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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
フルデヒルド
61/136

11

今回は恒例(?)となっている停滞ムード漂う説明回です。

動きがあまりなくて、申し訳ないです。

【ルイゼンハルト 城にて】

 あれからアーノルド王含め数人の者が消失したゴーレムの行方を探すが、散々な結果に終わっていた。

 度々会議で集まるも、誰からも大した成果を聞くことは出来ず、城の中に険悪な空気が漂う。


 そんな中、アーノルド・ハーディアは自室にて別のことに懸念していた。

 それは彼の娘、リュドミラがいなくなってから未だ姿が確認されないことである。

 強力な兵器であるゴーレムが消えるという一大事で、姫とはいえ妾の子であるリュドミラは後回しにされていたのだ。

 アーノルド個人としては、仕事を放り出してでも探しに行きたいところだが、ここで王が勝手な振る舞いをすれば、更に余計な混乱を招くだけ。


「(こう自分の身分が(わずら)わしいと思ったのは、もう何度目だろうか……)」


 歯噛みしながら、王は自室にてクロードからの報告を待つ。

 クロードには、例の連中に探りを入れてもらっているのだが、全く成果を得られず難航している。

 そもそも、王が根拠もなく『あの連中』がやったのだと思い込んでいるが、『あの連中』がこの2つの件に関わっていない可能性もあるのだ。

 が、王は自らの勘を信じ、その線で考えを深めていく。


「(単純に『あの連中』から情報が手に入らないということは、盗んだ相手は資金力のある貴族なのか?

 いや、金を支援するだけのパトロンという可能性もあるか)」


 いくら考えても、情報がないので犯人の目星が皆目見当もつかない。


「(……裏切り者)」


 騎士団長のミハエルが言っていた言葉を思い出し……強く首を振る。

 身近にいる人間が敵と内通していると、考えたくなかったからだ。

 信頼し、仕事を任せた者達を疑うことが、彼には苦手だといってもいい。


 彼は人が()いのだ。

 先代の王があまりにも一人で皆を引っ張っていくタイプだったため、彼は先代を反面教師にし、周りの者の意見を積極的に取り入れようとした。

 ……まぁ、血は争えないのか、たまに独断で決めてしまうこともあるのだが。


 正妻である王妃は身体が弱いために、本人から、

「もしかしたら、私では丈夫な子を産むことが出来ないかもしれません。ですから、妾をもってみてはいかがです?」

 との言葉を貰ったものの、「愛する者以外は抱けん」、と彼は今時の男にしては高尚な貞操概念を示すが、王妃からの懇願で渋々妻以外の2人の女性と関係を持った、という話があるぐらい、人が好い人物なのだ。

 ……余談ではあるが、産んだ子供の数でいえばその2人の妾よりも王妃の方が多かったんだという。


 そんな彼だからなのか、妙な人徳があり、周りの人間に支えられているところもある。

 反対に、そんな彼に任せていられないという者達もいるのだが……彼はその者達と正面から向き合おうとしたことが幾度もあった。

 だが、不満点があるなら出来るだけ改善しようと努め、無理難題を吹っ掛けられたら、その必要性やらを言及し論破しているために、現在ではそんな彼らは身を引いているのだが。


 彼自身、わざわざゴーレムを盗まれる程の恨みを買った覚えもないし、周りの人間に対して露骨に態度を変えることはしていない。

 それに、一緒に国を動かす仲間を信じている。

 それが高い役職に就き、強い権力を振るいたいとしても。

 国を良くしたいという思いさえあれば、ゴーレムを盗むことなど考えまい。

 国が良くなれば、自らの懐も自然と膨れ上がるものだ。

 極度に私利私欲のために権力を振るっても、いずれはどこかで破綻する。


 彼は自分の周りにそんな人間がいないことを、信じているのだ。 

 

 そんな彼に、この知らせはある意味では吉報だったかもしれないし――同時に悲報でもあった。

 乱暴にドアをノック音が聞こえた後、アーノルドの返答を待たずに鎧を身に纏った男が部屋へと入ってくる。

 立派な口髭を生やした近衛隊隊長のフリーデンである。


「いきなりの訪問というご無礼をお許しください。すぐに御伝えしたいことがありまして……」


「随分と焦っているが……まさか?」


 アーノルドの問いにフリーデンは頷きを返し、すぐに部下の方へと視線をやる。


「はい、つい先ほどのことなのですが、こんなものが届けられていまして」


 部下が手に持っていた小包をアーノルドへと手渡す。

 小包には宛名が書かれていないためか、フリーデンが危険物が入っていないかと確認したので既に開封済みであった。


「むっ……」


 その中には、数枚の手紙と――そして見覚えのある深い青色をした長い髪の束が入っていた。

 青髪をした人間はルイゼンハルトの中では珍しく、王族の者以外は殆どいないといってもいい。

 ただ、他の街であるならばいるかもしれないが、こうして城に意図的に送って時点で、アーノルドの頭には一つの可能性しか浮かぶことはなかった。


「(これは……リュドミラのか?)」


 長い間、丸っきり娘の行方が知れなかったのだ。

 微かな希望であろうとも、アーノルドには(すが)り付くしかあるまい。

 ツヤがやや失われた青髪をしばらく見つめた後、今度は手紙へと視線を移す。


 そこには、乱雑な字で、こう書かれていた。


『ルイゼンハルトに住む者よ。

 我々、召喚魔導師は今もなお、"そちら"がしたことを忘れはしない。

 罪もなき我々を一方的に悪だと決めつけ、排除したことを忘れはしない。

 

 かつては虐げられた歴史を持つ"そちら"は、不当なる支配者に革命を起こした。

 それは理不尽な処遇を受けていたからではないか。

 そしてそれは……我々も同じことだ。

 

 今も尚、上っ面だけの正義を(かか)げ、悠々と暮らす者達よ。

 我々は真の正義として、立ち上がろう。

 我々が王の血を継ぐ者とフルデヒルドの民と共に、今一度革命を起こすという形で』


 アーノルドは手紙から目を離し、そしていつの間にか止まっていた息を深く吐いた。

 この手紙の内容を要約すれば――フルデヒルドからの、ルイゼンハルトに対する宣戦布告、ということになるだろう。


「(これはなんの冗談だ?)」


 いっそのこと笑い飛ばしてしまいたくなるが、これがもし本当のことだとするならば……彼には笑うことが出来ない。

 こちらは現在ゴーレムを失い、バタバタとした状態であり、とてもじゃないが戦争をしている場合じゃない。

 最近では平和な時間を過ごしていたためか、食糧の備蓄も心(もと)ないし、そもそもいきなりのことで現在動かせる戦力は常備軍である近衛隊と一部の騎士だけだ。

 ギルドの方で召集するにも、各地に配備された騎士を集めるのにも、時間が必要なのである。

 

 しかも、あちらには最低1体――もしかすると4体のゴーレムがいる可能性もあるのだ。

 こうして宣戦布告をしてくるということは戦う準備は既に完了しているだろうし、すぐにでも向かってくるのだとすれば、大した抵抗も出来ず敗北するかもしれない。


「(だが、フルデヒルドに騎士を置いているのに何故こんな報告が届かない?)」


 やはり、これはただの悪戯なのか。

 しかし、彼には連続で舞い込んでくるトラブルに、どうしてもこの手紙の内容に警戒せざるを得なかった。

 

「……フルデヒルドにいる騎士から何か連絡は?」


「はっ、つい先ほど私の独断で部下を向かわせましたところです」


 度々なるご無礼をどうかお許しください、と続けてフリーデンは頭を下げた。


「仕方あるまいて。焦っていたのだろう? それに私とそなたの仲ではないか」


 アーノルドとフリーデンの2人は竹馬(ちくば)の友であり、(おおやけ)の場でない限りはもう少しフランクな対応をしても良いと考えているのだが。

 フリーデンは生真面目な男であるのか、言葉遣いを崩さずただ謝罪を繰り返した。


「それにしても……この手紙は悪趣味ですな」


 謝罪を聞き飽きたアーノルドは、フリーデンに謝罪を止めるように言うと、続いて出てきた言葉は手紙のことであった。


「悪戯にしても真の正義を名乗り、あまつさえ"召喚魔導師"の名を使うとは」


 顔をしかめるフリーデンに対して、アーノルドは浮かない表情を浮かべる。

 

 ルイゼンハルトの人間は、基本的に召喚魔導師のことを嫌っている。

 それというのも、手紙に書かれていた『彼らを排除したこと』も関係してきている。


 それは100年くらい遡るだろうか。

 まだ王の家名がここと同じく『ルイゼンハルト』だった頃のことだ。

 島でも中心にあるという土地的なこともあり、商業によって発展していくウルティアナ(現ルイゼンハルト)の街に目を付け、ソムディア(その当時はルイゼンハルトと呼ばれていた)から城を移したのである。

 ……多くの貴族が王へと着いて行った結果、ソムディアには教会関係者以外に有力な者がいなくなったために元々強かった宗教色が更に酷いものになったという。


 話は戻る。

 で、その時の王というのは、とにかく我儘(わがまま)で暴利を(むさぼ)り、民のことをまるで考えない愚かな王だった。

 王に気に入られた一部の者以外、生活に困窮した者が増え、発展した街中だというのに飢餓が起こっていたのである。

 そこで我慢の限界を迎えた者達が、反乱を起こした。

 碌な武器などなかったし、死者も大勢出たものの……彼らは執念で王から勝利をもぎ取った。

 その王含む重鎮の貴族を処刑し、残りは全て追放ということで、その反乱は終結した。

 その反乱――後に革命と呼ばれるもので民側の代表を務めていた貴族であるハーディア家が、空席に収まる形で新しい王になったのである。

 ……これが街の名はルイゼンハルトであるのだが、愚か者の王の名を継ぐのを嫌がった当時のハーディア王は家名はそのままハーディアでいくことに決めたのだ。

 それでも街の名前を変えようとしなかった、というのだから、そのハーディア王は変わり者だったとも言われている。

 

 で、ここからが本題だ。

 ハーディア家が王族と成り変わってから、今まで中途半端にしか手のつけられていなかった魔法について研究を取りかかるようになったのである。

 

 そしてそこで、問題となって浮かび上がってきたのが……召喚魔導師の存在だった。

 今までは魔法が放置されていたために、そもそもその存在が知られていなかったのだ。

 だが、調査を進めていくうちに、まだ未知のものであった隷属魔法なんてものを古代遺跡で発見してしまい、その効果を調べるために色々試してしまったのがまずかった。

 もし、この魔法がモンスターだけにしか効かないのであれば、そこまで問題にはならなかったのかもしれない。

 だが、人間にも有効だと気付いた時――当時の研究者は恐怖を覚えたという。

 魔法抵抗、という防衛手段がなければ、召喚魔導師の操り人形にされてしまう。

 たとえ、召喚魔導師にそんな意志がなくとも、人としての自由を奪う手段があるだけでも怖いというものだ。


 それに気付いてから、研究者達の動きは速かった。

 国に早急に話を持ちかけ、召喚魔導師達を国で管理するようにしたのである。

 犯罪者などに隷属魔法を使い、強制労働させることで国がより豊かになるように仕向けたのもこの頃で。

 どうせ国で管理するのなら、と召喚魔導師の殆どをその仕事に就かせたのだ。

 これで、ようやく皆が平和に暮らせる――なんてことはなく。

 そんな強引過ぎる解決手段は、召喚魔導師の反感を買うこととなった。


 大多数の人間を安心させるために、今度は召喚魔導師の自由を奪ったのだ。

 同じ人間であるというのに、何故管理されねばならない?

 人間扱いされていないと不満を(つの)らせ、そしてそれは、いとも簡単に暴発した。

 召喚魔導師を管理する体制が始まってから(わず)か半年。

 革命後からまだ復旧の終わらないルイゼンハルトで、召喚魔導師の一部が暴徒と化した。

 街中にモンスターが放たれ、今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすために彼らは街に混乱を招き続けた。

 が、そんな騒動も数日足らずで鎮圧されてしまう。

 それは召喚魔導師の数が他の魔導師よりも少ないことや、新しく王となった者が迅速な采配をとったためである。

 

 敗北した召喚魔導師達に残された道は二つ。

 一つは、この街を捨て、新しい場所で生きていくこと。大多数はこちらを選んだ。

 そして、もう一つはこの街に残ること。

 捕縛された者やルイゼンハルトを離れたくない者、そしてこの騒動に参加しなかった者はこちらを選んだのである。


 それから、当時の初代ハーディア王は、この騒動を踏まえて召喚魔導師へ次のような対応を取ることとなった。

 まずは召喚魔法の適性を持つ者を徹底的に洗い出すこと。

 力の強弱関係なく、その適性を持つ者を探し出し、国にその名を登録させたのだ。

 やはり、その力を隠して他の者と生活されるのは困るため、召喚魔導師の数を把握することから始めることとなった。

 それに続いて、隷属魔法についての情報は国が禁忌に指定。

 次の世代に伝えるものではないと判断……したものの、奴隷を動かすにはそれ以上に有効な手段がないために、国が認めた召喚魔導師にのみ、隷属魔法を伝えられることとなった。

 

 その次に、召喚魔導師が受け持てる仕事の幅を増やした。

 今までは奴隷の管理のみだったのを、モンスター対策の研究チームへの加入や、ギルドで冒険者になるなど。

 一部制限がかけられてはいるものの、その能力をいかした仕事に就くことが出来るようになった。


 また、今まででは例の隷属魔法があるために、人前に出ることが許されなかったのだが、それが許されるようになった。

 ただ、召喚魔導師は行動の許可を国へと申請を貰わねばいけない、という大変面倒なことが義務付けられているのだが。

 隷属魔法の使用を厳しく禁じる法も敷かれ、街中で使用された場合は情状酌量の余地なく処刑が決まっていた。


 こうして、他に比べて生きにくいものの、ようやく人間らしく生きることが許された召喚魔導師。

 だが、あの騒動はこの街の民の心に深く刻み込まれたのか、迫害されることも度々あった。

 召喚魔法が使えるというだけで化け物扱いされ、恐怖された。


 過去の召喚魔導師がそんなことをしたからって、今の時代に生きている者がしたわけではない。

 そんな不満が溜まりに溜まって、今回のルイゼンハルトに戦争を吹っ掛けるようなことが起きたのだろう。


「……まずは、王都(ルイゼンハルト)内の召喚魔導師の確認からせねばな」


 これが仮にルイゼンハルトの外から宣戦布告されたからといって、街の中にいる召喚魔導師が便乗しないとは限らない。

――ちなみに、その召喚魔導師のリストの中には、クレヴという名前は存在しない。

 これは果たしてカミラ・リーベックの優しさからなのか、それとも彼女の護衛対象であらせられる人物への配慮なのか。

 この答えは、彼女の胸の内にしか存在しない。

  

「これが冗談で済めばいいのだが……」


 アーノルドはフリーデンに聞こえないように、そっと独り言を漏らす。

 これから、あれこれ準備なり確認なりで目を回すくらいに忙しくなる。

 若い頃なら連日徹夜でも平気であったが、今では普段でさえ重くなっている身体だ。

 夜通し働いたら、どれほど辛いのだろう、と考えると余計に億劫(おっくう)となってしまう。

 だが、上に立つ者としてやるしかない、と彼は気合を入れ直し、遅い時間ではあるが、本日二度目の召集をかけるのであった。







【クレヴ】

 実験初日。

 本日のお勤めを終了し、疲れた腕を飯を食らい、水浴び場で身体を拭い、後は寝るだけとなったところで。

 俺は獣人の彼らに、ある発言をした。

 それは何なのかといえば、『隷属魔法について調べたいから、協力してくれ』ということ。

 だが、その言葉に対して彼らのリアクションはというと、唸り声で威嚇してくるというものであった。

 獣人の彼らとようやく打ち解けてきて、発言前までは彼らとの間に少し和やかな空気が流れていたのだが、完全に敵対視されていた。


「とうとう本性を表しやがったな!」 


「待ってくれ、俺は別にお前さん達を従えたいとか考えてないから。つーか、お前さん達なんて従えたくない。世話とか面倒そうだし」


 本音と本音をぶつけ合うのだが、彼らは俺が嘘をついていると見ているようで、なかなか警戒を解いてはくれない。

 まぁ、すぐに襲われなかった、と考えれば随分と仲が進歩した、ってことにもなるが。


「おれ、協力、してもいい」


 そんな中、ボンデッドさんが名乗りを挙げた。

 初めてボンデッドさんの共通語を聞いたが、普段から使っていないのか、なかなかに拙い共通語(コモン)ではある。

 だがしかし、こんな状況下であったためなのかは知らないが、その低い声はなかなか心に染みる。


「ボンデッドさん……」


「恩は、返すものだ」


 やや涙もろくなった目でボンデッドさんを見ると。

 彼は他の獣人とは違って、俺のことを優しい顔でこちらへと近づいてきてくれた。


「で、おれは、何をすればいい?」


「えっと、まずは隷属魔法について知っている範囲で教えてくれないか? この魔法をかけられた感想だけでもいいからさ」


「ん、そうだな。一言で言うと、隷属魔法は、面倒」


 彼はゆっくりと(ひと)単語ずつ語ってくれた。

 

 まずは、行動の制限について。

 これについては、『~しか出来ない』というのではなく『~をしてはいけない』という行動を禁止するようなものであった。

 もし、その命令に反すれば、身体中に大変強い痛みが走るという。

 彼らの意思を無視して身体が勝手に動く、ということはないらしい。

 で、その命令はいくつまで可能なのか聞いてみるが、それは不明だと返された。

 まぁ、彼はそこまで多くのことを命令されている訳ではなかったので、隷属魔法の命令にも限度があると考えられる。


 次に、その命令について。

 命令は彼らの言葉に人形のように全て従う、というのではなく、詠唱魔法という形で命令をするのだという。

 『命令(コマンド)、~をするな』、といった感じらしい。

 で、その命令が細かくなればなるほど、その詠唱魔法は失敗しやすくなるらしい。

 といっても、簡潔な言葉では、どこまでが許されて、どこまでが禁止なのかというグレーゾーンが広がるんだとか。

 例えば、『命令(コマンド)、戦え』というものであるとするならば。

 誰と戦うのか、そしてどうやって戦うのか、という命令がすっぽりと抜け落ちている部分は、自分の意思で選択出来る。

 その"誰"という部分が、命令している召喚魔導師であっても、だ。

 また、極端な命令で『死ね』と言われても、老衰死とか考えれば生き延びることも出来そうである。



「そうか、ありがとう」


 あまり隷属魔法については知ることは出来なかったが、まぁそこまで期待いなかったので、別に構わない。

 実験はまだ始ってすらいないのだし。


「んじゃ、ちょっと変なことするかもしれないが、我慢してくれよ?」


 そう言って、手で彼の身体に触れて『魔導式魔力放出』を試みる。

 ……そう、俺が実験したかったというのは、彼らの隷属魔法をどうにか解いてあげられないか、というものであった。

 でも、俺の知る契約魔法では、本人でしか解除することが出来ない代物であったため、通常の方法だと俺なんかでは、不可能に近いのであるのだが。

 その不可能を可能にする方法を、『魔導式魔力放出』に見出した。

 前例として、リアナが俺の『誘惑』を治した時にも使われたのだから、出来なくはないだろうと考えたのである。


「!!?」


 彼の身体が大きくビクリと動くものの、その場から離れることはない。

 どうやら彼は義理固い性格のようで、咄嗟に振り上げた拳を、すぐに収めてくれた。

 まぁ、この反応から見て、魔導については未知のことなんだろう。

 ずっと我慢させておくのも悪いので、別に害を与えるものじゃないから大丈夫、と声をかけておく。

 

 で、初めて人体に用いたが、空気とは違って放出した途端に霧散するのではなく、彼の身体に魔力が巡っていくようであった。

 流し方によっては、彼の全身から魔力を放出させたり、俺の手のところまで一周させて俺の体内に放出した魔力を戻したりすることも出来た。


「うーん……」


 ただ、流す勢いに強弱をつけても、彼の身体に特に変化は見られなかった。

 以前、リアナが『誘惑』を治してくれたような結果を期待していたのだが、駄目だったか。

 まぁ、何か隷属魔法から解き放つようなワンアクションがなけりゃ無理だってことは、分かっていたから、そこまでのショックはなかった。

 

 で、ここからが長かった。

 そのワンアクションをどうすればいいのか、とあまり回転の速くない頭を必死に巡らせるも、結局は『目には目を、詠唱魔法には詠唱魔法を』という発想しか出てこなかった。

 発想としては出てきたものの、俺は隷属魔法を解除する詠唱の知識がない。

 契約魔法を補完したような形、という想像はつくのだが、どう補完して良いものか、と思ったのだ。

 単純に隷属魔法の言葉を逆さまにすればいいのだろうか、と思ったが、なかなかうまくいかない。

 確か、隷属魔法の詠唱といえば、


「『我が力、拘束と為りて汝に戒めを与えん。我、汝を求めん。故に汝、我に従え』」


 という感じだった。

 で、試しに反対にしてみると、


「『我が力、解放と為りて汝に戒めを解き放たん。我、汝を求めじ。故に汝、我に逆らえ』」


 となるのだろうか?

 ……分かるだろうか、この何とも言えないちぐはぐとした感じを。

 何というか、自分の求めているようなニュアンスとは、少し違う気がするのである。

 しかも、契約魔法を解くための詠唱はというと、「『我、今をもって、汝の戒めを解き放たん』」って感じで言葉が(かぶ)る。

 

 契約魔法の例から考えれば、言葉の意味を反対にすれば詠唱になる、とも言えないことが判明したし。

 こうなれば、後は隷属魔法に対応した詠唱魔法を開発する気持ちで取り組まなければならなくなった。


 詠唱魔法の開発など、素人の手には余るものだというのに。

 せいぜい出来ても、詠唱魔法のアレンジ、といったところか。

 また、そのアレンジもせいぜい簡単なもの程度だ。


 というか、魔法って本当に何なのだろう。

 昔から考え続けても答えが出てこない。

 誰もが曖昧なもの、で納得してしまうが、説明になっていないと思った。

 そもそも、詠唱魔法は本当に人間の手で作られたものなのかも怪しい。

 

 曖昧で、いまいちよく分からない、魔法の存在。

 そんな魔法を"定め"、使用するために人間は言語を用いた。

 魔法を詠唱という形で発現させたのだ。

 だが……ここで、俺は一つ疑問に思ったことがあった。

――詠唱と今普通に使っている言葉の違いって何だろう?、ということである。


 一番明確な違いといえば、その言葉に魔力が作用する、または代償とされるかどうか、だろう。

 でも、何故詠唱は魔力が作用し、普通の言葉では作用しない?

 魔法学校にいた教師が良く言っていた『イメージ』とやらが、足りないとでもいうのであろうか?


 かといって、明確なイメージがあっても、魔法とならないことだってある。

 魔法の存在を知り始めた頃、俺の体内に魔力が存在すると判明した時のことだ。

 サラナ村にも魔導師はいるもんで、目に焼き付ける程に『フレイム』を見せてもらっていたのだが、俺には何をやっても全く出来なかったのである。

 脳内イメージなら、目を(つぶ)った一瞬後には、鮮やかな炎の姿を想像出来ていたのだが。

 ちょろっとした火の粉すら、出ることはなかった。

 

 まぁ、俺に『フレイム』が出来ない理由としては、火系統の詠唱魔法――というか、召喚魔法以外の適性が全くない、ということであったからだったが。

 仮に、適性があったところで、詠唱の形になっていなければ、魔法とはならなかったのである。


 これは――いつの頃だっただろうか。

 まだ確か母の病気が発覚してない頃ではあったと思う。

 レイオッド先生の手伝いのお礼として、俺は一度レイオッド先生にあるくだらないお願いをしたことがあった。


「新しい魔法のアイデア、ですか?」


「戯言みたいなモンなんで、軽い気持ちで付き合ってくれるとありがたいです」


 剣の才能がまるでないと判明した時期から魔法に憧れを持っていた俺は、頭の中で『こんな魔法はどうだろう』と妄想していた一つを、先生に語ったのである。


「水系統で回復魔法なんて出来ないかなー、と思いまして」


 この発想は、先生が前にモンスターの治療として、とある培養液を用いた時に思いついたものであった。

 詠唱魔法を攻撃にばかり目を向けるのではなく、回復にも着眼してみては、という意見だったのだが。

 それを聞いた先生は一応、試してみてはくれると言ってくれたものの、苦笑いをその顔に張り付けたままだった。

 そして、その苦笑いは先生が最初からそんなことを出来ないと、暗に言っていたものであった。


 『アクア・リカバー』と名付けたものであったが、詠唱魔法とはならなかった。

 効果がない、どころか魔法すら発動しない。

 『詠唱』ではなく、ただの『言葉』のままだった。


 その後、先生に水系統の魔法について少し教えてもらったところ。

 水系統の魔法では気体、液体、固体といった状態変化は出来ても、その性質までは変えることは出来ないとか。


「しかしまぁ、回復魔法の仕組みが判明して、その仕組みを上手く組み込めば出来るかもしれないけどね」

 と最後には慰めてくれたものの、なかなかにショックが大きかったものだ。


――例が長くなったが、つまり人間の使う魔法――詠唱魔法は"定める"ことが必要。

 ただし、イメージと詠唱だけでは、魔法とはならない。

 曖昧であったとしても、ある程度の『何か』の理解が必要だということだ。



 この日は特に成果を得ることなく、ボンデッドさんにまた実験に協力してくれるように声をかけた後、床で就寝。

 俺の頭では難解過ぎる問題にぶつかって、早くも心が折れそうだ……。

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