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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
ソムディア
44/136

12

【クレヴ】

 訳が分からなかった。

 展開が早すぎて、脳の処理が追いついていかない。

 人が亡くなって、その光景に頑張って目を逸らしても、どうしても感傷的になっているところに。

 そんな感情すら、感じている暇さえないのか。


 シスターの彼女が、彼の命を奪ってから、間もなくのことだった。

 リアナが、その彼女に対して、魔法を放ったのだ。

 

 彼女が召喚魔導師の彼を殺す動機は分からなくもなかった。ただ俺と戦闘中のタイミングで実行とは思ってはいなかったけど。

 しかしリアナが彼女を攻撃する理由なんて、見当たらなかったはずだ。

 実に不可解ではあったが――彼が死んだ時よりかは、不思議と錯乱せずに済んでいた。


 目の前で人が死に、感覚が麻痺していたから、ではない。

 リアナが狙った場所が、彼女の頭――正確には彼女の帽子だけを貫いていたからだった。

 挑発、なのだろうか。

 まぁ何にせよ、リアナは彼女に対して敵意を持っている事に間違いはあるまい。


 だが、わざわざ彼女を助けようとしたのに、敵意を持つか?

 彼の敵討ち……というのは無いだろう。むしろ、リアナの方から進んで殺す可能性の方が高い。

 ところが、突然攻撃をするというのも、リアナなら考えられなくもないんだよな。

 気に入らなくなった、というだけで、攻撃くらいはあっさりとしそうである。


 そう考えるのだけど、まだ俺はすんなりと呑み下す事が出来なかった。


「何やってんだよ……」


 だから俺は、いつの間にか距離を取っていたリアナ本人から直接聞くことにした。


「何って、見たまんまさ。魔法を彼女に向けて使った、それだけさ」


「どうして使ったのかを聞いてんだよ!」


 つい、声を荒げてしまう。

 本来なら守るべき対象である人に、何をやっているのか。

 何故こんな事になっているのか、いまいち理解出来てはいなかったものの、取りあえずリアナと彼女の間に自分の身体を割り込んでおく。


「使わなきゃならない理由があったから使ったまでさ――おっ、その理由のお出ましだね」


 リアナはそう言って、彼女の背後辺りに目を向けた後、右から左に視線を移していく。


 それにつられて俺も見てみると、どうやら人払いを済ませ此方(こちら)に戻ってきた神父さんの事を指しているらしい。

 事が終わったのだから、別におかしなところなんて見当たらない。まさか神父に個人的な恨みでもあるのか?

 短時間で? あるとしたら、そんなもん逆恨み程度の事であろう。


「クレヴ、まだ他にもいるよ」


 どうやら談笑していた2人もこの騒ぎに気付いたようだった。

 召喚魔導師の彼がシスターの彼女に殺された時にでも気付くはずなのに、とは思ったが、今はそんな事、どうでもいい。

 俺と同じく唖然として、傍観せざるを得なかった、とでも考えておけばいい。


 今はそれよりも、リアナの発言についてだ。

 もしルシルとシリアまで理由に加わるとしたら、余計に分からなくなってしまう。

 彼女達がここに近寄ってきたのは、シスターの彼女が召喚魔導師の彼を殺害した事か、リアナの行動――シスターの彼女に魔法をぶっ放した事があったからだ。

 しかし、それが魔法をシスターの彼女に挑発めいた行動を取る理由となるだろうか?

 ソムディアまでの行程でリアナは彼女達に対して恨みを抱いていた気配は無かった(はず)である。


 ただみんなが気に入らない、という考えも、こうやって俺に理由を説明しようとしているから、可能性としては皆無に等しい。

 まぁ、それもリアナが何の考えも無しに感情の赴くまま行動していなければ、の話だが。


「どうやら、君はまだ理解出来ていないみたいだね」


「人が集まってきただけで、お前さんが奇怪な行動をした事の何を理解すりゃいいんだよ?」


「……これ以上彼女に耳を貸しちゃダメ」


 俺がリアナに言葉を投げかけたところで、シスターの彼女が、口を挟んできた。


 そう言われると、なんだかリアナの話を聞かなくても良い気がしてくる。

 そもそも、俺がリアナに彼女に攻撃した理由を聞く義務みたいなものは無いんだ。

 彼女に魔法を放ったこと。

 この事実さえ分かっていれば、リアナが俺たちの敵だという答えも、自然と導き出せる。


「おや、だんまりしてこっちを睨んでくるかい。別に護衛の依頼はもう終わったんだ。彼女のことを守る必要はない」


「だからといって、攻撃する必要も無いだろ?」


「これは1から、ちゃんと説明しなきゃ駄目みたいだね」


 リアナは頬を人差し指で掻き、少し面倒そうな顔をする。面倒ならば、シスターの彼女に対して攻撃などしなければ良かったのに。


「どうせアンタのことだから、長話なんでしょ? 生憎それを聞いてるほど暇じゃないって」


 ルシルは苛立ちを露わにしながら、リアナのことを睨む。


「そうだな。今更やった後で何か言おうとも、言い訳にしかならない」


 シリアもシリアで、何だか重たい空気を放っているように見える。

 

 ……ここまでのやり取りをしている中、誰も死んでいる彼について驚きを示さない。

 目の前にあるっていうのに、今はリアナの方にしか、皆の視線が向いていなかった。

 それだけ、彼は皆から何とも思われてなかったのか?

――彼のモンスターもいつの間にか姿を消しているし。


 ……いや、それは無い筈である。

 勝負をするのに、少なくとも神父さん達には迷惑がかかっているはずだ。

 興味を示さない方が、おかしい。じゃあ、何で興味を示さない? 命がすぐ傍で落とされたというのに。

 亡骸(なきがら)になったからといって、なったからこそ看過など出来るものか。

 

 ……リアナが、彼を殺したと、そう彼女達の頭の中で結論が出ているからなのだろうか。 

 そちらに、反応がすべて持っていかれているのか?

 

 推測ではあるが、多分リアナが彼女に魔法を放っているところは、全員が見ていただろう。

 しかし、シスターの彼女が、彼を殺したところは……?

 分からない。が、神父さんは来るタイミングが遅かったから、微妙なところではある。

 だが、もし気がついているんだとすれば、彼女が彼を殺した時に何かリアクションが返ってきても、いいはずだ。

 じゃあ、当事者以外は、この状況を把握し切れていない、そういうこと何だろうか。

 ルシルとシリアが言っていた事は一側面でしか見ていない台詞だ。

 誤解も、ある。

 なら、俺が説明したらどうか。

 

――思考が、脱線してしまっていたようだ。

 今はそんなことを考えるんじゃなく、リアナの動機。リアナが、何で彼女を攻撃してきたのか。それに尽きる。

 最悪、リアナと戦闘になる可能性も否定できない。

 

 リアナは手を出してしまったんだ。

 今更話し合いで解決できる、とも思えない。

 

「貴方と話すことは、無い」


 そしてシスターの彼女からも、まともな会話が交わす気は一切無いのか、耳を貸さない事を態度で示した。

 まぁ、訳も分からず攻撃されたのだ。

 わざわざ話し合いに持ち込もうとは、考えないだろう。

 

 どうして、こんなことになってしまったのだろうか。

 しつこいくらいに、頭の中で疑問が湧き上がって仕方ない。

 でも、頭の片隅では分かっているのだ。

 リアナが、危険だから。自分の身を守るために、排除すれば安心を得られる、と。

 リアナは快楽主義者だ。自らを魔王の側近だと自称し、素性も知れない。信用出来ないのだ。

 何を考えているのか分からない。価値観だって違った。俺とは違って、命を軽く見ている。

 

 ……だが同時に、リアナと戦うことに消極的な考えも浮かんでいた。

 「いつものおふざけの度が過ぎただけ」、そんな微かな希望に縋っているのか。

 それとも、ただ彼女が驚異的過ぎて、腰が引けているだけなのか。

 思考を巡らせているつもりでも、空転しているだけ。ちっとも答えを導き出す事が出来なかった。


「やれやれ、説明をしたいところなんだけど、誰も聞いてもくれないみたいだね。なら、仕方ない――クレヴだけでも強制的に聞かせてやるとしよう」


 誰もがリアナを睨んでいる中、いつもの調子を崩さずにリアナは懐を探り始める。

 見た目がごっつい白のローブだったが、その分だけ何か収納スペースみたいなものがあったようだ。

 少しして、取り出されたリアナの手には何か握られていた。

 

 それは、ちょうどスイカを一回り大きくしたくらいの岩だった。

 別に見た目としても、何ら変わり映えもない岩。どこかから削り取ってくれば同じようなものを幾らでも用意できそうである。


「おっと、これじゃ見えないか」


 そういって、彼女は握る力を強めたのか、岩にヒビが入っていく。

 そんな馬鹿力でもあったっけか、と思ったが、ヒビの隙間から岩ではない『何か』が見えたところで、その疑問は解消される。

 どうやら、その『何か』を岩でコーティングでもしていたようである。アースバインドか、それに準ずるもので、そうしたのだろう。

 ヒビはいとも容易く広がっていき、中に入っていた『何か』の姿を露わにした。


 その『何か』は、全体的に見ると、まさに掴みどころのないものであった。

 透明度が高く、ブルーの色合いを持つ『何か』は光沢を放ち。

 白く細いリアナの指からすり抜けて、地面へと落ちていく。

 そうして、ぺちゃっとした音を立てて接地すると、その青い『何か』は地面に広がっていく。

 しかし、それは無限に広がっていくわけではなく、途中で止まり、誰かが揺らしたわけでもないのに、小さな波が起きていた。

 

 緊迫した空気が続いていたというのに、この時だけは『何か』のせいで緩んでしまった。


「「「……は?」」」


 多くは、これ以上もない不可解さによって。

 そしてそんな中、俺だけは――自然と笑顔を浮かべていた。


 突然リアナが取りだした『何か』の正体、それはスライムである。

 それも、俺が普段から見慣れているスライムとは少し違い、色も緑ではなく青であるし、何よりあの弾力がない。

 名前は、リキッドスライムと呼ばれ、液体のような特性を持つモンスターなのである。

 が、水のように地面に染み込んでいく、といったことにはならない、といったことまで可能で、また液体の中では自分の身体を溶け込ませることも可能という、凄いスライムだ。


 こんなところでお目にかかれるとは、正直思っていなかった。


「さて、クレヴ。ここで私と一つ取引だ」


「え?」


「これから私はこのスライムを跡形もなく消滅させる――もし、されて欲しくなければ、こちら側についてもらおうか」

 

――こいつ、スライムを人質もといモンスター質にしやがった……!!


 今まで平気で酷いことができるとは思っていたけれど、まさかこれほどとは思っていなかった。

 俺は今までにないほどに、リアナに憎悪を抱いてしまう。


「そんな目をしたって、私は何とも思わないけど?」


「汚い、汚過ぎるぞ、リアナッ!!!!」


「「「…………」」」


「さぁ、どうするクレヴ? 私の方についてスライムを助けるか、それとも敵対してスライムを見捨てるか。どっちか選ぶんだ」


「お前には血も涙もないのかっ……!!」


「「「…………」」」


 ……何なんだろうな、この温度差は。

 俺だけ馬鹿やっているみたいじゃないか。

 ルシルはいつものように、俺がスライムと戯れている時の呆れた表情をしているんだけど、それが皆にも伝播しているようである。

 俺としては大問題、それこそ彼が死んだことよりも深刻なものだ。

 

「そんなこと、もちろん見捨てるに決まってるでしょ?」


「『そんなこと』、だと……?」


 俺が苦悩しているところで、勝手に返事を返すシスターの彼女に、怒りを覚える。


「そうでしょ、だってどこにでもいるスライムだし、ここで見捨てたとしても、罰は当たらない。むしろ罰当たりなのは、命を軽視しているあちらの方でしょ?」

 

 彼女が俺にそんなことを言ってくるが……さっきの彼への殺害行為があるわけだし、正直説得力がないように思える。

 まぁ、尤も彼女には彼を殺す大義名分みたいなものがあり、また人間とスライムの命を同等には見ていないのだろう。

 まぁ、それが大多数の意見だ。


「……リアナ、お前さんの側につくよ。だからそのスライムを助けてやってくれ」


 だが、俺はそんな風には考えられなかった。

 スライムが、俺の好きなものが消されていくところなんて、俺には黙って見ていることはできなかった。

 当然、シスターさん達を裏切った形となり、罪悪感が湧かないわけではなかった。

 でも、それでも譲れないものだったんだ。

 たぶん、この選択には後悔はない。


「あはははは、なんて顔をしているんだい? まさかそんなことが起きるなんて思ってもない顔だが、残念だったね。

 クレヴは、こんな人間なのさ! ――でもまぁ、彼の人間性だけを驚いているわけじゃないか」


 リアナが心底楽しそうに笑っている中、シスターの彼女は俺の選択したことを疑ってやまない顔をしていた。

 本気で、俺がそんなことをしないと、確信でもしていたように。


「待つんだ、クレヴ!」


 俺がリアナの方へ向かったところで、シリアが叫ぶ。


「そっちが人質ならこっちも人質だ。クレヴ、もしルシルを助けたければ、こっちに戻ってくるんだ」


 シリアが鈍器をルシルの方へとチラつかせる。

 その顔はとても苦々しく、とても進んでやっているようには見えない。

 正義感の強いシリアのことだ。相当無理をしてやっているに違いない。


「どうしたんだ? ルシルは……幼馴染なんだろう?」


 ルシルが逃げないように、肩を掴みつつ、必死で俺に訴えかける。

 だんだんと声が小さくなっていき、本当に辛そうだ。

 これはたぶん、俺のためにやりたくもないことを我慢してやっているんだ。

 俺が、人質なんていう手であちらの味方になってしまったから。

 だから自らが卑怯な人間になったとしても、それを止めようとして。

 仮にスライムが死んだとしても、自分が責任を負うと、そう無言で示しているように。

 優しくて、単純なシリアのことだ。

 こんな行動を取ってしまったのも、そのためだろう。


「シリア様……」


 だから俺は出来るだけ優しい声を出す。


「どうぞお好きにしてください」


「へ……?」


 シリアが、随分とお間抜けな表情をする。

 普段のキリッとした表情とのギャップがあって、大変可愛らしい。

 

「心苦しいかもしれませんが、どうぞおやりになってください」


「いやいや、ちょっと待つんだ、クレヴ。お前は何を言っているのか、わかっているのか?」


「はい」


 リアナからスライムを助ける代わりに、ルシルを見捨てるんだろう。

 もちろん、そのことをわかって言っている。

 だって、ルシルの方を見てみれば、顔に手を当てて、


「やっぱりね」

 とでも言いそうにしているし。


 仮に俺が見捨てたところで、ルシルは簡単に死にはしないだろう。

 逆にシリアが返り討ちになる可能性だってあるだろう。


 振り向かずにそのまま鼻柱に強烈な裏拳を当て、怯んだ隙に離脱、そして魔法の行使する姿が目に浮かぶ。

 実際にルシルのボディブローを喰らったことがある身として、慣れない裏拳でも、十分な威力を発揮すると思うし。


「お、幼なじみって、こんなにドライな関係なのか?」


「ただの腐れ縁ってヤツよ」


 ルシルの言った通り、シリアが期待しているような固い絆なんて俺とルシルにはないのである。

 長年同じ故郷で過ごしてきたとはいえ、特別仲が良かったこともなかったと思う。

 愚痴を一方的に言われるくらいには親しいものの、それを果たして友情と呼ぶのか怪しいところである。

 本当に、腐れ縁という言葉が的確で、俺からは特に言うことはない。


 まぁ、少しだけ悲しく感じたけど。


「彼女らとのお喋りはこの辺にして、今度は私の話を聞いてくれるかい?」


 俺はそれに答えない。一応、リアナの側に付いたものの、仲良くする必要性がないと思ったからだ。


「君は、不思議に思ったことがいくつかなかったかい?」


 だが、そんな俺の様子を気にした様子もなく、話を続ける。


「例えば、彼らが乗っていた馬車」


「別におかしなところなんてないだろ? もしかして、まだモンスター除けのことが気になってんのか?」


 が、そんな俺の意思はむなしくも、リアナの二言目によって、勝手に口が開いてしまった。

 すぐに返答しないと、いつも肉体的にも精神的にも痛い目にあったりしたせいか、つい条件反射で言葉を返してしまっていた。

 慣れって恐ろしいと、改めて思い知らされる。


「モンスター除け? 何を言っているんだい?」


「え、違うのか?」


「そんなもの、初めからなかったさ。私が言いたいのは馬車の外装のことさ」


「傷があったくらいで、特に変わった様子もなかったが?」


「クレヴ、依頼の初日に神父が言っていた台詞をよく思い出してみるんだ」


「確か……盗賊に襲われたからギルドに依頼を出したんだっけか」


「それで、彼は他にもこんなことを言っていたんだよ。『盗賊は我々の馬車に体当たりを仕掛けてきた』とね。それで、私たちは歩く羽目になった」


「そこに馬車がどう繋がってくるんだ?」


「あぁ、あの馬車は盗賊たちの馬車に体当たりされたんだんだ。なら、凹んだりした傷があってもいいはずなんだが――それがないんだよ」


「修理したっていう可能性は?」


「ないね。だったら他の傷のところも修理するか、外装を丸ごと取り替えるさ」


「そのところは、見えにくくされてんだよ。ほら、見栄えとか大事じゃないか」


「だとしても、それには限界がある。近くで護衛していたなら、わかっているはずだ。

――あの馬車に、大きな修繕が行われた跡なんて、ないことにさ」


 リアナの言葉に押し黙る。あの時――リアナが出発する前に馬車をジロジロと見ていたのは、このためか?

 

「それは、わかった。が、それって今関係あるのか?」


「まだ話し始めたばかりだ。そう焦るんじゃないよ――『エア・プレッシャー』」


 リアナは片手間で、密かに接近しようとしていた神父たちを吹っ飛ばす。

 正確には、前方の広い範囲に空気が押し出す感じなんだけど、勢いが強いのか、彼らの足は地面から浮いていたのだ。

 リキッドスライムはというと、リアナの足元から動いておらず、魔法に巻き込まれていないで一安心である。


「その馬車を襲ってきた盗賊もまた、おかしかったはずだね」


 何事もなかったかのように、リアナは話を続ける。

 話している間、顔はルシルたちに向けられており、いつでも対応出来るようにはしているらしい。

 その三人はというと、リアナを警戒しているからか、こちらに近付いてくる様子はない。

 ルシルも遠くから魔法を仕掛けようとは考えていないみたいだ。

 ……何か懸念していることでもあるのだろうか?

 シリアは、まださっきのショックを引っ張っているのか、身構えているものの、攻撃しようとする意思は見えない。

 そして、そんな彼女らに挟まれていたシスターの彼女だったが、俺たちを睨みつけてはいた。

 敵意は持っていたが、攻めて来る気はなさそうだった。

 もしかすると、彼女はそこまで戦闘能力が高いというわけじゃないのか?

 彼を殺す際の動き、あれはそこまで戦闘慣れした人の動きじゃなかったはずだ。

 それに、わざわざ遠くにいっていた俺のナイフを拾ってきて使っていたし、武器の所持もたぶんしていないだろう。

 


「確かにあんなところにいたのは変だと思ったけど」


 眺めていても仕方ないので、会話を再開させる。

 確かに盗賊たちが人通りの少ないところでやってるなんて、非効率的だし、不自然な程に多くの人数がいた。


 生活に困って仕方なくやっているのではなく、己の浅ましい欲望を満たすためだけに、人から強引に奪っていくような、そんな輩だった。

 顔はそこそこ健康的だったし、服装も小綺麗とまではいかなかったが、貧民の人たちに比べれば、ずっとマシなものを着ていた。


 そんな人たちが大勢であんなところにいるのは、やはりおかしい。


「盗みを働くのなら、街の側、もしくは街中で行えばいいはずだ」


「捕まるのが怖かったから、っていうのはないのか?」


「街の外だろうと街の中だろうと、トカゲの尻尾のように見つかった手下を切ってしまえば、見つからないことに変わりはないさ。

 拠点を次々と変えていけばね。むしろあの人数なら、誘い込んで身ぐるみ剥がすという手法を取ってもおかしくはない」


「リアナは、盗賊たちがわざわざ面倒な方法を取っているのが、おかしいと言いたいのか?」


「だってそうだろう? 人間誰しも面倒なことが嫌いじゃないか。君だってそうだ。

 そんな人間が、わざわざ便利な街から離れるはずがない」


「うるさいところが嫌いなのかもしれないぞ?」


「だとしたら、あれだけ多く人を集めないさ。後、構成人数が多い分の食料が必要になる。

 それを原始的に狩りで賄うとも考えづらいだろう? そうなれば、街に近い方がいいに決まっている」


「つまり、あそこ盗賊たちがいたのには、それなりの理由があるとでもいうのか?」


「私腹を増やすにしては、お粗末過ぎだね。まぁ、あそこにいるように指示をした人物でもいると思うね」


 リアナの笑みが深くなっていく。

 また何かの影響を受けたのか、探偵気分に浸っていい気になっているのだろう。


「さて、ここで二つほど疑問点を挙げてきたけど、ここである情報を加えたところで――ようやく話が戻ってくる」


「お前さんが、彼女を攻撃した理由か」


「あぁ。ここからは率直に言わせてもらうと、あの盗賊たちをけしかけたのは――彼女だ」


「ここまで話してきて、そうだとは思ったけど……丸っきり証拠がないじゃないか」


「確かに物的証拠はないが、根拠みたいなものなら、一応あるさ。疑問点の残る二つだが、これを彼女が依頼をでっち上げたのだとしたら、納得は出来るんだよ」


「でっち上げる? 彼女が? 何のために?」


「それはもちろん、私たち――いや、正確には強者を呼ぶためだ」


「……?」


「何だい、混乱して頭が回らないのかい? 彼女が強者を呼ぶ理由なんて、一つしかないだろう? 召喚魔導師の彼を、倒すためさ」

会話が回りくどく、遠回り過ぎて、イライラしたかもしれません。

ごめんなさい。


今回説明しきれなかった分は次回で。



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