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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
ルイゼンハルト
32/136

6

【クレヴ】

「ふぃー、っと」


 息を吐いて、軽く緊張を(ほぐ)す。

 ドスサイノはあの頭上への一撃で沈黙し、気絶――せず、さっきのさっきまで、何回もヤツの頭を盾で殴って、ようやく静かになったのだ。

 息はしているし、多分生きてはいるだろう。

 ヤツもリアナのパシリに連れてこられた被害者だ。むしろ、ここまでやってしまい、申し訳なくなってしまう。


「いやぁ、弱い者が必死に抵抗するとこって、何て楽しいんだろうね!」


 と、傍観していたリアナから、性根が腐ったような一言。

 彼女に向かって怒りをぶつけたいところではあるものの、彼女には一切勝てる気がしないので、ぐっと堪えておいた。

 そんなことを言ってしまえば、他のモンスターと連戦させられる可能性もあるだろうし。


「はいはい、良かったですね。さっさと持ち帰ってくれませんかね?」


「……いいのかい?」


 いつも土産のモンスターを返そうとすると、リアナはそう言って俺に念を押してくる。

 別に言わなくとも、分かってはいる。


 彼女は俺にドスサイノを魔法で従わせないのか、聞いているのだ。

 確かに、こいつを従わせることが出来れば、戦力を確保することが出来るだろう。

 刺さったナイフや頭を盾で殴ったダメージで、ドスサイノは気絶している状態だ。

 今なら魔法抵抗も低くなっているし、俺でも契約魔法が成功するかもしれない。

 だが、やらない。契約魔法をする気が湧かなかった。


 別にドスサイノが可哀想、というわけではない。

 もし、仮にだが契約魔法に成功したとするとしよう。

 すると、じゃあコイツをどこで飼うのかが、問題になるのだ。

 ここはルイゼンハルト、色んな意味でモンスターが大好きなレイオッド先生が前にいた場所である。

 昔、聞いた話によれば、ここではモンスターには排他的であり、召喚魔導師なんぞ1人もいないらしい。

 じゃあ、レイオッド先生は何故ルイゼンハルトに在住することが可能だったのか。

 それはこの都市にモンスターが侵入出来ないようなシステムを先生が開発したからである。

 そのシステムを開発にはモンスターに詳しく無ければならない為、先生に白羽の矢が立ったという。

 モンスターが都市に入ってきてしまえば、例外無く殺処分されてしまうことを知っていた先生は、そのシステム開発に熱を入れていたらしい。

 それでかは知らないが、現在ではルイゼンハルトがこの国で一番平和な場所だと言われているくらいである。


 話は逸れたが、つまりルイゼンハルトでは、モンスターを住まわすことは出来ない。

 なら、あの牧場に住まわせればいいだろ、という訳にもいかないのである。

 ……果たしてあのドスサイノがスライム達と馴染めるように思えるだろうか。いや、思えるはずが無い。

 リアナの横暴で住処からいきなり訓練所に連れて来られ、気が立っているのは理解出来るが、ドスサイノは少し乱暴者っぽい印象を受けたのだ。

 見ていないところでスライム達が苛められないか、心配で堪らなくなりそうになる。

 同じ種族でも縄張り争いとか起こるのだから、とてもじゃないがドスサイノをスライム達と同じ所には置いておけない。

 という訳で、ドスサイノの場所候補から牧場が除かれる。 


 ならば、あのリアナのパシリに運んで貰ったところに、というのはどうか。


 召喚魔法は、A地点から、普通なら通過しなければならないB地点を経由せずに、C地点に呼び出すものだ。

 んで、戻喚魔法はそれの逆となる。


 ここで大事なのは、A地点。

 人の使う魔法には、『定める』ことが大事となる。

 魔力はその存在が曖昧なもので、人には理解しにくいものである。それを分かるようにするために、このようなものだ、と『定める』。

 それが言葉であったり、魔法陣であったりといった形で、人間が解釈出来るように定義するのである。


 今回の事で言えば、A地点を定めることが重要になってくるのだ。

 C地点、つまりは自分のいる位置となるが、それは常に動いているから自分自身のいる場所を『定める』ことになる。

 ということは、"三つ目"である遠距離召喚なんかは、そのC地点を魔法陣で『定める』技術ってことになるだろう。


 じゃあ問題のA地点は、つまりモンスターのいる位置になる訳だ。

 新入り五体を戻喚魔法で牧場まで飛ばした際には他のスライムたちとの『関連要素』があるのだが、今は関係ないので省略する。


 ここで疑問なのは、呼び出してA地点とC地点が重なってしまうこと。

 じゃあ戻喚魔法は、元のA地点をどうやって『定めて』いるのか?


 ……分からない。

 それは判明していないからか曖昧な部分らしく、どういうシステムになっているのか俺は習わなかった。


 ここで問題となりそうなのは、そこである。

 俺は、ドスサイノの住んでいる所を知らない。

 つまり、元のヤツが住んでいたであろうA地点を『定める』ことが出来ないんじゃないか、と思ったのだ。


 呼び出せたとしても、返せないのでは可哀想である。

 ならリアナのパシリに運んでもらうか? ……彼女は底意地が悪そうだから、契約魔法をしたら、俺の家で飼わせる気がする。

 流石に母がドスサイノの面倒を見させる訳にはいくまい。

 つーか、そんなことをしたら村の連中が面白がって、また何かを仕出かしそうで怖い。


 だから結局、諦めるという選択肢しかない訳だ。


「だからいいって言ってんだろ。悔しくなんてないやい!」


「そうかい、ならいいんだけどね」


 リアナは俺の顔を見てクスリと笑うと、また口笛を吹く。

 あまり大きな音ではないのに、すぐに姿を現すパシリ。見た目はプライドが高そうな孤高の存在っぽいというのに、健気なヤツである。


 こうして、ドスサイノはぐったりとした様子でパシリの腕に掴まれ、再び自分の住処へと運ばれていったのだった……。







 その後もリアナと軽く話してから少しして。


「そろそろタイムアップだ」


「えー、まだ君の『サラナ村主催、リアルMOMOTAROU計画』の話が終わってないじゃないか!」


「また今度な、副団長が来るから、さぁ帰った帰った」


 リアナに向かって追い払うように手を振るも、彼女はなかなか帰らない。しつこい奴め。


「なんだか嬉しそうだね」


 お前さんから解放されるからな。


「もしかして……禁断の愛かい?」


「んなわけあるか!」


「ムキになるとは、余計怪しいんだが」


 どうやらリアナには俺の言葉が届かない様子。

 これ以上何か言ったとしても、彼女を楽しませるだけだ。

 ……同性愛者に見えるってのは、冗談だと思いたいところである。


「なーんだ、もう乗ってこないのか。ルシルならこれと比較ならないくらいにつっかかってくるけど?」


「あんまイジメ過ぎんなよ、ルシルはお前と違って根は素直だからな」


「何を言っているんだい、君は? むしろ私ほど心がピュアな存在なんていないだろう?」


「捻じ曲がった方になら、純粋だな。って、早く出てけよ。副団長が来ちゃうって」


「あは、既に来てたりして」


 リアナの言葉に振り向いて見れば、逞しい体つきをした騎士が、少し気まずそうな顔をして、立っていた。

 短くされた金髪に、男らしく、しかも爽やかなフェイス。

 鎧の下には屈強な肉体を持つ男――ジェフ・クリスター、騎士団副団長というお人である。

 どうやら日課である自主鍛錬に来てみたところに遭遇し、ちょっと困っているようだった。

 普段から彼を見ている者として、今の彼にギャップを感じてしまう。

 皆の前では常に堂々とした態度を取りながらも嫌みはなく、誠実さが(にじ)み出るようなキビキビとした動きが目立つ。

 しかし、こうしたプライベートに近いところでは、真面目な好青年といったところ。

 気遣い過ぎて、むしろシャイに見える彼。

 今も、話し中だということもあり、鍛錬を始めず、会話が終わるまでしっかりと待っていたのだ。


「しかし、お前達はいつも朝早くから、仲が良いものだな」


「はい、通い妻ですから!」


「ナチュラルに嘘を吐くんじゃない。妻というよりむしろ母に見えるぞ」


 愛の厳しさを履き違えているところなんて、そっくりだ。

 しかも、どちらも敢えてやっているのか判別がつかない辺りも、なかなか似ているのである。


「さっさと帰らないと、キスするぞ、キス」


「行ってきます、ダーリン!」


 リアナに似つかわしくない晴れやかな笑みを浮かべ、行きと同じ不法侵入ルートから出て行った。

 にしてもリアナめ、人を困らすことにハマってやがるな。


「はぁ……」


「何溜め息吐いているんだ? 可愛いお嬢さんじゃないか」


「本性知ったら、そんなこと言えませんよ?」


 推定戦力で言えば、少なくともグルタウロスより上。

 機嫌を損ねて暴れようものなら、訓練所を全壊させることも不可能ではないかも知れない。

 ……多分、化け物の父でも、止められるかどうか。

 とはいえ、彼女の全力なんて見たことがないし、使った魔法でいえば、人の詠唱魔法と、回復魔法ぐらい。

 仮にモンスターだとすれば、他の魔法も出来るだろう……。


「顔が真っ青だが大丈夫か?」


「……それだけ、彼女はヤバいんですよ」


「そうか」


 多分、俺の言いたいことが伝わっていないのだろう。

 俺の言葉を軽く笑って流した副団長は、腰の方にある剣を抜き取ると素振りを始める。

 頭上から膝の辺りまでの高さまで、剣を振り下ろすのを繰り返すだけの動作ではあるが、ダバルのとは違い、洗練された力強いモーション。

 徐々に、慣らしていくようにして剣の速度が上がっていき、だんだん俺の目では捉えきれなくなっていく。


「そういえば、お前は訓練中には、その盾を使わないんだな」


 彼の動きをぼーっと見ていると、彼が手を止めずに話しかけてくる。

 前に一度だけ、鍛錬中に話しかけて、集中が乱れないか聞いてみたところ、


『俺は副団長で、指示を出す側の人間だ。戦いの中でも周りを見れなくては話にならないだろ?』


 と返された。

 なので、普段ならば話しかけるのも、おこがましい身分である俺にとって、この時間だけが彼と会話出来る時だったりする。


「ええ、まぁここでは盾なんて扱いませんからね」


 そう、ここでは盾の存在は疎まれているのである。

 訓練で盾を用いると、決着が凄く長引くこととなり、普段から滅多にやらない。

 その時間を今では、槍やら鎚、斧にあてた方が有意義だと判断されてしまったのだ。

 盾の重要性を舐め腐ってやがる。

 盾ほど生存率を高めてくれるアイテムなど他に無い、と言い切れるぐらいに凄い代物だというのに。


「盾にしては余計に大きいが、どこの武器屋で売ってたんだ?」


「さぁ? お下がりですから分からないです」


「誰から貰ったんだ?」


「父親からです。兵士をやってるらしくて、新品を買った時に、お古を捨てずに息子に押し付けたって感じですね」


 騎士とは違い、兵士は国に認められた立派なものでは無く、荒くれ共の集団で、騎士の方が御給金が高いというのに、空気が合わないからって理由だけで、父は騎士になるのを蹴ったと聞いたことがある。

 騎士は結構競争率が高いし、なりたくてもなれない職業だというのに。もったいない事を平気でするのだ、あの父は。


「ほぅ、名前は何だ? 兵士には知り合いがいるから、知っているかもしれない」


 ……答えられるはずが無い。

 だって、騎士になれるのは名誉なことなのに、あの父は、単純に嫌だからという理由で入るのをやめたのだ。失礼極まりない。

 それに、父の名は有名過ぎる。

 そりゃあ、もう父の武勇伝は嘘みたいな話ばかりなのに、すべて本当のことなのだ。

 兵士千人斬りなんていう、まさに一騎当千が出来る奴だ。

 そんな奴の息子だと知られようものなら、俺への期待が異様なまでに高まってしまうだろう。

 周りの目の色が変わり、今まで訓練所で見せてきた情けない姿が全て手を抜いたものだと思われるはずである。

 そうなれば確実に鎧女が俺をぶっ殺す勢いで痛めつけてくるだろうし、その期待が裏切られたと判明した瞬間、その反動でどうなってしまうのか、考えるのも恐ろしい。


「しばらく会ってませんからね、忘れちゃいましたよ」


 もちろん、本当は忘れてない。ギルドに行けば、確実に聞こえてくる名前だからな……。


「自分の父親の名前くらい覚えておけよ。親御さんが悲しむぞ」


「すんません」


 素直に謝っておくと、彼は軽く頷いた。


 にしても、彼は貴族特有の嫌味がなく、本当に見たまんまの誠実な人だ。

 というのも、彼は根っからの貴族、という訳では無く、商人である彼の父親が貴族に成り上がったからだ。

 成金という奴で、有名な貴族の家を除けば、大半の貴族より金を持っているんだとか。

 んで、店の準備やらがあるためか商人の朝は早いらしい。

 そんな訳で、彼とは早起き仲間として馴染み易くなったというわけだ。


 ……上記のものは、全てリアナからの指示で聞き出したものだ。

 おかげで、彼の境遇を考えるだけで、罪悪感が湧いてくるようになってしまった。

 だが、これでやめる訳にはいかないらしい。

 彼の情報を、もっと必要なんだとか。

 うむむ、さてはリアナ、副団長さんに恋をしたか?

 さっきのダーリン発言も、もしかすれば彼に言いたかった台詞なのかもしれない。


「ははっ」


 リアナのことが急に微笑ましく思えて、つい笑ってしまう。

 恋をすれば女は変わる、なんて言うし、あの曲がった性格を変えるチャンスかもしれない。


「どうした、いきなり笑い出して?」


「いえ、何でも。ところで、さっき俺には色々言ってましたけど、副団長はどうなんです?」


 罪悪感を押し込めて、彼から情報を引き出そうとする。


「武器のことか? この剣は国から支給されたものだが?」


「いえ、その話じゃなくて、彼女の話ですよ。付き合っている人、いるんですか?」


 俺の言葉で、一瞬彼の動きが鈍る。おぉ、動揺してらぁ。


「ごほごほっ、いきなり何なんだ?」


「いいから、答えてくださいよ!」


 誠実な彼のことだ、嘘はつけまい。


「今はいないが……」


 歯切れの悪い声。苦手な話題っぽい。

 だが、やめるのも、少しつまらない。これもリアナの影響だろうか。


「そうですか? ハンサム顔で、入れ食いになりそうなのに?」


 ホント、恨めしいくらいに格好良い。副団長という立場もあるし、引く手は数多(あまた)だと思うのだが。


「……少し、男女交際というのが苦手でな」


「へぇ」


 意外なことに、彼は少し顔を歪ませる。平凡な顔をした俺とは違って、1人や2人くらい彼女がいてもおかしくないと思うのだが。


「昔、友人に初めての彼女が出来て、紹介されたんだが……その十秒後に、友人が振られたんだ」


「はぁ」


「何でも、俺に一目惚れしたんだと。まさか好きあっている同士の関係がすぐ簡単に崩れるなんて思わなかったんだ」


「顔だけを見ない人も、いるとは思いますけど?」


「いや、そうじゃないんだ。俺は、好きって気持ちが分からなくなったんだ……」


 ……こりゃ、重症かもしれない。

 彼は少し真面目過ぎる。そんなに考え過ぎず、感じたままに恋愛すればいい。

 ……俺も恋愛経験ないけど、多分そうだ。


「ま、考えても、そういうのは分からないものですよ」


「そうか……」


 これで、リアナのアシストになったかどうか、分からないが、何も言わないよりか、マシだろう。


「ん、そういえばクレヴ、お前は今日お勤めだな」


 露骨に話題を変えられたが、まぁいい。

 これ以上追及して、嫌われるのも、なんだしな。

 リアナのため、ということもあるが、彼のことは俺も嫌いではない。


「って、えっ?」


「なんだ、聞いてないのか?」


 あの一件――短髪鎧女にやられてから、何だかみんなから距離を置かれているのだ。

 に対して、ダバルはあの怖い顔の割に純粋な性格とのギャップで、仲間が何人か出来始めているらしい。

 別に何かした訳でもないし、俺の方が取っ付きやすいと思うのだけど……。


「……教えてくれる人がいないので」


 ダバルも新人だから、そういうのは知らないし、俺には知る手段がないのだ。


「そうか。とにかく今日は訓練所じゃなく、東門の方に行ってくれ」







 ルイゼンハルトには、東西南北に、大きな門があり、それ以外は頑丈そうな城壁に街はぐるりと囲まれている。

 ここに着いた時には、馬車の中に入っていたので、分からなかったが、門番の役目も騎士の仕事らしい。

 入る前にも、チェックが入り、積み荷の中も厳しくチェックされている。

 本来ならば、この仕事は騎士だけが行うのだが、人手が足りなくなったのか、見習いにも仕事が回ってくるらしい。

 んで、本日は俺の番だ。

 この門では、主にソムディアから来る人が多い。

 というのも、ここルイゼンハルトから北東にソムディアがあるからだ。

 確かソムディアは宗教の色が濃いところ、と習ったような気がする。

 下手すると、貴族の地位よりも、教会内の地位の方が優先される、なんていう噂を聞いたこともあるっけか。


「新入りー、こっちに馬車来たから手伝え!」


「はい」


 返事をして、門の近くに建ててある簡素な馬小屋へと急ぐ。

 どうやらここから出るためにも、物品をチェックするようだ。


「お前は、小物を頼む」


 そうして渡された荷物を確認すると、銀で出来た十字架が出てきた。

 他のものも見てみると、聖水らしきビンや、封がしてある書物などがある。

 馬車に描かれている十字架も見る辺り、教会関係だろうか。


「怪しいものはないか?」


「はい、特には」


「たまに重要な書類を無断で持ち逃げすることもあるからな」


 ……俺が思っていた以上に、ここは大事な仕事のようである。


「ん?」


 ふと、視線を感じる。

 てっきり騎士たちにサボっていると間違われて、睨まれていると思ったが、どうやら違う。

 あの人ら、俺に仕事を任せて、美人のシスターさんにデレデレしてやがる。


「だったら、一体誰が?」


 馬車にある窓に、人影が見える。

 下に(うつむ)いていて顔が見えないが、服装を見る辺りシスターってところだろうか。

 だが、先ほど騎士達に絡まれていた美人さんより、服装が少し豪奢に見え、そして耳のところまで、すっぽりと覆うような長い帽子。

 暑い時期だから、他の人はかぶっていないのに、珍しいものだ。


 不思議に思っていると、どうやら彼女も俺の視線に気付いたのか、顔を上げる。

 外に一度も出ていないんじゃないか、という程白く、染み一つない肌がまず最初に目に入る。

 あどけなく開かれたくりくりとした瞳が此方(こちら)に向けられると、ニコリと細められた。

 二十歳前後に見えるが、少女らしく可愛らしい笑みを浮かべた彼女に、思わず目を奪われる。


「なんだ、これ?」


 頬が、熱い。

 心臓の鼓動が、急に早いテンポへと移っていく。

 恋、と言われれば、確かにそういった感覚に近いかもしれない。

 でも、一目惚れなんぞ、するわけないのだ。

 リアナやルシルで美人には耐性があるはずなんだけど……どうしたもんか。


「新人、チェック終わったから、そろそろ馬車から離れとけー」


 騎士の声で、はっとなり、思いっきり首を振るう。

 雑念を振り落とすようにして、激しく、だ。


 そうして心が落ち着きを取り戻したところで、門のところまで戻る。

 騎士たちの不機嫌そうな顔を見ると、どうやらナンパには失敗した様子。

 相手が神職なので、引っかけられてはずもないと思うのだが。


 門の方に、馬車が走ってくる。

 二台来て、先頭は護衛の任を頼まれた人なのか、後ろの馬車に比べて少しボロく感じる。


 走り去っていく方向を見れば、やはりソムディアに向かっているのか。

 あの女性は、多分偉い人だ。

 俺みたいな身分じゃ、会うことすら出来ないだろう。


 今回はたまたま顔を見れただけだ。

 頭の弱い人なら、これが運命だと勘違いしてしまうが、そんなもん、あるはずがない。


 馬車を見送ってからも、仕事は終わらない。

 次第に薄れていく感情に気にしている暇もなく、また俺は門の番に戻った。


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