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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
フルデヒルド
51/136

1

【クレヴ】

 暑さのピークは過ぎたものの、未だに太陽光の勢いは弱まらず、気がつけば自然と汗が浮かび上がる。

 果たしてそれは、直接日光の当たる外と、蒸した空気が充満する馬車の中とどちらの方が涼しいのだろうか。

 馬車から降りると、(ぬる)くなった風が身体を撫でてきて、少なくとも俺の感覚ではどちらも変わりないように思える。

 

「んー」


 金属の擦れる音を鳴らし、段差を降りながら軽く伸びをするシリア。

 伸びをする度に青いポニーテールが揺れ、自然と目がそちらを追ってしまうほどに、綺麗な髪をしている。

 まぁ、この長旅のせいで若干痛んではいるかもしれないが、素人目からすれば、充分に綺麗なものだと思う。

 少なくとも、俺の髪とは別の素材で出来ているんじゃないかと疑うほどだ。

 それというのも、やはり普段の暮らしのグレードが違うからなのだろうか。

 

 まぁ、王族と平民風情が比べるのも、おこがましいか。

 前から思っていたんだが、王族という身分の割に彼女は人間が出来ているように見える。

 俺の勝手なイメージだが、姫様というのはもっと我儘なものかと思っていたのだが、彼女は寧ろその正反対。

 俺にとっては残念でしかない父――シルヴァに憧れを持ったせいか、厳格であろうとしており、意思の強そうな瞳はそれを表しているようだ。

 俺よりも暑そうな鎧を着込んでいる割に、涼しげな表情を浮かべるシリア。

 普段から鎧を着ているだけあって、慣れているから何だろうか?

 まぁ、その影響は多分あの鎧女(カミラ)のせいなんだろう。

 ……今後も、鎧女の暴力性と理不尽さを反面教師に、優しい人間に育ってくれることを切に願う。


「やっと着いたー」


 続いて降りてきたのは、ルシル。

 明るい金髪を手で押さえ、日光が眩しいからか、大きな目を細めている。

 顔にまだ大分幼さが残るものの、長身で手足はスラリと長い。

 顔だけ見れば大変可愛らしいものではあるんだが、性格はやや凶暴。

 特に同郷である俺に対しては容赦がなく、出来れば二人っきりになりたくない相手ではある。

 魔法に関して言えば、優秀な部類に入りそうな人物で、馬車での会話だと天才型と窺える。

 そんな馬車での疑問も、放り投げてしまったのか、今ではスッキリとした表情を浮かべていた。


「はぁ……」


 そのルシルの後に出てきたのは、リアナ。

 亜麻色の髪に、ローブの色に負けない程に、白い肌。

 人の手で作られた人形のように整った顔立ちをしており、

 いつもの笑みはどこかにいってしまったのか、今は疲れた表情を浮かべている。

 まぁ慣れない相手だったために大分苦戦したのだろう。

 俺としては、このままリアナに元気がない方が望ましいと思ってるが、いずれは適応してもっと厄介になりそうだと睨んでいるほどに、油断ならない人物だ。

 数ヶ月の付き合いがあるが、未だに得体の知れなく、魔王の側近だと自称していて。

 そんな冗談みたいなことを笑い飛ばせないくらいに、彼女は強い。

 あの無駄に格好良い四足歩行で背中に羽の生えたモンスターをパシリにしているんだ。

 『規格外』、だ。

 そんな人物が何故俺なんかに関わろうとするのか……。

 その理由が面白い、という一言で片付けられているのは大変不服なところではあるが。

 訴えたところで無駄なことは分かり切っているのが悲しいところだ。


「リアナ様、大分お疲れのようですが大丈夫ですか?」


 その後に続くのは、リーシャ。行きの時とは全く別人になってしまった元シスターである。

 元、というのは、ソムディアから出発する前に、彼女が何やら書き置きをしていて、そっと手元を覗いてみると、『やめさせていただきます』の一言のみ。

 それを控え室の机に叩きつけるようにして、彼女はソムディアから去ったのだ。

 こんな雑な感じでいいのか、と聞いたところ、


「そもそも私、無理やり入らされていただけですので。入る時に正確な手続きをしてないんですから、辞める時も同様でしょう?」


 と、あっさりと言ってくれた。

 んで、リアナが宗教作る、なんてアホらしいことを言ってしまったせいで、ここまで付いてきたんだとか。


 今まで人を信じられなかった反動なのかは知らないが、リアナへの妄信っぷりが相当ヤバい。

 押しが強過ぎるため、今はリアナが押され気味になっているものの、もし彼女の手綱を握ることに成功したら……俺の不幸が増進すること間違いなしだ。


 耳まですっぽりと覆う、縦長の帽子を被っており、見た目だけなら人間に見える。

 が、リアナ曰わく、リーシャは妖精なんだという。

 その証拠に、耳が長く尖っているのは確認済みだ。

 書物なんかに載っている伝説では、背中に羽が生えているらしいが、リーシャには生えていなかった。

 妖精、といっても様々な種類がいるため、羽の生えていなくとも別におかしくないらしい。

 彼女自身が、どういった存在なのか、物心つく前に攫われてしまったのか知らないらしいので、俺も深くは聞かなかった。

 相手の立場になって考えてみると、俺だって『人間』というカテゴリーだが、『どんな人間か』と問われれば答えに詰まってしまう。

 特に住む地域で人種なんて分けてないし、精々サラナ村出身の人間、としか言えない。

 それを彼女に当てはめて見れば、ソムディア育ちの妖精となり、結局は聞きたいことなんて聞けない。

 というより、人間側が勝手に区別しただけだし、彼女らが知る(よし)もないか。


 甲斐甲斐しく敬愛するリアナを心配するリーシャだが、自分が原因だということに気がついてはいない様子。

 いいぞ、もっとやれ。

 そして最後に、もう馬車からは降りたが、行きにはいなかったメンバーがいる。

 それも足が飽きた今は、背中へと侵攻しているモンスター、リキッドスライムである。




 帰り道の途中、馬の休憩を挟んでいる間にリアナにリキッドスライムのいた場所を案内させたのだが。


「離れない……」


 そこは沼が近いからか湿気も多く、リキッドスライムが好みそうな場所であったが、俺の身体から離れようとはしなかった。

 掴んで離そうにも、指をすり抜け、ぬかるんだ泥で誘ってみても効果がなく。

 わざわざ水辺まで行って水に浸そうとも、離れることはなかった。

 それから色々と試行錯誤する時間はなく、結局お持ち帰りする羽目となった。

 契約魔法は……正直やろうか悩んでいるところ。

 積極的にやりたい、とは思わないのだが、これからもずっと俺の身体から離れないのだとしたら、まずい。

 リアナのお土産が再開すると危険を晒す羽目になるからだ。

 いざとなったら、戻喚魔法で引っ剥がそうとは思うのだが……それで良いものだろうか。



「依頼が終わったけど、これからどうするんだ?」


 馬車から全員降りたところで、シリアがそんなことを聞いてきた。


「私はノルマをこなしたことだし、フィリーネと買い物でも行くつもりだけど? それじゃ」


 もうアンタらとは関わり合いになりたくない、という風に答えるルシルは、そのまま軽く手を振って去ってしまう。


「俺は、訓練があるんじゃないのか?」


「依頼が終わったら、休んでいいと、聞いてるんだが?」


 俺の知らない情報をシリアから教えられる。

 多分、情報源は副団長か鎧女だな。

 だが、良いことを聞いたな。


「そっか。なら俺は身体でもゆっくり休めるかな」


 休める時に休む。幼少の頃から充分にわかっていることだ。

 いくら頑丈な身体とはいえ、疲れは溜まる。

 疲れが溜まれば、パフォーマンスが落ちる。

 そのパフォーマンスが落ちれば……その分生存率が低くなるからな。

 人一倍死にたくない、という気持ちを強く持つ俺には、わかっているんだ。

 最近はその思いに気付かさせてくれた父がいない代わりに、リアナがいる。

 日課にありつつあるモンスター(お土産)との戦闘。

 いくらお土産の危険度が低いとはいえ、こちらには一般の魔導師のような、大きな火力はない。

 だから大体は消耗戦を強いられるんだが、しんどいから嫌なんだよな。

 基本的に俺は平和主義、とまではいかないが、あまり戦闘を好む方じゃない。

 かといって、戦いたくないからと易々と殺されるつもりも毛頭ないが。

 まぁ、戦わなくていいのなら、人が嫌がるような雑用でも何でもやるだろう。

 死にたくないし。

 でも世の中には、死のリスクがゴロゴロと転がっている。

 俺の目の前には特に、と言いたいぐらいではあるが、それはさておいて。


 例えば、モンスターの脅威なんかはそうだろう。

 これについて言えば、ルイゼンハルトみたいな大きな街に引きこもってしまえば、遭遇する可能性は大幅に減るだろう。


 が、その街にも危険はある。例えば食うに困った貧民の連中。

 彼らも生きることに必死なために、所持品を奪うことを目的に襲いかかってくるというケースも存在する。

 また、金がない連中だけでなく、金を潤沢に持った連中もそうだ。

 彼らは基本我が儘で気に入らければ、それをすぐに排除する傾向にある。

 例えそれが人間であろうとも、だ。

 金で雇った暗殺者を仕向け、密かに事を済ませたらそれを金で隠蔽するらしい。


 ……と、例を挙げては見たが、これらは治安が良ければそこまで起こらない極端な例だ。

 心配性が過ぎる、とは思うのだが考えてしまうのだから仕方がない。

 限りなく低い可能性。しかし起こらないとは言い切れないものだ。

 それらから、確実に自分の身を守るためには、やはり力がいる。


 死にたくないから、強くなる。

 そのために今は……身体を休ませるのが必要だ。

 固いベッドの上で二、三日くらいゴロゴロしていてもいいだろう。


 だが、そんな俺の淡い願望を打ち砕かれてしまう。


「そういえば、リーシャはどうするんだ?」


 シリアにとっては、何気ない疑問だったのだろう。

 しかし、その一言は俺を厄介へと巻き込む第一歩だった。


「リアナは魔法学校の生徒だから僚があるが、リーシャは生徒じゃないから、そこには住まわせられないぞ」


「確かにそうだね」


 ルイゼンハルトの物価は都市故に高いから、宿に泊まらすにしても滅法に金がかかる。

 金には困ってなさそうなリアナではあるが、リーシャがあまり迷惑をかけたくない、と言う。

 だが、そんな彼女は非力である。基本、力仕事の多い依頼は受けられないし、他の仕事もシスターしかやってこなかった彼女には難しい。

 誰かの手を借りずに彼女がここで暮らすのは不可能だ。


「じゃあ、サラナ村に住まわせればいいか」


 大して悩む様子もなく、リアナがそんなことを言い出した。


「却下」


「何故なんだい? あそこなら金はかからないだろう?」


 確かに俺の故郷であるならば、金はかからない。

 村人は皆、そこまで金にこだわらないし、余所の人でも受け入れてくれる。

 顔が良ければ、その分可愛がる人もいるし、田舎だが食うにも住むにも困ってはいない。

 子供が出来ない老夫婦のところに置けば、喜ばれることだろう。


 また、サラナ村は治外法権みたいなところがあるしな。

 土地や人に税はかからないし、お国で決められた法なんかも大体は適用されない。

 理由は勿論、あそこが混沌としているからだ。

 これは小さい頃、村人から聞いた話だが、サラナ村が出来た当初、税を取り立てる者がいたらしい。

 が、その人がサラナ村の人間に税を収めさせることは出来なかったという。

 まぁ、理由は幼い俺でも簡単に推測出来た。

 まず、主食となる穀物の畑。これも家同様にきっちりとは作られておらず、他の作物なんかも生えているのだ。

 その土地で取れる指定された穀物の10%を税で収めなければいけないのだが、流石はサラナ村の人間。

 必要な時以外には頭を働かせず、計算を全て徴税官に丸投げ。

 畑に生えている作物の種類は百は超え、指定された穀物とそうではない物とで分ける労力と、そこで取れる税の微々たる量が割に合わない。

 憤慨した徴税官は村人達に、他の所のようにきっちりと整備し、植える作物も指定するのだが、そんなことを聞くこともなく。

 ならば、ということで規定にもない作物も大量に税として持っていこうとする徴税官だったが、サラナ村の連中にここぞというところで正論を持ち出され、断念。

 その後も武力によって脅しをかけようとするのだが、戦闘特化した化け物連中と、手先が器用な連中が本業を放り出して作った何重ものバリケードやトラップの数々により撃退。

 たった一つの村にそこまでの人を割くわけにもいかず、最終的に徴税官は国の方に法を改正するように言ったのだが、失敗に終わることになる。

 無法地帯であるサラナ村にだけ、ガチガチに固めた法を敷こうとすることを知った村人達は、すぐに行動を開始。

 城下町にある貧民層と、国に不満を抱える平民層に確たる意志を叫び、彼らの心に訴える。

 詐欺師のように巧みな話術ではないものの、その言葉の数々に人の心を動かす熱意があった。

 そうして大勢の味方を得た村人達は、彼らにボイコットするように指示。

 すると生活の基盤を失ったルイゼンハルトは、みるみるうちに国としての機能を失っていった。

 生活のレベルが落ち、怒りを覚えた貴族達は彼らに向かって仕事を強要した。

 が、彼らの意志は固い。散々辛酸を舐めてきた彼らにとって、サラナ村の村人達が提案したものは、恨みがましい貴族に対して、今までにない抵抗手段だった。

 金の誘惑で意志の弱い数名の者が折れたものの、大多数は心変わらず。

 彼らによって苦しめられた貴族や王族達は、結局その提案を受け入れる以外の方法が浮かばず、彼らの要求が呑み込まれたのだった。


 結果、平民は職の最低賃金が上がり、心ない貴族によって多大にかけられていた生活用品による税が引き下げられ、彼らの暮らしが豊かに。

 また貧民には、僅かではあるが休憩の時間が設けられることとなった。

 サラナ村に対しては、法が撤回されただけでなく、国の方針で不干渉を決定。

 何でも、一つの村にこだわって街全体の機能を滞らせるより放置した方が賢いと判断したようだった。

 その後、一部の貴族が私兵をサラナ村に送り込むがその私兵達が裏切って比較的身分差がないアスタールに住み着くようになり、武力を削がれたために没落したのもいたというのは余談か。

 

 と、叩けば埃のように冗談みたいな逸話が出てくるサラナ村だ。

 変人の巣窟に、新たな変人を加えたらどうなるのか……。考えたくもない。


「つーか、リーシャさんをサラナ村に連れて行くとなると、そこに教会を建てる気なのか?」


「勿論さ」


「だから嫌なんだよ……」


 こんなこと聞いたら、面白がって教会が建てられてしまう。

 しかもそれは名ばかりで、実際村には不要な物だ。

 村には、他にも無用な建物が乱立していて、変な言い方だが馴染む光景となりそうだが、俺は嫌だった。

 故郷の混沌具合がこれ以上増えて欲しくないのである。


「クレヴの個人的感情だけなら、却下される理由としては弱いね。それに、私の中ではもはや決定事項だ。

 誰が喚こうが、私は自分の意志を曲げるつもりはないね」


 リアナは自信の満ちた笑みを浮かべると、リーシャを連れて南門の方へ――と思ったら、途中で引き返してきた。


「何やってるんだい? 君も一緒に行くのは決定事項だけど」


「聞いてないんだが」


「今言ったからね」


 そう言って俺の手を掴むと、引っ張るようにして歩き出す。

 そこに、あの気まずさはもう見られない。

 ルシルといい、女というのは、どうして切り替えが早いのか。


 まぁ、尤も。

 キスしてしまった時に、特に気にした様子もなく、『何を照れているんだい? ただ唇同士が触れ合っただけだろう?』と平然とするもんだと思っていたが。

 そういうのも気にするんだな、という罪悪感が未だに残っているんだが、この調子だと薄れていくのも早いだろう、と思った。







「えーと、シリア様?」


「なんだ?」


「何で俺たちに付いてくるんですかね?」


「それは私も行ってみたいからだ!」


 目を輝かせながら言うシリアに、俺は冷や汗を流していた。

 この姫様は、多分興味本位、遠足気分で付いて来る気でいやがる。

 あんなカオスなところ、彼女の目には毒だ。不敬罪に値するレベルだ。

 そして何よりも、俺がシルヴァの息子だとバレるリスクが大幅に高まってしまう。

 バレれば、間違いなく面倒なことになるし、どうしたものか、と頭を悩ませていると。


 ガシャガシャといった金属音が、こちらに近付いてくる。

 その音は、鎧の可動部分が擦れる際に生まれるものだが、テンポが異常に早い。

 鎧を着込んでいるのに、鍛えている騎士の全力疾走さえ凌駕するこの速度。

 そんな奴、俺は一人しか知らない。


「シリア様っ!」


 ここまで走ってきたにも関わらず息切れは殆どなく、大変心配そうな顔をして鎧女――カミラが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか? お怪我などありませんか?」


「掠り傷一つないから、落ち着いて」


「落ち着いてなんていられるはずがないでしょう!」


 涙を浮かべ、声の限り叫ぶ鎧女。


「城に帰ると、お姿が見えないなと思っていたら、何日も帰ってこられない。まさか誘拐されたんじゃないかって、気が気ではなかったんですよ」


 鎧女はシリアを抱き締めて、多くの涙を流していく。


「急いで私が動かせる私兵をかき集めて、街中探し回っても見つからない。もはや私の手には届かないところにまで行ってしまわれたのかと……」


「カミラ……すまない。……すまない」


 自分では軽い気持ちで抜け出したのだが、余計な心配をかけさせてしまっていたことに気付いたのだろう。

 シリアが謝罪の言葉を何度も述べる。


「本当に良かった………………ん?」


 感動のシーンだな、と2人をぼんやり見つめていると、鎧女と目が合ってしまう。

 涙でぐちゃぐちゃになった顔をハンカチで拭うと、途端に俺を親の仇のように睨んでくる。


「貴様か、貴様がシリア様を……」


 そっとシリアを押しのけると、腰に下げた剣を抜き放つ。


「あのー、ここ、街中なんですけど?」


「ああ、今は緊急事態だから剣を使う許可なんぞ待つ必要はない。有害生物の排除のためだ」


 あぁ、目が今までにない程に本気でいらっしゃる。

 いつぞやの寸止めなんかではなく、殺す気満々らしく、膝が震えてきやがった。

 何度となく打ちのめされてきた記憶が、鮮明に脳内に写り出す。

 今まで、何度も何度もイメージトレーニングをしてきたが、勝ちのビジョンが見えない相手。

 幸い、手元には使い慣れた盾がある。

 防御を徹底し、相手の体力が切れるまで何とか応戦するしかないか?


 そう勝ち目の薄い戦いに挑もうとした、そんな時。

 神はまだ、俺を見捨ててはいなかった。


「御使い様に何をする気ですか!」


 そう言って、俺の前に駆け出してくるリーシャ。


「何だ、そのクソ野郎を庇う気か? そんな反吐が出るような男を庇う価値なんてないと思うが」


「御使い様は、そんな人ではありません! こんな私に、救いの手を差し伸べる尊き心を持ったリアナ様の忠実なる(しもべ)であらせながら、リアナ様の高尚なお考えを理解出来る崇高な方なのですよ?」


「それは、あなたが後ろのゲスに騙されているだけだ」


「御使い様を理解しようともしていないのに、勝手なことを言わないでください!」


 リーシャ、俺のことを庇ってくれるのはありがたいけど、お前も俺のこと勘違いしているよ。


「そうだ、クレヴはそんな男ではないぞ」


 リーシャに便乗するシリア。


「……ではシリア様。その男がどんな人間なのか、聞かせてもらえますか?」


 一旦剣を収め、鎧女はシリアの方に向き直る。

 その隙にこの場から静かに離脱しようと試みるが、リアナに捕まって失敗に終わる。

 まぁ、尤も鎧女にもフェードアウトしようとしていたのは看破されていたけどな。


 リアナが捕まえてなけりゃ、瞬時に踏み込んで切り捨てられていたかもしれない。

 少し迂闊だったな。


「クレヴは……騎士を目指すにしては臆病だし、剣の腕もからっきしで、いつも己に自信がなくて、好きでもない女性にキス出来る貞操観念がなさそうな男だが」


 なかなか人を傷付ける台詞が続く。特に最後のは、今でも頭を抱えたくなるものだし……。


「だが、要所要所が似ているんだ。自分の尊敬するシルヴァさんに」


 今日の最高値である暴言を頂きました。

 ここまで言われたら、流石に泣きたくなってきた。


「……私はその男に対して、あまりいい感情を持っていないのですが」


「……」


 シリアの説得が、失敗に終わる。

 が、俺としては鎧女――もといカミラさんに少し共感を得たことが、ちょっと嬉しい。


「……頼むよ、カミラぁ」


「うっ……」


 説得が駄目だったシリアが、今度は甘えるように頼み込む。

 これはギャップ攻めということもあってか、カミラさんがたじろぐ。


「これは、自分から言ったことなんだ。だから、クレヴは悪くないんだ」


「…………」


 カミラさんは長い沈黙の後。


「はぁ、わかりました。今回だけですよ?」


 と折れてくれるのだった。


「……次やったら、最低でも生きていることを後悔するような仕置きを用意してやるから、覚悟しろ」


 と、カミラさんはドスの聞いた言葉を俺の耳元でくれた後、シリアを城の方へと連れていくのだった。






【カミラ】

「一つ、お願いがあるんだが」


「駄目です」


「自分はまだ何も言ってないぞ……」


「どうせ彼らに付いていきたい、とでも言う気だったんでしょう?」


「う……」


「だから駄目です。勝手にいなくなった罰として、3ヶ月間城下町を出歩くのは禁止にします」


「それは厳し過ぎるんじゃないか……?」


「寧ろ軽い方だと思いますけど? ……本当ならもう外になんて出したくないくらいなんですよ」


「わかった……。3ヶ月我慢する」


「ふふっ(これでしばらくはシリア様にべったり出来ます!)」

更新遅くなったのに、話が進まなくて、すいません……。

本格的に導入部分に入るのは、次か次の次になりそうです……。

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