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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
フルデヒルド
53/136

3

【クレヴ】

 誰か隣にいないと寂しい。

 そう感じるようになってしまったのは、いつ頃からだろうか。

 母が病気で動けなくなり、魔法学校では心を許せる友もいない。

 孤独には、慣れていたつもりだった。


 なのに、騒がしいのが数日なくなるだけで寂しく思うとは、随分と感覚を狂わされたものだ。


 ルイゼンハルトについた時、太陽が沈みかけていた。

 酒場以外の店は殆ど閉められ、酒場のうるさい声や音が、余計に街の静けさを強調させる。


 が、貴族区に近付けば近付くほど、音や光は増えていくのだ。

 平民にとって、夜は眠る時間だが貴族は遊ぶ時間だ。

 昼間の鬱憤を晴らすために、煌びやかな服を着込んで街を闊歩する。

 ある男は女を引っ掛け、女はその男から贅沢を得る。

 またある男は、私兵を連れて貧民区に行き目立たない程度の暴力を振るう。

 またある人達は、己の私服を膨らませるために賭け事に興じる。


 全て、街の見回りの際に知ったことだが、だから彼らの朝は遅いのか、と気付かされたことがあったっけ。

 まぁ、どうでもいいんだけど。


 俺なんかは根から平民思考なため、やることがなければ暗くなったら寝ることにしている。

 朝明るくなってからやればいいや、と考えた方がいいと思っているからだ。

 それにランプを節約して使え、と母から教わった貧乏性もあるかもしれない。

 宿舎の玄関をくぐり抜け、出来るだけ音を立てないようにして二階にある自分の部屋に入る。


 中には、ルームメイトのダバルの姿がない。

 都会だから夜遊びでもしているのだろう。

 特に気にすることもなく、俺は荷物を床に置くと、ベッドの中に潜り込む。


 寝ることは、最上の幸せである。

 これが分からない人達は、人生損してるだろうな、とアホなことを考えながら、目を閉じた。







 訓練所に来てからの日課である素振りを、今日からまた再開させたのだが。


「こりゃ酷いな」


 元々様にならない剣の扱いが下手な俺だったが、更に悲惨になっているとは思いもしなかった。

 一応毎日のように振っていたからだろう。

 上達はしていたのだ。だが、剣を握らない期間が少し出来ただけで、すぐに鈍ってしまった。


 正直な話、この剣の才能の無さは本当にどうにもならないことに改めて気付かされる。

 コツを思い出すどころか、コツ自体わかっていない俺には絶望的な話だろう。

 だから剣を捨てて魔法に走ったというのに、皮肉にも俺は今、騎士見習いをやっていた。

 全く笑えない話だよな、と思いつつも手は止めない。


「あっ、おはようございます」


「……」


 いつも通りの時間に副団長がやってきて、挨拶するのだが、無視される。

 そうして俺の存在がいないかのように、剣の素振りに没頭してしまう。

 副団長、機嫌でも悪いのだろうか?

 だとすれば、無理に関わろうとせず、放っておくことにしよう。

 時間が解決してくれる、そう楽観的に考えながら、今までなかったことにちょっとした違和感を抱く。


 だが、そんな違和感は俺に何かを警告していたのだと、後で気付かされることとなる。







 朝食の後、久々に団長から集合がかけられて訓練場に集められる。

 並びは以前と変わらず、俺は最後尾だ。

 整列が完了してから、数分後。入り口から人影が一つ入ってくる。

 肩までの長さがある茶髪に、鎧を身に付けた女。

 カミラ・リーベック、通称鎧女だ。どうやら、今回はお一人で来たようで、後に続く人影は見えない。

 まぁ、シリアの方は勝手に抜けだしたわけだし、罰でも受けているから来ないってところか。

 あのスーツを着たおっさんは……不真面目そうだし、どっかで遊んで歩いているんじゃなかろうか。

 

「異動の件について見届けに来たのですが、少々急用が入りまして先にそれを済ませることを先に詫びておきます」


 そう言って頭を下げた後、


「そこの貴様、前に出なさい」


 と、いきなり汚い言葉遣いで俺を睨んできた。


 んー、いや、違うか。違うよな? 違うと思いたい。

 ほら、あれだ。自分が呼ばれたと思って行ってみれば、実は近くの人だったっていうパターンかもしれないし。

 あれで恥かいたことが何回もあったしな。今回もそうに違いない。


「早く来なさい。長髪の貴様です」


 万が一もあると思い、左右を見てみるも、長髪は俺以外にはいないようだ。

 全員が俺の方に目を向けているために、完全に俺が呼ばれたのだな、とようやっと理解する。


「えぇと、いきなり何でしょうか?」


 この人、いきなり暴力とか振るってくる危険な女だしな。

 念のために両腕を素早く動かせるように、意識しておく。


「まさか、わからないとでも?」


「まぁ、はい」


 まだ何もしていないっていうのに、何だか鎧女は怒っている様子。

 でも……何だかいつもとは違うような気がする。

 何というのだろう。いつもは苛立ちを隠さずに俺を怒るのだが、今は何だか人を見下すような冷たい目をしている。

 ……見下す目。相手を下だと、決め付ける視線。

 今回は、委縮する気持ちよりも、彼女に対する嫌悪感が勝る。


「平然とした顔をして、知らない振りですか? 本当に貴様は外道ですね」


「だから本当にわからないんですって」


「貴様、召喚魔導師なんでしょう?」


 それがどうした、と俺が言う前に。

 何だか後ろの方が騒がしくなっていることに気付く。

 思わず後ろを振り返ってみれば、俺を蔑む多数の目。皆が皆、俺のことをそんな目で見ていやがる。

 元々、そこまで良くない感情を持っていたのは知っていたが、これはもっと酷い。

 一部の人間なんぞ、同じ人間には見ていない。

 害虫を目にしているかのような、不快な顔をしている。


――だが、そんな中にも、


「それ、何かおかしなところでもあるんすか?」

 と声を荒げてくれる人もいる。


 同じ気持ちの人がいて、一時的に安心するけれど、それで弛んでしまった頬を再び引き締めることとなる。

 その彼――ダバルに俺と同じような目が向けられたのだ。

 彼の近くでは彼を心配するような顔で、彼の腕を押さえつけていた。

 俺は彼らの気持ちを汲み取って、ダバルの方を見る。

 すると俺の視線に気がつき、こちらを見てくるが、俺は何も言わない。 ただ、ダバルが黙るまで表情を変えず、じっと見ていた。

 しばらくすると、彼も察したのか口を閉じたところで、俺は一回頷きを返しておく。


 それでいい、と。

 俺のために、他の奴が被害を(こうむ)るのは、嫌だから。


「どこを見ているんです? こっちが話しているでしょう?」


 呼びかけに、俺は彼女に顔を向きを戻す。


「そして貴様は……召喚魔導師では飽き足らず、まさかシリア様に教えようとしていたとは……!!」


「それが、どうかしたんですか?」


「それが、だと? ふざけるのもいい加減にしろっ!」


 激昂し、鎧女の言葉遣いが崩れる。

 どうやら、感情の揺さぶりが激しかったりすると、言葉遣いが荒くなるようだ。

 こっちが、素なんだろう。


「外道が…………まぁ、もう二度と目にすることもないでしょうから、ここで私語は慎んでおきましょう」


 話が見えないのに、勝手に怒られる。

 俺が理不尽さに慣れていなかったら、殴りかかっていたところだ。

 ……いや、酷い返り討ちにあいそうだから、控えるだろうか。


「ここにシリア・ハーディア様に代わって、私、カミラ・リーベックがここで貴様の騎士の資格を永久剥奪を命じます」


 彼女がそう言った途端に、前列に並んだ騎士達が我先にと、俺を地面に押さえ込む。

 ……流石に30人は多いと思った。

 下にいる人、結構苦しそうだし。

 人が多過ぎたせいか、実質俺の上に乗っているのは10人もいってないだろう。

 重い、がそれよりも息苦しい。後、汗臭い。

 これはなかなかの拷問だ。

 鎧女め、よくもこんな方法を思いつきやがったな……!!


「誰か、この男の部屋に行って、推薦状を取ってきてくれませんか?」


「はっ! (ただ)ちに」


「後、この男の私物もついでにお願いします」


 覆い被さった肉のせいで動くことも出来ず、視界を塞がれたまま事が進んでいく。


「そろそろいいでしょう」


 そう言って合図でも出したのか、俺にかかる重圧がどんどん減っていく。

 そうして、左右に俺の肩を押さえ込む2人以外は列へと戻った。


「抵抗する意志はなさそうですね」


 まぁ、臭いし人の体温で暑かったせいで、抵抗する気力が削がれたからな。

 少々、脳筋かと侮っていたが、考えを改めなくてはならないだろう。


「シリア様の御慈悲に感謝しなさい。普通なら豚箱に放り込む過程を飛ばして即処刑なんですから」


「それは、ありがたいですね」


 理不尽ではあるが、命まで奪われないことに少しホッとする。

 心の余裕を取り戻すと、やはり浮かんでくる疑問。

 何故俺だけが、辞めなければならないのか。

 鎧女が俺のことを個人的に気に入らないからか?

 だが、それだともっと早い段階で、ここからいなくならなきゃいけないはずだ。

 さっきは少し驚いていて、つい彼女の言葉を流してしまったが、何て言っていた?


 確か……俺が召喚魔導師だったからか?

 だが、それが一体どうかしたというのだろうか?

 そもそも魔導師自体が気に入らない?

 いや、それだとここまで排他的になる理由がない。

 シリアだって魔法が使えるんだ。

 ……でも、特別扱いしてそうにはあるけれど。

 後、他の人達の反応も気になった。

 彼らには何か共通意識でもあるのか?

 でも、ダバルは違った反応をしたな。後、シリアなんかもそうだ。

 むしろ、積極的に学びたいとすら、俺の目には見えたんだけど。


 シリアは、知らされてないのか?


 召喚魔導師が、そこまで嫌われる存在なのか?

 モンスターを従えているから?


「そういや、こいつの着ているのは支給品でしたな」


 ぐるぐると、答えの行き着かず、思考の海に沈んでいたところに、普段なら聞かないような、取り繕った声。


「借りたものは返さねばいけませんなぁ」


 如何にも薄っぺらい紳士面をして、俺に近付いてくる騎士達。

 そうして、俺の服に手をかけると、力を入れて脱がしにくる。


「ちょ、自分で脱げますから!」


「信じられません、おやりなさい」


「待て、嫌だぁあああああああ――――!!」


 俺の抵抗はむなしくも服は剥ぎ取られてしまった。







「……」


 現在、パンツ一丁という他の人から見れば誤解されそうな状態で訓練所の中から放り出されてしまった俺は。

 取りあえずあの男共が適当に掴んで持ってきたからか、グチャグチャになった衣服を身につける。

 貴族区にいると完全に浮いた格好だ。


「にしても、アイツらめ……!!」


 彼らに対して、俺は逆らう意思を見せていなかったはずだ。

 なのに、あの対応とは一体どういうことだろう? 奴らは変態か? 変態なのか?

 昔、父の手紙の中に『騎士の中には服を脱がそうとする変態がいる』という文章が書かれていて、当時は父の頭を疑ったものだが。

 今になって、ようやくその気持ちが理解出来た。父さん、疑ったりしてごめんよ。

 

「さて、これからどうするかな?」


 まぁ、こんなところでウジウジしていても仕方ないので、今後の動きについて考えてみよう。

 まずは持参した荷物の確認からだ。

 あるのは……予備の衣類と、長めの布、家から勝手に拝借してきた書物に、いざという時の保存食くらいか。

 ……盾と、ポーチがない。

 多分、まだ宿舎の中に置きっぱなしにされているのだろう。

 盾はあの鍛冶屋の店主が大切にしている一品で、俺もお世話になっているものだし。

 ポーチは副団長から貰った便利なものだし、何より中には魔法関連の書物が入っている。

 どうする? 忍び込んで取り戻すか?

 だが、この格好はあまりにも目立つ。最低、侵入するなら夜の方がいいだろう。

 その時、ついでに今までの復讐として放火でもしてやるとしよう。

 

 目的は決まった。

 では、これからどう動くかが問題となるだろう。

 まず、自分の身なりだが、街を歩く貴族に見つかれば騎士に通報されて厄介なことになりそうだ。

 推薦状も取り上げられてしまったし、もうここにはいられないのだけど。

 出ようとしても何でここにいるのか、と疑われ捕まるのがオチか。


 となると、俺に出来る選択は自然と狭まっていくな。

 人目のつかない場所に移動した方がいいか。潜伏先は、妥当に路地裏ってところか?

 そこで夜まで待って、襲撃。

 朝日が昇る前に屋根でも伝って平民区に移動って感じでいこうかな。


 ……にしても、これは相当穴のある計画だよな。

 でもまぁ、やるしかないんだ。割り切るしかあるまい。

 

 まずは壁伝いに、横歩きしながら移動を開始する。

 左右に最善の注意を払いながら、少しずつ動く。

 人の姿は、あまり見られない。どうやら、いつものように彼らの朝は遅いようだ。

 誰も俺を見ていないことを確認すると、路地裏に一気に飛び込む。

 

「きゃー」


「うわっ!」


 どうやら路地裏には人がいたらしい。

 急なことで、足を止めることが出来ず、衝突。

 といっても、踏ん張りが効いたからか、ぶつかった衝撃は小さく済む。

 その証拠に、相手の悲鳴も棒読みだった。


「大丈夫ですか?」


 例え棒読みだろうと、悪いのは完全に俺の方だ。

 取りあえず心配する振りをして、様子を見る。いちゃもんを付けられたら、即逃げられるように軽く膝を曲げておく。


「大丈夫じゃないよー、もうねー、ボッキボキに折れちゃったよー」


「……そんなに強くぶつかったつもりはなかったんですけど」


「最近の若いのは弱いからねー、ほら心、ハートがすぐ折れちゃうー」


「頭が、大丈夫じゃなかったんだな……」


 つい、言葉が崩れてしまう。

 目の前にいる高い声の主が、あまりにも軽い喋り方をするからだ。


「しっつれーなー。まだハゲてないぞー、ほらほらー」


 そう言って、青色をした頭頂部を見せつけてくる。


「あ、旋毛(つむじ)が二つある」


「ホントー? なんか頭の回転が2倍速とかになりそうだよねー」


 そう言って少女が顔を上げたが――見覚えのある顔だ。

 どんぐりのように大きな瞳は、見つめているとどこまでも深い青色。

 髪も同じような色をしており、少し癖っ毛だからか外にハネている感じ。後ろ髪をゆるい三つ編みにし、前に垂らしている。

 服装は、最近リアナとルシルが着ているのと同じ物で、確かルイゼンハルト(こちら)の魔法学校の制服だっただろうか。

 上が白のローブに、下が赤いスカート。随分と目立つ配色をしているのは、何か狙いでもあるからなのだろうか?

 靴は、膝下まである長く、高そうなブーツだ。

 良く手入れがされているからか、その光沢からは更にそのブーツの上質さを引き出しているかのようだ。


「あーっ!」


 目の前の、10代半ば、いやそれよりも下ぐらいの少女が俺の顔を見て声を上げる。

 やっぱり、知り合いか何かだろうか?


「あの時の誘拐されそうになった人だー」


 その台詞で、忘れかけていた俺の記憶が蘇る。

 あれは確か……ルイゼンハルトに来たばっかの時のことだったか。

 リアナに無理やり女子寮へと引きずり込まれそうになったところで、見かけた記憶がある。

 その時も、多分変なことを言っていたような……。


「随分とみすぼらしい格好になっちゃってー、ご愁傷様ー」


 にこにことした笑みを絶やさず、全くそんなことを思っていないかのように言ってくれる。


「元々だ、気にするな」


「えー、元々誘拐されてたのー? 誘拐に次ぐ誘拐ってすごいねー」


「いや、元々っていうのは服装のことだからな? 後、誘拐ってよりか、あれは連行だな」


「えー、もしかしてその歳でも一人で街を歩けないのー? ダサー」


 ……この子、なかなかに言ってくれるじゃねーか。


「ところでお前さ、本当に怪我とかしてないか?」


「へーきへーきー。あと、私はお前じゃなくてリュドミラだよー」


「別にお前でもいいじゃん、友達じゃあるまいし」


「人類みんな友達ー、っていうじゃないー。でー、あなたのお名前なんてーのー?」


「言わなきゃダメか?」


「私が言ったのにー、この礼儀知らずー」


「あぁ、わかった。言えばいいんだろ、言えば。俺は……ダバルっていうんだ」


「嘘はいけないよー? 針千本に、舌抜いちゃうよー?」


「あー、クレヴだ。これでいいか?」


 諦めてそう言ったところで、リュドミラが少し目を見開く。


「クレヴってー、騎士見習いやってるー?」


「まぁ、つい十数分前まではやってたな」


「じゃあお姉ちゃんの知り合いかー」


「お姉ちゃん?」


「うんー、シリアお姉ちゃんっていうんだけどー知ってるでしょー?」

 

 見た覚えがあるとは思っていたが、そうか、シリアにもちょっと似てるんだ。

 髪の色とか目の色とか同じだし、目元があんまり似てないけど、全体的には似ているとも言っていいだろう。 


「あのねーしっかり見えるようで実はアホっぽいー、って言えばわかるかなー?」


「あぁ、うん」


 妹の癖に、というより、この子本当に言いたい放題だな。

 まぁ、相手が王族なのに、言葉を畏まらない俺も俺だが。

 もう、シリアにあんな態度をしているんだ、もう開き直っても罰は当たるまい。


「いつもお世話してるってー」


「そこはされてますとか言っとけよ」


 お世話されているというのなら、あの鎧女の方がある意味そうだと思う。


「ふーん、これがクレヴさんかー」


 じろじろと人を値踏みするような視線で見てくるリュドミラ。

 とはいえ、あの騎士共みたいに見下しや嘲笑するために、というわけじゃなく、ただ純粋に俺のことが気になっている様子。

 まさか、怪しまれているのか?

 まぁ、姉であるシリアには特に良い印象は持たれてなかったしな。当然と言えば当然か。


「お義兄ちゃん、って呼んでもいいー?」


 ……なんだろう、この展開は。


「あーリュドミラ様、いきなり何の話だ?」


「リュド、でいいよー。んとねー、普段はあのシルヴァっていうー、もはや筋肉の塊みたいな人しか男の話を聞かないけどー、最近お義兄ちゃんの名前も頻繁に出てくるんだよー」


「それがどうかしたのか? ただの世間話の延長戦上みたいなモンだろ?」


「お姉ちゃん、普段は本当に剣とかの話とかしかしないんだよー? 疑わない方がおかしいよー」


「特別な感情なんてありゃしないさ。多分あっても、俺みたいな剣がからっきし出来ない奴が珍しいだけだよ」


「良く見習いとはいえ騎士になれたねー」


「そこは俺も疑問に思ってるところだ。つーかリュド様さ、魔法学校の方は大丈夫なのか?」


「問題ないよー、自主休講だからねー」


「それって、サボタージュじゃないか」


「休みたい時に休まさせくれないー、学校が悪いんだよー」 


 おいおい、とリュドミラの台詞に、呆れた視線を彼女に送ったところで――――急に背中の方がゾクっとする。

 これは……殺気か?


「がっ……!!」


 そう気付いた時にはもう遅く、首の後ろ辺りに強烈な痛みが襲ってくる。

 前のめりになりそうになったところで、持ち前の踏ん張りで足に力を入れて持ちこたえる。

 そして踏ん張りから間髪入れずに、すぐに後ろに蹴りを放つ。

 が、足には何の感触も返ってこない。


「くそっ、いきなり何すんだよ?」


 急いで顔を上げると、俺とリュドミラの周りにいつの間にか4人が囲んでいるのがわかった。

 4人とも背格好や服装が同じで、顔も同色の仮面で統一されている。

 一言でいうと、不気味な集団だった。

 服装をそろえてくるのも謎だし、いきなり攻撃を仕掛けてきたのもわからない。

 だが、一つだけ言えることは――彼らは多分相当な実力者だ。

 気配の消し方から攻撃の重さまで、直接彼らの動きを見たわけではないが、俺一人では対処できない相手と直観的に理解する。

 

 俺が引きつけている間に逃げろ――そういう前に彼らは再び先手を取ってきた。

 俺から見て正面の二人が、リュドミラを襲う。

 背後も気にしなくてはいけないために、助ける余裕はない。

 スライムの召喚も、間に合わない。

 さっき俺が受けた攻撃と同じく、彼らの一人が放った手刀がリュドミラの首に吸い込まれる。

 そうして彼女は意識が刈り取られたのか、地面に倒れ込んでしまう――その前に彼らの一人がそれを受け止める。

 それとほぼ同じタイミングで、背後の二人が俺へと接近する。

 一人は徒手空拳、もう一人は右手にナイフを握っていることを確認。

 狭い路地裏でかわすスペースはあまりない。考えて動かねば、と思っているうちにナイフが腹の辺りにまで迫るのを、慌てて身を(よじ)らせ、なんとか避ける。

 が、意識をそちらに向け過ぎた。

 避けることでもう一人に背中を晒すこととなり、相手はそれを見逃すはずがない。

 がら空きとなったところに、強烈なミドルキックがめり込む。


「たはっ……!!」


 止めていた息が漏れ、上半身が揺れ動く。

 彼らの手は、まだ止まらない。

 リュドミラの方が終わったのか、後二人もこちらに加勢してきた。

 まず来たのは、足払い。

 そこは踏ん張りで何とか(こら)えるが、そこに他の奴からのローキックが入る。

 一撃に(とど)まらず、二、三、四――と執拗に数を増やしていく。

 そんな中、残りの奴らがただ見ていたわけではない。

 ナイフを持っていた奴が、投擲(とうてき)。一本だけでなく、懐にもう一本仕込んでいたのか、それも大して間隔を入れずに飛んでくる。

 一本目はかわせたが、二本目が完全に避け切れずに軽く頬を切り裂かれた。

 そうして、機を狙って懐に潜り込んでくる奴もいて――


「いい加減にしやがれッッ!!」


 このまま回避と防御していても埒が明かないと判断し、それらを一切捨てて懐にいる奴に集中に、反撃に出る。

 腕も足も動かせない中、唯一動かせる頭で頭突きを放とうとしたのだが――


「あ、れ……?」


 急に身体の自由が効かなくなってしまう。

 結構体力の方も削られてきてはいたものの、動けなくなるほどじゃかなったはずだ。

 じゃあ、どうして……?

 受け身も取れずに、地面に思いっきり身体を打ちつけ痛みが全身に走る――と思いきや、そこまででもない。

 ということは、まさか……身体が麻痺でもしているのか!?

 起き上がろうにも、不思議と力が入らない。

 くそ、動け。

 動け、動け、動け、動け、動け。

 しかし、身体は俺の意思に反して、ピクリとも動くことはない。

 

 そうして、そんな意識も徐々に薄くなっていく。

 次第に視界がぼんやりとしていき、そうして外界から切り離されたのだった。







【???】

「ふぅ、速効性の麻痺毒塗りこんだナイフでようやく倒れやがったよ、コイツ」


 仮面をつけた一人がクレヴに蹴りを入れるも、すぐに他の者がそれを止める。


「んで、どうするんよ? 娘さんの方はアレだとして、この男の方は()っちまうか?」


 軽薄そうに言う仮面の男に、


「……いや、止めておこう」


 別の低い声の仮面の男がそれを止める。


「どうして? 生かしてもメリットがないって」


「……ここまで我々の攻撃に耐えきったんだ、利用価値くらいはあるだろう」


「でもさ、おれたちの仲間にでもするわけ?」


「……それは無理だろうな。ターゲットと一緒に運ぶとする」


「えー、って言っても無駄なんしょ? はいはいわかりましたよっと……って重っ!!」


 腰を落とし、手をクレヴと地面の間に滑り込ませて、持ち上げようとするも失敗に終わる。


「……ふざけているのか?」


「いやいや、違うんよ。コイツ、凄ぇ重いんよ。たぶん150キロ以上はあるってこれっ!」


「……どれ。ん、本当に重い。何か服の下に仕込んでいる物でもあるのか?」


「んー、特にない。身体の構造どうなってんよ、これ?」


「……とにかく運ぶぞ」


「へーい」


 彼らはクレヴとリュドミラを背負って、路地裏を、ここを管理する貴族達が意図的に造り出した"裏道"を駆けていく。

 そして、彼らは貴族達が夜逃げするために造られた"抜け穴"を使い、誰にも見られることもなく、ルイゼンハルトから姿を消した。

 


主人公の体重がおかしいのは、親がもっとおかしいからです。

まぁ、『ありえねぇよ』という意見は、異世界だからでスルーしてくれるとありがたいです。

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