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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
ソムディア
34/136

2

【クレヴ】

 シリアとリアナが何の準備もなしに依頼主の元へと行こうとするのを、一旦陰から見送ってから、俺は平民区にある武器屋へと駆ける。

 もしこのまま俺が逃げ出した場合は、あのパシリが地獄の底まで追いかけてきて、彼女らのところまで運ばれるんだと。

 鼻まで利くとは、つくづくハイスペックなパシリだ。

 俺も一匹くらい欲しいものだ。


 さて、ここら辺には武器屋がいくつかあるのだが、それぞれ特色がある。

 店の品を純粋に剣しか扱わないとこなんかは、その分珍しい剣の種類を多く取り揃えていたり。

 鉱物を使わずに、モンスターの固い部位を加工した武器を売っているところとか。


 俺がナイフを買ったところでは、店の奥には立派な工房があって、一から武器を作ってくれるところだった。


 ここでの魅力は、ピンからキリまで、とことん突き詰めてくれるところだ。

 俺が作って貰ったナイフなんかは、装飾なんかの機能面以外の無駄を全てを省き、とことんまで安くして貰った。

 柄の部分は適当に余った布を巻き付け、刃なんかも切れ味にはあまり期待は出来ないものだ。

 だが、普通のナイフなんかより、断然安い。


 質の良いものから、とことん安いものまで、こだわりを感じる店である。


「いらっしゃい」


 その武器屋の戸をくぐると、無愛想な男の声が迎えてくれる。


「ん……?」


 前に来た時には顔色も変えずに、こちらの注文を受けるまで、じっと待っているのだけど?


「背中の……」


「あぁ、この盾のことですか?」


 確かに、俺の身体に不釣り合いにデカいから、珍しいのかな?


「今日はこれを見てもらおうと思いまして」


 背負っていた盾をカウンターに下ろすと、店主の目が鋭くなったと思ったら。

 頬のシワが寄って、懐かしそうに笑う。


「もしかして、あなたが作ったもので?」


「あぁ……」


 それ以上は語らずに、俺の言葉を待つように彼は目を瞑る。


「出来れば直して欲しいんですけど、あんまり金がなくて……」


「その金額内で、やれるまでってか?」


「はい……」


 俺は懐から財布代わりにしている袋を取り出すと、中に入っているE(エギル)硬貨をカウンターへと落としていく。

 全部で……2000Eくらいか。


「これじゃ、少ないかもしれませんが……」


「……無理だ」


「やっぱり直すには、金が足りないんですか?」


「いや、金だけでなく、生憎材料もなくてな。こいつは、少し珍しいもんでな」


 この盾を見る時の彼は、本当に優しい顔になる。

 まるで、息子を見るような……。

 そうなると、俺は彼の息子を痛めつけた本人だけど、恨まれないだろうか……?


「そういや、これはある男に頼まれて作ったものだが、お前がどうして……?」


「譲られたんです」


「ったく、あれだけ頼み込んできたくせにこの扱いか……」


 どうやら、この盾は特別なもので、父はこの人に特別に作って貰ったものらしい。

 そんなものを、まさか新品買ったから、息子のお下がりに、とか父はなんと失礼極まりないヤツなんだろう。


「なんか、すいません……」


「お前に謝られてもな」


「……あの、実はその盾を作って貰った男の息子なんです」


「何?」


 言いたくはなかった。が、身内の恥だ。

 このまま無関係な顔をしているのも、何か間違っている気がするのだ。

 謝るくらいはしなくてはなるまい。

 ……それに、この盾の傷の半分くらいは俺が作り出したようなものだし。


「そうか、似てないのだな」


「良く言われます」


 男は驚いただけで、別に俺を怒ろうとはしない様子。

 緊張で強張っていた肩から、力が抜ける。


「あの男から、この盾について何か聞いたことがあるか?」


「いえ、全く」


 在庫処理みたいに、手渡されただけだ。


「そうか。なら、聞いておけ、お前の親父が何と言って、この盾を作らせたのかを」


 ごくり、と口に溜まっていた唾を、呑み込んでおく。


「『俺には守るべき人たちがいる。それも、たくさんだ。だから、俺にそんな人たちを全部守れるような、大きな盾を作ってくれ』、ってな」


 彼の言い方もあるのだが、父はやはりずいぶんと熱血めいた頼み方をする人だ。

 おかげで、俺が言ったことでもないのに、恥ずかしくなってくる。


「急に作ったこともないサイズでの注文で、しかも持ち込んできた材料もその時には見たことのないもので、苦労したもんだ」


「それ以上はご勘弁――」


「んで、作ってみれば、『もっと無骨なデザインがいい』なんて文句を垂れてな、おかげで一番加工に苦労した表面部分を全部やり直しさせてもいたな」


 それからも、店主は父の文句を織り交ぜながら、この盾について語ってくれた。

 珍しい鉱石で、試行錯誤して作らなきゃならないのを、父はそのことを理解していないのか、どんどん急かし、しかも貰った量では、この大きさの盾を作るにはギリギリの量だったのだ。

 今までで一番神経を使った作業らしく、ようやく完成したと思ったところで、父の文句である。

 流石に腹立たしいと思ったらしいのだが、そこは職人らしく意地で完成させたんだとか。

 

 それだけ苦労して苦労して、ようやく完成させた品に、父は感謝の一言もなく、「また何かあった時は頼む」、とだけ言ったらしい。

 それからも、何度か剣の修理には来たものの、盾は一切修理に来なかったそうで。

 しまいには、息子にそのことを何も聞かせずに、手渡されたのだ。


「本当に、すみません……」


「お前に謝られても、な。聞くなら、あの男から聞かせてほしいわい……。ん、少し長話をしてしまったな」


 そう言って、盾を手に取る店主。


「あれ? 材料はないんじゃ……?」


「盾の状態を見るだけだ――ん、盾がだいぶすり減っておるな。お前、最近魔法を盾で受けているな?」


「はい」


 そういうことが、見ただけでわかるのか。職人技、というやつだろうか?


「魔法抵抗が弱まってきているからな。これでは魔法を完全には防ぎきれなくなっとる」


「この盾に、魔法抵抗なんてあったんですか?」


「知らんかったのか?」


 そもそも盾なんかに魔法抵抗があること自体、初耳である。

 耐久力がすさまじい、とは思っていたのだが。

 ……この盾が万全だったとしたら、あのドスサイノの『振動』なんて効かなかったのかもしれない。


「まぁいい。こんな状態じゃ、せいぜい10%くらいしか効果を発揮せんよ」


「10%!?」


 あのグルタウロスの一撃をくらってもなお壊れなかった盾が、まさかそこまでの性能を持っていたとは。


「内部の衝撃緩和素材が完全に駄目になっておるし、ここまで酷使できることに、逆に驚きを隠せんよ」


 こうして聞いていると、壊れていらなくなったから、という理由で俺に手渡されたんじゃないか、って勘違いしそうになってくる。


「まぁ、普通の攻撃なら防げるとは思うが、魔法を受けるのはできるだけ控えておけ」


「魔法抵抗が低くなっているからですか?」


「あぁ、中央が他に比べて脆くなってきておる。気をつけて使ってくれ」


「はい、ところで……表面の凹凸を平らにしてもらうってことは、できませんかね?」


「お前はあの男とは違って、そういうところは気にするのか?」


「そうじゃなきゃ、ここにはきませんよ?」


 そういうと、何がおかしいのか、店主が笑い声を漏らす。


「そうかそうか。でもこいつは頑丈だから、形を変えるのにも凄く時間がかかるんでな」


「そうですか、では時間が空いた時にでも、また来ます」


 盾を手に取り、背中へと背負う。

 そして、カウンターにおいてある(エギル)硬貨も忘れずに回収し、戸に手をかける。


「おい」


「はい?」


 出て行こうとしたところで、呼び止められる。


「お前、名前はなんていうんだ?」


「クレヴです」


「そうか」


 それだけ聞くと満足したのか、店主は目を閉じてしまう。


「じゃあ、またの機会に」


 そう言って、俺はこの武器屋から出て行くのだった。







 武器屋の店主と長話をした後、俺はまだ門のところまで行けていなかった。

 というのも、たまたま本屋を発見したため、軽くラインナップを見てみようとしただけだった。

 そう、護衛で暇が取れたら読み物の一つくらいあればいいかな、と思ったのだ。


「むむむ……」


 手にとった書物を睨み付けるようにして見る。

 いや、正確にはその書物に付いていた値札ではあるが。

 1800E(エギル)、何度見てもその数字は変わらず、ゼロの数も減りそうにもない。

 そう、これは書物にしては高い方だ。

 といっても、一昔前まではこんな値段では済まなかったんだという。

 手書きが主流だった時代では、とにかく人手があっても生産量は少なく、それだけ手間がかかったために、高価だったのだ。

 が、今では印刷技術が発展し、格段に生産量が増えたことと、貧民による労働力が加わったことにより、安価になったんだという。


 んで今、目につけた書物、これはなんと補助魔法の魔法陣について書かれているものであった。

 とはいえ、書かれているのは初歩中の初歩。

 基本的なことだけだが、俺に取っては魅力的に見えるものだった。 だって、基本が分かれば、もしかすると"一つ目"なんかの構造が理解出来るかもしれないのだ。


「だがなぁ……」


 外れの可能性も否めないし、何より出費がお財布に優しくない。


 と悩んでいたところに、盾で目立ったのか、店員が俺に書物の歴史を語り、今に至る。

 要するに、昔より安くなったのだから、買えと催促しているのだろう。


「もう少し、安くなりませんかね?」


「魔法について書かれていますので、高価になるのは当たり前かと」


「つまり、貴重だというんですか?」


 俺の推測に、頷く店員。


「だとすれば、買われる客は少ないですし、安くしてでも売れた方がいいんじゃないですかね?」


「いやいや、例えそうだとしても、マニアックな客がいるかもしれません」


 なかなかに、強情な店員。商魂より、価格設定に厳しい奴にぶち当たってしまったようだ。

 店内を眺めながら、思考を働かせる。


「おっ」


 なんだか古めかしい日記を発見。まさかの出会い、そうあの冒険家の日記だ。


 筆跡も似ているし、黄ばみ具合も、こんな感じだった気がする。

 ただ、保存状態が悪いからか、少し虫食い状態になっていることもわかる。

 値札に書かれていた数字は、50。

 どうやら、この人の書いたものは、あまり価値がないようだ。

 手書きのようで、取りあえず冒険っぽいことが書かれていたから、置かれていたのだろう。

 実際前に見た奴なんかは、実話だからか、展開としても面白くないことが多く、読み物としては適さない。

 だから、安い。


「これもつけて、1800Eでどうです?」


「はぁ? 君は何を言って――」


「こんなもの、店に置いてもスペースを取られるだけ。なら、俺におまけして売ってくれませんか?」


「いや、しかしですね」


「在庫処理だと思えばいいと思いますよ?」


「それでは、その古い方がタダになるだけなら、捨てても同じですよ?」


 ……なんて本屋らしからぬ発言なんだ。


「俺に引き取られた方が書物を大事に出来ます。それでじゃないですか」


「はっ、そんなもの、ゴミみたいなものですよ。その書物をタダで譲るより、捨てる方が有意義ですよ」


「捨てるなら、いらないってことですよね? なら貰っても問題なくないですか?」


「いいや、そうではありません。仮にこれがゴミみたいなものでも、所有権は私たちにあります。

 だからあなたにはこの提案をする権利はありませんー!」


「むむむ……!」


「んぐぐ……!」


 俺とこの人は、何で張り合っているのだろうか?

 そもそも、どちらかが譲歩すればいいのだが、何故だか引くに引けなくなっていた。

 なんでだろう。引いてしまえば、敗北してしまうような、悔しい気分になってしまうような……。

 こちらは金銭的に、そして相手は店員のプライドとして。


 だがしかし、この勝負、俺は不利な立場にある。

 例え何と言おうと、相手が売らないと言えば、俺の勝ちはない。

 厳しい、厳しい戦いだ。

 確かに諦めた方が賢いかもしれない。

 たとえ勝ったとしても、50E(エギル)しか得しない。

 たかが、50E(エギル)。されど50E(エギル)だ。

 金を笑うものには、金に泣く。

 高いものは値切れるだけ、とことん値切る。

 諦めるな、戦え、強くなるんだ。

 決めたんだ、弱い自分でも、やれるだけやってる!


「タダじゃなきゃいいなら、1801E(エギル)でどうです?」


「払うならちゃんと払えばいいじゃないですか!」


「でも捨てるなら0だが、ここで売れば1になる。僅かでも、儲けは出ます!」


「そんなの、あるのもないのも関係ないですよね? だったら、正規の値段で買ってくれる人を待てばいいんですよ!」


「でも、そんな人がいないから、今ここにあるんでしょう?」


「ぐっ……。だとしても、これからどうなるか、わからないじゃないですか!」


「でも、そうだとしても、書物は人に読まれるためにある。置いてあるだけじゃ、意味がないでしょう?」


 店員はその言葉で口を閉ざす。

 何か……迷っている感じがするんだけど、もう一押しするか?


 ……いやー、もしかして今の台詞が滑って、何て言っていいのかわからなくなっているのか!?

 失言だ。羞恥心で顔が熱くなってくる。

 自然にしたり顔で言っちまったよ……。


 店員はしばらく黙ったまま、こちらを見てくる。

 時間差で、嘲笑ってくるのか?


「……一瞬感動しましたけど、良く考えてみれば、そんなに言うならちゃんとした値段で買えばいいじゃないですか」


 凄い正論が、飛んできた。







 結局のところ、値切りは失敗に終わり、得たものでいえば正規の値段で買った書物が2つと、思い返すだけで赤面ものの記憶だけであった。

 どうせ、こんなちっぽけなプライドなんて役に立たないんだ……。

 流されるままに、生きている方が楽なのかもしれない。

 無駄な反抗なんてしないで、ルールに乗っかってさえいればいい。


 そう思っていたところに、その言葉をすぐさまひっくり返す羽目になった。


「俺は今、後悔している……」


「そうかい」


 リアナはいつものように楽しそうな笑みを浮かべ、俺の服の襟をしっかりと握っている。


「大多数が正しいっていえば、それがルールだ」


「そうだね」


「人は過ちを犯す。だからルールが生まれた、とも聞いたことがある」


「……」


「だから決まりを守って、出来るだけ過ちを少なくしようとする」


「……」


「でも、もしそのルールに穴があったらどうだろう? さっきも言った通り、人は過ちを犯すことだってある生き物だ」


「……」


「そんな人が作り出したものに完璧なものはあるか?

 いやありはしない。ルールでさえも、間違いがある時だってある。長くはなったがつまり俺が言いたいことはだな――」


「何を言おうとも、依頼のメンバーから抜けようとしたことは許さないけど?」


「……いいか? もう一度言うが、人は過ちを犯すもんだ。だからな、そういう時は謝って、そしてその人を許してあげることも重要なんだぞ?」


「私に許す意志がなければ、関係ない。それに、私は人間じゃないさ」


「だとしても、だ。お前さんと一時別れた時には、『逃げるなよ』、とは言われたが、依頼を取り消すな、とは言わなかったじゃないか」


「逃げる、をこの依頼からも、って捉えればいい」


 駄目だ、打つ手が完全になくなった。

 そもそもリアナに捕まった時点で、もうおしまいだったんだ。

 まさかもう依頼場所に行っていて、ギルドに戻るまい、と思っていたのだが、読まれていたか。


「流石に時間をかけ過ぎだろうと思っていたところ、案の定だったね。マーキングしていて良かったよ」


「いつの間に? というより、目立つ色とか匂いとかないけど……?」


「魔力を少し君の服に付着させて、その魔力を探知しただけさ」


 このリアナは、こんなことをサラリと言ってはいるものの、普通は出来ないものだ。

 まず、魔力を付着というが、その技術が人にはまだ扱えていない。

 基本的には、放出か形成とかぐらいだろうか。

 放出は、その名の通り魔力を放出させることで、詠唱によってそれが火になったり水になったりすることだ。

 形成は、魔力でその形を作りだすことで、普段はゆらゆらと揺れる火を矢のように鋭くしたり、球状にしたりと出来るようになることである。


 召喚魔法は……よくわからない。またもや、曖昧なラインである。


 あぁ、そうそう。魔力で創造もある程度は出来る。

 といっても、現在は自然にある力だけで、それで『自然の力を借りるための代償』なんて説が一番有力候補になっている。

 だったら、モンスターの魔法はどうなんだ、という問いも出たが、そこには触れられていないそうだ。


 一般に人という生き物のは、自分たちを頂点に置きたがるのだ。

 だから、魔法でもモンスターに頂点を認めたがらないのか、そこには触れないというらしい。

 自由度としては、完全にあちらの方が上だという分、悔しいからか、人の魔法は威力を求めているんだとか。

 ……尚、この情報は例によってレイオッド先生から前に聞いたことだ。

 ここまでの情報を知っている彼は、いったいルイゼンハルトにいた頃、どんな地位に立っていたのだろう?


「おーい、連れてきてやったよー」


「――はっ!?」


 いつの間にか意識がトリップしていたらしい。

 人混みでうるさかった店の数々はもう見えず、今は目の前に簡素な馬小屋があった。

 見たことがある。これは、東門の近くにあるヤツだ。


「遅いぞ、いったい何やっていたんだ!」


 中からひょっこりとシリアが顔を出してくる。

 結構待たせてしまったので、怒るのも当然か。


「少し盾のメンテナンスをな。大事だろ、こういうことって」


「そうか、なら次からは移動を早くするんだな」


 嘘は、言っていない。尚且つ、彼女は騎士に理解があるので、納得はしてくれたみたいだ。


 え、次もあるの?

 ……うむ、冗談として受け止めておこう。

今日みたいに護衛の人がいない、なんてことは珍しいと思うしな。


 リアナに逃げられないように腕を掴まれ、引きずり込まれるようにして、馬小屋の中へと入る。

 途中、リアナでは頼りないと判断したのか、依頼主のところまで、シリアにも反対側の腕を引っ張られる。

 両手に花状態を体現してはいるものの、あまり嬉しくない。

 だって二人とも俺に好意を抱いているんじゃないんですもの。

 リアナには、何か実験動物を見るような、ニヤけた目で。

 シリアには、何か珍しい動物を見るような目で見ている気がする。


 全く、嬉しくないわけじゃないんだ。

 美少女二人に手を繋がれるって、滅多に経験出来ない珍しい状況だというのも理解出来る。


 この状況を楽しんだ方が楽だ、ってこともわかってはいるんだが……それが出来ない。


 それはもちろん、リアナの存在が原因である。

 彼女と一緒いると、警戒してしまうようになってしまっていたのだ。

 慣れというものは恐ろしいもので、サラナ村にいた時なんかも、リアナが通ったという所には、まず間違いなくトラップが配置されていた。

 それもいやらしい仕掛けで、一つにハマるとその他のトラップも連動するように作られており、捕まれば最後、恥をかかされる。

 別に、怪我をするものではないのだが、精神的ダメージが大きいのだ。 人には隠しておきたい失敗なんてものがあるけれど、それを無理やりやらされる羽目となった。

 俺なんかは……村の皆さんの前で下半身を強制露出、という直接的なものから、捕まったトラップから解放されるために、これまた皆さんの前で使えもしない詠唱魔法を大声でやらされた。

 特にキツかったのは、幼き頃に夢描いていた、『僕の考えた最強の魔法』を説明付きで暴露した時だろうか。

 あれはもう、自殺か家出かで悩んだものだった。


 ちなみに他の人はどうなったかといえば、最初こそ引っかかったものの、今では全くトラップにハマった人というのは見たことがない。

 流石、適応能力が異様に高い連中だけある。


 脱線したが、つまり何が言いたいかというと、リアナという警戒すべき存在がいるせいで、どんな状況も心から楽しめないのである。 

 心に隙を作り、油断を見せたら、駄目だという刷り込みが効果を発揮した次第である。


 だが俺の警戒はシリアが傍にいたからか、無駄に終わり、依頼主の元へと到着した。

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