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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
フルデヒルド
54/136

4

【クレヴ】

 ガタガタと地面が揺れる。

 地震、にしては縦揺れだから、多分違う。

 じゃあ俺は今、馬車の上にいるのか? 妥当なところ、多分そうだろう。

 これはきっと、つい先日まで馬車に乗っていたから、夢でも見るようになってしまったのか?

 

 だとしたら、あんまり良くない夢だな、これは。

 夢の中でも俺の身体は横に寝転がっているのだ。それに、何だか眠り辛い。


「ん……」


 どういう訳か、寝返りを打とうにも出来ないし。渋々、(まぶた)を開くが、何だか周りが薄暗い。

 ソムディアから帰る途中に乗ってきた馬車には窓があって、充分に光が差し込むから暗くないと思ったのだが。


「んん?」


 起き上がろうとするも、出来ない。

 一瞬金縛りかと疑うものの、全部が全部動かせない訳では無いようだった。

 感覚的に、手を背中の方に回されて、手足が縛られているのだろうか?

 ……うーん、俺には、こういった願望はないと思ったんだけど。


 徐々に、ぼやけた意識が覚醒していく。

 身体のあちこちが痛い。夢に五感、つまり痛覚もないはずだ。

 ということは……これは現実か?

 一旦、落ち着くために深呼吸し、今の状況について考えてみる。

 まず、俺の状態から。

 両腕と両足が縛られた状態で、床に寝転がらされている。

 その床も振動があることから、馬車だと推測できる。

 全身に痛みが走り、うまく力が入らない。多分、これは気を失う前に何かあったせいだろう。

 何があったのか、ゆっくりと思い出してみる。

 確か――そうだ、いきなりよく分からん輩に襲われたんだっけか。

 んで、今こうして馬車の中で縛られているのは、彼らがやったって可能性が一番高いな。

 

 とりあえず生きていて良かった、と安心したところで。

 そういえば、俺以外にも襲われた人間がいたことを思い出す。

 リュドミラ、だっただろうか。あのシリアの妹だけあって、なかなか個性が強い人間だった気がする。

 なんとか首を動かし、周りを見回して見れば――いた。

 俺の脚辺りに、青い髪が見える。どうやら、俺と同じく馬車の中に運び込まれた模様。

 っていうことはなんだ。

 俺とリュドミラを襲った輩の目的は、誘拐ってことになるのか?

 誘拐した理由は、妥当なところで身代金ってところだろうか。

 いや、それだとみすぼらしい恰好をした俺まで(さら)った理由が分からない。

 せいぜい自身を良く見積もっても、相当なところまで落ちに落ちた没落貴族ってところで、人質として金を請求するのは期待出来ないと丸わかりだろう。

 じゃあ、一体何のために奴らは俺を(さら)ったなのか。

 推測するには、情報が足りないかもしれないな。

 これは一旦置いておこう。


 次に、周りについて。

 俺の今いる場所は多分馬車の中で、絶賛移動中。どこに向かっているのか不明。

 確かめようにも、この馬車には窓がなく外の風景を見ることは叶わない。

 天井に小さな発光物体があり、真っ暗で無いのはそのためだろう。

 中には俺とリュドミラの他に、食糧が入っているらしき箱や、水が入っているであろう樽、後は何か布で被されている物があった。

 そして、


「……!!」


 動かない身体に鞭を打ち、寝返りをしたところで、俺たちを襲った仮面の奴がいることに気付いた。

 身体全体を隠せるようなローブを着こみ、体格が良く分からず男か女かも判別がつかない。

 確かあの時いたのは、4人。

 今俺の目の前にいるのは1人だけ。他3人は前で馬の手綱を握っているか?

 いや、そもそも仮面で顔を隠しているだけあって、俺たちを攫った実行犯じゃない可能性も浮かんできやがるな。

 それに、馬車がこれ一つとも限るまい。

 他に仲間がいるのだとすれば……無理やり逃げ出すのは難しいかもしれないな。

 しかも、仮に馬車から飛び降りるのに成功しても、ここがどこなのか分からなければ、年甲斐もなく迷子でジ・エンドである。

 迂闊なことは出来ないであろう。


「……」


 仮面の奴は、俺が動いたことに反応するも、声は出さない。

 まぁ、正体を隠すのに徹底でもしているのだろうか。

 それを確認してみる。


「あのー、すいません。トイレ行きたくなったんですが」


「……」


 やはり、返事はない。この歳で漏らすとか、恥でしかないのだが。

 それに床へと垂れ流しにしては、衛生面にも良くない。

 そこら辺、彼らは理解しているのだろうか。


 俺が尿意とどう向き合っていくべきか、と考え始めたところで、仮面をした奴から何かを投げられる。

 腹に当たったのを見てみれば、何と投げつけてきたのは、水筒だった。

 これを都合良く解釈するならば、この中に尿を出せ、というのだろうか。

 人の目がある状況で自身の分身である一物を晒すとは、なかなか羞恥心を刺激するものであるが、それよりも。

 両手両足縛られているから、自分一人では尿を足せない。


 目の前に希望を見せ付けておきながら、決して俺の手には届かせない。

 奴は外道か、鬼か、悪魔か。絶望を引き立てるために、わざわざこんなことをするなんて。

 (さら)った時点で既に悪い奴だと思っていたが、ここまで非道だとは思いもしなかった……。


「んー? もう朝ー?」


 奴の極悪さに戦慄していたところで、気の緩い声が足元からした。

 どうやら姫様がお目覚めの様子。

 もぞもぞと身体を動かし、立ち上がる。


「まだ暗いじゃーん、リュドミラの目の前が真っ暗になったー」


 再び床に横になるが、


「下固いー」


 また起き上がる。


 ……何だろう、この扱いの差は。彼女には、何の拘束もありはしなかった。

 これが身分の差というヤツなのだろうか。それとも、俺が縛っておかねばならない程、警戒に値する人物だと思われているのだろうか。

 後者だとすれば、相当な買い被りである。


「リュド様や、ちょっと助けて……」


「何ー、ん、また(さら)われたんだー」


「今回はそうかも知れないが、楽しげに言うなよ……」


「いいじゃんー、楽しいことはいいことだー」


「はぁ……、とにかく助けてくれません?」


 ……呆れつつも俺は、調子の良いことを言っている。

 一度、助けは間に合わないと見捨てた相手に助けを求めているのだ。

 しかも、相手は王族。失礼なんて言葉では済まされないだろう。

 でも……相手がそう思ってない可能性があるか。

 みすぼらしい格好をした俺が守ってくれるなんて期待もしない、と考えることも出来る。

 シリアが、俺のことをボロクソに言っていれば、更にそう思うだろう。

 ソムディアに向かう際に彼女が気に入らない行動を幾度もしてきたからな。

 ……って、あれ? もしかしてこれが原因で訓練所から追い出されたのか……?


 いや、今は過ぎ去ってしまった出来事なんて、どうだっていいんだ。

 この体勢のままって結構辛いんだ。この辛さから、解放されたい。


 自国の民のことを思いやる国王の娘なんだ。辛そうにしている国民を見捨てるはずが――


「あははー、それは無理ー」


「なっ!?」


 拒否られた。

 そんなに、俺を助けるのが嫌なのか。

 いや……前提が間違いなのではなかろうか。


 (さら)われたのは、2人ではなく俺1人。

 つまりリュドミラは攫われた演技をしていただけの共犯者なのでは……?

 彼女には拘束する物は無いところなんて、怪しいにも程があるってモンだろう。


「だってー、鉄なんて壊せるはずが無いじゃんー」


 ……疑ってしまった自分が恥ずかしい。

 リュドミラは、別に悪意など持っていなかったのだ。

 まぁ、こんなところで寝かされている時点で共謀している可能性も低いしな。


 あっ、純粋な力で外すのは無理でも、リュドミラは魔法学校の生徒だっけか。


「そうだ、魔法で何とかならないか?」


「手足とサヨナラしたいならいいよー?」


 駄目か……。後はピッキングとかだが、使える道具はないようだし。

 というか、俺の荷物もない。腰のベルトに差しておいたナイフまでも無くなってるし。

 依頼の報酬金も荷物の中だろうし、無一文になってしまった。踏んだり蹴ったりである。

 ……俺の厄日って一年に何回あるんだろう。


「ところでー、そこのダサ仮面が誘拐したのー?」


「だ、ダサって……」


 リュドミラがダサ仮面とやらに指を指すと、若い男のショックを受けた声がした。

 つい、うっかりといったところだろう。彼は慌てて仮面の口辺りを押さえるジェスチャーをする。


「しっ、直接ダサいとか言っちゃいけません!」


「えー、だってダサいのには変わりないしー」


「ダサ仮面本人が格好良いって思ってるかもしれないから、そんなこと言ったら可哀想だろ?」


「ダサいのはダサいってー、言ってあげるのも優しさだと思うよー?」


「例えダサくても、『わー、その仮面イケてるー』とかお世辞くらい言えるだろ、王族なんだしさ」


「ダサ仮面相手でも、嘘は良くないじゃんー」


「嘘が駄目なら、もっとふんわりとした感じで言い換えればいいんだよ。その仮面は個性的ですね、とか言えば誉めてる感じが少しは出るだろ?」


「まぁそれだとー、『お前のセンス変ー』って意味合いの方が強そうだよねー」


「いい加減にしろぉ、お前らっ!」


 口を開いてはいけないっぽいダサ仮面が急に怒鳴り声を上げる。


「人が黙ってりゃいい気になりやがって……おれだってこんな仮面、付けたくて付けてるわけじゃないんよ」


「あー、はいはい。意地張んなくてもいいですから」


「って何したり顔してるんよ!? お前、おれの言ったこと1ミリ理解してないだろ!」


「大丈夫、十人十色ってことですよね?」


「やっぱわかってなかった!」


 何だか初めのイメージとは違って、(やかま)しい人だな。

 彼の、『恥ずかしいから、この場では人の意見に乗っかっておこう』という意思を汲み取ったつもりなのだが。

 こんだけ(わめ)かれると、フォローのしようが無い。


「あのー今更ですが、そんなに騒いでいいんですかね?」


「……」


 あっ、やっぱ俺達に口をきいてはいけなかったらしい。仮面の彼が急に黙ってしまう。


「メンタルよわー」


 そして、この娘さん、結構容赦ない。


「それで良く隠密部隊なんてやってられるよねー」


「隠密部隊?」


 何やら格好良さそうな名前が出てきたな。仮面はダサいけど。


「……」


 リュドミラの言葉に対して、ダサ仮面の返事はなし。

 どうやら秘密にしなければならない情報みたいなようだ。


「なぁリュド様、隠密部隊って……」


「名前の通りー、この国の陰でコソコソやってる日陰者だよー」


 ……俺は、彼らの行動を一部知っているのかもしれない。

 例えば、どこぞのお姫様の反感を買った者の家族が全員行方不明になる嫌がらせをする、とかだ。


「その隠密部隊とやらは、王族直属じゃないのか?」


 そうだったのならば、リュドミラが攫われる理由が、分からなくなる。

 あまり詳しいことは知らないが、彼女が王位継承権で揉めることもあるまいし。

 まぁ、彼女の姉であるシリアの話を鵜呑みにするならば、という話だが。


「まっさかー、この人達って金さえ貰えば汚れ仕事でも何でもする便利屋さんなんだよー。

 その便利さを物に例えるならー、盗賊の七つ道具だねー」


「うん、何となくその人達のブラック加減が伝わってきそうな表現だな」


 これまでのように、リュドミラの言葉を軽く流そうとした時、ふと妙案が思いつく。


「ダサ仮面さん、金払うんで助けて下さい」


 返答は、無い。まぁ、聞こえていないということは無いだろうし、一応話を続けてみる。


「今は持ち合わせがないですけど、出世払いで百万くらいなら――」


 そこまで言ったところで、ダサ仮面の肩が震えていることに気付く。


「お前ら、おれたちを舐めてんのか? おれたちに依頼した奴は前金で一千万は払ってんよ?

 後、こちとらお前らの命握ってんのと同じなんよ?」


 そしてまた、彼は再び激昂する。あの仮面で表情は見えないものの、声色で分かる。


「クスクス」


 だが、そんな彼の怒り心頭っぷりもダサい仮面によって、全く怖く無かった。

 寧ろ、シュールな光景でもある。

 リュドミラも、何か馬鹿にしたように笑っているし。

 黙っていれば、怖いとか不気味という意見も出そうなんだけどな。

 怒るなら、まずその仮面をデザインした奴にして欲しいくらいだ。


「多額の金に釣られてー、成人してない人攫うなんてー、カッコ悪ー!」


「こっちは仕事でやってんよ。何とでも好きに言えばいい」


 ダサ仮面の言葉を皮切りに、リュドミラが動く。


「じゃあー、無能ー」


「センスゼロ」


「クズー」


「短足」


「マヌケー」


「胴長」


「アホー」


「ヒヨッコ」


「臭いー」


「短気」


「童貞ー」


「金の亡者」


「ブサイクー」


「だから仮面つけてるのか――」


「――お前ら、流石に言い過ぎだっ!」


 せっかく調子が出てきたところで、彼の言葉で中断させられる。


「だって好きに言えって言ってたじゃんー」


「せっかく俺も頑張って考えたのに……」


「ねー?」


 リュドミラと顔を合わせると、ダサ仮面が三度(みたび)怒り声を上げる。

 このダサ仮面、俺の想像ではあるが仕事柄として、あまり感情を露わにするのはいけないことなのでは無いだろうか?

 未だに床に倒され、縛られたままの俺ではあるが、こんな人が本当に隠密部隊をやっていけるかどうか、不安になる。


「……ところで、何で俺達を攫ったんです?」


 ダサ仮面の感情が揺さぶられている間に、質問を投げかける。

 まぁ、あちらにも守秘義務があるだろうし、聞ければラッキー程度の物である。


「あぁ? そもそもお前は攫う予定になかったんよ」


「え……?」


 彼の言葉で、予想していなかった事実が発覚する。

 それを聞けば、「じゃあなんで俺がここにいるのか?」、という疑問も当然浮かぶわけで。


「偶然その場の判断でそうなったんよ。本来なら密かに処分ってところなんだけど」


 後半に続く彼の言葉に、俺は思わず顔を(しか)めてしまうが――それよりも。

 俺はダサ仮面の野郎に言わなくてはならないことがある。


「必要ないなら置いてくればいいじゃないですか! それなら襲われたことも『夢オチ』と処理できたのに!」


「いや、そこの娘さんの関係者、護衛なんだろ? 初めから放置する選択肢なんて無いんよ」


「いや、顔見知りですら無いんですが……」


「はぁ?」


 ダサ仮面が素っ頓狂な声を出すが、事実なんだから仕方がない。


「こんな事件に巻き込んでしまうなんてー、私ったらなんて罪作りな女なのー」


「そうだな、犯罪者として騎士に突き出したいレベルだよ、マジで」


 相も変わらず、棒読みをするリュドミラに頭を抱えたくなってきた。

 この女にもし会っていなければ、こんな状況にはなっていなかったのである。


「つーか、なんであの時間帯に、あの路地裏にいたんだよ?」


「城から抜け出せたのにー、堂々と大通りを歩く馬鹿がいると思ってんのー?」


「そもそも城を抜け出す前提が間違ってんだよ、この馬鹿。

 くそ、リュド様があんなところにいなかったら、今頃ゆったりとした生活が送れていただろうに……!!」

 

 そう、俺はあの訓練所から追い出された時。

 少しくらいの理不尽に対する怒りやら、どうしてこうなってしまったのだろうという落ち込みがあったものの、実際心の大部分を占めていたのは嬉しさだった。

 このまま留まっていたいとは全く思わなかった、訓練所からようやく解放されたのだ。

 リアナから、『逃げ出した』と思われない大義名分を得ることが出来、尚且つ幸か不幸か、俺はあの訓練服を取り上げられている。

 あれには、リアナに例のマーキングされた可能性があるのだ。

 それを自分から手放すのではない、という部分が大きなポイントで、マーキングから外れた理不尽なる怒りの矛先が俺ではなく、あの脱がした貴族共になるのである。

 そう、後はリアナにバレないようにサラナ村に戻ってきてしまえば、平和な日常が待っていたのだ。

 それなのに……それなのに、どうしてこうなってしまったのか。


「『馬鹿って言った方が馬鹿』ってさー、理屈も何もない馬鹿丸出しの発言だよねー」


「まぁ、そんな馬鹿に馬鹿にされる時点で、そいつも馬鹿なんじゃないのか?」


「そんなこと真面目に考えてるなんてー、何かアホっぽいー」


「リュド様、俺アホみたいなんで帰ってもいいですか?」


「あははー、アホは死んでも治らないよー」


「だったら古来より伝わりし治療法、『他人に移す』をやってやる!」


 と思ったが、今のままだと碌に動けないな。


「お前ら、随分と親しげに見えるんだけど……?」


 ダサ仮面が俺の言葉に納得していないのか、まだしつこく聞いてくる。


「だから護衛でも何でもないんですよ。服装見りゃわかるでしょうに」


「身分を隠すためのカムフラージュって可能性もあると思うんよ」


「別に、俺は正真正銘、どこにでもいる平民なんですよ?」


「だったら、あの強さは一体何なんよ? 体重といい、絶対普通じゃない。それに、平民なら何故貴族区に立ち入ることが出来るんよ?」


 捲し立てるように来る質問に、戸惑ってしまう。


「そんなもん、こっちも知らないですよ」


 強さ? 結局ダサ仮面の連中には負けてるし、特筆する部分はない。

 体重に関しては、何でお前が知っている、と恐怖を感じる。

 貴族区にいるのは……あ、これは不名誉ながら説明出来るか。

 でも、わざわざ恥をかく必要もあるまい。黙っておくことにする。


「怪しい、急に黙るとは怪しいんよ」


「怪しい風貌の人に言われたくないです……」


「でも、あの娘さんに会話を合わせられる時点でおかしいと思うんよ」


「あなたも、おかしな格好してるじゃないですか」


「だーかーらー、おれだって好きでやってるわけじゃないってーの!」


「はいはい。それであの非生産的会話に合わせられる理由でしたっけ?」


「……おかしいのは、お前らの頭の方だ」


 膝を抱えていじける彼は、とてもじゃないが凄腕の隠密部隊の人間だとは思えなかった。

 精神年齢低過ぎだろ。後、煽り耐性も。


「それはですね、『子供の(しつけ)基礎編』という書物に、『他人に嫌がらせをするようになってしまった場合の対処法』というのがありましてですね。

 そこに書いてあった、『他人が嫌がることを自分も嫌なんだということを分からせてあげる』を実行したに過ぎませんよ」


「おれの方にも矛先が向かってたと思うんよ」


「俺達を攫ったくせに、何で自分は関係ないみたいなこと言ってるんですか?

 言われたくないのなら、自分から動いて何とかする。それくらいしてくださいよ、本当に」


「そういうことじゃないんだけど……」


 ダサ仮面の言い訳がましいのは放っておいて、問題のリュドミラはというと、


「食料発見ー」


 勝手に馬車の中にある物を弄っていた。

 そんなことをしてもいいのか、とダサ仮面の方に視線を向けてみると、


「別にお前らに食わすための物だから、別に遠慮はいらねぇんよ。まぁ、元々一人分だったんだけど、思った以上に寝てたから問題ないし」


「そんなに、寝てたんですか?」


 確かに腹の減り具合が半端ないぐらいに空いていた。意識したら、急に腹の虫がキュルキュルと鳴き始める。


「正確な日時は言えないが、薬で数日くらいは寝てたんよ」


 ということは、随分と運ばれてきてしまったようだ。

 リアナが助けに来ない――もとい、襲撃してこないってことは、彼女にはまだ場所が知られていないのか。

 これは、本格的にまずい状況なのではなかろうか。


「そこのミノムシボーイー、ご飯食べないのー?」


「いや、俺にもくれ」


 いつの間にか下を向いていた顔をあげ、リュドミラから食事を強請(ねだ)る。

 両手が使えないということもあり、不名誉ながら犬のように固いパンを腹に詰め込んだ。

 やはり途中に、「ほらー、高い高いー」というリュドミラからの妨害も入り、背筋の限界にまで挑戦させられたのはキツかったかもしれない。







 素朴というレベルを大幅に下回る食事を終えてから、馬車が動きを止める。

 どうやらダサ仮面達の目的地に到着したようだ。


「ここからは口を開くなよ。……おれは忠告したからな」


 先ほどまでの彼とは雰囲気がガラリと変わり、俺はいつの間にか緩んでいた気持ちを引き締めておく。

 外からガタンという音の後、ゆっくりと馬車の中に光が入ってくる。

 ここの薄暗さに慣れてしまったせいか、眩しくなってつい目を閉じてしまう。

 そうして眩しさに慣れてきたところで、例のダサ仮面の連中が俺たちの方へと向かってきていた。

 そうして、リュドミラには一人、腕を後ろにやって立たせていた。

 俺には……なんと三人がかりで運搬するようだ。

 陸に出された魚の気持ちってこんな惨めな感じなのかな、と思いつつ、久しぶりに外の景色とご対面する。


「……デカッ」


 思わず小さな声が漏れてしまったが、どうやら彼らには聞かれていなかったようだ。

 俺のような驚きは一切見せず、足並み揃えて前進を開始。

 近づいていく度に、大きさがよりはっきりとしてくる、白い建物。

 俺の知っている言葉でいうなら、『テント』というのが当てはまるだろうか。

 ただ、その規模は相当大きく、ドーム状になったそれには、どういった用途があるのだろう。

 サーカスといった見世物? 

 それにしては、随分と静かであるから、それはないか。

 

 入口には、無愛想というか、無表情で強面の男が4人。

 誰もが鎧に身を包み、右手には少し短めの槍を握っている。彼らの役目は見張りといったところか。

 見張りとダサ仮面との間に会話はなく、ダサ仮面側の一人が紙を取り出し、見張りがそれを確認すると、


「通れ」


 の一言が言い渡される。

 それ以上は何も言わず、ただ俺達を鋭く睨みつけるようにするだけだ。

 

 俺は比較的に好奇心が強い方だと思っていたが……この中には入りたくないなぁ、と思いつつも自分の意思だけでは、どうにもならず。

 この時、目に見えた薄い白の区切りは、俺がずっと目を逸らしていたこと――日常とかけ離れていくことに、改めて強く、強く実感させるのだった。

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