13
『魔法を考える上で一番重要なことはイメージすることである。
イメージすることで必ずしも魔法が実現するわけではない。
が、かといってイメージが魔法に反映されないわけではない。
イメージは、我々に魔法を認識させる。
曖昧である魔法に、意味を持たせるのだ。
とある召喚魔導師の冒険記より』
【クレヴ】
実験5日目。
天啓、というのであろうか。
夢の中で、ぼんやりと誰かから囁かれたような感じがしてから目覚めてみれば、唐突として閃いたものがあったのである。
で、それはというと、名前も知らぬ召喚魔導師の言葉、ではない。
その囁きによって、記憶が引っ張り出された結果によるものである。
思い出した、というより、今まで知らなかった情報がいつのまにか頭に入ってきた感じだ。
パズルでいうところの、足りなかったピースが埋まった、とでもいうのだろうか。
「忘れないうちにメモでもしておきたいけど……」
生憎、この暮らしの中で紙とペンなんていう道具は用意されていない。
最悪、自分の血で書く、という方法もあるのだが、痛いのはパスしたい。
というわけで、目覚めてから仕事が終わるまで、頭の中で朝で閃いたことを反復させることに。
「今日もよろしくお願いします」
「あぁ」
未だに文句の一つさえ言わず実験に付き合ってくれているボンデッドさんのおかげなのか、他の獣人達の警戒も薄れてきており、軽い会話くらいなら許してくれるようになっただろうか。
それほどに、ボンデッドさんというのは他の獣人に信頼されているのだろう。
人望が殆どない俺には羨ましい限りだ。
さて、時間もないことだし、早速始めるとしますか。
「『召喚、スライム』」
まずは、確認からだ。
久しぶりに詠唱を使っての召喚。
随分と使っていなかったからか、少し変な感じがする。
それに、自分の呼び出したい場所とかあんまり関係なく、ランダムに前方へと召喚されるため、あの魔法陣を知った後だと、あまりに雑なのでは、と思えてしまう。
ここら辺が曖昧と呼ばれるところなのであろうか?
まぁ、そこは今回は関係ない。これは、あくまで確認なのだから。
次に、魔法陣の"一つ目"を用いての召喚。
これには果樹園で取れた木の実を使って、腕に描くことにした。
魔導によってよりスピーディになった"一つ目"は、先ほどに比べてタイムラグが目に見えて減り、魔法が発動されるまでの早さが全然違う。
戻喚魔法で一旦スライムを返してから、続いて"二つ目"。
この魔法陣は、『同時召喚』を可能にさせる。
ただし、何故か"一つ目"との併用が必要条件を満たさなければ発動しない。
これは重ねがけ、なんて呼ばれているらしく、作り出すにはなかなか高難度な代物らしい。
この"二つ目"単体だけの効果を発揮させられないのだが、これは果たして意図して作り出されたのか?
だとすれば、その創造した奴というのは、面倒な性格をしていたに違いない。
そして、"三つ目"はというと。
例の座標指定を魔法陣と共に頭の中でイメージで"定め"なければならない、といった大変面倒なものとなっている。
で、これも"一つ目"との併用が必要となり、"一つ目"の魔法陣がなければ発動出来ない。
後、訓練すれば"二つ目"とも併用出来て、別々の場所に同時召喚が可能となった。
ただ、それぞれの召喚したい座標のイメージと、召喚したいスライムのイメージ、そして"一つ目"、"二つ目"と比べ、複雑極まりない"三つ目"の魔法陣をイメージを同時にしなければならない、とハードな作業となる。
そのせいで、ある時期から注意深く見た風景を瞬間記憶する癖みたいなものがついてしまった。
さて、この三つの魔法陣だが、詠唱魔法とは併用出来ない。
というか、そもそも詠唱してしまったら"一つ目"の意味がなくなってしまうのであるが。
だがしかし、この異様に考える時間が出来てしまった奴隷生活のおかげで、魔法陣の改造に成功したのだ。
……といっても、一部の模様を弄る程度なのだけど。
「『召喚、スライム』」
魔法陣を書き換え、もう何度目かの実践。
もちろん、問題なく成功だ。
これで、詠唱でも召喚したい座標からとか、同時に何体でも召喚可能となったのだが。
そのメリットというのは……スライムのイメージをしなくてもいい、というだけのもの。
俺の場合だと、スライムのイメージなんて日常茶飯事だ。
だからそのメリットは全く役に立たないため、せっかく弄った意味がない……と今日という日が来るまではそう思っていた。
「今日は、一体、何をしているんだ?」
「あぁ、ちょっとした確認だから気にしないで」
実験には召喚魔法は直接的に関係しないから、ボンデッドさんは不思議に思ったのだろう。
でも、これは必要なことだ。
魔法についての考えを自分なりに深めていくために。
考えを深めた上で、魔法を創造するような偉業に挑むために。
頭の悪い俺には、おさらいというのが大事なのである。
さて、ここまで詠唱であったり、魔法陣であったりと、魔法を発動させる手段をおさらいしたのではあるが。
この二つはどちらも"定める"行為だ。
曖昧な魔法を人間が使うためには、"定める"ことが必須とされていた。
多分、今までそう語り継がれてきたのだから、間違いではないと思う。
そして、俺が先日立てた『神が詠唱魔法を作った』という仮説も、間違っていないと思うのだ。
……本当に、間違っていてほしくない。
まぁ、とにかく"定める"ことは、大事なこと。
ということは、だ。
じゃあ更に強固に"定め"たら、一体どうなるのか。
もう魔法として顕現化されているから、無駄?
だったら、魔法として成立していないものなら、どうだろう?
もし、今は魔法とならないものでも、イメージを強固にすることで、実現するとすれば……。
まぁ、そうなると先ほど挙げた、神が詠唱魔法を創った説を否定するものになりそうだが、少なくとも現在それはあまり重要ではない。
俺がやろうとしている魔法は、確かに存在しているのだから。
で、実際にその"定める"のを強固するには、何をすればいいのか。
俺が知り得る知識では、例の重ねがけ、というのが一番近い。
あの魔法陣では、複数の効果を連動させて得るものであったが――1つの効果を重複出来たら。
一点集中。
詠唱魔法と詠唱魔法を補助魔法で結び付けることが出来たなら。
隷属魔法を無効化するための要素を知り得る限りをぶち込んだとすれば。
「じゃ、いくぞ――」
ボンデッドさんの身体に右手で触れて、『魔導式魔力放出』で彼の体内に『透過魔力』(魔法抵抗を無視する魔力、勝手に命名させてもらった)を流す。
『魔導式魔力放出』の練度が上がったからか、集中具合によって透過魔力で色々感知することが出来るようになった。
獣人は人間に比べると、非常に魔力が少ない。
だからこそ魔法抵抗が低く、隷属魔法にかかりやすいというわけだ。
俺が戦った時に断続的に『加速』を使っていたのも、余裕ぶっていたわけではなく、節約しないとすぐに魔力が切れてしまうのだろう。
透過魔力を更にボンデッドさんの身体の奥深くに染み込ませていけば、異物を感知出来た。
その異物は、サラサラと血液が巡るような俺の透過魔力と違い、何だか『しこり』のように身体に留まっていた。
身体の奥に、深く深くしがみつき、絡み、巻き付いているように。
隷属魔法は、ボンデッドさんを縛っていたのだ。
その隷属魔法は、透過魔力では、外れそうにない。
『誘惑』なんかとは、違った種類の魔法なのだろう。
だから、ここで一工夫入れる。
「『我が力をもって、汝を縛りし拘束から解き放たん』、『リリース・リストリクション』!」
透過魔法を放出しつつの、詠唱。
それも二重に、魔法に意味と名前を"定める"。
さらに、頭の中のイメージを膨らませ、その意味を重ねていく。
彼らの拘束は、鎖。そして、俺の魔法はそれを粉々に打ち砕く無数の鎚。
具体化し、強固されるイメージを、思いを魔法へと乗せる。
そして、駄目押しに手で触れている部分に魔法陣のイメージを付加だ。 その魔法陣は、外円の中で、内側からグルグルと渦を巻きながら外へと向かおうとする単純な模様。
模様に込めた願いは、束縛からの解放、自由だ。
右手に帯びた光がボンデッドさんの身体へとどんどん吸い込まれていき――そして弾ける。
体内で起きた光の拡散は、不可視で体外に漏れることはない。
だが、弾けた感覚は、確かに伝わってきた。
「身体の様子は、どうだ……?」
多分、初めての試みでも魔法としての形は成していたとは思う。
だが、その効果はちゃんと発揮されたのか。
不安が残る。
「んん……。ん……?」
やや首を傾げるボンデッドさん。
変に魔法が作用して、身体の中がおかしくなったのだろうか?
「何だか、身体の中が、スッキリしたようだ……」
鋭い犬歯を剥き出しにして、こちらに笑みを向けてくる。
「そっか……」
これは――実験が成功した、と考えてもいいのだろうか。
「実験というのは、これで、終わりか?」
「まぁ、成功していれば、な……」
その結果を知るためにも、ボンデッドさんには明日少しばかり彼らの命令に逆らってきてもらわなくてはならない。
出来る限り、ほんの些細なことでもいいのでお願いします、と頼んでおく。
これでコマンドとやらに逆らった時、苦痛がしなければ成功だ。
ただ、この確かめ方だと少しリスクを負う可能性が出てくる。
まぁ、考えずとも分かることだが、相手の召喚魔導師に隷属魔法が解けてしまったとバレることだ。
今も何かしらボンデッドさんが解放されたのを感知した、って可能性もあるが……実験終了してからこの檻の方に飛んでくる様子もないので、多分ないだろう。
いや、解除されるという、あちらには不可解な出来事をソムルドに報告している可能性もある。
そこら辺は、明日になれば嫌でも分かるだろう。
まぁ、もしバレたところで、ボンデッドさんが自力で解いた、と考えるよりは隷属魔法をし忘れた、と考える可能性が高い。
失敗していた場合、どれほどの苦痛を味わうのか分からないけれど、まぁそこは大人なんだから我慢してもらうことにする。
実験に犠牲は付き物なのだ。
そして、翌日。
お仕事が終わって早々に、ボンデッドさんが興奮した様子でこちらへと駆けつけてきて、一言。
「隷属魔法、なくなっている!! 凄いぞ、お前!!」
手を掴まれ、ブンブンと滅茶苦茶に振り回される。
あまりの馬鹿力に、すげぇ肩の方が痛いのだが……ボンデッドさんが嬉しそうなので、なかなか止めてと言いだせない。
「どうした?」
「何があった?」
「飯はまだだが?」
普段は落ち着いているように見えるボンデッドさんのあまりの喜びように、周りにいた獣人達が次々に集まってくる。
興奮した本人にそれを聞き出そうとするのだが、歓喜のあまり、碌な言葉が出てこない。
もはや言葉にならず、俺でもボンデッドさんの喜色が伝わるぐらいに、何度も吠えるのだが……その声の中身は皆無に等しいのか、獣人達は頭を傾げたままだ。
で、当然俺に説明するように詰め寄ってきたので、飯時にここまでの奴隷生活を振り返りながら、長々と隷属魔法を解く方法と向き合ってきたことを話したかったのだが。
あまり隷属魔法が関係してこない一日目を話したところで、ブーイングにあい、結局ボンデッドさんに施した魔法について語ることとなった。
「隷属魔法を解いた、だって?」
「嘘だろ……?」
「あんまり頭良さそうに見えないっていうのにな」
と、途中俺のことをボロクソに言う奴らがいたのだが、よっぽど嬉しいのか未だに破顔したボンデッドさんを見たおかげか、俺の功績を疑う者はいなかった。
で、その後は、といえば。
一斉に獣人達が俺のところに押し寄せてきて、隷属魔法を解いてくれるようにお願いしてきた。
あまりの掌の返しように、額に手を当てたくなってしまうのだが。
まぁ、考えようによっては、彼らは疑い深いようで、単純なんだろうとも取れる。
調子のいい奴らめ。
「でも、実験は終わったしなー?」
わざとらしく彼らに言ってやると、俺は悪いことしていないのに、親の敵を見るような目で睨んできた。
でも、彼らの頼み方だって悪いのだ。
頼んできている側のくせに、下手に出ようとしないのだから。
頭すら下げずに「頼む」、といった簡単な一言しかないし。
こちらだって、断りたくなるものだろう。
……まぁ、今は大変高揚してしまって、こんな態度しか取れないというならば。
一旦冷静になってもらった後、頭を下げてくれるのなら、やってあげなくもないかな。
それに、ここで恩を売っておいて、後で彼らの協力を得られるようにしておかないと。
それから数日後。
仕事が終わった後だというのに、獣人達の隷属魔法と解く、という仕事が増えてしまっていた。
とにかく数が多いものだから、大変で大変で仕方がない。
だが、そんな努力を積んでいっているおかげか、魔力の総量が増えているように思える。
まぁ、それもこれも連日魔法を使っていたり、『魔導式魔力循環』とかのおかげなのだろう。
『魔導式魔力循環』の練度を増していけばいくほど、体内で巡らせられる量が多くなった。
分かりやすい例でいうならば、血管が大きくなった分、流れる血も多くなった、といった感じだろうか。
また、魔力の総量には関係ないが、体内を流れる勢いも速くなってきた。
勢いが速くなればなるほど、例の『リリース・リストリクション』の発動も速くなるようで。
最初の頃に比べれば、速くなったといえば速くなったのだが……まだ30秒以上はかかってしまう。
それに想像以上に集中力を使うために、何度も使っていると頭が痛くなってくるのである。
もはや、『リリース・リストリクション』が片手間で扱えるようになれば頭の処理速度が半端なくなって頭が良くなるに違いない、と励まし続けでもしないと、やってられない。
「約束はちゃんと守ってもらうからな」
「いちいち聞かなくても、覚えてるから大丈夫だって!」
俺は獣人の彼らに『リリース・リストリクション』をする前に、いくつか約束をした。
一つは、隷属魔法が解けたことをソムルド達にバラさないこと。
まだ解けていない人もいるため、ここで不満を爆発させて反抗でもされたら、俺達にとばっちりが来る可能性があったためである。
そしてもう一つは、俺の脱走に協力してもらうことだ。
これについては、まぁ俺一人で脱走するには心許ないということで、一緒に脱走しようという提案である。
なんだかんだいって、彼らは普通の人間以上に筋力が強いことだし、戦力は多いことに越したことはない。
脱走についてではあるが、現在獣人の彼らと話し合いをして計画を練っているところである。
その脱走にネックとなるのは、俺達に付けられた枷と敵魔導師の戦力。
枷の方は、戦闘用の奴隷の獣人が戦う時以外には外すことが出来ない。
枷を付けた状態で反乱を起こしても、勝機が全くもって見えないので、これはどうにかしなければならないだろう。
敵魔導師についてだが、戦力は不明だし、相手が遠距離から攻撃出来るに対して、こちらはほぼ接近戦しか出来ない。
速さで撹乱しようにも、相手は召喚魔導師だ。
モンスターを盾役にし、後ろから詠唱魔法を使われたら、かなり厄介だといえる。
対抗手段として、俺の『スライム落とし』とか無くは無いのだが、圧倒的に手数が足りない。
以上、この二つの解決手段を考えているものの、なかなかいい案が浮かんでこない。
だが、そんな悶々とした日々が続いたのは、ほんの少しの間だけだった。
時が流れて11月後半のこと。
今日は大変珍しいことに、仕事が休みとなっていた。
ただし、それはここでの仕事が休みなのであって、これから馬車で移動させられた場所で働かされるとのこと。
本日の仕事場所であった炭坑で、あの中年兵に説明を受けてから、ぞろぞろとソムルドの豪邸へと戻っていく。
普段仕事が被らない奴隷の人達も、どうやら俺達と同じくその仕事場とやらに連れていかれるらしい。
あの敷地の広さであったために、奴隷の人数も相当多い。
目算で数えるのも馬鹿らしくなる程だ。
ただ、馬車に乗せられていく奴隷はどれも男ばかり。女は一人もいやしない。
まぁ、性欲面とか考慮すれば、俺達の前か後に出発したとか。
それとも今日は男だけが出稼ぎって感じなのか。
力仕事であったり、馬車の数が足りなかったり、とか。理由は色々思いつきそうだ。
というか、召喚魔導師だけ現地に向かわせて、召喚魔法で運搬っていう手を使わないのか。
まぁ、それだと現地に到着したら丸裸であろうし、大勢だと魔力面の問題もあるかもしれない。
「お前はこっちだ」
そして、俺は人間だというのに、不本意なことに獣人さん達と同乗させられた。
一応最低限気を遣っているのか、人と獣人で乗る馬車を分けていたのだが、俺が人の方に並んだ時に監視役の兵の顔といったら、どうだ。
「えっ、お前はそっちじゃねぇだろ」、と不可解そうな眼をしていやがった。
それはもう、父とかの人外さ加減を見た時と同じ感じで、である。
すこぶる心外だ。俺は父とは違って、比較的まともな人間だというのに。
まぁ、1人当たりの重量が重いためか、あまりぎゅうぎゅう詰めにされなかったのは幸いか。
それに、屋敷から離れた場所の方が脱走しやすそうだしな。
そう思って獣人の彼らに話を振るも、
「すまないが、俺達は一緒に行けない」
と、代表してイェーガーからそう返された。
「おま、約束したのに破るんかよ」
つい口から言葉が出てしまったが、彼らは俯いてこちらを見ようとはしない。
つい前まで、毎日魔力が尽きそうになるまで、『リリース・リストリクション』をしたというのに。
義理堅いボンデッドさんまで、そうなのだから、裏切られた気分だ。
彼らは人間を相当批判していたけど、これこそ『人のことを言えない』。
「……同じ集落の女を残しては逃げられない」
苦々しい表情で、イェーガーがそう言った。
……いざ直前になってビビりやがったか、この卑怯者共め、と思ってしまった自分が恥ずかしい。
となると、だ。
逃走の協力を強いることは出来なくなった。
相手の立場なら、家族同然の人達を見捨てる、という選択を取りたくないだろうし。
かといって、俺1人で逃げ出せるかどうか。
数が多いから、1人くらいいなくなったところで気付かない、というメリットはあるが、同時に逃走が見つかった時のリスクも大きい。
なんせ、こちらが1人に対して相手は何人いることか。
物量作戦で奴隷達を動員させれば、こちらの逃走経路など簡単に潰れてしまうだろう。
囲まれれば最後、密集状態で動くことが出来ずに、フルボッコ……という未来予想図が簡単に思い浮かんじゃうしな。
だから、1人で脱走劇を繰り広げるのは無理。
つーか、この枷が付いたままじゃ碌に逃げられない。
だが、だからといって、このチャンスを見逃すのも捨てがたい。
散々悩んだ結果……渋々今回は脱走を諦めることにした。
まぁ、今回は外だからなのか、監視役の兵以外に魔導師達もついてきていたし。
……と、そういや俺達は一体どこに向かっているのだろう?
今乗っている馬車は獣人用として用意されたからか、どうかは分からないが、屋根の部分を取り払われている。
長身の獣人だと頭にぶつかることを考慮してのことなのか。それとも屋根を造るのが面倒だからなのか。
濃い灰色に染まった空が頭上に広がっており、雨でも降りそうだ。
周りも金属製で出来た格子で囲まれており、何だか檻の中にいるのと変わらないように思える。
今回は豪邸に向かった時と同じルートなのか、街中を駆け抜けていくことに。
相変わらず街は静かなもんで……いや、静か過ぎる。
もはや人が住んでいないんじゃないか、ってくらい物音がしない。
馬の蹄が地面を蹴る音と、馬車のタイヤが回る音が存外大きく響くのだ。
こういうのを、ゴーストタウンというのであろうか。
だだっ広い街な分、余計に不気味に思えてしまう。
緩やかに街中を流れる水路のせせらぎは今回も馬車の音にかき消されてしまい、少し残念だ。
前回と同じルートということは、もしかするとルイゼンハルトに向かっているのでは、と安直な考えが浮かんでくるが……そんなことはないか。
途中で曲がったりするかもしれないし、期待はしないでおこう。
――だが、そんな俺の期待も何でか分からないが、叶ってしまう。
しかし、予想もしていなかった、物騒な方向に、だ。
今回も、ご都合主義が強かったかもしれませんが、まぁ気にせず話を進めます。
次回、いよいよ戦争突入。




