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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
ソムディア
48/136

16

【クレヴ】

「誰にも、身体に触れさせたことがなかったんだぞ……」


「ごめんなさい」


「それが……自分の身体に初めて触れたのが、スライムだなんて……!!」


「ごめんなさい」


 あの戦いの後、俺は休む暇もなくシリアに対して誠心誠意謝っていた。

 といっても、身体は地面に縛られているために首を下げるだけしかできないのが、心苦しい。


「人だったらまだしも、相手はモンスターだぞ、モンスター」


「ごめんなさい」


「一体どういう落とし前をつけてくれるんだ……?」


「あのさ、人に言える立場じゃないのはわかってんだけど……」


「なんだ?」


「そのリキッドスライムはさ、野生なんだよ。だから、こいつは悪くはないんだ。

 だから命を奪うのだけは勘弁してくれないか? 調子の良いことを言っているのは、重々承知してる。でも、頼む……」


 図々しい願いだ。

 シリアには、聞く理由が全くもってない。


「……わかった。スライムを殺しても、自分の初めてが戻ってくるわけじゃないしな」


 だが、シリアは受け止めてくれた。

 何という……心の寛大な人物なんだろうか。

 俺が彼女の立場に立って、果たして同じ対応を取ることができるだろうか?

 俺の場合、スライムになら歓喜するかもしれないが、相手があの"元人間の化け物"で、身体をベタベタと触られるものなら、確実にトラウマになるだろう。

 もはやその姿を見たくないどころか、この世界に存在していること自体を嫌悪し、排除する。

 俺だったら、そうしている。


 が、シリアはやらなかったのだ。

 それを実行する力を持ち合わせているにも関わらず、だ。

 人間の器としての大きさが、違い過ぎる。


 ……いや、待てよ。

 さっきシリアの言っていたことがただの照れ隠しで、リキッドスライムに身体を触られたのが、あんまり嫌じゃない、という可能性も考えられないだろうか?

 ……流石に、そんな特殊な性癖があると考えるのは、邪推か?

 

 まぁ、例えそうであっても、なかったとしても。

 俺は悪いことをしたんだ。

 シリアにもリキッドスライムにも。

 そこは、反省せねばなるまい。

 

「俺の取れる責任なら何でも――は無理だが出来る限りのことはしたいとは思っている」


「そこは『何でも』と言い切るところじゃないのか?」


「出来ない約束は口にしない信条なんでね。命とか痛いのとかは勘弁してくれ」


 大口を叩いて、出来もしないことを言うなんて、俺には出来ない。

 気障(キザ)な男なんかが良く言ってはいるが、正直そんなことを言える程、俺はアホではない。

 死ね、と言われたら、素直に死ねるか?

 出来ると言える奴は口だけの人間だろう。

 死にたいとは口にする人はいるだろうが、本当に死にたい奴なんて、ほんの一握りだけだろう。

 嘘でも奇麗事言えば、これは解決する問題じゃない。

 相手が求めているのは、誠意ある謝罪だ。

 嘘で固めた謝罪に、誠意なんてあるのか?

 誠意って、心の奥底から、ふっと出てくるものなんじゃないのか?


 そうシリアに訴えてみたところ、


「確かに一理あるが……だからと言って本音を話せばいいってものじゃないからな」


 と正論を告げられる。

 流石にこれ以上駄々をこねていても、仕方がないか。


「心から本当にすまないと思ってる――」


 と、ここで、書物のセオリーとかだと、責任として嫁に貰うという、訳のわからん理屈が出てくるのだが、確かその台詞を言っていいのは『イケメン』という人種だけだ。

 俺が言えば、確実に大火傷だな、うん。


「――お詫びに、シルヴァさんの話をするから、どうか許してはくれないだろうか?」


 ここは、金を払うというのが一番ベストだったのだが、相手は王族だ。

 一般庶民の端金では満足するわけがない。

 だったら、その満足を満たすものを替わりに用意するのがベターだ。


 物で釣ってるだけなんじゃ、とも思うが、謝罪の気持ちがあれば、誠意なんか勝手に込められているもんさ。

 それに相手に嫌なことをしてしまったので、替わりに嬉しいと感じることをやるのも、誠意ある謝罪なのではなかろうか。


「…………わかった」


 少し悩んだ様子ではあったが、どうやら許してくれるようだ。

 ルシルの時もそうだったが、やはり人間は恋をすると弱くなる生き物だ。

 好きな人のことを知りたい、という欲求に勝るものが、途端に少なくなる。

 みんながみんな、というわけではないだろうが、片思いしている人間ほど、その傾向が強いように思える。


「……心配、したんだからな」


 謝罪が終わり、俺から話すことがなくなったところで、シリアがぽつりと言葉を漏らす。

 先ほどの怒っていた表情も、普段なら自信溢れる瞳も、嘘のように消えている。


「……何にだ?」


「クレヴが、自分の武器で頭を叩いて欲しいとか言ったことにだ」


「……」


 冷静になってみると、その一言だけだと危ない人間が言う台詞だな、うん。


「そういうことは、人に話すと楽になるって言うし、自分に話してみてはくれないか?」


 他人を気遣える、優しい声だった。

 俺は……この優しさに甘えてもいいのか?

 散々迷惑をかけたのを、広い心で許してくれた人物に、まだ迷惑をかけるつもりなのか?


 ……でも、聞いてきているのはシリアの方だ。

 ここで遠慮するのも、また相手に余計な気遣いをかけさせ、結果、迷惑をかける羽目になるかもしれない。

 話せば楽になる、か。

 確かに、このことは誰一人として聞かせたことはなかった。

 そもそも、人様に軽々しく話してもいい内容ではなかった。

 トラウマ、だからだ。

 自分の弱いところを、晒す行為なんて、したいと思わないからだ。


 でも、それを抱えたままでは、いつまでも、どっしりと心の底に積もったまま苦しむ羽目になる。

 解決出来るなら、したい。

 その解決方法の一つに、人と共有することなんだとしたら、我慢すべきなのか?


 辛さを和らげるために、別の辛さを味あわなければいけないなんて。

 嫌、なんだけど妥協しなきゃいけない。

 より辛いことを切り捨てるために、辛いことを受け入れる。

 今は、我慢の時だ。


 そこまで考えて、俺はようやく決心がついた。

 人に話すためには、出来るだけ伝わるように話さなくてはならない。

 そのためには、一旦話す内容を整理しなきゃいけないわけで――


「……シリア様」


「あぁ」


「それだけは勘弁してください、お願いします……」


 うん、人は時に過去から目を逸らすのも、大事なことだ。

 大事なのは、今。

 明るい未来だけを見て生きた方がいいに決まっている。

 辛さを和らげるために、別の辛いことを許容する? 

 そんなことしたら、和らぐ前にきっと悶え死ぬ。

 だって、人に説明するには、まずはその記憶を鮮明に思い出す必要がある。

 懇切丁寧に、人に伝わるよう、しっかりと頭の中で情報を整理するんだ。

 一瞬映った光景だけでも、大分精神力が持っていかれたのに、これ以上思いだせとか、どんな拷問だよ。

 我慢なんて、身体に悪い。

 決心? そんなくだらないもの、捨ててしまえ。

 掌返し? 人間誰だろうと都合が悪くなれば、皆そうしているさ。

 それに約束はしていないのだから、俺が話す必要はない。


「泣くほど嫌なのか……?」


 若干顔を引きつらせながら、シリアがそんなことを言ってくる。

 確かに、なんだか頬の辺りが濡れている。

 目元も大分熱いし、俺は泣いているのだろう。

 泣くなんて、随分と久しぶりかもしれない。

 どんなに身体が痛くとも、身体が動かせれば泣こうが喚こうが父は手を止めず、無駄な体力を使うだけだと学んだし、母からは『愛情』という名の辛辣な言葉をくれた。

 勿論、母も泣いたところで止めてはくれなかった。

 

 そんな環境で育ってきて、涙なんて枯れてしまったと思っていたが……まだ泣けたのか。

 この時の俺は、どれほど辛かったのだろう。

 碌な抵抗すら許されず、ただ受け止めるしかなかった。

 目を瞑ろうが、口の感触は誤魔化せない。

 その行為は口だけでなく、精神までも汚されていくようで。

 辛かった。辛かったんだ。

 

「泣きたい時に泣く。それのどこが悪いっていうんだよ……」


「いや、悪くはないが、いきなり泣かれてもな……」


 極々正論である。

 が、時に人には優しい嘘が必要だ。

 内心で戸惑おうとも、『泣いてもいいんだ』と慈悲の心で受け止めるのも、また正論を突きつけるのは違う正しさも、あるはずだ。


「とにかく、泣くなんて男らしくないぞ」


「『男泣き』って言葉もある」


「それは感動したりする時に流す涙だ。今のクレヴは女々しいと思う」


「男が泣けば男泣きだ。感情が動くって意味なら、俺のも感動の部類に入る」


「それは詭弁ですらないし、言い訳がましいのも、男らしくないと思うんだが……」


 駄目だ、何を言おうとも正論で返されてしまう。


「でもまぁ……それだけ話したくないってことは、伝わっただろう?」


「そうだな。それは、自分が無神経なことを聞いて、悪かったと思う」


 ドン引きしていた割に、殊勝な態度だ。

 王族だから、器の大きさがやはり違うのだろう。


「……もう頭をぶん殴ってくれ、なんて頼まないか? それなら『アースバインド』を解くが、どうだ?」


「あぁ、頼まないよ」


「後、鈍器を貸してくれ、っていうのも無しだぞ」


「わかってる」


 あれだけ頼んでも駄目だったんだ。今更頼んでも、無駄だとわかっている。

 もはや物理的な方法で駄目だったんだ。

 後は自己暗示でもするか、ルイゼンハルトに帰ってから何か硬いものでも探すことしよう。


「よし、ならいい」


 そういって、シリアは『アースバインド』で固定されていた部分を鈍器で崩した。

 随分とまぁ物理的な解除方法だったが、もうちょっとこう、魔法的なもので解除していただけなかったのだろうか?

 そうシリアに聞いてみると、


「実はな、あれで魔力の方が限界なんだ」


 と少し照れながら答えてくれた。


 どうやら魔法が少し使える、という意味合いには、魔法を少ししか使えない、というのも含まれているらしい。

 魔法を出し惜しみしていたのも、一回しか使えないから。

 そうなると、随分使い勝手が悪い。

 なら接近戦に力を入れるのも、頷けるかもしれないな。

 

 解放されて早々に、俺は涙を袖で拭い、足元を見る。

 やっぱり、リキッドスライムが俺のズボンの裾に身体を滑り込ませていた。

 というか、コイツはどんだけ俺の足が好きなんだろうか。

 リアナといた時は大人しくしていたと思うんだけど。

 いや、その時、俺は足元に注意を払っていただろうか?

 ごちゃごちゃとしていて、そんな余裕がなかったんじゃないだろうか?

 もしかすると、気付かぬ内に足には侵入しており、俺が地面に転がる等の激しい運動をしたせいで、そこから離れ、比較的に俺の気持ち落ち着いたところで、俺がリキッドスライムのことに気がついたのではないだろうか?


 ……まぁ、あり得ない話、ということもない。

 となると、何回か踏んでいた可能性もあるかもな。

 新しい罪悪感が湧いてきて、足からリキッドスライムを離すのは止めにした。


「さて、そろそろ皆のところに戻ろうか」


「いや、ちょっと待ってくれ」


 歩き出すシリアだったが、俺が動かないのを見て、不思議そうな顔をする。


「どうした? 何か問題でもあるのか?」


「いや、問題はないが、ただ待って欲しいんだ――数日、いや数カ月くらい」


「ほら、馬鹿言ってないで、さっさと戻るぞ」


「御慈悲を、御慈悲を下さいましぃいいいい!!」

 

 手を引っ張られ、仕方なく俺は歩き出す。

 足の踏ん張りは利かず、意思に反して足は前へと出る。

 行きたくない。

 リアナのところに行けば、必然的にキスのことを考えてしまう。

 それに、絶対ルシルからはそのキスについて聞かれるに決まってる。

 嫌だ。

 でも、足に力は入らない。

 

 そうして俺はまた、抵抗出来ない悔しさを胸に、鈍器を持った青い鬼に、地獄へと連れていかれるのだった。

 

 


 

 

  

【unknown】

「さてと」


 目の前で金髪の少女の意識を刈り取った、亜麻色の髪をした少女。

 人形のように、一つ一つのパーツが整い、まさに女性の理想を現実化していて。

 その美しさも相まって、圧倒的な強さと、底知れぬ怖さが引き立てられる。


「私が君に要求したいのは、主に二つだ」


 先程のことが何でもなかったように言う彼女に、私は自然と身構えていた。

 といっても、私には彼女に対して何の物理的な抵抗は出来ない。

 いくら身体を鍛えようとも、私には無駄だった。

 この細い四肢は思った以上に筋肉が付きにくく、また充分に鍛える程の体力もなかった。

 それが妖精の私の特性なんだとしたら、どれほどこの身体のことを恨んだだろうか。


 そんな私に、唯一あった抵抗手段は、『誘惑』だけ。

 幼い頃に人攫いにあった私には、知識もなく、ただその魔法に縋るしかなかった。


 そんな魔法も、始めのうちは弱く、どうやって使えばいいのかも、はっきりとはわかっていなかった。

 それでも私には、それしかない。

 毎日、毎日魔法に触れ、体感で学んでいった。

 そして頑張ってきたというのに、私を魔法で縛り付けた男には効かないとわかった時の絶望感は、とても大きなものだった。

 ひたすらに頑張ってきた努力が、無駄に終わる。

 それしかない私に、どれほどの絶望感があったことだろう。

 でも、そんなショックで立ち止まっていられるほど、私の憎しみは弱いものではなかった。

 日々、積み重なっていく苦痛と屈辱。

 忘れられる日なんて、一日もなかった。


「一つは、もうクレヴには一切手を出さないこと」


 何度も、殺してやりたいと思った。

 けど、その男は思っている以上に、強かった。

 私では勿論のこと、他の人でも軽く打ち倒せるほどに、魔導師というのは強い。

 慣れてもいない、暗殺というのもしてみた。

 が、この護衛をしていた人たちに出会うまで、私には召喚魔法の知識がなく、

 『俺を殺したら、もう魔法は二度と解除できないぜ?』

 という嘘に、私は簡単に騙され、後一歩というところまで追い詰めた腹いせに、随分と拳を振るってくれた。

 

 そんな男に、ようやく解放されたのに。

 再び私の前に姿を現れた、召喚魔導師。

 殺したくない、わけがない。

 私には脅威でしかない。

 私を縛る実力がないにしても、怖いものは怖い。

 例えるなら、目の前でナイフをチラつかせ、「あなたを傷つけるつもりはない」と言っているようなものだ。

 彼女の要求は、呑めない。


 でも、私に拒否する言葉は出せなかった。

 非力な私には、『誘惑』を看破した彼女には、抵抗する手段がない。

 

「その目つきだと、要求は呑めない、って感じだね」


 彼女は笑みを崩さない。

 その顔には勝者としての余裕が、滲み出ている。

 あの男と、同じだ。常に偉そうにするあの男と。

 そうして、あの男は私を見下した。

 常に敗者の道を歩んできた私を、見下した。

 

 だから彼女も、きっとそんな目で私を見ているに違いない。

 そうに決まっている。

 でも、彼女は笑うだけ。

 私を見下して楽しんでいるわけでもなく、馬鹿にするのではなく、ただ笑う。

 それが素の表情かと言わんばかりに、やはり彼女は会った時から笑みを崩さない。


「別にそんなに睨まなくたっていいだろう? 殺す気はないんだしさ。まぁ、クレヴを殺すなら話は別だけどさ」


 嘘だ。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ。

 皆、そういって、私を騙した。

 人間は皆、平気な顔で嘘を吐く。

 微かな期待を与えておいて、大きな絶望で踏みにじることを、私は知っている。

 私は信じない。


「もしかして、私の言うことが信じられないのかい?」


「……!」


 私がつい反応してしまったところで、彼女の笑みが深くなる。

 カマを、かけられた。


「別に信じたくないなら、信じなくても構わない。これはただの要求だしね」


「……」


 出来るだけキツく睨みつけ、表情を崩さないように努める。


「だけど君はそれでいいのかい? 狭い見識で、これからも生きていくのかい?」


 決して口は開かない。


「そう思っているなら、君は相当な自信家だね。自分の考えたことが、いつも正しいと思っているんだろう?」


「……」


「君1人だけで、どれほどのことが知り得ることが出来る? 本当に正しいことをしていると、判断出来る程の情報を持ち合わせているのかい?」


「……」


「どんな生き物でも、自分だけでは生きてはいけない」


「私には、『誘惑』がある……」


 これ以上黙っていても、彼女は喋り続けるだろう。

 口を開くのは得策ではない。

 けど、私は言葉をぶつける。

 どうにもならない気持ちが、私を動かす。


「でも、それだけだね」


「それで充分なだけ」


「その『誘惑』も、万能ではないだろう? 現に私は効いてないし、それは洗脳ではないしさ」


 思っていた以上に、厄介だった。

 『誘惑』のことを喋ったのは失言かと思っていたら、知っていたなんて。


「君が信頼の置いている、君の力は私には通用しない。君は、どうするつもりだい?」


「何も、しない」


「何も出来ないの間違いだろう?」


「じゃあどうすれば良いっていうの?!」


「別に君がキレても、私には君が満足する答えを持ち合わせてはいないね。ただ私からは君に要求するだけだ」


「要求を呑まない、と言ったらどうするの?」


「呑ませるさ」


「無理でしょ、そんなの」


「別に難しいものでもない。ただ、君に私を信じて貰えばいい話だ」


「それが無理だって、言ってるでしょ!」


「信じて貰うために、何にもない君に、私が与えてやるよ。

 歪んだ場所にしがみつくことしか出来ない君に、新しい場所を。

 あの男には一度も与えられなかった名前を。

 金を。自由を。」


「そんなの、嘘でしょ……」


「嘘を吐く必要があるかい? 嘘だと判断出来る根拠があるのかい?」


「本当のことだっていう根拠もないじゃないっ!」


「あるさ、それが二つ目の要求……と言っても既に言っていることなんだけどね。君に新しい宗教を立ち上げて欲しい、とね」


「本気なの……? 本気でそんなこと言ってたの?」


 信じられなかった。

 てっきりその場限りの冗談かと思っていたのに。


「本気さ。証拠として、ほら」


 そういって、彼女は懐から一枚の紙を取り出し、私に向けてそれを見せてくる。

 小切手だ。そこに書いてある多額である数字は、見覚えがあった。


「でも、でも……」


 それでも私は彼女のことが信じられなかった。


「まだ、信じられないのかい? なら私のとっておきの情報を教えてあげよう」


 彼女は溜めを作ってから、一言。


「私は、モンスターなんだ」


 これまでで、一番嘘っぽかった。

 でも、不思議と私はすそれをすんなりと受け入れていた。

 バカみたいだ、とは思う。

 けど、同時に。

 こんな人間なんて、いるはずもない、とも思えたからだ。


「……どうして私にそこまでしてくれるの?」


 もはや私にあった抵抗の意志は見事に壊され、ただ純粋に気になったことを聞いてみた。

 すると、


「別に理由なんて特にないさ。ただ私は思ったようにするだけだね」

 と返ってきた。


 あの人たちが言っていた綺麗事や取り繕う言葉は含まれていなくて。

 粗雑な返事だったけれど、それは彼女の本音のように私は思えた。


 今度は、信じていいのだろうか?

 あの人の手を取っても、本当にいいのだろうか?

 短い間だけど、一緒にいて。少し前までは私の頭に魔法を打ち込んだ人だ。


 印象としては、最悪だったはずだ。

 念願だった目的を、ようやく達成したところで、ちょっかいを出してきた。

 そんな彼女が、嫌いになったはずなのに。

 こんなに、いとも簡単に心替わりしてしまうなんて。


 今まで唯一信じてきた、私自身まで、信じられなくなってしまったではないか。



「なんでこんなにも拒むのかは知らないけど、少なくとも、こんなところにいるよりかは、私のところの方が楽しいと思うけどね」


 そういって彼女は、私に手を差し伸べてくる。

 私はその手に、躊躇いながらも、そっと掴み、私は彼女の要求に従うことにしたのだった。


シスターさん、マジチョロイン、というお話でした。


クレヴにも救いの手が差し伸べられましたが、やはりそこはクレヴ。


フラグもバッキバキに折ってくれました。

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