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【クレヴ】
「なんだ、聞いてないのか?」
既視感。というよりまたか、といった感じだ。
アスタールにいた時には『協力者』というありがたい存在いたから実感していなかったけど、皆が知っていることを自分だけ知らないというのは辛いものである。
疎外感が、こう半端ないのだ。
――今回のことも、訓練所の朝から始まる。
今日はリアナの訪問が無く、久々に機嫌が良かった時に、この知らせ。
鍛錬に来た騎士団副団長の救済措置が無ければ、一体どうなっていたことやら。
「今度は、何を聞かされてないのでしょう……?」
「あぁ、今日は門の見張り以外の見習いに、ギルドの依頼で手がつけられていないものを消化してもらうんだ」
聞けば、騎士見習いには、定期的に冒険者の消化し切れない依頼をこなすのも一つの仕事らしい。
何ともまぁ、下の人が苦労する素敵なシステムなことで。
「それじゃあ皆は、もうギルドに?」
「あぁ、前もって依頼を取ってきていたりするな」
「…………」
「そんな顔をするなよ。受けられる依頼は無くなったりしないからな」
副団長の端正な顔に笑みを浮かぶが、俺は笑えそうに無かった。
「そうなんですか?」
「むしろ供給が過多過ぎるくらいだ」
「そう、ですか」
別に、なくなる心配なんてしていない。
ただ、ハズレっぽい依頼しか残っていないとしたら、嫌なだけだ。
「それじゃ、もう行きますね」
「場所、知っているのか?」
「いえ……」
訓練ばかりしていて、街を出歩く暇が無いので、ギルドがどこにあるかなんて知る機会は無かったしな。
今から行ったところで、もう既に遅いのだが、気持ちが逸っていたのかもしれない。
「ギルドは西にある平民区――」
ひたすら走って走って、辿り着いた時には早朝の静けさは無く、人の声で騒がしくなっていた。
「ここか……」
二本の剣がクロスしている看板がトレードマークの建物。
副団長の言っていることが嘘で無ければ、ここがギルドで間違いないだろう。
額から流れる汗を袖で拭いながら、看板を何度も確認する。
初めての土地で、失態など犯したくない。恥をかいてからでは、もう遅いのだ。
それにしても、冒険者が多く住んでいる平民区にギルドがあるのは当然として、何故西の方にあるのか?
いや、他のところにも支店という形で存在するのだろうかもしれない。
最近は訓練所と宿舎を往復するだけで、ここの土地勘とか全くないことに、こんな形で気付かされるとは。
平民区は、アスタールと近い感じなのかな、と思っていたが、そこは田舎と都会。
露店販売、というのが一つもなく、店を構えているところが多くある。
というのも、ここのトップ――王様がちゃんと法整備をしているからだろう。
貴族が優遇されている、とはいえ、ここの文化レベルはアスタールを軽く超えているし、人々に活気もある。
置いてある商品の種類も豊富だが、物価はルイゼンハルトの方が高いみたいであった。
ということは、その分、金も稼ぎ易いのだろうか? 金銭感覚が狂わなければいいけど、と無駄な心配はさておいて。
出遅れた感が凄まじいが、ほんの少しの希望を持って、ギルドの扉を開いた。
「酒くさっ!」
入って早々に、むわーんとした香りが充満していることに気付く。
というのも、左手の方にはテーブルがいくつも置かれ、雑談スペースになっているかららしい。
朝っぱらから酒を飲むとは、まさか朝帰りの輩だろうか?
それは分からないが、強面の連中が多いので近寄り難いところではある。
「おいおい、今更見習い騎士が来たぜ」
「あぁ、散々依頼をかっさらってくれたのに、今更何しに来たんだろうな」
「ったく、こちらは生活かかってんのに、あいつらはいい身分だよなぁ。絶対、道楽気分だぜ」
早速、大の男達からの陰口になっていない陰口が聞こえてくる。
予想はしていたが、まさか見習いの連中がこれほど本分を逸脱しているとは……。
俺は出遅れてしまって、実際に見てはいないが、昨日とかその辺りには、依頼争奪戦で酷い有り様だったのだろう。
そんな光景が目に浮かんだ。冒険者の人たちに申し訳なさを感じつつ、今度は右の方を確認。
大きなボードがあり、そこに、いくつもの依頼書が貼り付けてある。
ここで依頼を選んで、そしてギルドの奥にある受付に持っていく仕組みか。
まずは、受付に寄っておく。
ギルドについては、あまり良くは知らないから、一応説明を受けておいた方が良いだろう。
「ようこそ、ルイゼンハルト支部へ。ん? 見ない顔だね?」
俺を出迎えてくれた人は、何ともフランクな男だった。制服を着崩し、耳元を窺ってみればピアスを付けている辺り、どうも軽薄めいている。
「どうした、説明でも聞きに来たとか?」
面倒そうに、そして人を小馬鹿にしたような言い方。
何か、見ているだけでイライラする。まぁ、説明を聞くだけの間、我慢すれば良いだけだ。
彼の人柄など気にしている暇があるなら、さっさと話を進める方が建設的である。
「えぇ、説明を所望しに来ました」
「えー、本当に? ……まぁいいけど?」
頬杖をつき、長く伸ばした前髪を弄る受付の男。あまりに接客態度が悪過ぎるのは気のせいではあるまい。
これが所謂、上から目線というヤツなのだろうか。
……この人が年上だとしても、もう最低限の敬意も払わなくていいか。
「さっさと話せ」
「へーい。いいか、良く聞けよ」
――耐えに耐え、長々しく無駄の多かった説明を要約すると、依頼の受け方は大体俺が予想した通りだ。
ここでは、依頼者と冒険者の仲介をしており、モンスターの討伐の場合は、そのモンスターの部位を受付に持ってくればいい。
依頼の物品も受付に出せば、依頼完了。
その場で、金を手渡される。
が、大きな金額の場合は、数日以内にあちらの準備が出来次第、受け取りに来ればいいそうだ。
また、肉体労働などの場合は、その依頼された場所で依頼達成後に本人から受け取ればいい。
つまり、この場合はギルドのボードに求人をしているという訳だ。
また、この受付でも依頼書を作成することも出来るらしい。
書類に必要事項を記入し、報酬金額を自分で設定し、その金額を払うだけ。
ここでは依頼を受ける方とは違い、どんな人でも金さえあれば、OKなのだそうだ。
んで、依頼を受けることの注意事項は、一部の依頼――つまりは危険なモンスターの討伐の場合なんかは、ギルドからの信頼がなければ受けられない。
魔導師なんかであれば、やはり火力がある分、信用が得られやすいのだとか。
また魔導師で無くとも、評判の高い人物であるならば同様だという。
んで、基準は教えられてはないが、相当な信頼を積んだ後に、受付で国から特別な依頼が受けられるようになる。
その依頼を成功した場合、身分が成り上がることが出来るのだ。
貴族の場合は、爵位が上がる訳では無いらしい。
あくまで、身分が低い者でも能力があれば認められるようになるもの、ということで。
『英雄制度』、此方では貢献度、という言い方ではなくギルドからの信用が重要になるんだとか。
「名前通り、偉業を達成すれば、君は英雄だ」、という結びで彼の言葉は終わった。
……これは、見ている俺が恥ずかしくなる。
若気の至りだ。歳を取って思い出した時には恥として残りそうな言葉である。
「説明どうも……」
苛立っていたのだが、最後の台詞で毒が抜かれてしまったではないか。
言いようの無い恥ずかしさを誤魔化すように、後頭部をガリガリと掻きながら、依頼ボードの方へと向かう。
「悲惨だな、これは……」
さっきもチラリとは見たが、ボードには依頼の剥がされた後が沢山あった。
残った依頼としては、肉体労働系は……報酬金額が凄く低い。不当労働としか思えない。
後、討伐系は、遠征が多かった。大体が未開拓地のモンスターを倒してくれ、というものだ。
こういうのは、日数が掛かる為に食料などを買い込まなくてはならず、初期投資も多い。
金に余裕があればいいのだが、今の俺には端金程度しかないので、これも無理。
残った依頼を見回しているところに、ふと目に止まったものがあった。
『教会の重要人物の護衛』。
思い起こされるのは、あの女性。柄にもなく、見ただけで胸が高鳴ってしまった美しいシスターの姿である。
「――ってもなぁ」
でも、その人はもう既にソムディアに行ってしまったのだ。
会えるはずがない。
そう頭では理解しているのだが、ついその依頼書を手に取ってしまう。
報酬金額の方は、安い。ただ、食料などは教会側から支給されるらしい。
……ただ、これは護衛の依頼なんだよなぁ。
教会関係だし、些細な失敗でもグチグチ言われそうではある。まぁ、勝手なイメージだけど。
それに、誰かを守りながら戦うのは結構難しいものだ。
護衛対象から離れ過ぎずに戦い、常に相手と護衛対象とを意識しなければならないので、結構神経を使う。
また、この護衛の依頼は10人から、依頼可能とされており、そもそも俺だけでは無理な話だったという訳だ。
そう判断し、依頼書をボードに戻そうとしたところで、誰かの手に阻まれる。
「やあ、奇遇だな」
「奇遇もクソもあるかよ、シリア様」
ゆっくりと振り返ってみれば、鎧に身を包んだ青髪の美少女が片手を上げて、フランクに挨拶してくる。
「様、はいらないって自分は言ったはずだが?」
「それは俺の勝手だ。強要するんじゃない」
ペシン、と軽く彼女の手を払うと、何やらテーブルの方が余計に騒がしくなる。
あぁ、お偉いさんに失礼なことをしたからね。
……でも、こんな態度を取るのも、相手から強要されたんだよなぁ。
心の中で、何回も言い訳を重ねていると、その隙にシリアが依頼書を引っ手繰られる。
「ほぅ、護衛の依頼か。あえて難しいものを選ぶとは、流石だな!」
「見ていただけだから。というより、なんでシリア様がここにいるんだよ?」
「あぁ、それはだな、ジェフ殿にクレヴ殿がどこにいるか聞いたんだ。今日は依頼をやると聞いたんでな」
副団長か、口止めするのを忘れていたか。といっても、彼女がギルドに来るとは、未来予知でもしない限り、分かるまい。
「奇遇、って言ってなかったっけ?」
「細かいことは気にするもんじゃないぞ」
気まずそうに、俺から視線を逸らすシリア。
なんだかんだいって、彼女は真面目だからなぁ。なのに、どうして俺なんかに構うのだろう。
……やはり、すべてはあの一件からか。
俺にとってはもはや疫病神だな、あの鎧女は。
「そういえば、あの二人はどうしたんだ?」
今日はいつも側にいる鎧女とスーツのおっさんがシリアの傍にいなかった。
ギルドの中にいても、彼らなら存在感が凄まじいから分かるはずなんだけど。
「あぁ、それはだな、今日二人には他の仕事があってな」
「なら、なんでシリア様がお一人で?」
「今日は顔を出すだけだったんだが、自分も依頼をやってみたくなったんだ」
うわー、なんか好奇心に満ちた目をしているよー。関わったりしたら、とっても面倒くさそうだ。
「奇遇だね」
そろりと、その場から離れようとしたところで、背中に背負った盾を叩く音が聞こえてきた。
「リアナ、お前もか……」
そこには、シリアと違ってニヤニヤと本心を隠すことなく、笑っているリアナがいた。
イントネーションがさっきのシリアと同じ、というのが余計に腹立たしい。
「今日来なかったのは?」
「前もって副団長とやらから聞いていたからだ。私の方でも魔法の実習として、ギルドを使うことになったんだよ。
さっ、一緒に依頼受けようじゃないか!」
「……ぐすん」
……この人、どこであろうとふざけるから、嫌だ。
例の土産で一度だけ相手があまりに弱いモンスターだった事があり、余裕を持って戦っていたら、それが気に食わなかったらしいリアナが妨害してきたのである――スライムに。
彼女の攻撃なんか食らってしまえば、スライムが一瞬で消し飛んでしまう。
守るのに必死となったおかげか、今も背負っている盾は、元々がボロっちいのに、表面が歪にへこんでいたりする。
あれだけ魔法をぶつけられたというのに良く壊れないな、と不思議に思えるほど頑丈だった。
物理的にはもちろんのこと、魔法に対しても強いようで、火、地、風系統は少なくとも防ぐことが出来たのである。
……依頼に行く前にメンテナンスでもしてもらおうかな?
「むっ、誰だお前」
何が気に障ったのか、不機嫌な顔をするシリア。
「人の名前を聞くなら、まずは自分から名乗ったらどうだい? まさかそんな礼儀すら知らないのかい?」
初っ端から、喧嘩腰のリアナ。立場がどうであれ、気にしないところは変わらないらしい。
……こういう時に敢えて果敢な態度を崩そうとしないから、俺は嫌いだ。
「自分はシリア・ハーディアだ」
少し胸を張ってシリアはリアナに向かって自分の名を名乗る。って名前だけじゃ、家名があるから貴族だ、としか分からないだろうに。
俺も名前以外には、鈍器を扱う変人、と程度しか彼女の事を知らない。
だが彼女は、それで分かるであろう、という風に口を閉ざし、次はリアナに自己紹介をするよう、目で促した。
「私はリアナだ」
……こういう時にトレースをするから嫌いだ。しかも顔が無駄に整ってからか、意外と様になっているのも癪である。
「……アンタら、何してんの?」
全く自己の紹介になっていない場に頭を悩ませていたところで、混乱となる要素が投入された。
全く問題が解決していないのに、次から次へと……!
「ルシルさん、お前こそどうしたんだよ?」
だが、この2人の相手をしているよりかは全然マシである。自己紹介如きで衝突しそうな雰囲気を放つ2人に割って入る気にはなれないしな。
「いや、なんかリアナが外で待ってて、って言われたんだけど、遅いから見に来たんだけど」
彼女はほとほと呆れた顔でリアナの顔を見つめると、深い溜息を吐いた。
「まーた、問題起こしてたのね。って、え……?」
「どうした、驚いた顔して?」
「あの人、もしかして……」
ルシルの視線の先には、シリアがいるが、一体どうかしたのだろうか?
「あぁ、お偉いさんのとこのお嬢さんだろ?」
「彼女、王族なんだけど?」
「は?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。ルシルが今、何を言ったんだか、理解できない。
「笑えない冗談はよせよ。王族? そんなお方が、こんな所に来る訳無いだろうが」
優雅な生活を送っている連中が、こんな荒々しいところになんざ来ないに決まっているじゃないか。
汚い物を見ないで育ってきた人が冒険者の顔なんぞ見た日には、卒倒するに違いあるまい。
「まさしく自分は、王族だが?」
だが、まさかの、本人からのカミングアウト。
って、リアナとの睨み合いには飽きたのか、こっちに混ざってきやがった。
「といっても、妾の子だから大したことはないんだけどな。って、自分の名前を聞いただけでも、分かるだろう?」
「いや、知らないけど? そもそも有名人ならお忍びとかの場合って、目立たないようにするんじゃないのか?」
シリアがどこかのお偉いさんだと思っていたが、まさか王族だったとは。しかし、あんまり高貴な感じがしない。
語尾が『ですわ』が付いていなかったり、言葉遣いがたいして丁寧でなかったせいだろう。ただの偏見ではあるが。
「やっぱりアンタは知らなかったのね……」
「むしろ、ルシルさんが知っていることに驚きなんだが?」
「なんかね、魔法学校の方にも王族の子がいてね、リアナと関わっているうちに、何だか知り合いになっちゃって……」
いつもの強気さが引っこんで、何だか困った表情を浮かべるルシル。どうやら、魔法学校の方で一苦労あったようである。
そして、ルシルが被害者仲間である事も判明した。少しだけ仲間意識が芽生えそう。
「というより、そんな人が出歩いていていいのか?」
「まぁ、さっきも言った通り、本妻の娘でないし、兄弟姉妹の中でも下から数えた方が早いからな。
別に自分の一人や二人いなくなっても問題ないだろう」
なんだか、一気に新しい情報が入ってきて、頭の中がごちゃごちゃしてきた。
「おーい、やってきてやったよー」
そんな中、今まで静かにしていたリアナからお声がかかる。
――その手には、何だかさっきまでシリアに握られていた依頼を持っているように見えるのだが。
「まさか……」
リアナの奴、俺が混乱している間に依頼を受けてきやがったのか。少し目を離していた隙に、すぐこれだ。
『思い立ったが吉日』『善は急げ』なんて言葉があるが、俺は人生にはもっと考える時間が必要だと思う。
「取りあえず、私とルシル、クレヴの名前で登録してきた」
「取り消すには、手数料がかかるんだっけ?」
「『アース・バインド』」
そそくさと受付に向かおうとしたところで、リアナが詠唱魔法を唱えたせいで、俺の足が地面に縛りつけられる。
「んぐぐ……!!」
足に力を入れるが床の材質が固いからか、壊すことも出来ず、なかなか抜け出せない。つーかギルド内で、こんなことをしてもいいのか?
そう思い、周りを見渡すのだけど……どうやら皆さん不干渉を貫いていた。
一応此方の方を見ている感じなのだが、誰も近づいてこようとはしない。
まさかここに王族がいるから、関わらないようにしているのだろうか?
もしかすると、偉い立場の奴というのは、こうしたことも金で揉み消せるから、止めても無駄だと判断されているのかもしれない。
厄介な奴に絡まれたものである。
「自分の名前がないのだが?」
そんな俺の様子に気にした様子もなく、シリアがリアナへと突っかかる。
「まぁ、君を入れる理由がないのだが?」
ニヤリと、嫌らしい笑みを浮かべるリアナに対し、シリアは背を向けるとずんずんと受付の方へ。
しばらくギルドの役員と話すと、また此方へと戻ってきた。
「私も参加させてもらうことになった。よろしく頼む」
……こうして、俺は良く理解の出来ない状況のまま、護衛の依頼を受ける羽目となった。
シリアが強権でこの依頼に関わってしまったために、キャンセルは不可となり、しかもこれは全部リアナの誘導で全ては俺を逃がさないためにやったのだと思うと、随分と悪質な手である。
全身がブルリと震え、身の毛がよだった。
「にしても、何でルシルさんは抵抗しなかったんだ?」
「……王族が興味を持ってしまえば、どんなに抗っても無駄だって、学んだからよ」
何があったか知らないが、とにかく王族は凄い、と記憶しておこう。ますます関わりたくねぇな、王族と。
「そうか……。フィリーネさんは?」
「勿論、モンスターの討伐に。そっちのダバルはどうしたの?」
「……知らぬ間に俺は見捨てられたらしい。にしても、良くリアナと一緒に依頼を受けようとしたな?」
アスタールにいた時には、ルシルとリアナって仲が悪かったように思えるのだが。
犬猿の仲だった二人が、こんな短期間で仲良くなれるものなのだろうか?
「それは――ってなんでアンタにそこまで答えなきゃいけないわけ?」
弱々しかったルシルが、ようやくいつもの口調を取り戻す。
「うん、それでこそルシルさんだ」
少し大人しくされていてもこっちの調子が狂うからな。
「クレヴ、そちらのお嬢さんはいったい誰なんだ? 彼女さんか?」
ふいに思い出したかのようにして、シリアが聞いてくる。
「違うから」
「そんなあっさり返されても、なんか悲しいような気がしなくも無いんですけど……」
「アンタの気持ちなんて、どうでもいい」
きっぱりしているなぁ。
まぁ、それはアスタールにいた時に既に分かっていたことではあるのだが。
「そうか、どうでもいいのか」
んで、シリアは俺を見て露骨に安心しているのは何故でしょう。
彼女は、俺に彼女なんていないと、共感していることに安心しているのか?
「そして、私が本妻だっ!」
「朝から引っ張ってたの、それ!?」
「なに、クレヴ殿は結婚していたのか!?」
ほら、まともに受け取った人が出てきた。もう嫌だ、こんな空間にいたくない。
「そうだ、盾がボロボロだったんだ。これを直してから行くから先に行っておいて!」
返事も待たずに、俺は駆け出した。
このまま逃げてしまいたかった。だが――
「このまま帰ってこなかったら、空の旅にご招待だからな?」
去り際にリアナのそれを聞いただけで、パシリを呼ぶことを理解してしまった自分が憎らしい。
でも、まぁ、なんだ。
地獄が先延ばしになったと考えれば、幸福……なのかな……?




