12
【リアナ】
「ようやく形になってきたね」
「そうですね」
サラナ村で教会(と呼んでいいのか?)の建設が開始されてから、二ヶ月と少しが経過した。
通常ならば、リアナは既にルイゼンハルトへと戻っているはずなのだが……ゴーレムが無くなった件があったことで、勝手に村へと帰ってきてしまったのである。
自分の知らない仕組みで動いているゴーレムを是非とも動かしてみたいと、嬉々して選んだ選んだ授業ではあるが、なかなか試乗まで行かず、まだ座学のみ。
それでも、乗ってみたいという欲求で、退屈と不満を抑えつけていたが、ゴーレムが無くなってしまったと聞いて、途端にやる気を無くしてしまったのである。
授業をすっぽかして、クレヴで暇潰ししようと思えば、訓練所に姿がおらず。
副団長であるジェフ・クリスターにその話を聞いてみるも、しかめっ面をしたままで、なかなか口を割ってくれない。
「(これは私と同じく、訓練所が嫌になって抜け出したのか?)」
そう判断したリアナは、馬車を用いることなく、人間の知る『レビテーション』とは違った飛翔魔法で、サラナ村へと1時間もかけずに帰還するのだが。
「クレヴが帰ってきてない?」
帰ってきて早々に、クレヴの母であるクレアンヌに聞いてみるも、ここにもクレヴがいないという。
「えぇ。ってシスターちゃんはルイゼンハルトにいたのに、気付かなかったのかしら?」
「気が付いたら、いなくなってたんでね」
「全くあの子ったら、シスターちゃんに余計な心配かけさせて」
やや怒ったそぶりを見せるクレアンヌであったが、それよりも彼女の口調は嬉しそうであった。
というのも、息子のクレヴなんかをリアナが心配している、というのが喜ばしいと感じているようで。
勿論、勘違いであるのだが、リアナは否定することはなかった。
「(じゃあ、一体クレヴはどこにいるんだろうね?)」
生憎マーキングの魔法はしていないものの、リアナには便利なパシリがいる。
あのパシリの鼻であれば、クレヴを発見することも容易いことだ。
「(うーん、どうしようかな?)」
だがしかし、リアナはすぐに探す気にはなれなかった。
というのも、クレヴをいかに推理だけで発見出来るか、という遊びを思いついたからである。
「(一日、探す場所は3ヶ所。村ならほぼ全域、街なら1区画で一回分ってことにしよう。森とかは……気分次第でいっか)」
下手すると、この国全域程度なら全力を出さずとも、半日もかからないで回れる。
そんな自分に制限を設けた、大規模なかくれんぼだ。
このシンプルな"遊び"では、すぐに飽きてしまうだろうと思われたのだが。
あくまで軽い気持ち、本当に適当な時間を潰す程度にしか考えていなかったのだ。
そんなリアナの主の目的はといえば。
「(さて、時間も出来たことだし、まだ知らないサラナ・プロジェクトについて調べてみるか)」
ここは、サラナ村。
特に特産品があるわけでもないし、観光するような見世物もない。
だがしかし、そこだけは他の人間と価値観がかけ離れているせいなのか、なかなかに混沌なところでもある。
堂々と誇示するように、庭いっぱいに並べられたしょうもないガラクタがあれば、家の床の隅っこに寂しく転がっている、明らかにオーバーテクノロジーっぽいものまで。
普通の者には敬遠したくなるゴミの山、だが好奇心の強い者にとっては、まさに宝の山のように見えるらしい。
そして今は、また新しく大規模なガラクタが生産されようとしている。
それは、名ばかりの教会。礼拝堂とも言えない建物。
そこは彼女の名である『リアナ教』というふざけた名前の宗教を広めるための拠点とされ。
しかも、その布教内容は現在凍結されているサラナ・プロジェクトを実現させるという、これまたおふざけが過ぎたものである。
その宗教を立ち上げたのは、3人とされている。
3人というのは、そのトップに据えられたリアナ。
現在そのリアナの隣に立っている、狂信者のリーシャ。
そして……御使い様こと、現在行方不明のクレヴのことである。
リーシャはクレヴの行方不明に対しては、己を鍛えるために修業の旅に出たと、勝手に思い込んでいるとリアナは聞かされていた。
だから、クレヴについては心配している訳ではないのだが……リーシャは何やら憂いのある表情で、リアナに何か言いたげにしていた。
「リアナ様」
そうして、教会が作られていく様を見詰めながら、リーシャはようやく重い口を開く。
「リアナ様は、ルイゼンハルトで起きていることを聞いてらっしゃいますよね?」
「一応、軽くはね」
いくら田舎とはいえ、サラナ村の近くにあるアスタールとルイゼンハルトには交流がある。
だから、必然的にルイゼンハルトでの話などは、噂話として流れてくるのだ。
「なら、どうしてリアナ様はルイゼンハルトへと、お行きにならないのですか?」
「行く必要がないからさ」
そう言いきってみせるリアナであったが、リーシャは未だに納得できない顔のまま変わらない。
「リアナ様でさえあれば、その戦争だって止められるのでは?」
「そうとも限らないさ」
リアナはいつもの緩い笑みを崩さず、逆にリーシャに聞き返す。
「リーシャ、君は私が戦争を止められると考えているけど、その理由は何かあるのかい?」
「私の時のように、戦争を起こそうとしている互いの代表者にリアナ様のお言葉を伝えれば、手を止めるはずです」
「そう言い切る自信はどこから湧いてくるんだろうね……。仮に、その言葉で戦争が止まるとしても、どうやってその言葉を伝えるんだい? まさか、直接というわけにもいかないだろう?」
「それはその周りの人間にまず説き、伝播させていけば――」
「それだと時間がかかり過ぎるし、それに人間って奴は他人の話を素直に聞かない生き物でね。特に知らない者に対しては強い警戒心があるから、その方法は到底不可能だね」
リアナの言葉にリーシャは少し間を開けてから、
「……最悪、リアナ様のお力でその戦争に介入すれば止められるのでは?」
「それは、私に戦争が始める前に両者に対して大規模な魔法で威嚇射撃でもして脅す、と?」
「あんまり好ましくないとは分かっているんですけどね……」
「まぁ、それでも戦争は止められないね」
「どうしてです?」
サラリと発言するリアナに、リーシャは少し首を傾げる。
「何を焦っているのか知らないけど、思考が短絡的になり過ぎだ。少し落ち着いて良く考えてみなって。
もし私が戦地の真ん中に魔法を放り込んでも、その戦争は一時中断としかならない。
日を改めて、また戦争を吹っかけようとすればいいだけの話さ。で、その時もまた私が介入したところで、イタチごっこみたいなもんさ。
それに、相手もただ繰り返すだけじゃなく、私にバレないように別の手をこそこそと打ってくることだって考えられる」
「でも……それでも……」
縋るような視線をリアナにぶつけてくるリーシャ。
「その言葉の後には、『リアナ様なら、きっとなんとか出来るはず』とでも言いたいのかい? まぁ、確かにその戦争をきっちり止める方法はある。
ただし、その場合は片方、または両方を皆殺しと大変物騒な方法になるけどね、そんなことは望んでいないんだろう?」
「……はい」
「それにさ、まず私が戦争を止める理由がないんだよね」
あくまでリーシャとは対照的に、軽い口調でリアナは続ける。
「まずさ、戦争を仕掛ける側はさ、望んで戦争をしようとしているんだろう? だったら、それを止めるのは果たして『良いこと』と言えるのかい?」
「戦争は、命を無駄遣いしているだけなのではないんですか?」
「そういう捉え方も出来るけど、仮に戦争を仕掛ける彼らが戦争をしなければならない大義名分があったとすればどうだい?
極端な話、相手を取り除かなければ生きていけないとかだったら、戦うことを選ぶだろう?
必ずしも、戦争を仕掛ける側が『悪』とは限らないさ」
反論はないか、とリーシャを一瞥するも、彼女は口を閉ざしたままだ。
だが、まだ納得は出来ていないようであり、ここで話を切っても後でしつこく聞いてきそうだ、とリアナは思い、話を再開させる。
「それに、その戦争は私にとっては直接関係のない話だろう? そこにわざわざ首を突っ込んでも、双方に邪魔だと思われるだけ。
仮に私が圧倒的な力を振るってヒール役になり、彼らの矛先を変えても、根本となる戦争を起こす理由がなくならなければ、無意味だろうしね。
それに、手を組んだ振りをして油断させた隙に、仕掛けてしまう、なんて汚いことをすることだって考えられる。
後、私がその戦争に参入するメリットがないのも大きいな。――以上のことだが、まだ納得出来ないかい?」
それでもリーシャはまだ納得のいっていない顔ではあったが、一応首は縦に振っていた。
「そもそも、全部の問題を綺麗に解決出来る程、私は器用じゃないさ。例え強い力があっても、君の言うような『守り方』は出来ない。
力を振るえば、力を振るった先を傷つけるんだからね。『両方を守る』なんて、不可能。
それにさ、同じところで、しかも同じ親から生まれてさえも人間は違った考えを持ってるものでね。
それを敵対した同士に納得させるようなことなんて、難しいどころの話じゃないってことさ」
「それでも……何もしないことが本当に正しいのでしょうか?」
「さぁてね、それは私にも良く分からないね」
リアナは、あえて突っぱねるように言い放つ。
というのも、過剰どころか、勘違いのレベルでリーシャに持ち上げられるのを勘弁して欲しかったからである。
これで、多少失望されようとも、金なり渡してノウハウを教えてもらえばいい。
最悪、リーシャがいなくとも、失敗覚悟で手探りしながらやるのも、面白いかもしれない。
「こうなったら私だけでも……」
「行ってどうするんだい? 君の『誘惑』で戦意を逸らそうとしても、限度がある。全員に、なんて到底無理な話だよ」
「なら――」
「一人でも多く、なんていうのは、ただの自己満足に過ぎないけど?」
リアナは言葉の先を制して、リーシャを黙らせる。
「ここで仮に君が戦場から何人か退場させたとして、残った人間はどうなると思う?
戦力が減ってしまうし、何より戦争はなくならない。その助けた人間の分、残った人間が被害を被る可能性だって考えられなくはないしさ」
顔を伏せるリーシャに、リアナは更なる追撃をかける。
「人を救うっていうのは、掌で水を掬うのに似ている――前にクレヴが言っていた言葉だ」
その言葉の大本はとある書物に載っていたものなのだが、知らない著者よりも知っている名前の方が聞きさせ易いと考えたのだ。
「指の隙間があるせいで、大した量の水を、それもすぐ近くにいないと掬えない」
人を救う、という文字に置き換えてみれば、救えるのはごく少数の身近な人間だけとなる。
世界を救う、なんて夢物語を話す者も一度自らの手を見て、よく考えてもらいたい。
――果たして、こんなちっぽけな掌2つで、世界を掬うことが出来るか?
「……勝手なことを申してしまい、すみませんでした」
リーシャは腰を深く曲げて、反省の意をリアナの前で表す。
「まぁ、別にいいさ」
それをリアナは、ようやくわかってくれたのか――と勘違いしていた。
「当事者でない人間が首を突っ込むなんて、おこがましいですもんね」
「あぁ」
「それに必ずしも、彼らが救いを求めているとも限りませんしね」
「そうだね」
「当事者である彼らの中で、解決しようと動いている人間もいるでしょうし、私達が介入してややこしくなる可能性もありますもんね」
リーシャの沈んでいた声が、徐々に高さを帯びていく。
「救うにしても、自分の力量を見極め、彼らが本当に救いを求めているのを見極めないと、いらぬお節介、ありがた迷惑になるって……リアナ様はそうおっしゃいたいんですよね?」
ずずっ、とリーシャの顔がリアナへと近寄ってくる。
「救おうと動いたことが、必ずしも彼らの助けることにならない。私、盲点でした。流石リアナ様ですっ!」
「えー……」
なぜ、落胆ではなく、称賛してくるのか。
リアナには、到底リーシャの思考回路が理解出来ない。
結局、色々と言葉を着飾らせてはいるものの、彼らの命を見捨てることには変わりないのだ。
「(いっそのこと近くの村でも壊滅させて、意地でも失望させてみるか……?)」
大変物騒なことを考えるリアナに、その心の内を知らぬリーシャは自分の中でどんどんリアナを神格化させていくのであった。
【クレヴ】
実験開始から3日。
何もいいアイデアが思いつくことなく、完全に行き詰まってしまっていた。
そもそも、出来の悪い頭なんかで、ほぼ魔法の開発に近しいことをするのが不可能ってものだ。
もうね、いっそのこと放り投げてしまいたいところなんだが……中途半端っていうのも気分が良くない。
探究心も強い方であるために、なかなか諦めきれないでいたのだ。
それに、途中で投げてしまえば、文句一つ言わずに付き合ってくれているボンデッドさんに悪いしな。
よし、いったん思考をクリアにして、一から考えてみるとしよう。
初心に返る、で合っているのか分からんが、とにかく基本は大事だというし。
そもそも、魔法とは何なのか、ってところから記憶を探っていこう。
魔法――それは人間にとって、曖昧なものだそうだ。
良く分からない、得体の知れないものを平然と使っている俺達だが、詠唱すれば魔法という現象が起きるから、その存在を信じることが出来ている。
魔法は、確かにある。
だが、魔法とは一体何なのか。
……と、この疑問は何度目かも分からないが、多分俺の中で解決することはあり得ないと思う。
それはきっと『水は何で水なのか?』というようなことと一緒な気がするのだ。
物の説明というのは、その物を細かく区切ることだ。
例えば火でいうならば、あれは熱と光で出来ている。では、熱とは何なのか。そして光とは何なのか……と、こういった風に細かくなっていくものだと俺は思っている。
要は、根本的な説明となっていないのだ。
『水は何で水なのか』、なんて結局最初に水を発見した人間が、『水』だとネーミングしたから水なのだ。
水が水なんだと、何の説明もなしに納得していなければいけない。
そういうものなのだと、無条件に信じ込まなければ、人間には説明が出来ない……というのが俺の自論である。
まぁ、これを何で今持ってきたのかというと、全くもって自己完結出来そうになかったからだ。
で、話を戻そう。
魔法とは何なのか……それはもはや無条件で『曖昧なものなんだ』と納得しなければならないだろう。
そういうものなんだ、と理解したつもりに、だ。
人間には、到底分かりっこない。
そういう時、人間はどうしていたか。
――困った時の神頼みってヤツだ。
Q.この世界は何で生まれたのか?
A.神様が創ったから
といった感じで、理解に及ばないものに対しては神の仕業だと、そう信じられてきたのだ。
共通語なんてそのいい例だろう。
この世界全体に、同じ言葉が普及したのは、神様のおかげだって感じで――
「あっ……」
まさか、こんな簡単なことを見落としていたとは。
言葉を神が創りだしたのだとすれば……魔法だって神様が創ったものだと考えられるじゃないか。
それで、理由は知らないけれど、人間は魔法を用いるために、言葉を使った。
人間が、詠唱魔法を造ったのではない。
神が創った詠唱魔法を、人間が言語を使って用いているだけなんだ……と推測出来る。
そう考えれば、すんなりと頭の中に入れることが出来る。
「うーん……」
といっても、それが分かったからといって、俺が隷属魔法を解くための詠唱を直接的に思いつくヒントにはなりえない。
でもまぁ、そこで止まっていても仕方がない。
先に進むとしよう。
さて、詠唱魔法は神様が創りだしたものだとして。
同じく神の創造物である共通語と同時発生したとすれば、相当時間を遡ることになるだろう。
確か、正確な年代は未だ分かっていないが、少なくとも1万年以上は前のことだとされている。
その頃に書かれていたとされる文字が、名前も分からない、とある遺跡で発見されたのだ。
古い時代に、石版に刻まれた文字は今の文字とは少し違っているらしいが、今の文字の方がやや砕けただけって感じらしい。
似ている形に文字を当てはめてみれば、文章として成り立ったというのだ。
で、その肝心な内容であるが……特に大したことではないらしく、今でいうところの日記に書くようなものだったという。
……まぁ、これはいつものごとく、博識なレイオッド先生から聞いた話である。
モンスターだけでなく、こういった雑学にも精通しているから尊敬に値する人物であったのだが……父といい、どうして優れた人間というのは、変態性までセットなのだろう。
と、思考が逸れてしまったが、ようするに詠唱魔法の歴史というのは、相当に長いと考えられる。
で、だ。
文字は時を経ることで、形を変えた。
ということは……詠唱魔法もその詠唱が変わったと考えられないだろうか?
俺の知る、契約魔法――もとい隷属魔法。
これは明らかに、他の詠唱魔法に比べて詠唱が長い。
てっきり詠唱が長い魔法なのか、と自然に納得していたところであったが、怪しいとは思っていたのだ。
これがもし、昔の詠唱魔法の形だとすれば、どうだろう?
それなら、他の詠唱魔法と詠唱の長さが違うことに理由をつけることが出来る。
詠唱魔法は、主に攻撃手段として使われるものだ。
ということは、出来るなら素早く使いたいと考えるのが普通だろう。
だとすれば、詠唱は短い方が喜ばしいはずだ。
そう考えた昔の人間は『ある方法』で、その詠唱を短縮したんだ。
――それこそ先ほどの水の話と同じく、詠唱魔法の詠唱の代わりにネーミングすることによって。
多分、その『ある方法』というのは、まさに失われた技術ってヤツなんだろう。
まぁ、短く出来てしまえば、後はその方法自体がいらなくなってしまうしな。
と、推論をずらずらと並べてみたが、これが正しいとも限らない。
だが、少なくとも方向性は見えてきた気がする。
つまり、あの隷属魔法を解く詠唱をいかに短縮することが出来るか。
……前よりも、考えることが増えた気がするが、多分気のせいだ。うん、きっとそうに違いない。
結局、この日も考えるだけで1日を終えるのだった……。
【ルシル】
魔法学校の方に、王から召集がかかった。
通常ならば、優秀とはいえ、まだまだ未熟な魔導師である彼らに危険を晒すことはないのだが、それほどの余裕がないために召集がかけられることになったのである。
基本は参加を強いられるものなのだが、一部の有名貴族の子女なんかは多額の金を支払うことで、参加を免除しているらしい。
尤も、平民出のルシルには、関係のないことではあるけれど。
「戦争かぁ……」
こんな状況故か、魔法学校は休校となり、時間が空いてしまったということで友人であるフィリーネと一緒に平民区を歩く。
学校にいても仕方ない、と未だに暗い表情を浮かべるフィリーネの気分転換として散策に出たのだが。
住民が避難するためか、慌ただしい空気があちこちに漂い、それどころじゃないと今更思い知らされる。
「確かに私も嫌だけど……」
フィリーネの溢した言葉に、ルシルは相槌を打つ。
ルシルの横に並ぶフィリーネだが、小動物みたいなナリをして、実はバトルジャンキーであったりするのだが、彼女は戦うこと自体が好きなだけで、殺すことまでは好きでない。
特に人を殺すのには、躊躇いもあるようで――というか、そんな危険人物であったなら、ルシルはフィリーネと友達になっていなかっただろう。
「魔導師ってことで参加するんだし、最前線とかには参加しないでしょ」
まだ戦闘経験の少ないとされる彼女らを、先陣に置くほど王や軍事関係者も愚かではあるまい。
例え、魔法の一つで一掃といった、兵士の力では到底出来そうにもない芸当が出来るということで、魔導師は主力として見られるとしても、だ。
最初からガンガン魔法を打たせていて、途中で魔力が切れてしまえば、魔導師は非力な存在に成り下がる。
だから、初めはベテランの者を小出しにしておいて、追い込まれそうになった時に逆転を狙って投入、というのがセオリーともされているのだ。
それに、魔導師は相手の魔導師の牽制するのが主であり、戦場で一騎当千というのも、余程の手馴れでなければ、難しいという。
「うーん、それは分かってるけど、どうしても脳裏に"あの光景"がチラついちゃって」
フィリーネの言う、"あの光景"というのは、随分前にアスタールの広場で行われた葬儀のことである。
レイオッドという男のせいで、姿を変えられた友人を自分の力で殺めたこともあり、今でも心に重く残っている。
そもそも勝てるかどうかも分からない戦争に挑むのでさえ嫌なことだというのに、無事終えたとしてもあの重苦しい葬儀が待っていることだろう。
戦争が起きれば、人は死ぬ。
亡くなった中に知り合いがいなくとも、気分があまり良くないものであろう。
「でも、逃げるわけにもいかない」
ルシルの言葉に、フィリーネが頷く。
彼女達に、逃げるという考えはない。
それは、ただの強がりかもしれない。
だが、ここで目を逸らしたとしても、戦争が起きるであろう事実は残る。
彼女達には、力があるのだ。
その力を普段から鍛えているのに、それを発揮する機会を自ら手放すなんて、それこそ日々の努力が無駄となる。
戦争は、人の殺し合いだ。
今、ルシル達も含め、ルイゼンハルトに住む者に殺意が向けられているといってもいい。
相手を殺めなければ、自分達が死ぬこととなる。
例え、人を殺すことで気分が害されようが、これからを生きるためには、必要なことだ。
「戦争を回避するために、こっちから降伏する、なんていうのはないかなぁ?」
「ないでしょ。あっちはバリバリ戦争する気なんだから、下手に出ようものなら全部貪り尽くされるんじゃないの?」
抵抗しなければ、相手に奪われるのだ。
金も物も、多くの人の命も。
――特に、ルシルにとっては、騎士団に所属するジェフ・クリスターが命を落とすということがあれば、腹が煮えくりかえるどころではないだろう。
「ま、死なないように頑張りましょ」
ルシルは軽い口調で言うものの、目元の表情に鋭さが増すのだった。
【貧民区にて】
ルシル達が街を散策しているのと同時刻。
普段より人があまり寄り付かない寂れた建物に、一通の手紙が届いていた。
そこには、
『仕事抜け出してでも、そっちに戻るっす。
「あの時の助けた借り」は、戦争で返してくれたら、ありがたいっす』
と、乱暴な字で書かれていた。
それを見たアウトローな彼らは、普段ならば国に不干渉である。
だがしかし、彼らの若頭(?)からの要望なために、この手紙の指示に逆らう者はいなかった。
むしろ、『自分の仕事放り投げてでも、戦争に殴りこみとかマジパネェ』と、頭の弱い彼らは若頭(?)の心意気に歓喜していた。
こうして、義勇軍の中に場違い感が否めない『黒を見通す者達』と、それに張り合って『拘束する銀』まで参戦することになったのであった。
……まぁ、まともな武器を持ち合わせていないために、物資を運搬するといった後方支援として、だが。
2話も続けて説明回ですいません。
次話でクレヴの魔法研究完結編を入れて説明回が終わりになりそうです……。
それが終わったら、戦争突入……になってればいいなぁ。




