疲れた表情をしている。

 どうやら、ここから離れることを最優先したのか、『加速』を長めに使ったらしく、激しく魔力を減らしたようだ。

 しばらくの間、『加速』は出来なくなったが、素の身体能力も高く、体力の方はまだまだ有り余っていそうなので、そこまで問題はあるまい。


「皆まだまだ動けそうだし、早速合流といきますかね」







【ルイゼンハルト 西門】

「何だったんだ、あれは……?」


 果たして、その言葉は誰が発したのか。

 両陣営とも、唖然とした表情が大量発生していた。

 ルイゼンハルト側は、側面からの攻撃を警戒していたのだが、あっさりと戦場を離脱したことに対して。

 そしてフルデヒルド側は、(いま)だかつてありえなかった、奴隷による反抗に対して。


 戦場のど真ん中だというのに、両者とも戦いの手が止まっている中で。

 例外としてまだ動きを止めていない者達がいた。

――そう、残された奴隷達である。

 彼らは隷属魔法の強制的な命令により、完全に感情を無視してルイゼンハルトの方へと突っ込んでいた。

 この誰もが気の抜けている、絶妙なタイミングで。

 不意打ちにより、戦いの火蓋(ひぶた)が切って落とされた――のだが。

 不幸にも、奴隷達はあの生活のせいで、思考力、判断力が相当なレベルにまで落ち込んでいたのである。


「うぉっ!?」


 いつの間にか接近されていたことに気付くルイゼンハルト側の騎士達だったが、奴隷達に対応しようと動き出すには、遅すぎた。

 接近を許し、人の波がなだれ込む――ランスの先端が向けられている真正面から馬鹿正直に。

 先頭に立っていた奴隷達がその鋭い穂先に自ら刺さりに行く。

 胸に突き刺さる痛みに普通の人間ならば悶絶しているところであろうが、今の彼らには命令が絶対。

 重大なダメージを無視してもなお、前進。

 傍目から見ていた騎士達には、奴隷達がまるで自分から串刺しになりにいっているように見えてしまう。

 だが、そんなことも始めのうちだけであった。

 槍から(あぶ)れタワーシールドに突撃し、物量で奴隷達が押し寄せてきたのだ。


「こいつら、死ぬのが怖くないのかっ!??」


「慌てるな、両翼から突き崩すまでの辛抱だ……!!」


 後衛にいる中隊長が遊軍である冒険者達に、奴隷達の横合いから攻撃するよう指示が叫ばれる。

 確かに相手より多くの物量にまかせた攻撃というのは、驚異的であろう。

 が、しかしいくら多いといっても、その数は有限。

 フルデヒルドが野蛮な突進を繰り返すに対して、ルイゼンハルトは堅牢な陣形を組んでいる。

 どちらの消耗が激しいか、よく考えなくとも分かるだろう。

 今は激しい猛攻でも、冒険者達の介入が始まれば、(じき)に終わる。


「くそがぁぁっ!!」


 だが、そんな介入を黙って見ている程、フルデヒルドの兵はアホではなかった。

 奴隷達の横を固め、冒険者達に立ち向かう。

 だがしかし、兵の彼らと冒険者では実力の差があった。

 方や、貴族の私兵で形だけの戦闘経験しかない者達だが、方や、モンスター相手とはいえ、戦いを生業(なりわい)とし、日々の暮らしを食い繋いでいる者達だ。

 技術もへったくれもないが、場数をこなした冒険者であるなら対等以上に戦うことも不可能ではない。

 

「うらぁぁぁっっっ!!」


 そんな中に、ルイゼンハルトを優勢に傾かせる人物が紛れ込んでいた。

 一応軽装でありながらも金属製の鎧を着込み、両の手で剣を振り回す男――ダバルである。

 ルイゼンハルトにいる愛する女のために、ソムディアでの職務を放り出し、勝手に義勇軍の方へと参加していたのだ。

 ただ……各地に散らばった騎士団にも要請がかかったというのに、それを慌てて聞いていなかったダバル。

 だが、一見アホだ、とも言える行動を取ってしまったが、最終的な判断としては間違っていなかったのだ。

 

 何故ならダバルは、陣形を組んででの戦闘が苦手であったからである。

 そもそも彼の性格上、他人に合わせるといったものを好まないし、得意でない。

 堅苦しいと思っているせいなのか、本来の実力の半分も出せなくなる。

 

 だが、個人で暴れるのだけは得意中の得意。

 特に双剣を扱い始めてから、ダバルの才能が一気に開花し、ソムディアに配置された騎士団の中で対人ならば殆ど負けなしというレベルにまで成長していたのだ。

 左右の手とも同等の技量で剣を扱えるし、常人の数倍の運動量をこなしても平然な顔が出来る体力馬鹿である。


 流石に無双……とまではいかないが、持ち前の手数の多さでどんどん敵を切り崩していく。


「(オレにはルイゼンハルトで愛する人が待っているから、負けられないんすよ!!!)」


 ある種、死亡フラグに近しい台詞を心の中で吐き捨てるも、やはりそこはダバル。

 恋仲になった女性はおらず、未だに片思い。

 しかも片思いの相手はバリバリ戦争に参加しているのである。

 もはやフラグが立っていない。

 まぁ……ルイゼンハルトにダバル"を"好きになった女性はいるのではあるが。


「うぉっ!?」


「おい、一旦退くぞ!」


 慌てた声がフルデヒルド側から聞こえてくると、ダバルは少しほくそ笑む。


「(オレのあまりの強さにビビったんすかね?)」


 自分の圧倒的な強さが片思いの相手の耳に届いて欲しい、と身体を動かし続けたまま、思い(ふけ)るダバルだが。

 その言葉は上空を見た彼らが発したことだと、気付いていなかった。

 

 いつの間にか、周りに人がいなくなっていたことに気付く彼だったが、もう遅い。

 バリバリと、空気を切り裂く音が頭上から聞こえ、上を見上げる。


「あ――」


 ダバルが口を開いた瞬間には、魔導師の流れ弾である、白い光が彼の身体を塗りつぶすように落ちていた。 


「若頭ァァァァッッッ!!!!!」


 魔力で生み出された雷がダバルの地面を抉り終えた後。

 すぐさまに、後方支援をしていたはずのグラサンの輩とジャラジャラと鎖を揺らす輩が冒険者を掻き分け、その場に駆け寄ってくる。

 幸い、そこで争っていた連中は雷の音に驚いたために一時、戦いの手を止めていた。


「若頭?」


 クレーターが出来た、ダバルのいる攻撃中心地をそっと覗く彼ら。

 プスプスと音を立てているものの、ダバルは五体満足のままうつ伏せで倒れているのが見える。


「息はどうだ?」


「ある、あるぞ! しかも全然弱弱しくないっ!」


 ダバルの手首を掴み、脈を確認している者が、脈拍のリズムが崩れていないことを知り、喜びの声を上げる。


「まだ喜ぶのは早い。さっさと運ばなアカン」


 『拘束する銀』の頭の右腕である男が、部下にダバルを抱えて運ぶように指示を出すと、早急に戦場から退散していく。


「オイ、卑怯やないか銀の。コッチが運ぶに決まってらァ!」


「うっさい、早い者勝ちじゃ、ボケ!」


 強面の男達が走り去った後、ようやく自分達が何をしていたのか思い出したのか、彼らは戦闘を再開させる。

 まさかあの魔法を食らって、ダバルにまともな損傷がないことに驚いたようであった。


 そうして、ダバルにより大分数を減らされたフルデヒルドはルイゼンハルト側に完全に勢いに呑まれ、大敗を帰することとなる。




――これは、戦争後の話となるが、何とダバルの望み通りにルイゼンハルトでは彼の武勇伝が広まることとなる。

 二つの剣を用いて敵を面白いようにバッサバッサと切り伏せる『双剣士ダバル』として。

 また、二つの組織を占める『双頭(ツイン・ヘッド)』として。


 そして、『オチに愛された男』として、その活躍と共に有名になったという。







【ルイゼンハルト 南門】

「これは余裕だな」


 西門よりも数が多いフルデヒルド軍は、稚拙な攻めにも関わらず、優勢に立っていた。

 被害は大きいものの、ルイゼンハルト側が少ない数でこちらに対応しようとするために、疲弊するペースが早い。

 そのおかげか、相手の魔導師予備軍の攻撃の手も止まっていた。

 相手が崩れるのも、時間の問題といえよう。


「おい、そこの獣。チョロチョロしてないで、敵をもっと押し込め」


 余裕が出てきたからか、フルデヒルドの指揮を執る彼の視界は広い。

 そのおかげで、周りがよく見える分、気になる動きがあった。

 そう、それはというと、獣人の動きであった。


 最初、彼は魔導師に奴隷達に向けて突撃するように命じたのだが。

 獣人達は最初こそ突撃するようにも見えたのだが、その後はヒット&アウェイを繰り返すため、他の所に比べると、あまり成果が上がっていないのだ。

 まぁ、その分被害が殆ど出ていないのだが、彼はとにかく早く勝てばいいと考えていた。

 例え、彼の雇い主であるソムルドが、せっかく金をかけて買った獣人でも、彼の指揮で戦場に立たせれば、ただの一兵士に過ぎない。

 

 だからこそ、獣人達の動きが気に入らない。

 何をモタモタしているのか、と苛立ってしまう。

 自らは全く武器を振るっていないというのに、もっと勇敢に戦えと、そんな気持ちを声にして、彼らに押しつけるのだが。

 彼の意志とは反して、獣人達は少しも動きを変えない。

 

「(ったく、獣風情で私の指示を無視するとは。獣の中では『突撃』というのが、あんなに逃げ腰だっていうのかね? ……ん?)」

 

 彼は自身が危機的状況に晒されていないので、この戦場の中で一番落ち着いている。

 だからこそ、一番視野が広いので、気付いてしまった。


「あれは……援軍か? それとも……敵なのか?」


 位置でいうなら、西から。

 中隊規模の集団が、こちらに向かってきていた。


「(こちらはこのまま数で押せば負けはまずない。今更敵が増えようとそれは同じこと)」


 だが、このまま側面を無防備にしているのは(まず)い。

 敵だと判明したら、すぐさま交代させ休ませている部隊を展開しなければならない。


「(が、これがもし味方なら、殲滅速度が少しは上がるであろうな……!)」


 彼は薄く笑みを貼り付け、その集団はまだかまだか、と落ち着かない様子で望遠鏡なる物体を西の方へと向けていた。

 彼の予想では、疑いもなく援軍だと思っている。

 何故なら、事前の調査でこちらの軍勢がルイゼンハルトを上回っていると知っているからだ。

 

「(おっ、やはり味方ではないか!)」


 そうしてその姿が望遠鏡で拝めた彼は、自らの予想が的中したことに少し喜ぶ。

 しかし、その集団の姿をはっきり捉えた瞬間、笑顔からしかめっ面へと移り変わる。


 それというのも、援軍にやって来たのが、全員獣人であったからだ。

 彼の脳内では、既に獣人は腰抜けとされており、そんな奴らが加わっても、あまり戦力の足しにならないと思ったのである。


――だが、彼は根本から間違えていることに気付かない。

 その援軍だと思っている連中は味方ではないことに……。


 

 

※ダバル補正


・魔導師でないにも関わらず魔法に愛される(?)。

・また、致命傷では済まないようなダメージも、気絶だけで済んじゃう優れモノ。

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