表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
ソムディア
39/136

7

【クレヴ】

 襲ってきた盗賊を倒したまでは良かったものの、一つ問題が出てきてしまった。


「この人たち、どうするんだ?」


「捕まえて国に牢屋に突き出すんじゃないのか?」


「まず、こんな人数を俺たちだけじゃ、そこまで運べないよ」


 シリアがさも当然のようにしょっ引いて行く、と言いのけたが、現実問題それは不可能なことだった。

 俺たちにあるのは、馬車が一つ。

 物理的にも、馬車にロープを引かせる形でもこの人数では馬力が足りない。


「なら、放っておくのかい?」


「それも奴らが復活したら、他の人に被害が出ると思うから駄目だと思う」


 リアナが彼らの顔を木の棒でつっつきながら言うが、それも出来ない。


 俺たちはこの盗賊たちに対抗出来たからいいものの、ここを通る人たち全員が対抗できるわけでもないと思うのだ。

 まずは、盗賊の人数。

 本当にどこに潜んでいたんだか、その数は百を超えていると思う。

 そんな集団に一斉に襲われて、果たして十数人の戦士で何とかなるものなのか。

 

 いくら魔法が使える人が2人いたとはいえ、4人でこの人数を何とかしちゃったのって、たぶん稀有なことなんだと思う。

 だから、放っておくという選択は、出来ない。

 俺としては、もはや自分のことじゃないから別にいいや、程度には思っているのだが、生憎ここには正義感の塊みたいな姫様がいるために、迂闊な発言は出来ない。

 もし機嫌を損ねてみろ。

 聞きつけて、またあの鎧女にボコボコにされるに違いない。

 これ以上やられたら、防衛本能で特殊な性癖に目覚めてしまうのが怖いし、何より痛いのは嫌いだ。


「じゃあここに縛っておいて、後で国の方に連絡を入れておけばいいんじゃない?」


「ま、その意見が妥当かもな」


「でも、縛るロープがそんなにはないかも」


「なら、私が縛ってやろうかい?」


 ルシルが悩んだ顔をしていると、珍しくリアナが献身的な態度を取る。


「そう、助かるけど」


「あれ、それが人にお願いする態度かい?」


「……やってちょうだい」


「んん? それもどうかと思うんだけど」


 凄く嫌みな顔を作るリアナ。いつもの悪い癖である。


「お願いします……これでどう?」


「最後のが余計かなー?」


「アンタね……調子に乗るのも、いい加減しなよ」


「それは君も同じなんじゃないかな? 私に負けた癖に、態度がデカいんじゃないかな?」


 ルシルも露骨に反応するから、リアナも余計にちょっかい出してくることをいい加減理解した方がいいと思うけど。


「お前たち、今はいがみ合っている場合ではないだろう。 今は盗賊たちをどうするかの方が先だ」


 シリアが2人の間に割り込み、話の流れを戻す。


「今はお互いに肘を張っていても無益だとは思わないのか? やるなら護衛の依頼が終わってからにしろ」


 シリアの奴、なかなか良いこと言ってんだけど……護衛の中で一番はしゃいでいたのは、彼女なんだよなぁ。

 だけど、流石は王族。ルシルは渋々といった感じで引き下がった。


「自分からもお願いする。リアナ、どうか賊を拘束するために力を貸してくれないか?」


「うーん、やるにしても、それなりの対価が欲しいところだ」


 リアナは、もったいぶるようにして言う。


「ふむ、対価か。確かリアナは面白いものが好きだと聞く。なら、ルイゼンハルトに帰ってから後払いでもいいか?」


「ものにもよるけど?」


「あぁ、そこは期待してくれ。手のひらサイズでゼンマイ式の船なんてどうだ?」


「ゼンマイ式? 面白そうじゃないか」


 そう言ってニヤリと笑ったリアナは、『アースバインド』で次々と盗賊たちを地面に縛り付けていく。

 ゴネる時は面倒な程ゴネるが、一度やると決めた仕事は早く片付けるのである。


 そうして全員が動けなくなったところで、馬車へ声をかける。

 奇襲をかけられから、緊張状態で疲れていると思うし、外に出た方がリラックス出来ると考えての声掛けである。


 神父やシスターの彼らは安全が確認されたのか、俺の声の後にゾロゾロと外に出てくる。

 一応念のため、今のうちに神父とは距離を取っておく。


 前のこともあるが……今回も盗賊たちのせいで身動きが取れなくなっていた時に見てしまったのだ。

 あの状況で怖がっているのなら、わかる。

 実際、何人かのシスターが少し涙を浮かべていたし。

 けれど神父の彼らは、俺のことを羨ましそうに見ていたのだ。

 中にはだらしなく口を開ける者までいて、何だか命の危険よりも、別の危険が迫っているんじゃないかと思ったくらいだ。


 彼らは、普通じゃない。少なくとも俺が当てはめている普通からは、枠外の人物らである。

 そういえば、サラナ村にも似たような人がいたし、彼らを紹介したら喜ぶかもしれない。


 ……何かあったら、これを交渉材料にしよう。






「あの、お尋ねしたいことがあるのだけど?」


 聞いたことのない声に思わず反応してしまう。

 顔をそちらの方に向けると、例の俺の胸を高鳴らせるシスターが、盗賊たちに向かって話しかけているようだ。


「……なんだよ?」


 顔をしかめる一人の盗賊。

 だがその態度に彼女は気にした様子もなく、


「出来れば、今の戦闘でお亡くなりになった人の名前を聞かせてくれませんか?」


「んなもん、聞いてどうする?」


「彼らのお墓を作ろうと思いまして」


「お仲間が勝手に殺しておいて、随分な態度だな?」


「えぇ、だから私も勝手に作るのですよ」


「本人たちが、それを望んでなくてもか?」


「元々お墓って、生きている人間が、死んだ人のために作るのではなく、生きている人間が自己満足するために作っているんですよ?」


「聖職者のお前が、そんなこと言ってもいいのか?」


「綺麗事を並べても、あなた方は納得しないでしょ?」


「違いねぇ」


 盗賊は少し笑ってから、死んだ盗賊たちの名前を告げていく。


「これで満足か?」


「はい、そうですね。では、あなた方が私たちの厄介にならないことを祈っておきます」


「うるせぇよ」


 そう言いつつも、盗賊は何だか嬉しそうに見えなくもない。

 まぁ美人さんだし、何だか馴染み易い雰囲気もあるし。

 俺の中で元々高かった好感度が更にぐんぐん上昇していく。


 頬の辺りに熱が籠もっているのを感じながら、自然と彼女のことを目で追ってしまう。

 まだ名前すら知らないのに、不思議な気持ちだ。


 そうして俺が呆けている間に、盗賊たちは数日後にソムディアの方で回収することが決まった。

 彼らが餓死しないように食料の大部分を置いておくことになった。

 縛られている間に襲われないように、彼らの周りには、ここら辺に住むモンスターが嫌う臭いの元を置くことに。

 これは、レイオッド先生が昔に開発したヤツで、馬車に乗せてあったものである。

 ここ数日、モンスターに出会わないと思ったが、そんな用意もしていたとは。


 ……ちなみにこれ1つの値段で、家が買えたり買えなかったりするらしい。

 材料が貴重なものらしい。

 便利で普及してもおかしくない品だと思ったが、そんな事情があったのである。


 そんなこんなで、食料も少なくなったこともあり、ペースを上げて進むことになったのだった。






「そういえば、1つ聞き損ねたことがある」


 再度出発してから、小走りといった速度で並ぶシリアが突然そんなことを言ってきた。


「それは俺に対してか?」


「あぁ。それでな、さっきの戦闘で、クレヴは魔法を使っていなかったか?」


「見てたのか。まぁ、答えはイエスだ」


 そう答えると、何だかシリアが嬉しそうな表情でこちらを見てくる。


「じゃあ、またお揃いだな!」


「ってことは、シリア様も?」


「あぁ、魔法が使える。といっても少しだけだがな。クレヴもそうなんだろう?」


 シリアが魔法を使えることにも驚いたが、仲間意識を持たれていることが、少し困る。

 非常に不愉快だが、父に似ている俺だ。過度な期待をされても、応えられる自信なんぞない。


「本当に、少しだけだけどな」


「クレヴのは私のと違うように思えたが、あれは一体なんなんだ?」


「あれは、召喚魔法ってヤツだ。ちなみに俺はその魔法しか使えないから、期待しても無駄だぞ」


 一応、念のため釘を差しておく。


「召喚魔法? あのべちょべちょしたモノが急に現れる魔法が、そうなのか?」


「あれ、知らないのか? 召喚魔法を?」


「あぁ、ルイゼンハルトでは魔法学校の方でも教えてないはず」


 レイオッド先生の言っていた通り、どうやら召喚魔導師は不遇な立場にいるらしい。

 もはや後世に残す必要がない、と言われているのと同じだ。


「召喚魔法ってのは、まぁ簡単に言うと、モンスターをその場に呼び出す魔法だ」


「あのべちょべちょが、か?」


「べちょべちょ、じゃない。スライムだ!」


「いきなり何で怒るんだ? 何か失礼なことを言った覚えは――」


「あれは、スライムだ」


「いや、だからな」


「スライム、もう一度だけ言う。あれはスライムだ」


 これだけは、譲れなかった。

 擬音であっても『ぷるぷる』が妥当であろう。

 それを、べちょべちょ? 子供の泥遊びみたいな擬音を使うなど、神にも許されぬ愚行だ。


「それだけ怒ることなのか……?」


 流石に怒り過ぎたのか、シリアがしゅん、としてしまう。

 素直に悪いと思えることはいいことだ。

 そう思って、寛大な心を持って許してやろうと思ったところで――あることに気付いてしまった。

 今この瞬間、俺には皇族である彼女に、スライムの素晴らしさを伝える千載一遇のチャンスなんじゃないのか、と。


 スライム好きが増えるのが嬉しいのは勿論のこと、何より彼女は皇族である。

 ここで彼女の頭をスライム色に染めてしまえば、国の方針にも影響があるはずだ。

 継承権がないに等しいとはいえ、兄弟に進言させるくらいは可能。

 いきなり、国全体でスライムを愛でる運動をしろ、なんて無理は言わないが、まずは召喚魔導師の地位の向上。

 そこで確立された後に、スライムは危険なモンスターではなく、むしろ可愛いモンスターだと伝えればいい。

 いっそ、そんな噂を金を使って流してもらい、スライムのブームを作って受け入れてもらう、ってのも手だ。


 そんな野望が、一瞬のうちに頭の中で駆け巡る。


「なんか、顔が変だぞ?」


 シリアに訝しげな顔をされてしまう。

 おっと、ここで挫けてしまえば、すべては夢物語だ。

 顔を引き締め、出来るだけ真面目な声を喉から吐き出す。


「シリア様、召喚魔法に興味があると、そう言っていたな?」


「まぁ、そうだな」


「今は歩きながらだし、詳しく教えるのは、また時間がある時でいいか?」


「いや、自分は興味本位で聞いただけなんだが――」


「いいか、シリア様? 知識っていうのは中途半端に身につけても意味はないんだぞ?」


「しかしだな」


「剣だって同じことが言える。中途半端に振ってきた剣は、決して身にはつかない。

 剣として扱っているのではなく、ただ鉄の棒きれを振り回しているだけに過ぎないって」


「……そうだな。じゃあ、キチンとご教授してもらうとする」


 話の流れが強引ではあったが、相手が単純で騙しやすい――もとい真面目な性格で助かった。

 さてと、これで本格的にシリアを洗脳――もとい教育をしていけることになった。

 今までは彼女のことを敬遠していたが、まさか自分から関わっていくことになるとは。

 しかも、純粋に彼女に教えたいから、というのではなく、スライムについて国に浸透させるため、という不純な理由で、彼女に近づくのだ。

 これでは、訓練所で寄って(たか)る騎士たちと同じ、下心丸出しのゲス野郎だ。

 自分の中でも、あまり好ましくないと思っていた人間に成り下がってしまったのだ。 嘆かわしいことではあるが、仕方ない。

 これもすべては、不遇の地位にある召喚魔導師のため。

 ゲスはゲスでも、私利私欲に動くゲスじゃなく、名誉あるゲスになろう。

 どっちにしろ、ゲスには変わらないが、そう考えると少し気持ちが楽になる。

 本当なら、こんなことを考えて人付き合いするなんて、汚い大人がやることだ。

 悪いことだ。

 これを忘れて、のうのうと彼女と関わっていくことは許されない。

 仮にあちらも、自分の欲求をこちらに押し付けてきたとしても、だ。

 それに、一見ギブ&テイクな関係にも見えなくはないが、相手は一応皇族。

 立場的にも、俺の方が圧倒的に不利だ。

 そのことを踏まえ、慎重に、ゆっくりじっくり教育していこう。


「……クレヴがまた変な顔してる」


 ……また失礼なことを言われた気もするが、ここはぐっと我慢しておいた。







 ソムディアまで目前、明日の昼までには到着しようかという距離で。

 最後の野宿の夜の番も、やはり俺がやることになった。

 しかも今日は俺1人だけ。

 本来一緒にやる筈だったルシルから、


「アンタと一晩過ごすなんて、『襲ってください』って言ってるようなものじゃない」


 と大変失礼なことを言われ、ルシルはサボタージュすることになったである。

 ……確かに溜まっているといえば、そうかもしれないが、俺には屈強なる理性がある。

 性欲ごときに負けるはずがない……はずだ。


 仮に俺の理性が負けたところで、ルシルなら俺を倒すくらいなら、造作もないことだとは思うのだけど。

 まぁ、そこらへんは本人の気持ち次第なところでもあるし、仕方ないか。

 一つ溜息をついたところで、急に尿意が襲ってくる。

 誰も見ていないからとはいえ、ここで済ませるのは非常識だろう。

 少し離れたところに草むらがあるので、そこで尿意を解放することにする。

 小走りでそこへと向かったところで――何だか物音が聞こえてきた。

 何かが、潜んでいるのだろうか?

 もし強いモンスターとかなら、ルシルたちを起こさなければならないだろう。

 でもなぁ……ルシルの寝床に起こしにいって、夜這いに来たと勘違いされる可能性も否めないからなぁ。

 あの発言が、より根拠を固めているし。

 だからといって、ここで放っておいて馬車を襲われたら、酷い罪悪感に悩まされそうだし。


 どうする……?

 だがしかし、今の俺には悠長に考えている時間はなかった。

 なぜなら、下腹部から迫り来る尿意があるからだ。

 最善かつ最速で行動を選択せねば……!!

 そうだな、まずは脅威の確認から。

 危険性の少ない奴なら、スルーしても問題ないし、何より相手を知らなければ対処のしようもない。

 んで、こちらに気がついていなければ、そっと離れて様子を窺う。

 火を起こしているから、こちらの存在には気付いているだろうが、積極的に襲ってくる意思がない可能性もある。

 まずはなんにせよ、確認である。

 用を足す物音で気付かれて、不意を打たれるなんて、考えたくもないし。


 出来るだけ物音を立てないようにして、茂っている草むらをかきわける。

 そうして開かれた景色は――まさに絶景だった。

 真夜中ゆえに、辺りの木々や葉は暗く染まっているというのに、一つだけ輝いて見えるものがあった。

 

 それはキラキラと流れる短い金の髪がそうさせるのか。

 それとも普段は拝めぬ、白に近い肌色の面積が広がっているからなのかは、わからない。

 とにかく、俺の目はそれだけに奪われていた。

 月明かりに照らされ、一枚の絵にして飾ってしまいたいほどに幻想的な雰囲気の中。

 上半身だけは一糸纏わぬ姿をした彼女は、それにうまく溶け込んでいるように見える。

 ふっくらと、それでいて形の崩れていない胸部に、くびれてはいるものの、どこかむっちりとした腰回り。

 扇情的で、色気のある姿だ。

 不思議と目を惹きつけられ、そして離れない。 こういうのを、眼福とでもいうのだろうか。

 自然とそれをもっと、しっかり見ようと、前へと吸い寄せられた時――そちらに気を取られ過ぎて、物音を立ててしまう。


「っ!?」


 流石に辺りが静か過ぎたために、思った以上に音が響いたようだった。

 彼女に気付かれてしまった。


 彼女は両腕で胸を覆うと、さっとこちらに背中を向けてしまう。


「うわっ」


 背中を見て思わず、声を上げてしまう。

――だって、綺麗な背中を拝めるかと思ったら、酷い傷跡が見えたのだから。


 俺の言葉に、彼女は慌てて近くの木にかけてあった衣類を素早く手に取ると、すぐに素肌を隠してしまう。


「……あの、これはわざとじゃないんです」


 気まずさの中、飛び出してきたのは、言い訳がましい台詞だった。


「それよりもまず、言わなくてはならないことがあると思うけど?」


 恥ずかしさ故に、赤く頬を染め、こちらを睨んでくる彼女。

 先ほどまでは、現実離れしたような美しさから一転し、なんとも人間らしい振る舞いである。

 無防備である姿もいいが、こうして羞恥心を顔に表し、隠している部分が、彼女が動くことで見え隠れしており、劣情を誘う。

 下半身に熱が帯び、自然と前傾姿勢になってしまう。


「……すみませんでした」


「うん、それで良し」


「じゃあ、許してくれる――」


「そんなわけないでしょ」


 やっぱり謝った程度では許して貰えなさそうだった。

 まぁ、ルシルみたいに生命の危機に陥らなかった分だけマシだと考えておく。


 ……ついさっきまで、性欲如きに負けない、とか思っておきながら、早速負けてしまったようだ。

 だって、ガン見してたし。

 でも、仕方ないとは思いたい。

 思春期という性欲が旺盛な時期でもあるし、それに普段は隠れている素肌が完全に露出しているのである。

 彼女が聖職者であることからも、何だか背徳感さえもある。


――とか何とか言っても、無駄な言い訳に過ぎない。


 だから俺は敢えて口を閉ざし、彼女からの非難を待った。

 それだけのことをしたのだ。

 下手すると、教会にマークされ、ブラックリスト入りもあり得るかも知れない。

 ブラックリストに入ってしまえば、今後一切教会を利用することは不可となってしまう。

 それは即ち、回復魔法の施しを受けられなくなるということだ。


 それに教会にマークされれば、教会の色が濃い街であるソムディアに足を踏み入れたら最後、狂信者に何をされるか、わかったものじゃない。


「本当にわざとじゃないんです。偶々、物音がして、もし危険なモンスターがいたらどうしようかと、確認しただけで。

 何でもしますから、どうか許して貰えませんか?」


 俺の人生で、稀に見ないほどの、反省っぷりを発揮する。

 そりゃもう、神様に縋る勢いで、地面に膝をつき、彼女の顔色を窺う。


「じゃあ――」


「そんなこと言わなくてもいい方法があるのに、それでいいのかい?」


 そう言って、シスターの声を遮って現れるリアナ。

 全くもって、こういうハプニングには首を突っ込みたくなる奴である。


「謝る以外に何があるっていうんだよ。悪いことをしたら、当然謝るべきだ」


「彼女が、人間じゃなくてもかい?」


 そう言ってリアナは、彼女の顔の一部分を指差す。

――示した先には、人の身にしては有り得ないほどに、長く、そして鋭く尖る耳だった。


 そこでようやくリアナが言っていた、謝る以外の方法の意味が理解出来た。

 つまりはそこを追及し、脅せということか。

 やはりリアナはつくづく人の弱みを発見することが得意な奴だ。


「まさかクレヴ、気付いてなかったのかい?」


「まぁ、それよりも惹かれる光景がありまして……」


 シスターさんへの謝罪が途中で中断され、一応助かったことになるのだろうか。


 いやしかし、そのまま流れに身を任せるというのも、人としてどうなのか、悩むところである。


「……」


 シスターの彼女の顔から恥ずかしい表情が消え、代わりにばつの悪そうな表情が浮かぶ。


「なんで、君みたいな人じゃない者が、人の組織に紛れ込んでいるんだい?」


「リアナ!」


 いくら何でも、ストレートに聞き過ぎだ。

 人の嫌がる部分を平気で土足で上がるなんて。

 実際やられてみると、たまったもんじゃない。

 それに、リアナ自身も、人のことは言えない気がするのだが。


「クレヴは気にならないのかい? 彼女のことをさ」


「気にはなるが、本人が嫌がるまで、したくはないって」


「でもこのままだと、罪人コース一直線だが?」


「うっ……」


 そう言われると、何も言い返せなくなってしまう。

 正義感が働いてはいたが、自分の身の可愛さに比べれば、ちっぽけなものである。

 心の天秤が一気に逆へと傾く。


「沈黙は肯定と見なすよ。さて、君には色々と喋ってもらおうかな。特に何故教会にいるのか、とか、背中の傷跡はどうしたのか、とかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ