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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
ソムディア
49/136

17

余談です。

いつものごとく、ぐだぐだな締めですが、どうぞ。

【クレヴ】

 自分の思う通りに動いてくれない足を恨みつつ、シリアに引っ張られる形で、地獄に戻ってきたんだが。


「なんだこの状態……」


 俺とシリアがいない間に、随分と険悪ムードに包まれていた。

――なぜか、リアナを庇う形で例のシスターさんがルシルと相対して、だ。

 確か、俺がここを離れる前までは、シスターさんってルシルと同じ側だったと記憶しているんだが。


 どうやら俺は幸運にも、今すぐにキスについて考えなくても良さそうだった。


「リアナァ……!! 殺す、すぐ殺す、今殺す……」


「させません! この私の命に懸けてでもっ!!」


 他人の前だというのに殺意丸出しのルシルに、一歩も退かずリアナの前から離れないシスターさん。

 リアナはリアナで、他人事のように傍観している。

 もはや俺の想像の範疇は軽く超えているため、思考は放棄だ。

 驚きでフリーズしているシリアの手を振り(ほど)くと、この状況を引き起こした張本人の元へと近づく。

 お二人は取り込み中だったためか、俺の存在は見事にスルーされ、妨害なしにお目当ての人物に声をかけることに成功する。


「…………これ、お前の仕業だろ?」


「…………証拠もなしに疑うのは良くないんじゃないかい?」


 俺に合わせて、あちらも抑えた声で会話してくれる。


「…………ルシルが殺したい程嫌っている人物なんて、お前さんくらいしか思いつかないんだが?」


「…………いい洞察力だね。まぁ、この騒ぎの引き金となったのは、君の言う通り私になる」


 取りあえずリアナに俺がいなかった時の出来事の説明を要求すると、次のように返答が返ってきた。


「私の知的探究心によって、ルシルの怒りが誘発された結果がこれだ」、と。

 流石にこの一言ではわからないため、詳しく聞いてみると、以下のような流れになる。


 まず俺がいなくなった後、どういうわけか知らないが攻撃を控えていたルシルが、リアナに対して戦いを仕掛けてきたらしい。

 それで、彼女らの二回目の戦いが繰り広げられ、結果またリアナが勝利を収めたようだ。

 服に損傷は見られるもののリアナ自身は無傷。

 もう俺からすれば、こいつは"魔王"と名乗ってもいいんじゃないか、といいたくなるくらいの魔法抵抗の高さだ。

 んで、戦闘が終結した後、今度はシスターさんが相手をすることに。

 が、珍しくもリアナはここで武力を用いらず、なんと話術で解決しようとしたらしいのだ。

 ……何でも、これと似たシチュエーションが書物に載っていたために、それを面白半分に実証してみたらしい。

 すると、見事に彼女はドハマりし、リアナに降参を宣言。

 そしてルシルとシリアにかけられた『誘惑』を解除した後、泣いて謝ったんだとか。


「今までの非礼をどうかお許しください」、と。


 そこからの変貌っぷりは、リアナでも想像出来なかったという。

 名前に"様"付け、また話遣いは最高敬語を使っていたらしいが、そこは鬱陶しいという理由でギリギリ丁寧語で妥協したという。

 あまりの変わりように、これは演技しているのでは、と疑ったリアナだったが、それは杞憂に終わる。


 ルシルが気絶している間に、リアナは気になったことがあったらしい。

 それは……ルシルの胸部について。

 女という生き物は、大抵胸部に膨らみがあるものだと思っていたリアナらしいが、ルシルにはそれがあるのかどうか、服の上からでは判断出来なかったらしい。

 というのも、その膨らみがなさ過ぎるからなのだが、ここまで無いのは珍しいことらしい。

 興味を持ったリアナは、ルシルの服に手をかけたところで――偶然にもルシルが目を覚ました。

 目覚めてみれば、脱がそうとするリアナが目に入り、慌てた表情をするルシル。

 そんな彼女に親切心と悪戯心を織り交ぜて、小声で説明すると、現在のように激怒したという。

 

 そこに、何とあのシスターがリアナを庇おうと前に出る。

 いくらルシルが怒鳴ろうとも、そこを一切どかずに、ルシルを睨みつけていたんだとか。


「…………お前さんさ、シスターさんに『誘惑』使ってない?」


「…………だとしたら、説明もつくんだろうけどね」


 そんな言い方をされると、本当にリアナは『誘惑』を使っていないように思える。

 というよりも、平然と『誘惑』の魔法が使えているのが、大変恐ろしい。

 早急にあの技術を身につけねばなるまい。


「こうなったら、全部まとめて『ボルテック・フレア・バースト』で……」


「……!! 私の魔法が効かないなんて……!」


 どんどんヒートアップしていくルシルに、危機感を覚える。

 このままだと……巻き添えを喰らうんじゃないか?

 話したいことはまだあったが、仕方がない。

 命は大事、だしな。


「まぁ、待てって」


 さあ逃げよう、と思ったら、思考を先読みされ、リアナに肩を掴まれてしまう。


「いやー、急にトイレに行きたくなったから、手を離してくれないか? ……早急にな」


「君と私は運命共同体だろう? 我慢してくれてもいいじゃないか……ルシルが魔法を放つまでさ」


 肩に乗った手を払おうとするが、案外力が強いのか、なかなか離れない。

 つーか、指が肉にめり込んで痛い。


「離せって……」


 そこで、はたと気づく。

 リアナが目を逸らし、こちらを見ていないことに。

 普段よりも下手な笑みを貼り付け、気まずそうにしていて。

 これに思い至る点は、ある。多分、キスのことだろう。

 しかし、あのリアナがそれだけのことで照れるのか?

 第一、その原因を作り出したのもリアナの方だ。

 また、誰かの真似でもしているのか?


 疑心暗鬼になってしまい、俺の方からは、話しかけられない。

 リアナの方も、手に力を入れるだけで……ってまだ強くなってる。

 今、口を開こうものなら、痛みで悲鳴を上げてしまいそうだ。


「落ち着け、落ち着くんだっ!」


 この沈黙を破ったのは、フリーズ状態から回復したシリアがルシルに向かったことで、手の開いたシスターさんだった。

 姫という立場だというのに、随分苦労させてしまっているなぁ、と感じたのを、シスターさんのある一言で完全に吹き飛んでしまう。


「リアナ様、あちらは鎧を着た人に任せて……って御使(みつか)い様、帰ってきてらしたんですね」


 ここを離れる前よりも、俺たちに対する態度が軟化していた。

 というよりも、180度真逆と言ってもいい。

 確かにここまでの変わりようなら、演技しているんじゃないかって疑いたくなる。

 もしかすると、『誘惑』を使い、俺たちを油断させようとしているんじゃないのか?

 いや、『誘惑』は万能じゃないはずだ。だとしたら、一体……? ――と、その前に。


「御使い様……?」


 聞き慣れない言葉。一体誰のことを言っているのだろう? ……例え簡単に推測出来ようとも、本人の口からしっかり言ってもらうまでは、認めない。

 認めはせぬ。


「あの時は、本当に謝っても謝り切れない程に申し訳ないと思っています。私ごときが御使い様のお心を弄ぶなんて、大変無礼なことをしてしまって……」


 何で俺に向かって謝ってんだろう。


「あのー、それって俺に言ってるんですか?」


「はい、御使い様。それよりも、怒らないんですか?」


 ……認めたくはないが、やはり俺のことだったようだ。

 でも、何で俺のことを御使い様って呼ぶのだろうか?

 怒ろうにも、何が何だかわからず、怒る余裕なんてなかった。


「もう終わったことだし、今更怒ったって仕方ないだろ? それより何で、御使い様?」


「何を言ってるんですか。リアナ様の御使い様でおられるんでしょう?」


 ほっとした表情の後、一笑され、軽く流されてしまう。

 あれ、もはや決定事項なのか、これ?


 当然のこととして、リアナを睨むも、奴は目を逸らすだけ。

 本当にやってんだとしたら、自慢気に堂々と俺の方を見てるからなぁ。 何か調子が狂う。

 つーか、まだ肩から手が離れてない。いい加減に離してもらいたい。


「それにしても、リアナ様に使えるだけあって、御使い様も寛大でいらっしゃいますね。こんな私にお許しを頂けるなんて」


 そんなリアナを見ながら、柔らかく笑うシスターさん。


「特に、あのスライムの(くだり)なんかは、それはもう感動的でしたよ。

 私に『誘惑』された御使い様に、リアナ様はあれだけのお力を持っていらっしゃるというのに、力ずくではなく心に訴えかける方法を選び、御使い様はどんな命でも大切にすべきだ、とリアナ様のいる正しき道に戻られました。

 あんな短い時間の中で、敵対していた私にさえも命の尊さを問いてくださるなんて」


 ……壮絶な勘違いをしていらっしゃるな、このシスターは。

 俺とリアナなんかに、人を救うどころか、人に何かを諭せる程、高尚ではない。

 リアナなんかは、逆に場を荒らしたりするのは得意だったりする。

 現状、ルシルが荒れているのも、リアナのせいであるし。


 まぁ、それを今更言ったところで、このシスターさんは耳を貸してくれないだろう。

 俺をリアナの御使いだと信じて疑わないし、この感じだとリアナが言うことはどんなことでも、彼女の中で正当化されるだろう。

 今までの人生の中、信じる者はいなかったから、今、その反動が来ているのか?

 妄信者。

 確かに、今の彼女にはぴったりの言葉かもしれない。


「そういえば、リアナ様が立ち上げる宗教についてですが」


「えぇー」


 こんな騒がしい中で話すのか?

 それも、大変不服に思う、あの内容を。


「善は急げ、と言うじゃないですか、御使い様」


「いや、でもこんなところで話すのも、どうかと……」


 ニュアンス的には、ゆっくりした場所で話そうという風に言ったが、本音としては永久にそれを話すのは延期にしたい。

 だが、リアナの言ったことだ。今更廃止したい、と言っても聞いてくれないだろうな。


「せっかく三人揃ったんですから、早い段階で少しでも"リアナ教"について煮詰めようと思ったのですが……」


「ん? ちょっと待て」


 さっきのシスターさんの台詞に反応するリアナ。

 ここでようやく、念願の肩が解放される。


「君は今、リアナ教って言わなかったかい?」


「はい」


 肩を見てみると、赤くはなってはいないが、凄くヒリヒリする。

 頑丈ではあるが、痛覚はそこまで鈍くないのが、厄介なところだ。


「私は確かクレヴ教と言っておいたはずなんだけどね?」


「何を謙遜してらっしゃるんですか。偉大なるリアナ様の名を広めるためもそうですが、崇めるリアナ様以外に、この宗派の名前はありえないでしょう?」


 何か俺が肩を気にしている間に、面白い展開になっているようだ。


「活動には、プロジェクト・サラナを実行するとも言っていたはずなんだけどね」


「そう物珍しいことで民衆の目を集め、真なる布教をするのですよね?

 命の尊さ、そしてどんな生物だろうとその命は平等なものだと掲げ、どんな者でも、虐げられてきた者なら救いの手を差し伸べる。

 そう、こうして私を救ってくださった時のように」


 目を輝かせながら、リアナの前で跪く。


「まだ私が愚かであった時から、リアナ様は大変素晴らしきお考えを持っていらっしゃったというのに、あの時の私は訝しげに思うことしか出来ませんでした。

 ですから、その償いとして是非ともリアナ様の願いであるリアナ教を広めたいのです。

 もちろん、例え罪がなくとも、やらせてもらいたく思っています」


 その後も、このシスターは、盛大に勘違いして、勝手に突っ走っていた。

 リアナが何を言おうとも、自分の中で曲解しリアナを崇拝する形に持っていこうとする強引さは、リアナにも(まさ)っていた。


 初めはリアナが言いくるめられている姿に気分爽快だったものの、俺が御使いなんていう枠組みに入っていることを考えると、途端に萎えた。


 俺がなんと言おうとも、リアナが通じなかったんだ。諦めるしかあるまい。


「「ははは……」」


 リアナと乾いた笑い声が重なる。

 もはやキスでの気まずさなんて、完全に吹き飛んでいるのだった。







 それから、ルシルについてだが、リアナの形だけの謝罪にルシルは更にキレ、シスターさんもそのルシルに、


「あなたには、リアナ様の秘めたるお気持ちに気付いてないのですか!」


 と、怒り、また混乱が起きそうになったのだが、それはシリアのある行動で収まった。


 その行動とは、むさ苦しくなった鎧を脱ぐということ。

 風通しが悪いために、激しい運動をした後には相当汗で気持ち悪いという。

 俺を止め、ルシルを止めるために、かなりのストレスが溜まったことだろう。


 もう戦闘は終わったし、止めるだけなら鎧はいらないだろうと考え、脱ぐことにした。

 一人では脱げないということで、何故かは知らないが俺が脱がすことになったのだけど、脱いだ瞬間は、もう凄かった。

 鎧に押し込まれていた2つの物体が跳ねて揺れたのである。

 その運動に目をつけたのは、俺だけではなかった。

 嫉妬による強い視線。ルシルである。

 がしかし、睨みつけたのは一瞬で、威圧感がなくなったものの、その目はシリアの豊満な胸からは離れない。


 そうして、一言。


「どうしてそんなに大きくなるのか、教えてください!」


 一瞬でシリアへと詰め寄り、両肩を掴んで激しく揺らす。


 こうして、ルシルの怒りの矛は、シリアの胸によって収められたのだった。







 その後、リアナによって気絶させられた神父さんたちを回収し、教会へと戻ることになった。

 今は亡き、あの男の骨は教会側に埋めてやらないのか、と聞くと多大な金を要求されたために、この場で埋葬することになった。

 どうやら彼らの顔色を見るに、あまり好かれた人物ではなかった様子だ。

 話を聞けば、何でもお偉いさんの養子で、我が儘息子だったらしく、いくら嫌だと思っても、この教会に置くように言われていたらしい。

 身内には、そのお偉いさんだけで、両親は彼が幼い頃に亡くなっているらしい。

 そのお偉いさんも、先月亡くなってから、余計に態度が悪くなったとか。


 そのお偉いさんも、あまりいい噂を聞く人物ではなく、彼の墓を作るなら、俺たちでやってくれと言われた。

 それで仕方なく俺1人で埋めることとなった。

 他の連中は、お話で忙しそうだったし、ルシルの方は死活問題らしいし。

 特に墓の作り方などは知らないので、穴を掘ってその中に骨を埋め、近くに目印になる岩を置く。

 あまり見栄えは良くないが、ないよりかはマシだろう。

 軽く手を合わせてから、教会に戻ることになった。







 待合室で、約束通り依頼の報酬について話したのだが、何故か渋らないる。

 理由は、なんとあのシスター。俺たちを襲う理由として、俺たちが回復魔法の情報を流出しようとした、と捏造し、『誘惑』したらしい。

 解除しても、その時感じた感情は覚えている。

 今は思わなくとも、引きずるのである。


 まぁ、何も知らないことを二時間による説得で何とかなったから、良かった。

 そんな情報を知りうる手段がないことを、百通りくらいの例を挙げて説明したのが、決定打だったのか。

 うんざりした顔で、報酬は支払われた。


 その後に起きた出来事はあまり思い出したくないので、簡潔に語ろう。

 傷ついた俺は、神父に回復魔法をかけてもらうことになったのだが、その際に目隠しをされた。

 秘密を守るために仕方ないと思ったが、その目隠しをされた後で――尻を執拗に触られた。

 怪我をしていない、と叫ぼうとも、


「いや、しているさ。心の傷を」


 と、訳の分からんことを言われて、結局回復魔法をかけてもらう前に逃げ出したのだった。


 もう金輪際、教会には近づかないことを決意した。


 余談だが、このことがあって以降、『トラウマメーカー(受動)』という不名誉な称号をリアナから与えられ、シスターさんから御使い様、の枕詞とつけるように、とリアナ教で決定したのだった。







「君の名前は……リーシャでいいかい?」


「リアナ様の名前から一文字頂けるだけでも、文句なんて付けられませんよ!」


 帰りは馬車に乗ることが出来、名目はルイゼンハルトに送る人たちの護衛となっていたが、実際に護衛する必要はないそうだ。

 盗賊さえいなければ、後は足の遅いモンスターが森に生息しているだけで、待ち伏せでもされない限りは安全なんだそうだ。


 シスター――現在リーシャと名付けられた人――にリアナが絡まれおり、行きとは違い、馬車に呑気に揺られながら寝ようと思ったんだが。


「さて、十分時間があるし、あの魔法について話して貰おうかしら」


 ルシルとシリアに、説明する羽目になっていた。


「別に説明するのはいいけどさ、俺だけが一方的に話すのは不平等だ。そっちも情報開示しやがれ」

 と、ぶっきらぼうに言ってやると、


「まぁいいけど、何が聞きたいのよ?」


 ルシルが凄い面倒くさそうに見てくるも、気にしない。俺だって説明するのは面倒だと思ってるしな。


「確か、『意識の高速遷移』だっけ? それについて教えてくれれば、こちらも教えよう」


 ずっと気になってたんだよな、これ。

 独自技術みたいで格好良さそうだし。

 何より利便性が高そうだ。


「自分は……そこまで魔法のことを知らない」


 何やら手持ちの情報がなく、しょんぼりとする人物が一名。

 初めはキリッとした印象を持たせてくれたが、今となっては、一生懸命になっている姿が大変可愛らしい苦労人、って感じだ。


「魔法に、こだわらなくてもいいんだぞ?」


「本当か?」


「あぁ、んと、そうだな。その鈍器について教えてくれればいいよ」


 まぁ、ずっと気になっていたことだ。

 俺としては、それで構わない。

 ルシルの方を見てみれば、一応頷いてくれている。

 どうやら鈍器に興味を持っていたのは俺だけではないらしい。

 良かった。皆てっきりそれを自然に受け止めてると思ってたからなぁ。

 あの鈍器に疑問を持つのは、可笑しなことなのか、ってずっと自問自答してたんだ。


 話す順番としては、多数決で俺からとなった。やはり、数の暴力ってつくづく理不尽だと思う。


「正直言うと、俺自身もそこまで詳しくないことを前提に話を聞いてくれ」


 その前口上を述べてから、知識を吐き出していく。


「ルシルさんが気になってんのは、召喚魔法自体じゃなく、詠唱をしないことで合ってるか?」


「むしろそれしかないでしょ」


「あれはな、補助魔法のおかげなんだよ」


「そんなの聞いたことないけど……?」


 シリアの方にも顔を向けてみるが、彼女は無言で首を横に振る。

 思った通り、そこまで(おおやけ)になってないようだ。


「見せた方が早いか。これなんだけどさ」


 そう言って、袖を捲って腕に描いた魔法陣を見せる。


「これが魔法陣なのか」


 魔法には疎いのか、少し感心した顔で頷くシリア。


「ん?」


 どうやら、ルシルの方が何かに気付いた様子。


「ルシルさんの方は見た覚えがあるだろう?」


「んーと、フィリーネと一緒にいた時に見たことあったっけ」


 そう、落書きだなんて馬鹿にしたことも、俺はちゃんと覚えている。

 教えてやるのを躊躇したのも、そういう経過があるからだ。


「これは、とある無名の召喚魔導師が開発したものでな、これが証拠だ」


 そういって、ポーチの中から例の日記を取り出す。


「これには大半は彼の冒険について綴られているんだが、少しだけこの魔法陣について書かれているところがあるんだよ」


「つまり、その人がその魔法陣を開発したってわけ?」


「そうだな。もはや尊敬に値するくらいに凄い人だよ、この人」


「でもねぇ……内容のほとんどが自慢話ばっかでウザいんだけど?」


 確かに、俺もそう思った。

 でも、それを帳消し出来るほどに、この技術は凄いものだとも言える。


「にしても、アンタは良くこんなもの発掘出来たわね」


「まぁ伊達に幼い頃から図書館に入り浸ってませんから」


「暇人だっただけでしょ」


「寂しい時を過ごしてたんだな、クレヴは」


「シリア様、勝手に勘違いするの、やめてくれない?」


 生温かい目線をこちらに向けられて、ついそんなことを言ってしまう。

 友達は確かに少なかったかもしれないが、だからといって書物に逃げたわけじゃない。

 単に書物が好きなだけだ。

 決して寂しい時を過ごしていたわけじゃない……はずだ。


「俺の過去はどうでもいいとしてだな」


「本当にそうね」


 やはりこのルシル(御方)もズバズバと言いたいことを言ってくれる。

 ここは我慢して、さっさと話を続けることにしよう。


「魔法陣についてはあんまり詳しくはないんだが、取りあえず魔法陣の効果について説明する」


 人差し指で、俺が"一つ目"と呼んでいる物を指す。


「これが先述の通り、召喚魔法の補助――具体的には詠唱の破棄をしてくれているものだ。彼なんかは"省略"なんて書いていたな」


「随分と複雑なんだな」


 シリアの言う通り、この魔法陣、めちゃくちゃ複雑で、覚えるまで大分目をやられた記憶がある。

 なんせ腕に書くサイズにまで縮小したものだから、細かく書くのにも随分苦労させられている。


「もう一つあるけど、これは?」


 ルシルがもう一つの方、"二つ目"に目をつける。


「これも召喚魔法の補助――効果としては同時召喚ってヤツだな。

 通常の召喚魔法じゃ、呼び出すのは一体が限度なんだが、これを使えば何体でも呼び出せるようになるな」


「ふーん、あの男はわざわざ一体ずつ呼び出してたんじゃなく、一体ずつでしか呼び出せなかった、ってわけね」


「それでな、これはまた厄介で先に説明した魔法陣と併用しないと、同時召喚の魔法陣の効果が発動できないんだよ」


「はぁ!?」


 俺の説明を聞いて、いきなりルシルが素っ頓狂な声を上げる。


「詠唱を破棄することでさえ凄いってのに、重ね掛けまで出来るっていうの!?」


「それって、凄いことなのか?」


「そもそも、そんな発想自体が出てこないし、実行出来るとも思えないのよ」

 

 どうやら、この魔法陣は俺が思っていた以上に眉唾物らしいようだ。


「それでさ、ここからが私の聞きたいことなんだけど」


 "三つ目"を説明する前に、ルシルに割り込まれてしまう。

 まぁ、説明するのもいい加減面倒だったので、流れに任せることにする。


「その魔法陣、召喚魔法以外にも使えるものなの?」


「俺が召喚魔法以外使ったことないから分からないが、たぶん無理だ」


「だったら、あのリアナの魔法はどういうわけ?」


 俺へと詰め寄り、強い力で襟をギリギリと締め付ける。


「何の話だよ?」


「…………そっか、クレヴは見てないのか。じゃあ、あれは別物なの……?」


 襟を離したかと思いきや、ブツブツと独り言を発するルシル。

 何だか、情緒不安定みたいで、怖いんだが。


「まぁ、リアナがどんな魔法を使ったのかは知らないが、さっきの重ね掛けとやらの仮説くらいなら説明できるけど?」


「そうなのか?」


 ルシルの方は完全に興味を失っているものの、シリアが話に食いついてくれる。

 言いだしっぺの癖に、何という態度だろう。

 まぁ、今回はシリアに免じて許してやるとするが。


「シリア様は、人が魔法を使うには"定めよう"とする感覚が必要だっていうのは知っているか?」


「あぁ、そう習ったな」


 どうやら王族の方でも、ここら辺は共通の認識らしい。


「そこで、だ。この魔法陣でも、"定める"という性質があるんだよ」


「この模様とかがか?」


「まぁ、それもあるんだが、この魔法陣では使える魔法が限定されるんだよ。この場合だと召喚魔法だけになる。

 んで、呼び出せるモンスターも限定されて、とより明確に"定めて"いく感じになるのかな」

 

 まぁ、これはあくまで仮説に過ぎないのだが、たぶんそんな感じだろう。

 これで俺からの説明は終了だ。


「今度はルシルの番だぞ?」


 思考の底へと沈みこんだルシルに声をかけてやる。

 すると、不機嫌そうな顔を向けられるが、この顔は慣れっこなので、別に気にしない。


「はぁ……わかった。『意識の高速遷移』について話せばいいんだっけ?」


 黙って頷く。


「別に理屈じゃ大したことじゃないのよ? 一つの魔法にこだわり続けないで、パッパと次の魔法の方へ意識を切り替えればいいって話だし」


「なんか、適当過ぎません?」


「実際そんな感じなんだから仕方ないでしょ?」


 出来ればコツとか教えて欲しかったのだが、これ以上語ることがないのか、ルシルは口を閉じて、また何かについて考えることに没頭してしまう。

 

「……これだから天才って奴は」


 ボソリ、と言ったつもりだったのだが、ルシルに聞こえていたのが、鋭い視線が俺へと刺さる。


「そういうアンタも、補助魔法について何も知らないくせに、どうやってこの補助魔法を使えるようになったのよ?」


「まぁ……繰り返し練習して、だけど」


「ほら、アンタだって感覚派の天才じゃない」


「いや、お前さんと一緒にされたくないね。俺なんてな、何千何万と繰り返して、思考錯誤した末にようやく出来るようになったんだからな……!」


「はいはい、それは凄いねー」


 手の甲を向け、『しっしっ』という風に鬱陶しそうに手を振ってくる。

 そしてまた思考の底へと舞い戻ってしまうので、仕方なく俺も舌を収める。

 こうなってしまえば、言ったって無駄なことが多い。


 まぁ、普段の愚痴ならば黙って聞くが、こうやって有益な情報を貰える場合なら黙っちゃいられない性分らしく、ついつい口を出してしまう。

 まぁ、相手が感情を露わにした時って、大抵本音だし、黙っていたこともついポロっと漏らしてしまう時もあるしな。


「最後に、私か」


 ルシルがそっぽを向いたことで、更に落ち込むシリアだったが、話す気はあるようだった。


「ずっと疑問に思ってたんだ。普通なら剣を使うのに、何でシリア様は鈍器を使うのかってさ」


「まぁ、大した理由があるわけじゃないんだ。私だって初めは剣を使っていた。

 この鈍器を使うようになったきっかけは――やはりシルヴァさんに言われたからかな」


 あの父か。またあの父のせいなのか。

 どれだけ王族に迷惑をかければ気が済むというのだ、あの人は……!!


「へ、へぇ。で、具体的にはどんなことを言われたんだ?」


「あぁ。『鎧を着込んだ人間に剣は通じにくいが、鈍器なら話は別だ。うまくやれば、あの重量で鎧を粉砕できるし、何より剣と違って切るよりも叩いた方が相手の被害が少ない』と、そう教わったのでな。

 その言葉に感銘を受けて、こうして鈍器を使っているわけなんだが。

 ……って、どうしたんだ、クレヴ? 俯いて……ってまさか乗り物酔いでもしたのか?」


 心配してくれるシリアを余所に、俺は思う。

 父め、本気で言葉を受け止める人間に面白半分なことを言ってくれやがって。

 どちらかと言えば、剣より鈍器の方が受けた時の損傷が酷いのに、嘘教えてやがる。

 

 これでシリアが変な目で見られるのも、すべて俺の父のせいということが判明したってわけだ。

 

 はぁ……今日は何という厄日なんだ。

 そうして俺は、人生何度目かもわからない現実逃避を始めるのだった。

魔法学校編が随分と暗い感じだったので、ソムディア編ではバランスを取って、全体的に明るい感じにしましたが、いかがだったでしょうか?


まぁ、これからもシリアスモドキを交えつつ、新章もバカやらせてもらいます。

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